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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第一章:集う王たち
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光と闇の支配者

『君には期待しているよ』

 誰かが言った言葉。

『世界を…』

 誰かの願い。自分は、誰なのか、誰に何かを託されたのか。


 魂の記憶を、肉体がなぞる。痛みすら伴う肉体の変化の中で、精神はひどく落ち着いている。自分の記憶を探せる、そんな気がした。

 しかし、どうやら無理らしい。出来たのは、この世界におけるルールを本能的に悟ることができるのが限界だ。

世界の構成要素の一つを操れる、とバトウは言ったが、それはどうやら少し違うなとレイは考察した。そもそもこの世界に光はない。意図的に排除されている。

 故に、自分の力を発揮するには世界を変えるしかないと理解した。自分の中にある引き出しを開く。さながら本の目次を見るように、『光の王』の世界を理解する。

 世界を変える。イメージするのは、全てを見通す光の世界。

「は!」

 徐々に視界が開けていく世界の中で、レイは的確に剣を振るう。メイジスはその速度に追い付けず、リーリアに伸ばしていた両腕を切り裂かれる。

 レイを中心に、世界は光に満ちていく。バトウやグレイスもお互いの姿が確認できるようになる。

「ってバトウ、コートを脱いでいたのか?」

「ん?まあ結果的には無駄にせずに良かったてとこさ」

 負傷して破れた赤い着物を見ながら言う。元から赤くて血が目立たなくてよかったな、とすら思う。

そしてリーリアが差し出した外套を再びバトウは羽織る。

「なんか妙な感覚だな、背中にも目がついてるような」

「光の世界、か。今度は世界のあらゆる事象を手に取るように見ることができる世界に変わった…」

 グレイスと並び立っていたバトウの左隣にレイは並ぶ。そしてリーリアをかばうように立つ三人に、メイジスは対峙する。

「光の王としての覚醒、か」

 グレイスは呟く。それがいいことなのかどうかを考える。そしてレイは二人を尻目にメイジスの元に駆ける。

 取り残された二人が呆気に取られているうちに、すでにメイジスとレイは既に交わっている。とはいえ、その動きは二人の目で追うことができたが、既に異界の領域に達している。

 コントロールしきれないのか直進的な動きになっているが圧倒的に速い。メイジスの動きはレイを捉えることができず、レイの剣はメイジスの体の至る所を切り裂き、貫く。

「ん?」

 レイの持っている剣を見て、バトウは首を傾げる。自分が量産するような剣とは在り様が違う、その一振りのために全身全霊を注がれて生まれた逸品だ。しかし、どこか違和感がある。自分たちの世界に存在する剣とは、どこか違うような、感覚。

(さて、もうそろそろ死ぬ、かな)

 メイジスは心の中で呟く。再生するのも間に合わず、切り裂かれたままそのままになってしまっている両腕を見る。一度、覚醒して境界を越えたからだろうか、いきなりここまで力を使いこなすとは予想外だった。自分の姿を確認できる程度かと思ったが、その光は少なくとも地平線程度までは続いている。

 とはいえ、これは少しまずいのかもしれない、と思った。この世界の本来の支配者を刺激しすぎる。

「さて、一つ、忠告だ」

 メイジスは、まだ喋れるうちに言っておこうと思う。普通の生き物なら、命を賭した、という重みでも出てくるのだろうかと皮肉めいた笑みは心の中で。

 そして死にゆく者の最後の言葉を聞こうとでも言うかのように光の王は剣を止める。しかし同時に自分の一挙手一投足を見張る。なるほど、きちんと自分が妙な真似をすれば殺す気か、とメイジスは感心する。

おっと、そういえばグレイスという法王に聞こえるようにしておかなければ無意味か、と思い、その隙に声帯を最優先に修復する。

「一刻も早くこの世界から出ろ。そして世界が再び闇に包まれたら、生き延びることを優先しろ、ノアラバルトも協力することだろう、その為には、闇の主以外の全ての助言を無条件に聞き入れろ」

 そして、それが最後だといわんばかりに、メイジスは裂けた腹の傷に牙を生やし、襲い掛かる。レイは、最後の止めとして、メイジスの体を細切れにする。

「…」

 レイは、本来の性質として冷酷とは程遠い。剣や、衣服に付いた血飛沫と、それを行った自分に嫌悪と恐怖を覚える。まるで、目を逸らすことができず、世界に溶けていくメイジスの亡骸を見ている。

 苦しい。あれが一体、何を目的としていたのかわからない。自分たちに襲い掛かり、そして人間でもない。しかし、意思があり、言葉があり、自分はそれを消し去って、今、生きている。

「お前、人殺したことないだろ?」

 いつの間にか、バトウは後ろに立っていて、レイに声をかけていた。

「その質問は…」

 自分は言うまでもない。そして、その質問は、自分の様な人間が問う権利はないものだ、と、レイは思う。

「ま、色々とあったのよ。間接的にも、直接的にも、な」

 バトウは、遠い目をして言った。

「ま、自慢にも何にもなんないんだけどな」

「…」

 隣に立っていたグレイスも、何も言わずに黙っている。言うまでもなく、バトウとグレイスの答えは、自分とは違うのだろうとレイは思った。そして、ああ、この人達は、自分とは違う世界で生きていたのだ、と。

「お兄ちゃん…」

 心配そうな顔をしているリーリアに、手を差し伸べようとして、だが、血が付いた手を見て、手を止めた。しかし、リーリアは、その手を掴み、愛おしく胸に引き寄せ、微笑んだ。

「ありがとう」

 リーリアに救われたような気がした。

「さて、一刻も早くこの世界を出ろ、などと言って…!!?」

 グレイスは途中で言葉を止めた。思いを止めた感情は、恐怖だった。壁が迫ってくるように、大きな手に握りしめられるように、今、自分がいる世界を支配される恐怖を感じた。

「おいおい俺に霊感の類はないんだがな」

 バトウはざわざわと何かがいる感覚に恐怖する。数々の戦場を潜り抜けてきたが、これほどの戦慄を感じたことはない。人の営みの外に存在する存在、それも本来関わりのない存在すら圧倒するほどの容量。

「これは…」

 レイの記憶には、確かに全く存在しない。しかし、光の王と対となる存在を、魂で感じている。それに…それに?何だろうか。答えを出す暇も必要も今はない。

 闇が、再び覆い始める。地平線の彼方から素早く世界を支配する。いや、支配を取り戻している。

「固まれ!」

 グレイスは素早く号令をかける。闇の中、互いの姿が確認できなくなるようになってしまえば取り返しがつかなくなる。

 リーリアとレイはお互いに手を繋ぎ、バトウとグレイスは背中合わせに立つ。

『誰だ?』

 再び、完全に闇が支配した世界で、その支配者は声をかける。それはどこにでもいるようで、遥か遠くから声をかけられているような感覚。声は、幾重もの印象が重なって飽和しているような、あるいはすべての印象を削ぎ取られた無機質な声のような。

 要するに、相手がどこにいるのか、どのような相手なのかを推察することすら出来ない。相手の力の容量すら強大すぎて測れない。

『聞く必要も無い、か…押しつぶされて死ね』

 無慈悲に告げる。世界が、その存在を許さないように圧迫されていく。それを、何となく感じ取るが、それに抗う術はない。

「…助言には耳を貸せ」

 唯一の頼みの綱といえば、と、レイは呟く。しかし、誰が、何のために、どうやって、その不安に押し潰されそうになる。

 しかし、救いの主はいつだって突然に現れる。

「待ってくださいませんか?」

 聞こえてきたのは、優しそうな男の声。

「「誰だ?」」

 グレイスとバトウは、突然現れた乱入者に不信の声を上げる。

『!!』

 しかし、何をしたのか、闇の支配者はその手を止めた、様な気がした。実際、目に見えているわけではないので、確認しようがないが、そのような感覚がする。

「何をした?」

 グレイスは尋ねる。

「このようなやり方は、好きじゃないのだけれど、ね」

「なら、力づくでいこうか」

 また新しい乱入者が現れた。今度は、男のものなのか女のものなのか判別がつかない声。

「本気ですか?」

「あれ?見くびってる?本気で戦っても負けないつもりなんだけど…まあ、そう言っても、あれと一戦やらかすつもりはないよ?ただ、この世界はちょっと鍵かけられて閉じ込められたような状態だからちょっとどうにかするだけ…全く皆、勝手なんだから」

「元はといえばあなたが…」

「そう言わないでよそれを言い出したら君がさぁ」

『仲がいいようだな…』

 何だろうか、妙に闇の支配者の声に感情が入り混じっている気がした。それがどのような感情かはわからないが。どうにも不明な三人の世界というか、何故か緊張感のないその内の一人のせいというか、緊張感というものが弛緩してしまっている。

「さてさて、メイジスから言われたことを覚えているだろうけど、全面的にボクを信じてね?ついでに言うとボクのことは詮索しないでね、ついでに説明しなければならないことが多すぎるし、それらを理解できるとも思えないし」

「それ以前に、メイジスは、信じなければ助からない、と言外に伝えていましたから、何も聞かずに信じるしかないでしょう。というか、それ以外に手立てがないし」

 ふむ、とレイの言葉に感心する。

「それじゃあ君たちは今の立ち位置から前に跳んでね?一瞬、飛び降り自殺でもする悪夢から覚めた時のような感覚がするだろうけど大丈夫だからそのままその感覚に身を預けること。その感覚に恐怖して躊躇すると出れないから注意してね?全く、闇の世界から出るのにこんな闇の王の教示に従うってのもおかしな話だよ」

 何の話なのか、と聞く権利もない四人には、その通りにするしかない。

「別に隣と手つなぐくらいは大丈夫だからね?」

 見えているのかいないのか、レイとリーリアの方向に向かって言い放つ。

「…」

 この世界には、自分の秘密が隠されている。レイは、そう確信した。しかし、一方で、この世界には、今のように得体のしれない者が蠢いている。それに、この世界に挑むということは、今まで自分がいた、リーリアやウインドウらと幸せに暮らしていた世界から離れるということだと感じた。

「お兄ちゃん」

 今は帰ろう、と、手を握り締める。決断を求めない。たとえ、どちらであろうと今の決断は変わらない。

「そうだね」

 そして、四人は世界から飛び降りる。

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