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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第一章:集う王たち
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侵入者―メイジス

 バトウ、レイ、リーリアは混乱していた。

「いるか?」

 バトウは声をかける。それに対し、二人は返事をして、よし、とバトウはあたりを警戒する。とは言っても、

「…なんも見えねえな」

 まるで闇夜のように、いや、闇夜よりもさらに深い闇が広がっている。自分の手足すら確認できない暗闇に、放り出された。

世界に闇が広がっている、と、直感的に思いついたのは何故だろう、とバトウは思った。そして、同様にレイとリーリアもこの世界に対してそんな感想を持った。

 しかし、先ほどからメイジスの気配すらまるで感じない。そもそも相手よりも先にあらかじめ暗闇に目を慣らしておかないと意味がないだろう。もっとも、そんな常識が通用する相手でもないが。

 しかし、守るべき二人が見えない、というのは少しまずい。この二人を目標に奇襲を仕掛けられた場合、反応しきれない。

「とりあえずこれを被っといてくれ」

 バトウは自分の着ていた外套を脱ぎ、先ほど声が聞こえた辺りに投げた。

「これは?」

 レイが尋ねる。

「連れから譲ってもらってな。刀で切りつけられても切れない逸品だ。それで少しは凌げるだろう」

「バトウさんは…?」

 外套を手探りでリーリアに被せながらレイは尋ねる。

「なーに、これから気配を探ろうと思ってな、少し身軽になりたかったところだ」

 作り出すのは刀身が短く軽い、咄嗟の動きやすさを重視した小刀。

(ん?そういやよく考えずにやってたが使えるのか)

 ついさっき、世界を移動するような感覚をまた覚えたのだが、どうやらレイとリーリアがいた世界に還ったわけではないのだ。

「動くなよ?」

 それ以上は言わない。バトウは息を吐き、集中する。殺気を巡らせる。すると、徐々にレイとリーリアの位置すら把握できる。しかし、その二人だとわかっていても、いざ動くものがあると反応してしまうかもしれない。

 身軽になった、といっても別にそれはただ二人を守るための言い訳だ。戦場では鎧を纏い、剣を構え、痛みに震えようと敵の気配を常に感じ取らねばならない。

 しかし、すぐに妙だと思った。メイジスの感覚をまるで覚えない。殺気どころか視線すら感じない。機を窺っている気配すら感じない。

(逃げた?いや、そんなわけ…)

 などと思ったその時、

「あれ…?…前から、来てる」

 と、リーリアの言葉が響いた。言葉を音として捉え、反応しそうになったが、言葉の意味を理解しようと、前方に注意を向ける。

何も感じない。空言か、と思ったその一瞬の後、急に気配が出現した。

「く!?」

 かろうじて剣先を合わせる、が、そこからメイジスの爪は伸び、先ほどより防御も薄くなった右腕の肩先を掠める。

 そしてバトウが振るう返しの刃は後ろへ跳んで簡単にかわされる。そしてメイジスの気配はまた消えた。ぶつりと。

「バトウさん…」

 レイもそのことに気付いたのか、声をかける。突然、というよりある地点を通り過ぎた時点で壁でもあるようにぶつりと途切れたような、そんな感覚。部屋を移動して戸を閉めたらその人物が見えなくなる、といった感覚、だろうか。まあ、もともと見えていないが。

「なるほどね、これなら一方的にやられるわ」

 そしてどんなルールであろうとそれが双方に適用されるのならば公平といえる。しかし、相手の先ほどの攻撃は明らかに自分の、自分たちの位置を確実に把握し、動きに合わせたとしか思えない。

 だが、リーリアが一足早く反応したことが気になる。

「…あれ?」

 と、リーリアは声を上げた。

「どうしたの?リーリア」

 レイは小声で声をかける。

「う、う~ん…左の方から、誰か歩いて来てる、様な…あれ?でも、おっきい」

 メイジスではない、と暗に言っている。

「でかい…?」

 知り合いにそれが身体的特徴として挙げられる人物がいるな、なんてバトウは思い至る。だが、それでも警戒を解いたりはしない。

 そしてその後、再び気配が出現した。メイジスとは違って、立ちはだかるようなに大きい気配、しかし、特定するにはまだ早く、またそうであるのなら別にこの程度はものともしない。そう考えて敢えて剣を止めはしない。が、

「あ~~~~」

 思わず気が抜けてしまった。気を許した友人の声であるということと、その声が間の抜けた声だったから。しかし、それでもバトウの攻撃に的確に反応して腕でその攻撃を受け止めているあたり流石ではある。

「グレイス、だよな?」

「バトウ、だな」

 暗闇で見えないのでお互いに名前を呼び合って確認する。お互いの気配は感じるのでお互いに遠慮なく身動きできる距離は保つ。

「誰…ですか?」

 レイの問いかける声にグレイスは反応する。

「む、一緒にいるのは、そうか、『金髪の青年に少女』それに『レイとリーリア』だね。ふむ、君の方が、『金髪の青年』で、『レイ』君、でいいのかな」

「あれ…そういえば俺名前聞いてなかったな」

 今更ながらバトウは気付いた。

「ええっと、とりあえず、グレイスさん、でいいんですね」

 先ほどのバトウとの問答から推察する。レイの質問に、ああ、とグレイスは挨拶を返し、これで四人の自己紹介はとりあえず完了。

「で、グレイスよ、なんで奇声あげてたんだ?」

「ちょっとした実験だったんだが、思いの外、早く会えてよかったよ。で、聞きたいのだが私の声は一体どの位の間、聞こえていた?」

「?いきなり声出しただろお前?それで剣が当たってそこらへんで止めて…」

 待てよ、とバトウは思った。言われてみれば、グレイスの声が聞こえたのは気配を感じ取った直後かほぼ同時だ。

「私がこの世界に来てから絶えず声を出し続けていたのさ。そして恐らく通常なら聞き取れるような距離であっても、まるで何かに遮断されるようにその声が届かなかった、ということだな」

 ふむ、とグレイスは思案する。

「ブラックボックス」

 そして呟いた。

「なんだそりゃ?」

「ある一定空間で仕切りを作り、その一定空間外の情報…熱や光、音などを遮断し、また空間内のそれらを漏らさない。まあ物理的な移動は可能だ。今、私たちは同じ一定空間内にいるし、恐らくだがいくつもの隔絶空間が存在する…要点だけ言おうか。相手に奇襲か何かされたか?」

「ああ」

「その時、まるで気配なんて感じないところからいきなり敵が出現したりしただろう?」

 バトウは黙る。あまりにもその通りで、訂正するところがない。それを肯定と受け取り、グレイスは続ける。

「気配すら完全に遮断される。一定空間外にいるのなら、空間内の人間にとっての認識としては『存在していない』ことになるのだから…これもわかりにくいな」

「あの、それだと奇襲する側も相手がどこにいるのか全くわからない、ということになりませんか?」

 と、考えを出したのはレイだった。

「…なるほど、やはりそうじゃないんだね」

 グレイスも、そうならばまだいいと思っていた。お互いに相手の気配を探れる範囲内まで近づいていくような戦い。長期戦になるが自分の能力はどちらかといえばそちら向きだ。

しかし、やはりというべきか、どうやら相手は的確な索敵能力のようなものを備えているらしい。もしかしたら実際に見えているのかもしれない。

「そういえば、リーリアは、なんでグレイスさんやメイジスの来る位置が分かったの?」

「え?…うーん…」

 ん?とグレイスはレイとリーリアの会話に耳を傾けた。しかし、無理に口をはさむのも憚られたので、黙っている。

「…風が、吹いた…の」

 風?相手の動きによって起こる風を感じた、とでもいうのだろうか。しかし、この世界ではそれもわからないのではないか

「いや、風の動きというのも物理的な移動の積み重ねだ。無論、それを感じ取れるというのは視覚情報をシャットダウンしているというのもあるのだろうが…」

 言うべきなのだろうか、とグレイスは迷った。

「恐らく、本能的に風の魔法を使ってこの世界全体に展開させた。何かの動きひとつで反応して波風を起こす類の、術者本人にわかる…」

「なるほど、それは少し厄介だな」

 と、再び気配が出現する。

「何!?」

 レイは叫ぶ。その気配はレイとリーリアの間近だった。

「今度は反応を後れたか。だがしかし、あくまで来る方向程度を察知する程度しかできないとしても、それをあの二人に伝えられるとそれだけで倒されてしまいそうでもあるのでね」

 バトウとグレイスの立ち位置の後ろになり、反応してからどうしても間に合わない。

 何かができるとすれば、それは、

「だから、少し予定を変更しよう」

 レイは、剣を引き抜いた。

「ふむ…」

 メイジスにはそれが見えている。だから、言う。自分の存在意義、その最後の一押しとして

「法王は言葉を濁したが、この状況で君たちが勝利することはない。あるとすれば状況を変えた上でのことだ。つまり、」

 『世界を変えるしかない』と、言った。

「世界を変える…」

 レイの心臓の鼓動が、一際大きくなる。

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