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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第一章:集う王たち
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鋼の王バトウ

 目の前の戦いは二人の世界を壊した。

 バトウが足で腕を踏みつけ、その背丈ほどもある剣でメイジスを刺し貫こうとする。しかし、メイジスの右腕が伸びた。姿勢の問題ではなく、長さが伸びた。そのせいで頭をつぶそうとした剣筋は逸れ、しかし、腕を切り裂いた。

 しかし、そのせいでメイジスはバトウの拘束を逃れる。反対側の爪がバトウに迫る。メイジスの体自身は後ろに飛び去っているが、爪がそれ以上のスピードで伸びている。

 バトウは剣を捨て、剣は一瞬で霧散し、そしてバトウが右手をかざした瞬間、その身を覆い尽くすほどの盾が出現する。

 そして、バトウは飛んだ、ように見えた。実際には盾に足場がついて、階段のようにして上がっていったのだ。そのまま最高点で飛び上がり、空中で今度は槍を構える。

 メイジスが地に手をついて這いずり回るようにして距離を取ろうとするのを、バトウは刺し貫こうとする。メイジスはそれに対して、切られていなかった左腕をカウンターに差し出す。

 バトウは紙一重に回避し、メイジスはそれを体の中心に突っ込まれた。赤い血が傷口から噴き出す。人間でいえば心臓にあたる部分を刺し貫かれ、後ろで見ていたレイは、勝負がついたのか、と思う。リーリアはさすがに目を瞑った。

「っ!?」

 その時、バトウは一瞬混乱した。抜けないし、奥に進まない。槍はシンプルな造形で返しなどついておらず、相手が何かを仕掛けたのだ、と理解したのは遅すぎた。

 ただ手を放せばいいと悟るのとほぼ同時に、メイジスはするりと手を伸ばし、その槍を掴んで引き寄せ、バトウは前に体を傾けて体勢を崩す。

「器用だな」

 バトウは呟く。器用だとかそんな言葉で片付けられるほど目の前の存在は易くないのだが、皮肉を込めて言った。

「ま、別に遺言じゃないんだがな」

 バトウは槍を再度、掴み直して力を込め、体勢を立て直す。そして、後ろに跳んでレイとリーリアの元まで戻る。

 メイジスも同時に距離を取っている。両者共、極度の集中状態において殺し合いを繰り広げ、しかしだからこそその緊張状態は長く続かないことを悟っている。

「で、どうよ?感想は?」

 微笑むように声をかけた。今まで感じていた気迫、緊張、殺気は解けている。

「…この世界は一体何なのですか?」

「…ん?」

 バトウはレイの疑問に疑念を抱く。疑問の対象がメイジスや自分ではなく、世界だといった。仕掛けは確かにそこにある、つまり核心に少なからず近い問い。

 しかし、逆に言えば答えを知っているのならばそれを尋ねる必要も無い。妙だな、とは思ったが、とりあえず疑問に答えることにする。

「俺にもよくわからんが、ここに引きずり込まれる人間はこの世界の構成要素の一つを自在に操れるらしい、俺の場合は…まあ、散々見せたがこれだな」

 手を広げて見せる。そして目を凝らすと、細かい何かが集束しているようで、やがて剣の形を創造する。

 バトウは剣を一振りし、一陣の風を吹かす。つまり、そこに確実に存在することを証明した。

「時間もないからそれ位だ。あと、ここにはあのメイジスのようにわけのわからん存在がいて、そいつらに引きずり込まれてここに来る、方法や理由もここが何なのかも不明」

「ふむ、説明の手間が省けたな、感謝するよ鋼の王」

 声の方向を見やると、メイジスは一歩足を踏み出していた。

「ふむ」

 見ると、自分が切り落とした右腕は新しく生え、胸元の傷は埋まっている。『治った』のではない。腕は切り口を境に少々細くなっていて、胸元の皮膚は少々色味が薄い。

「おいおい、お前の正体も御招待もわからんって話だ。そこら辺の説明をよかったらしてくれないか」

「ふむ…それもやぶさかではないが、それは『木』を知らない者に『森』が何かを説明するようなものだ。君たちがいた世界、君たちという存在、そして魔法についての理解を前提としなければ説明は無理さ」

 やれやれ、とバトウは溜息を吐いた。

「そういえば、さっきので全力か?なら忠告の一つでもしてやるんだが」

 先ほどの攻防でメイジスとバトウはお互いの力量を探った。そしてメイジスはバトウに傷をつけることはできなかった。メイジスが受けた傷は再生するといっても、総合的に見てこのまま戦ったとして、メイジスはバトウには勝てない。

 それを、お互い感じ取った。

「く、くくく…まあ、そうだろうね、私にガルマの真似事は無理がある。それでは、少し趣向を変えよう」

 両手を広げ、高らかに宣言する。

「『侵入者―メイジス』として」

 そして再び世界は変わる。


「なるほど、レイという記憶喪失の少年がこの世界に突然やってきた、と」

「まあ、もう八年くらいになるかな?もう随分と立派に成長した立派な息子だけどな」

 一方、グレイスは山を下る道すがら、色々と世間話がてら情報収集をしていた。別にバトウのことを忘れているわけではないが、考えていても仕方がないことはあるもので、時間を無駄にするのももったいないし、沈黙を紛らわすのにもちょうどいい。

「ところでグレイスさんはどっから来たんよ?」

「…そうですね」

 グレイスは立場上、慎重に言葉を選ばなければならない。

「無理に言葉を選ぶ必要ってのもないんだけどな、選ばないってのも手だ」

 少し長い沈黙に対し、ウインドウは提案した。あまり話が得意な人間ではないと感じた。

「…」

 グレイスは、考える。偏見なしで人や雰囲気を見る目。基本的に明朗な性格だが相手にそれを強要することはない。誰に対しても分け隔てない、が裏を返せば特定の嗜好が見えない。

 そしてこうやって話をしながらも警戒を解いていない。今仮に自分が横から拳を振り上げても初撃は何の気なしに躱されるだろう。非常に友好的ではあるが油断は微塵もない。

(と、悪い癖だな…)

 友人に指摘された悪い癖。自分は常に『相手を御せるのかどうか』それを視野に人と向き合っている。それなりの理由はある。そしてそれを承知の上で友人バトウは言った。

『せめてこの旅の間くらいは忘れたらどうだ?二度と会うのかわからん人間にそんなことやってたら時間の無駄だし気の使いすぎだ』

 何も知らない人間の言葉なら全く気にしないのだが、自分と同じように戦いに身を置く人間であることから、その忠告は考慮した。それが悪い癖だというのも甘んじて受けた。

「そのバトウという人は、どのような人なのですか?」

 と、聞いてきたのはバレリアだった。しかし、今まで主に聞いてきたのはウインドウだ。バレリアは空気を壊さず、先を促すような質問をして会話に入っていた。

しかし今度は沈黙を許可したウインドウの代わりにバレリアがおもむろに質問をしてきた。

 不思議な関係だな、と感想を持つのと同時にグレイスは返答を考える。

「…武勇に優れていますがその力をひけらかすことなく、確固とした意志を持ち振るう強い信念を持った男です」

 どうなんだろうな、と口に出して疑問に思った。バトウの生きた場所はこことは違う。求められる人柄や能力は世界によって異なり、彼の魅力に意味はあり、理解はされるのだろうか。

「そうか、そいつは羨ましいこったね」

 と、ウインドウは遠い目をして呟いた。ふむ、とグレイスの顔を見る。

「いい友人みたいだな、そいつとは。顔を見りゃあわかる」

 む、自分はどのような顔をしているのだろうかと疑問に思う。友人が認められること、それが自分ごとのように嬉しいというのはどの世界でも共通している。

「さて、その友人に関して話がある」

 と、突然聞き慣れない声が聞こえた。

「…ノアラバルトの血族か」

 グレイスは、その姿を見て、驚くこともなく溜息を吐いた。グレイスも今回で三度目でしかないが、自分がいた世界はそちら側に近いので手慣れたものだ。

「ふむ、グレイスさんの知り合いみたいだから驚くのも失礼なんかな?」

 ウインドウは気楽に言った。とはいってもそこに一部の隙もない。バレリアはすでに臨戦態勢だ。

 姿を現したのは、先ほどまでバトウと戦っていたメイジスだった。

「話、とは?」

「バトウと、素質のある王二人…二柱、かな?あちらの世界にご招待した」

「…二人ってなあどういう組み合わせだ?」

 ウインドウが尋ねた。恐らく、自分たちと同じようにバトウという男と出会い、そして何かに巻き込まれた、と推察した。

「ふむ、頭の回転が速いな。それにやはり発想が柔軟だ、何が起こったのかというよりも、誰がという視点に到達するのが早い」

 いやはや、と、メイジスは賞賛する。

「あそこにいたのは金色の髪の青年、そして少女、これで伝わるかな」

「レイとリーリア、か…」

 ふむ、とウインドウは考え、

「なら大丈夫か」

 なんて、安堵なんてしている。

「というか、招待した癖に自分だけ逃げているのか?彼らはまだあの世界にいるのだろう?」

「今回は少し特殊でね。彼らは私があの世界を離れていることにも気づかない、そういう世界にご招待した」

「…?君たちは世界を変える力を持っていないだろう?」

 グレイスの言葉に対し、メイジスは笑う。

「迂闊だな、君は」

 メイジスの言葉に、グレイスは我に返る。

「まあ、君は彼らとは違って、自分が何者なのかわかっている。そうだろう?『法王』?」

 瞬間、グレイスは飛び出した。そして、メイジスの頭を掴み、拳を叩き込む。挑発じみた言葉に反応したわけではない。彼はその言葉の通り、自分の役割を理解し、そしてそれに準じて行動したに過ぎない。その表情には何もうつさず、あくまで無慈悲に公平に、相手を倒そうとする。

「く…」

 メイジスは、笑った。その生き方を嘲笑うのではなく、心から賞賛した。そして、グレイスを世界に引きずり込むために、その腕を掴む。

「ふ…」

 グレイスも笑う。わかっている、と。そのつもりで攻撃を仕掛けたのだ、と。

「友人たちを助けに行くのかい?」

 わかっているわけでもないが、なんとなく感じ取って、ウインドウは声をかける。レイとリーリアのことが、やはり心配だった部分もある。そして、自分に出来ることがないことも悟っていた。

「あんたが助けるってなあ感じかね?」

「…微妙ですね。少しばかり知識があることは否定しませんが、それが役にたつかどうかは未知数な相手です」

 ウインドウは溜息を吐く。グレイスは、不安を煽ってしまったのだろうか、と少し思い悩んだ。が、

「おいおい『そこは助けられるのは自分しかいねえ』とか、『絶対に助ける』とか言う場面だろうが。男には身に合わん大口叩いてあたふたしなきゃならねえ時もあるんだぜ」

 レイもそんな感じなんだよなあ、なんて、ウインドウは笑った。

「そんなものですかね」

 敵わないなあ、なんて笑いながら、グレイスは消えた。

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