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ある世界の出来事~光の勇者編~  作者: 山崎世界
第一章:集う王たち
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変わる世界

 終始無言で目的地に向かうクラウドとレイ、そしてリーリア。いつもは口数が多いムードメーカーのクラウドやリーリアだが、レイと同じような不安を感じているのか、何かを考え込むように顔を俯かせる。

 この先に何も無ければいい、と誰もが思っていた。が、

「…止まって」

 先頭を歩いていたレイは、突然二人の足を止める。そして木の陰に隠れ、様子を窺う。

「まずったなぁ…はぐれたぜ。どうしたもんかねぇ。森…いや、山、だな。うかつに動けば遭難するかもしれんしな。ま、下ればそのうち着くんだろうが」

 男がいるらしい、と声で判断した。目線を向けるのは危険、とレイは判断し、クラウドとリーリアもそれに倣った。注意深く、音と気配に集中する。

 まず初めに感じたのは戦慄。その姿を確認する前に、その実力の片鱗を感じる。数々の戦場を潜り抜けてきたその雰囲気は、この世界の住人には無いものだ。

「…ん?」

 警戒するように、的確にこちらに眼を向ける。

「…獣の類じゃないわなぁ、武装してる身で悪いんだが、そう警戒しないで出てきてくれないか」

 その男は膝元まである黒い外套を身にまとう。その内側には見慣れぬ赤い服を着ており、左右で布を交差させ、腰布でそれを止めている。

そして、その男の腰には当然のように剣を差している。

「!?驚いたな」

 そしてその男はレイたちの姿を見て驚く。とりわけ、レイの姿を見て、だ。そして、初めてレイは男と目を合わせる。そして、同じように驚き、戸惑う。

 その男の髪と瞳は金属のように鈍い色と光を放つ。白いようにも見えるが若干灰色がかっていて、それが確固たる存在感を放つ。

 年は、自分たちとは一回り程度は違う。が、バレリアやウインドウに比べると若い。

 先程は警戒していたのか、今は飄々としている印象で、思いの外その表情は柔らかい。

「俺の名前はバトウ。極東の白鬼と言えばちったあ名が…て意味がねえな」

 男は自嘲気味に笑った。

「そこの兄さんはどっから来たんだい?」

 と、男はレイを指差して言う。

そして三人は考える。「どこから?」とはどういうことなのだろう。

「…そうさな、この言い方も変だな。となると、だ…」

 男は考えを整理するように話し、そしてその声には空しさがあった。

「単刀直入に聞くぜ?そこの金色の髪の兄さんは、異世界人か?」

 レイは、自分の心がざわつくのを感じた。混乱しているクラウドとリーリアと違い、その言葉の意味を咀嚼できている自分に気付いた。

 男はそんな三人の様子を見て、少し考える。しかし、そんなことを考えている間もなく、男は顔を顰めた。そして、鋭くその視線を横に走らせた。

「!?」

 その視線に背筋を凍らせる。明らかな殺意を感じた。先程の柔和な表情は見る影もない。その視線だけで射殺そうとでも言うように、男は敵を認識した。

 そこには、何かがいた。男が、ためらいもなく殺意を向けるほどの存在が。

「何だ!?」

 初めに声を発したのはクラウド。リーリアは息をのみ、レイと謎の男は呑まれないように睨みつける。レイは、後ろの二人をかばうようにそちらに進んだ。

 そこにいたのは、『何か』だった。まず、赤い布が空中に浮かんでいるように見えた。しかし数瞬、ふわふわとそこに滞在し続け、それが浮いているのだと気付いた。

枯れ木のような腕と脚が地に着くことなく突出していた。鋭い爪一つ一つがまるで剣のような大きさだった。

 紅色の布が被らされ、胴体は確認できないが、小柄な人間が四つん這いになったような体躯。布から隙間から垣間見える顔には包帯が巻かれ、拳のような大きさの一つ目が飛び出ていた。

「今回は、趣味悪いねえおい」

 軽口を叩く男。この男は、この存在を知っている、とレイは気づいた。

「……」

 しかし、問いただす前に、それは動き出した。生きているのだな、とまず考えた。手をばっ!と掲げ、何かを呟いた。音として、何と表現できるのか分からない。しかし、その声に呼応する様に自分の中の何かが、いや、血液に溶けて全身に張り巡らされた様な何か、が目覚める。

 そんな感覚を、レイと男と、リーリアは感じた。

 そして、一瞬で、奈落の底に落ちたような感覚がした。

「!?レイ!リーリア!」

 クラウドが気付いたころには、既に自分ひとりだった。


 目の前には完全な白い空と乾燥した大地が広がっている。無機質すぎる世界で、草木一つ見つからない。

 地平線はどこまでも続き、見渡す限りに終わりはないように思えた。その世界はあまりにも広大で、同時にあまりにも何もない。

空には太陽もなければ実は雲も月もない。暗いと感じないのであれば明るいとも感じない。暑くもなければ寒くもない。

 何もない空間だけの世界がそこにあった。

「ここは…?」

 レイは、聞きながらバトウを見る。バトウは驚くまでもなく、溜息なんか吐きながらあたりを警戒しているだけで、別に戸惑ってはいない。この世界を知っている、と感じた。

「まあ色々とあんのよ、連れが説明うまいんだが、俺もこの世界に足を踏み入れたのは今回が二度目だしなぁ…」

 バトウは首を回し、警戒していた。その時、気付いた。その横顔はあまりにも鋭い。殺気だけで人を殺せるような、そんな雰囲気にまた包まれた。

 そして、その手にはいつのまにか剣を持っていた。見ると、腰に差している剣は鞘から抜かれていない。幅広の片刃剣。頑丈さに特化し、相手の剣を受け止める剣。

 いつ、どこで、どのように、そんな疑問は確かによぎるが、レイは一番気にしなければならない質問を思い浮かべる。

「っ!!?」

 そう、『何故』だ。

 鋭い爪を受け止める鋼の刀身。相手は追撃に左の爪も差しだそうとする、が、突如、相手は喉元まで伸びた切っ先に反応して飛び退いた。

 追撃する。バトウは右手を放し、掴んでいた剣は落ちる前に消滅した。しかし次の瞬間、剣はまた握られていた。いや、それは柄を握っているだけに見える。しかし、次の瞬間には刀身が完成し、相手に到達するころには切っ先が相手を貫こうとする。今度は切るというよりも貫通力に秀でた細身の剣。

 相手はそれを避けることができなかったのだ、と判断する。が、どういうわけか、相手は空中を浮遊しており、力が後ろに逃げ、推進力となって距離を取られた。

 それを見越したのか、とレイは思う。が、バトウはどうでもいいと、残忍に笑った。

「くふふふふ…」

 それは、首筋に手を当て、その手に血がべったりと乗ったことを確認して、声を出して笑った。そして、その血は一滴、地面に落ちただけで止まった。赤いのだな、なんて、人間は思うのだ。

「…喋れんのか?」

 答えを求めているわけでもなく、バトウはつまらなそうに呟いた。

「ふふ、私は人間ではないのでね、声帯というものは首にないんだ。ま、すぐ再生するのだから、大して違いがないのかもしれんがね」

 それは顔を上に向け、首筋を見せるようにした。掌で一拭いすると、赤黒い肌に流血は止まり、傷跡すらもはや見当たらない。

「人間なら急所だけどな、ま、いいや」

 またバトウは持っていた剣を何の感慨もなく放り投げた。そして、そこに落ちたのは付着していた血だけで、剣は霧散していた。

「箱庭へようこそ、王の諸君」

 人間でもなければ、自然界に存在するどのような生物にも合致しない、しかし確かに存在し、命と意思を持ち、三人をこの世界に引きずり込んだ謎の存在がある。

「申し遅れた。私の名はメイジスだ」

 ここはどこで、メイジスとは何者なのか、どうやって、何故ここにきてしまったのか、疑問は尽きない。しかし、

「さて、では殺し合いを始めよう」

 それを尋ねることはできない。爪はさらに鋭く、関節など無いように、あるいは無数にあるように縦横無尽に折れ曲がり、伸びる。足も同時に伸びて四つん這いになり、獣のように地面を蹴り、こちらに激しく駆けてきた。

「さて、ここからは俺のことを信じてくれればいい。何も手出しはしなくていい。いや、寧ろ動くな、というのが正しいかな?」

 そう言って、バトウはレイたちの方を見る。有無を言わさず、足手まといだと告げている。が、

「どういう根拠があって言うんですか?」

 レイも、自分の命だけでなく、リーリアの命もかかっている。引き下がるわけには行かない。

「…そうだな、戦いを見れば分かるだろ。見た上で手出しするべきかどうか決めろ」

 バトウも、レイの強さは一見して分かる。自分より強い、とは言えないが彼が勝てないという相手には勝てないし、自分が勝てる相手には勝てる程度の差。

しかし、そのレベルの話ではない。いくら真剣での戦いにおいて互角であろうと、それではこの場での戦いでは全く意味を成さない。

 それを悟るだけの実力、状況判断力はあるだろう、とバトウは確信している。だから、否が応でも止める、ということはしない。

「さて、それじゃ行くか!」

 バトウは両手に剣を持ち、片方を相手に投げつけた。それと同時に前に出て、レイとリーリアの二人との距離を取った。


 生じた光は二つ。人にあらざる存在のほかに、この地に舞い降りた人間はもう一人いた。

「…で、あんたは何もんだ?」

 バレリアとウインドウの前にいたのは漆黒の衣装と外套で身を包んだ男だった。内側に着こんでいるのは黒くて光沢のある材質で首筋まで覆い、鎖や楔、ベルト等を関節部や服の接合部にあしらい、手元は黒い手袋で覆っている。

 そして、膝元まで伸びた外套はバトウが身に着けていたものと同じではあるのだが、ウインドウとバレリアの二人がそれを知る由もない。

「私の名前はグレイスと言います。敵意は、無いので警戒しないでくれるとありがたいのですが…」

 背筋を伸ばした姿勢や着崩す様子もない服装からいっても、彼がおそらく真面目な性格をしているだろうことは想像に難くない。それと声、言葉の意味を租借し、バレリアは相手を計る。

年はレイと同程度か少し上。肩のあたりまで伸ばされた黒い髪と赤い瞳。バトウ、そしてレイと同じように、この地の人間とは明らかに違う容姿を持っている。

「いやーしかしあんたでかいね?」

 ウインドウはどうでもいい世間話を振る。いや、実際気にはなっている。そもそも身丈が大きすぎる。ウインドウはまあこの地ではそれなりに背丈は高い方だが、それでもグレイスの胸程度でしかない。身長二メートルになる体格は彼がいた世界でも珍しい。

「ふむ…」

 グレイスも二人を観察している。おかしい、と思った。二人がおおらかな性格だとしても、いきなり自分たちと違う髪と瞳、肌の人間が来たらもう少しリアクションがあってもいい。

(だとすれば、もう既に他の世界の王が来ていて、彼らと接触した?)

 無論、いくつか立てられる仮説の一つではあるが一番に思いつく可能性でもある。闇に覆われた世界から世界に移動するには、と、長考になりそうなのでとりあえず止めておく。

「失礼。連れを探すのにご協力願えませんか?…銀色の髪の男なので、一目でわかると思うのですが」

 そして彼にはまだ出会ったばかりではあるのだが共に旅をしている友がいるのだ。身体的特徴を出すのも憚られるのだがそうも言っていられない。とりあえずこの世界の王を探すことよりも重要なことなのである。

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