7. 仔猫は、まだまだ、お昼寝中です!
仔猫が寝ている為、保護者会談となりました。
エドさんSide>>>>>
「うちの義妹が、お世話になったようで、ありがとうございます」
サラちゃんが眠るのを待っていたように現れた榛色の髪の少年が、深々と頭を下げてきた。
この西区の庶民街ではあまり見かけない、どう見ても貴族のいい家の坊ちゃんで、更に言えば彼が着ている制服は、我が国一の騎士学校のものだ。
僻みを承知で言わせてもらえば、ジャラジャラついた勲章は、優等生にのみ与えられるものだろう。一体幾つ付けていやがる!
「いや、俺が好きでやってるんで、気にしないでください。
あと、連れて帰るのは、ちょっと待ってやってもらえますか?
どうしても、自分で学院まで行きたいって言っているんで・・・」
うーん、余計な事かな、とも思ったけど、この小さい仔猫がここまで意地を張っているんだし、その位の手助けはしてやってもいいだろう。
「ありがとうございます、私もそう思います。
できれば、私もサラが自分で学院まで行き、少し自信をつけても貰いたいんです。」
深い緑色の瞳がふわりと微笑んで、眠っている仔猫を優しく見つめる。・・・なんというか、随分と出来た人だな、サラちゃんの飼い主さんは。
「ああ、サラが会いに行きたいのは、私の許婚者です。
彼女は、サラが会いに来てくれるのを、ジリジリしながら待っていますよ」
その姿を思い出したのか、ふふっと笑って見せる。なんだか、貫禄負けしている気がするなぁ、俺。
「そういう事であれば、ここから先は・・・」
「あのっ、大変に不躾なお願いなのですが、もう少し、サラに付き合っては貰えませんか?」
保護者が来たことだし、ここは交代かな?と思ったら、思わぬ依頼を受けてしまった。
うーん、それは構わないんだが、どうも、すっきりしない。
「あの、さ。無礼を承知で言うんだけど、随分と作ってないか、あんた?
俺みたいのに、そんな態度、要らないから。」
挑発行為ととられても仕方がない。でも、俺はサラちゃんをこのままコイツに返しても大丈夫なのか、それが知りたいんだ。
すると、彼は少し目を見張ったあと、柔らかな笑顔で俺の余計な心配に応えてくれた。
「そっか、悪い。
余所行きの態度だし、名乗ってもいないなんて、不審に思ってもしょうがないよな。
俺は、ウォルフ・アーティファクト。
これが、俺の普通。サラにも、このままで接している。少しは安心してもらえたか?」
「ああ、こっちこそ、悪かったな。
西区警備隊のエドアルド・ラングだ。エドって呼んでくれ。
途中、サラちゃんが親戚に色々言われて凹んだ話をしていたもんで、心配になったんだ。」
この兄さんとは、サラちゃん上手くやっているようだ。とすると、別の親族かー、でかい家って、大変だよなぁ。
サラを落ち込ませた親戚の話を聞くと、ウォルフは眉をしかめた。
「それは、俺たちのミスだ。
殆どが学校や職場に出ているせいで、家にいるサラが割りを食っちまったんだ。
本来であれば、その嫌な思いは俺たちがしなきゃいけないのに、な。
年長者失格だ」
苦しそうに言う彼の横顔を見ながら、年長者にとってもこれは苦い経験だったんだと思う。
ああいう連中の事は、俺にもわかる。子供だけになった家や、弱っている奴を見つけては、ここぞとばかりに親族を騙って付け込んで来る。 親戚は助け合うものだと思っていた子供たちには、キツイだろう。
「でも、もう二度とあの連中をうちの者には近づけない。ウチの兄貴が本気になったからね。
たぶん、今日の夕方にはちゃんとカタがつく。」
……えーと、何をしたのかは、聞かない方がいいですよね? 合法、非合法どっちでも、知らない方が幸せな気がする。怖いわ、サラちゃんのお義兄さん達。
サラちゃん、守られてるなぁ、よかったよ。
起きたら、もう遠く学校に行かなくてもいいんだって、わかるよ。
きっと、学院にたどり着いたら、大好きなお姉さんに教えてもらえるよ。
「よかったな、サラちゃん」
寝ている仔猫の背中をなでていたら、気持ちよさそうに喉をならした。
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ウォルフSide>>>>>
サラは、本当に運がいい。
今回、仔猫の姿で出かけたせいもあるが、変な奴に捕まるようなこともなく、警備隊の騎士に保護してもらえるなんて。
うちの義妹は、可愛い。
はっきり言おう、幼女好きなら絶対に食いついてくるし、その気はなくても、構いたくなるタイプだ。
実際、今回の親戚もどきも、サラのことを僻地の寄宿学校に入れて、そのままどこかの変態貴族に売り飛ばそうとまでしていた。 この事は、俺と兄貴だけの秘密だ。こんな事をアレクが知ったら、相手をくびり殺しかねないからな。
だから、この先、サラの護衛が絶対に必要だと思っていたし、探してもいた。なのに、
「自分で、ちゃんと見つけてくるんだもんなぁ」
思わず、笑みがこぼれる。
サラのことを、護衛してくれているエドは、警備隊でもなかなかの手練らしい。
年齢は、18歳。まだ警備隊に入って間もないが、期待の若手だと聞いた。度胸もあるし、機転もきく。
なにより、サラが懐いている。
「折角の使える人材を、持っていってしまうおつもりですか? ウォルフ様」
副隊長のサーライルは、苦笑いだ。
そういいながらも、エドの情報をくれたのは、副隊長自身だ。それは彼の身柄をこちらにくれるという意味だろう?
「エドには、悪いな!って言っておいてくれ。近々、迎えを寄越す。」
西地区の詰め所から、アル兄貴に連絡をしたら、その護衛のプロファイルを寄越せといわれた。
兄貴が動けば、数日で辞令が降りて、西地区の警備から、王宮の警備へ配置換えになるだろう。
「…そっか、今の俺の趣味は、人材集めだって言っておけばよかったな♪」
「いくらエドでも、それは引くと思いますよ?」
副隊長の引きつった笑顔に、そんなもんかな?と、返した。
「とりあえず、逃がす気はないから。わりーな、エド。付き合ってもらうぜ!」
悪いといいながら、ニヤニヤ笑いが止まらない。
今度あったら、なんて言うかな、奴は。
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エドさんSide 再び>>>>>
…ぞくっときた。
なんだ、風邪でもひいたのか、俺?
「サラちゃん、そろそろ起きな。 学院に行くんだろ?」
日が陰る前に、学院につかなくてはならないので、サラを起こすことにした。
足元に寝そべったエルも、大きく伸びをする。
「……ぅにゃぁあ」
お昼寝は、終わりだ、さ、学院へ行こう!
あれ、エドさん、すまない。なんか、フラグ立ったみたい…。
やっと、仔猫が起きました。 これで最後の主要人物が出せます!
えーと10話で終わらせる予定だったんですが、延びます。
いつまでたっても話の長さをコントロールできないワタクシ。