閑話 仔猫が寝ている間に・・・ 姉と弟
お姉さまと、お兄様が書きたかっただけで、突っ走りました。
◆ 姉と弟 ◆
うららかな午後の事だった。
「抱っこさせろっ!」
「はあっ!?」
言ったのは、アレク姉上。驚いたのは僕。
一体、何が起きたのだろうか?
ウチの姉上は、結構な有名人だ。その容姿と能力から、小さいころから注目を集め、学院に入ると同時に生徒会の執行役員となり、まだ4年生ながら「生徒会長」をやっている凄い人だ。
家でも、研究と称して逃げ回る父に代わり、領地の事や家のことを仕切っているのは姉上だ。
その上、僕やサラの面倒までみているとか、ありえないだろう、15歳で。
一応、対外的には、子供っぽくならないように、「姉上」とか呼んでいるが、家族だけのときは「姉さん」で通している。昔、「おねえちゃま」とか呼んでいたのは、封印だ!
ちなみに、姉さんは、敬称の出世具合もすごい。
小さい時は、「雪の妖精」といわれていたそうだ。
初等部では、「雪の皇女」。
中等部では、「氷雪の女王」ときて、
高等部では、「厳冬の女帝」とまで、きた。
しかし、生徒会長となった今は
「冬の女神」となったそうだ・・・姉さん、こんなものまで極めなくてもいいと思うよ。
それに比べて、僕は本当に平凡だ。
普通に学校に行って、生活して、そのうち、家を継ぐんだろうな~、位しか考えていない。
姉さんの婚約者ウォルフさんの長兄、アル兄さんが面倒見がよくて、いろいろ教えてくれたおかげで、
今は、ほかの子達より少し勉強が進んでいるが、それだって、すぐに追い抜かされるだろう。
二十歳過ぎたらただの人、たぶん、僕はそういうタイプだ。
話題を姉さんに戻そう。
姉さんはとにかく、突拍子もない。
唐突に思いつくらしいが、思いつくだけで終わって欲しいのに、その後、即行動に移してしまうのが、姉さんだ。頼むから、立ち止まって考えて欲しい。一瞬でもいいから・・・。
で、今、姉さんに追い詰められている。なぜっ?
「姉さん、落ち着いて! 一体、どうしたっていうのさ!?」
ジリジリと壁に追い詰められている。初めての「壁ドン!」がやられる方な上、その相手が姉さんだなんて、どれだけ不幸なんだ!
「だって、カールが大きくなってしまうのだもの!」
「はぁ?」
まるで解らない・・・。大きくといっても、まだ姉さんの方が少し身長が高いですよ?
「サラの心配ばかりしていたけれど、カールは今もどんどん大きくなって、きっと、もうすぐ抱っこさせてもらえなくなるわ。ましてや、彼女でも出来たら、抱っこさせてなんて、頼めないじゃない~!」
姉さん、いつ頼みました? てか、僕は脅されてるとばかり思いましたよ。
もうすぐっていうか、今も抱っこされるのは、遠慮したいんですけど。
「・・・私の弟なのに、言う事を聞いてくれないっ!」
「そんな事しなくても、僕はちゃんといつまでも弟ですよ」
上目遣いで、恨めしそうに僕を睨みつける。僕を置いてどんどん先に行くのは姉さんの方なのに。
抱きしめなくても、手を繋いでいなくても、大丈夫。
貴女の弟ですから、ちゃんと付いていきますよ。
「隙アリっ!」
「わぁっ?」
姉さんが飛びつくように、抱きしめてきた。
なんですか、まだ諦めていなかったんですか、姉さん!
こうして見ると、もうすぐ身長も僕の方が高くなる。肩幅だって僕の方が大きくなるよ、姉さん。
だからね?
「今度からは、僕が抱っこしてあげますよ、姉さん。」
「・・・! カールからそういうセリフを聞く日がくるとは!」
くすくすを姉さんが笑う。そう、ずっと姉さんに抱きしめてもらってきたんだ。
だから、今度からは、僕が姉さんを抱っこするよ。
「んー、それも嬉しいけど、今だけは、私に抱きしめさせて? これって年長者の特権だと思うのよ!」
「姉の権限を行使する気ですね?」
「もちろんよ! 今、使わないで、いつ使うのこんな権利!」
「・・・仕方がない、従いましょう、姉上」
多分、今度こんな風に抱きしめるのは、姉さんがお嫁に行く時なんだろうな、と少し寂しく感じた。
姉Side>>>
嫌だ嫌だと言いながらも、ウチの弟は、優しいので、結局折れてくれる。
カールは、本当にできた弟だ。
どうも本人は勘違いをしているようだが、シェンブルク家は、弟や妹の方が能力が高いのが普通で、
カールも所謂、天才の一種だ。ただし、周りに能力の高い連中が多いので、本人は、自覚がないらしい。
大体、普通の奴に、3年分も飛び級ができるか! カールはどこかずれている。
抱っこしたくなったのは、どんどん成長していく弟に置いていかれそうな気がしたからだ。
そのうち、学院にも慣れ、友達もできれば、姉の近くにばかりはいなくなる。
つまんないよな、姉なんて! あんなに可愛がったのに、成長したら、用なしだもの!
ずっと小さいままで居てほしいわけじゃないけれど、時折、大きくなっちゃったんだー、と
少し、残念に思うの。あの頃の弟には、もう、二度と会えない。
もっと、可愛がってあげればよかったかなー、っても思うのよ?
うん、まあ、これは姉の感傷なのよ、少しだけ、付き合って頂戴。
うーん、これでサラに独り立ち宣言でもされたら、本気で凹むわぁ。てか、立ち直れない。
だからお願い、もう少しだけ、私の可愛い弟でいてね?
読んでいただき、ありがとうございました!
妹がいるので、あまり甘えられないお兄ちゃんと、それが少し心配なお姉ちゃんのお話です。許嫁者のウォルフくん兄弟も、書きたかったなぁ。