3-11. 手を繋いで、おでかけ リンゴのパイも一緒にね!
あ、あけましておめでとうございますっ!
今年も、仔猫をかわいがっていただけると嬉しいです!!
おはようございます、ちょみっと寝ぼけたままのサラです。
昨日の夜は眠くって、眠くって・・・アル兄ちゃまが帰って来る前に寝落ちしました。
うう、甘えたい気分だったのに、抱っこして貰えませんでしたよ。
その分、早く帰ってきたエドに甘えてみた気がするんですが、覚えていません・・・。
なんだか、すんごく損をした気分ですよぉっ!
「何言っているんだ、アル兄さんが帰ってくるまで、ここに居るってソファのとこで粘っていて、結局、眠ったサラを帰ってきたアル兄さんが抱っこして部屋まで連れて行ってくれただろうが」
エドにため息混じりに教えてもらった寝ぼけた時のサラは、ここで待っているとか、お部屋に行くのやだとか、ずっとだだをこねていたそうですが、・・・うう、眠くてぐすっている赤ちゃんみたいじゃないですかっ!もう大きいサラはそんな事しないんですもんっ!
サラに記憶がないので、認めませんよっ!ノーカウントですっ!
って言ったらエドに、はいはいって流されました。な、なんか悔しいですぅっ!!
とはいえ、寝ぼけていたおかげで、こっそりおでかけした件は、軽いお小言で済みました。
これは、ちょっといいことですね!
アル兄ちゃまにも、叱られないで済みました!わーい♪
ホッとして、えへへって笑ったらイーちゃんに、頭をぺちって叩かれました。
うう、イタイ・・・。
そして、今日はエドと神殿へおでかけの日です。
おうちの馬車で王都の大通りまで来て、そこからてくてく歩きます。
樹木祭前後は、年末なこともあって人通りが多く、馬車で乗り付けると周りの人に迷惑なんですって。
サラは、歩いていけるのは、大歓迎ですよ。
この前に見られなかったお店や、道行く人を見ているのが楽しいんですもんっ!
迷子防止に、エドを手を繋いでもらいました。
迷子防止、コレ大切っ!
でもね、手を繋いでもらいますが、抱っこしてもらうんじゃないですよ。ちゃんと自分で歩きますもん。
今回は、ちょっと贅沢にも、右手のエドで、左手にイーちゃんがいます!
「お前は、ちょっと目を離すと何するか、わからないからなー」
って言って、お仕事で魔法省にいくのに、わざわざ遠回りして神殿まで行ってくれるんだそうです。
「もー、平気だもんっ!」
文句を言いながらもイーちゃんが手を繋いでくれるのは、ちょっと嬉しいです。
繋いだ両手がほこほこするのが、嬉しくって、ちょっとくすぐったくて、笑顔がとまりません。
お散歩をするように通りを歩いて、神殿に向かいます。
樹木祭も間近なので、店先には、木の実や蔓を編んだ飾りがかけられ、もみの木にも色々な飾りが施されているます。
こういった飾りには、魔よけの意味もあるのですが、最近は純粋に楽しむ為の飾りも増えたんですって、イーちゃん情報ですね!
サラのお気に入り、雑貨屋さんの可愛いリボンをたくさん付けたもみの木は、あまりの可愛さにおうちでも真似してみようと決意しました。
さて、神殿に着きましたが、表は樹木祭の準備で大忙しです。
今回の訪問は、アルにいちゃまが神殿にお願いしてくれた「サラの神殿見学」なんです。エドとイーちゃんが付き添いで、更に「できれば神殿の子供たちと話をさせてほしい」とお願いしてくれて・・・。
初めての子とお話をするのも緊張するので、話のネタになれば、とウォルにいちゃまが大きなりんごのパイを持たせてくれました。
もう、お膳立ては完璧です。あとはサラががんばるだけで。
お友達を作ろうとしたら、なんだか大事になっている気がするのは、サラだけでしょうか?
「今日はお忙しい中、見学を許可いただきまして、ありがとうございます。」
「いえいえ、お嬢様ももうすぐ6歳におなりとのことで、色々と知りたい事も多いでしょう。
今日は、ゆっくりと見学をしていってくださいね」
笑顔で出迎えてくれた神殿の案内係さんに、イーちゃんが大人なご挨拶をしています。笑顔の案内係さんには、巫女志願だと思われたのでしょうか?
学校には男女の別なく入ることができますが、それとは別に神殿には『巫女見習い』というのがあって、小さい時から神殿に住み込んで、勉強しながら歌巫女や、舞巫女を目指すというものがあります。
ちなみに、男の子の場合は『神官見習い』になるそうです。
・・・いえ、サラは、巫女さんになる気はぜんぜんなくて、お友達探しに来たんです。
「神殿の見学は初めてとのことですので、聖堂から、巫女見習いたちの練習場へご案内しましょう」
案内の神官さんが祈りを捧げる大きな聖堂から、中庭を通って歌巫女や、舞巫女になるための見習いさんがいる練習場にやってきました。リンちゃんはいるのでしょうか?
樹木祭前なので、各地から巫女たちが集まっていて、凄い人数です。
巫女見習いと云っても大体が十代の女の子で、サラくらいの小さい子は数人でした。お揃いの衣装をつけていて、それぞれ出演する演目毎に分かれてパート練習をする時間のようです。本番を前に一生懸命ですね。みんなキラキラして素敵です。本番でも応援していますね!
この中にリンちゃんもいるのでしょうか?
少しして練習の時間が終わったようで、みんながホールに集まってきています。
でも、一生懸命目を凝らしてもリンちゃんがいません。リンちゃんはどこにいるのでしょう・・・。
もしかしたら、今日も賃仕事でお出かけなのでしょうか。
折角、お兄ちゃま達にお膳立てしてもらったのですが、今日は無駄足に終わったかもしれません。
残念な思いと寂しいくなってしまったのとで、イーちゃんの手を握りなおしてみたら、イーちゃんが何も言わないで、そっと頭を撫でてくれます。
俯いたサラの様子を心配したのか、案内の神官さんが声をかけてくれます。
「そろそろ、舞巫女や、歌巫女、当代さまの総見が始まりますよ。どうぞ、こちらで見ていらしてください」
総見というのは、本番に近い形で全てをおさらいすることだそうです。
その際には、衣装も小道具もつけて、問題がないか確認することになっているのですって。ここで問題があれば、その後、修正をして本番に備える大切な時間でもあるのだとか。
創世神話を基にした演目が幾つかあるのですが、今回は「精霊の巡幸」だそうです。
話は至ってシンプル。各地の身内に会いに行き、その地で祝福をしていくというものですが、それを歌と舞で表現します。最後の場面で巫女と神官が、数百人体制で祝歌を歌い、これが大迫力で人気なんだそうです。
その中で、独唱をするのは、当代様です。
神殿の生まれ育った生抜きエリートで、100年に1度と言われる歌声を持つ精霊王の愛し子。
その歌声は季節を巡らせる力があると聞きます。
舞台の上に大きな切り株を模した台が作られています。
その上に、豪華な衣装と華やかな髪飾りに彩られてはいますが、小さい女の子がお付きの人に付き添われて台にあがります。
高く、低く、朗々と響き渡る声は、人のものとは思えませんでした。歌声が会場を満たしていきます。
小さい子供が歌っているなどという侮りの欠片も許さない、そう、これは神様の為の歌であり、神に嘉納する歌なのでしょう。
歌っていたのは、リンちゃんでした。
どんなに着飾っていても、あのキラキラした笑顔で歌っているから判ります。
「どうしよう、りんごのパイが無駄になっちゃった」
ウォルにいちゃまが、お友達と仲良しになる為にって焼いてくれたりんごのパイです。
初めましてって言って、一緒にパイを食べて、笑いあって仲良くなれるといいねって。
でも、リンちゃんは当代の巫女姫さまで、巫女さんたちの頂点に立つ人です。
一緒にりんごのパイを食べて、お友達になってくれるような人ではないのです。
サラは、世の中をあんまりわかっていませんが、これくらいは判ります。
リンちゃんが、なんだか、とっても、とっても遠い人になってしまっていました。
天に届く歌声を聴きながら、泣きそうになったのは、感動したからだけではないみたいです。
身内に囲まれていたサラちゃんの初めてのちゃんとした他人です。
自分から望んだ友達、ちゃんと作れるといいんですが。




