3-4. エドとお友達、ですよ!
なんだろう、予定よりイアンくんが残念キャラになっていく!
兄大好き、友達大好き!な彼です。 勿論、サラも好き!
お兄ちゃん、酔わせて色々聞き出したいようです。兄さんも弟くん大好きだから(笑
「サラが、どうやってお友達になったの?って聞くんだが…」
げふっ!っと、イアンがむせる音が横でする。酒にむせたわけでなないだろうが。
「きゃ、却下っっ!」
「だろうなぁー。心配すんな、なにも言ってないよ」
美しくカットされたグラスの酒をちびりと舐めて返事をする。兄としてあまり恰好のいい話じゃないもんなぁ。特に少年時代とか…。うん、だめだなっ!
みんなと食事ができて上機嫌な上に、お腹いっぱいになったサラは、早々にベットで寝入っていた。
子供が寝た後の大人たちは、家族用のリビングでお茶ならぬ、お酒を楽しんでいた。
珍しくアル兄さんが、「少し飲むか?」と、イアンと俺に声をかけたからだ。
流石に、アル兄さんが出す酒は、がぶ飲みするような酒ではなく、少しずつ楽しむような高級で強い酒だった。旨いけど、一体、いくらする酒なんだか…。
この飲み会は、別の意味で高くつきそうだ。
アル兄さんは、穏やかな笑顔でこの強い酒を軽く飲んで俺たちの話を聞いている。
酒ばかり飲んでは体に悪いので、と執事さんが用意してくれた鴨の燻製に、ジャガイモのオーブン焼きと、野菜のスティックは、混乱中のイアンによってどんどん消費されていく。
少しはとっておいて欲しいんだけど…。どうやら、無理そうだな。
「それで、二人はどうやって知り合ったのかな?」
アル兄さん、いい笑顔でそれを聞きますか。そうですか。
「あー、…俺が拾いました。この後は、イアンお前が話せよ」
「う…、その、拾われた、下町のとこでー」
イアンは大分不機嫌だが、ここまで来たら仕方がない。俺が説明するより、自分で言ったほうが傷は少ないだろう?
ということで、俺たちの少年時代の痛い話を披露する羽目になったのだった。
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それは、ちょっとした思いつきで、自分にしてみたら「とてもいい思いつき」に思えたのだ。
しかし、実行してみたら、それは思いつきに過ぎず、あっという間に行き詰まってしまったという典型的な例だった。
退屈な家を抜け出して、王宮とは反対の西地区へやってきた。
そう、一人で。
庭師の作業用のシャツをちょっと拝借して、ズボンは神殿のバザーで売れ残っていた物の中から貰ってきた。ちょっとくたびれているが、この辺にはよくある格好だろう。
だが、今は初夏で思ったより暑くなったのに、作業用の厚手のシャツは重く熱を放出してくれない。
それでも平気だと思い込んで街を歩き回っているうちに、とうとう俺は暑さでへたりこんでしまった。
路地の日陰になんとか潜り込み、壁にもたれかかって休むのが精一杯だった、。
「もっと、体力あると思っていたんだけどなぁ・・・」
浅い息を繰り返しながら、なんとか立ち上がれるようになりたいと、熱をこらえて息を整えようとするが汗が止まらない。熱が体から逃げていかない・・・。
家では剣の練習も始めたし、乗馬だって教わっている。全部兄上に教えてもらったんだけどね。
どんな稽古事も褒められた事しかない。大抵の事は、一回教わればできたし、何度か練習すれば会得できることばかりだ。
だから、過信しすぎたんだ。
「何でもできるんだ」って。
ヤバイ、意識が・・・
「おい、大丈夫か?」
「あ・・・、おれ?」
急に腕を掴まれ、大きく揺さぶられた。あれ、俺、気を失っていた?
「この暑いのになんて格好してんだ、お前。ちゃんと水、飲んだか?」
ゆるく首をふる俺に、呆れたようなため息をついて、ちょっと待っていろと走り去った。
栗色の髪をした俺と同じ位の男の子だったな。
「ほら! ゆっくり飲めよ。まだあるからな!」
彼が持ってきてくれたのは、塩を入れたレモンのジュース。それもでかいゴブレットで。
「あと、シャツ脱ぎな! そんなもの来てたら、倒れて当たり前だ」
そういいながら、甲斐甲斐しくタオルで汗を拭き、自分のらしいシャツを貸してくれた。
「とりあえず、それ、着てな。あとは、これ、かぶっていろよ」
と、頭に乗せられたのは麦わら帽子で、軽くて通気性のいいそれは日差しに晒された肌に優しく感じる。
「・・・だせぇ」
「てめ、返せっ!」
「わー、うそうそっ! マジで感謝です、ありがとうな!」
ようやく熱中症から立ち直った俺は、酷く世話焼きの少年に興味をもった。
「まったく、口の悪いヤツだ。でも、少しは調子が戻ったみたいだな。もう少し休んでいけよ」
「おー、ありがとうなー」
世話焼き少年は、エドと名乗った。近くで八百屋をしている叔父の家に厄介になっているそうだ。普段は店番をしたり、品出しの手伝いをしているそうで、もう少ししたら王都の学校に通うつもりだと教えてもらった。
「で、お前は?」
「へ?」
「名前だよ、おれは、エディアルド。エドだよ。お前は?」
「えっと俺は、イ・・・イース、イースっていうんだ」
「おう、イースか、よろしくなっ!」
ニカッと笑いかけられて、ぎこちなく笑い返した。それがエドとの出会いだった。
その後、妙な自信をつけた俺は、暇さえあればエドのところへ遊びに行った。
最初に失敗したので、これ以上の失敗はないだろうという妙な自信だ。
「イース、ヴィンスさんの店に配達に行くけど一緒に行くか?」
「おう、付き合うー。ついでに半分持つよ、エド」
配達のお駄賃にお菓子をもらって帰り道にエドと一緒にお菓子をかじりながら帰る日々を過ごす。
そのうち、エドの友だちや、近所の子供たちとも遊ぶようになった。今でも西地区に行けば知った顔も多い。
流石に学校に通うようになると、忙しくてそうそう遊びに行けなくなったが、それでも、暇があればエドのところへ遊びに行った。
一度、エドになんで俺を助けてくれたのかと聞いたことがある。すると・・・
「行き倒れ同然の真っ青な顔した子供がいたら、心配してあたり前じゃね!?」
と彼は笑って言う。こんなところが、絶対に敵わないと思うところだ。
少し間を空けて会いに行くと、たまには元気だ、くらい連絡をしろ!と小言を言われる。
「便りのないのは、元気なショーコって言うだろー?」って言ったら、殴られた・・・。
「なんだか、もう、エド。うちの愚弟が、スマン・・・」
兄貴が頭痛をこらえるように、額のシワを深くしながら額に手をやっている。
なんで、兄貴がここで謝るかな! 俺的には一生懸命友達付き合いしようと頑張っているんだけど?
「え、これってダメなの? 結構オレ頑張っているんだけど!?」
「イース、これ以上、アル兄さんを困らせるなよ? いい加減大人なんだし・・・」
ちょっと待て、エド! なんだその残念なモノを見るような目はっ!!
「エド、すまないが、これからもウチの弟と妹を宜しく頼む。特に弟は見捨てないでやってくれ」
「大丈夫です、アル兄さん。もう慣れましたから・・・。サラちゃんは、可愛いし、平気です」
なんで、二人で解りあったように会話してるんだよ! 俺だってたまには役に立つんだからな!!
・・・なんだか、自分で言ってて寂しくなってきた。
「エードーっ、俺にも少しは優しくしろよーっ」
「うるせえよ、イース」
とりあえず、王都に戻ってきて一番に会わなければいけない友人と再会を果たした。
だから、俺的には任務環境であるのだ。
イアンさん、この後は、少しカッコイイお兄さんとして登場。
多分・・・。




