6. 仔猫は、おやつと、お昼寝の時間です。
サラちゃん、ぶらり旅を満喫中です。
副隊長さんが、お仕事に行ってしまって、少し寂しいけれど、エドさんと、ベルさんが学院まで、一緒に言ってくれることになりました。よかったですー。
学院までは結構遠いから、と言われて、今はベルさんのお背中に乗っています。
手触りのいい毛なみにスリスリしながら、ベルさんに懐いてみます。
うわぁ~ん、気持ちいいっ♪
「そんなにベルの毛なみが気に入ったのか? 戯れ付き過ぎて落ちるなよ、サラちゃん」
エドさんに笑われました。 白いサラサラで緩やかな巻き毛は、サラの理想なんですもん~。
サラは、こんな風に綺麗な髪になりたかったんですよ! 嬉しくてずーっとすりすりしちゃう!
「そんなモンかねぇ、サラちゃんのミルクティ色の柔らかい毛なみも、すごく可愛いと思うよ?」
エドさんは、優しいからそう言ってくれますけど、親戚から「薄ぼんやりして、はっきりしない髪色の上にくせっ毛だなんて。どこまでも出来損ないな子ね!」って言われたのは、本当だと思うし・・・。
『サラ、そんな事を言う奴は、目が悪いか、どうしようもない馬鹿だ。気にすることはない』
ベルさん、やさしい。エドさんにも褒めてもらっちゃったし、嬉しいなっ!
でもお姉ちゃまは、本当に綺麗なんですよ!銀というより、白金な輝きを持つ髪の毛がとっても綺麗で、お兄ちゃまは、柔らかな優しい金色の髪なんです。そして、サラは、ちょっとでも、お姉ちゃまや、お兄ちゃまに、似てたらよかったなぁ。
そうしたら、もうちょっと一緒にいられたかな。
○~○~○~○~○~○~○~○~
「ああ、アル兄貴? 俺、ウォルフだけど」
魔道具を使って王宮で仕事中の兄、アルフレードに、近況の報告とサラが居なくなった事を伝える。
一般には、まだ普及していないが、「伝声器」としての魔道具が王宮には、配備されている。
なかなか便利で、助かる。今度、アレクのとこにも一つ置きたいなぁ。
『うむ、わかった。しかし、サラが急にアレク達に会いに行ったのは、あの親戚を名乗る連中のせいもあるのではないのか?』
「・・・あの連中、また来ていたのか」
最近、当主が長期不在な上、アレクに、カールまでも学院に行きだしたせいで、シェンブルク家には、サラしかいないのを判っていて、わざと親戚を名乗る連中がやって来ては、我が物顔で屋敷内を物色していくらしい。
血縁者を強調されると、執事も無作法な事はできず、対応に苦慮している。
一度などは、アレクの私室にまで入り込み、アクセサリー類を盗もうとした。それに気づいたサラが必死で止めたところ「泥棒扱いされた!」と逆ギレをされて、怒鳴られたサラが随分落ち込んでいたのだ。
ああ、思い出すだけで腹がたつっ!
『親類と言っても、確か、ご当主の父方の従兄弟の妻の兄弟、だろう?法的にも何の権利も持たない者たちであるのに、どこまでも恥知らずだな』
「あんな連中を、アレク達の近くに居させることだって腹がたつのに、いつまで我慢すればいいんだ?」
この話を聞いてすぐにあの親戚連中を殴り飛ばし、屋敷へ出入り禁止にして、あの連中の顔をサラが見なくて済むようにしたいのに、長兄がそれを止めていた。曰く“一回で効率よく、二度とアレク達と関わらせないようにする”そうだ。
この長兄がそういうのであれば、必ずや連中は痛い目を見ることだろう。・・・というか、痛い目というレベルで済むかどうか。 しかし、俺としては命があるだけマシだと思え!という気持ちなので、長兄のすることを止める気はない。
『奴らは、サラに向かって『レイブンの教会がやっている全寮制の寄宿舎へ入れる』と言ったそうだからな。』
「レイブンって、国境近くの山の中じゃないか! 誰がそんな処にサラをやるもんか!!」
泥棒騒ぎの件でいよいよサラが邪魔になったらしく、どうにかしてサラを家から追い出そうとしている。俺は「出て行くのは、お前らの方だ!」と、言ってやりたい。
『まぁ、彼らには、自分がそういう目のあったら どう思うか、その少ない想像力をせいぜい使ってもらおうじゃないか』
「兄貴、ヤルなら、さっさとやっちまってくれよ」
うん、この兄のすることに間違いはないが、昨日の今日では手際が良すぎる。
『もちろんだ、サラが家に帰る頃には、カタがついていることだろう』
「サラには、解らないようにしてあるんだろうな?」
思わず、疑いの眼差しを向けたくなった俺は悪くないと思う。
『ウォルフ、お前は、兄を信じないのか?』
「・・・失礼しました、兄上」
長兄の声が一段低くなる。こういう時の長兄には逆らわない方が絶対にいい。触らぬ神に祟りなし、だ。
長兄は、もう成人して王宮で文官をしている。かなり忙しいハズだが。義妹の為なら、さっさと仕事を終わらせて帰ってくる。・・・きっと結婚したら家族溺愛することだろう。その家族溺愛系の長兄を相手に怒らせるのは、余りにも無謀だ。
まあ、いいだろう、ヤツらはサラを虐めたからな。そんなの万死に値する!
今日の夕飯は、サラと一緒にシェンブルク家でとる事を長兄と約束をして、通話を切った。
さて、サラの好きなデザートでも、買いながら行くか。
○~○~○~○~○~○~○~○~
「さて、そろそろ商店も少なくなってお屋敷街に入るからね。その前にちょっと休憩してオヤツにしようか、サラちゃん、甘いもの好きだろ?」
そう言って、エドさんが可愛い赤いテントのお店で買ってきてくれたのは、真っ白なライスプティングでした。
「にぁっ!」
元気に、いただきます!をして可愛い陶器の器に入った白いプティングを覗き込みます。そおっと手で触ると、弾力があってフワフワしますよ!
「大丈夫、熱くないからね。 ゆっくり食べな」
エドさんは、ベルさんには、軽い塩味のクッキーを。自分に温かいお茶を買ってきたようです。
陶器の器から、一生懸命に手ですくいながら食べるサラを見ながら、器用に食べるなぁと感心していました。
んん? 猫さんは手で食べないのかな?
ミルクの風味と、少し残ったお米の食感にお砂糖の優しい甘味が、本当に美味しくていつの間にか、ぺろりと平らげてしまいました。
「よしよし、美味しかったかい? 食べたら少し休みな。昼寝する位の時間はあるからね」
エドさんが、やさしく前足を拭いてくれます。そのあと、背中を撫でてもらっていたら、ふわぁ、とあくびが出ました…。
お姉ちゃまのところへ行かなきゃいけないのに、眠くて、眠くて、もう、瞼をあけていられません。
ちょっとだけ、寝ていてもいいですか?
起きたら、ちゃんとお姉ちゃまのところへ行きますから。
エドさんのお膝の上で、サラはすっかり眠ってしまいました。
「いい子だね、サラちゃん。少し位休んでも、サラのお姉ちゃんは、怒らないよ。
ねぇ、そうでしょう、 保護者さん?」
そのとき、ウォル義兄ちゃまが、サラを探しに来ていたなんて、全然知りませんでした。
ここまで読んでくださいまして、ありがとうございます!
アレク姐さんの婚約者くんちの、長兄強し! 次は、少し位進んでくれるといいんですが、サラちゃん、起きるかしら…(心配)