3-2. イアンとエド
イアンくん、お迎えに出たつもりが、王宮まできちゃいまして、ついでにトラブルも。ガンバレ、イアンくん!
イアン Side>
「ぅげっ!」
数年ぶりに再会した親友に言った最初の言葉は、コレだった。
ダメすぎる・・・。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
久しぶりにやってきた王宮を鼻歌混じりに歩きまわり、出会う知り合いと軽く挨拶をかわす。
そうなんだ、こんな風にあいつとも「よう、久しぶり!」って挨拶ができればいいんだよ。
…って無理か。さすがに年単位で行方をくらましているのだから、なんの説明もなしに心配をかけまくった親友に会うのはなぁ。下手すれば絶交される…有り得て怖い、怖すぎるっ!
まるで連絡をとっていない今の状態が、絶交とどこが違うんだと言うことなかれ。拒否られるのと、遠くで元気かなー?って思っているのとは違うんだ。なんていうか、心の持ちようが違うから。
そんなことを、もやもやと考えながら、アル兄貴の執務室に足を踏み入れた。
「兄貴ぃー、もう帰れるー?」
勝手知ったる兄貴の執務室だ。机の位置も変わらないし、書棚幾つか増えたか?
副官のクレマンの席も書類が山と積みあがっているのは相変わらずだし…。
あれ、もう一人兄貴の後ろで書棚を向いている奴がいる。
新入りかな?
「イアン、自宅ではないのだから。せめてノックをしなさい」
ため息混じりのお小言を「はいはい」と受け流しながら、知らない奴の方に目が行く。兄貴の方も俺が気にしているのを気づいたらしく、紹介してくれるようだ。
「ああ、イアンは初めてだったか。
王宮警備隊から派遣してもらって、今はシェンブルク家で警備を担当してもらっている、エディアルド・ラングだ。エド、こちらは弟のイアン。よろしく頼む」
書棚に向かって本の整理をしていた彼は、こちらへ振り返って、笑顔で…固まった。
そして、俺も固まった。
王都に戻ったら、一番最初に会いにいかなきゃいけない奴が、なぜ、今ここに居る?
エド Side>
ノックもなしにドアが開き、呑気な声が部屋に響く。
「兄貴ぃー、もう帰れるー?」
これが噂のブラコンで有名な次男くんかー。
たまに、アル兄さんや、クレマンさんの話に出てくる次男くんは、かなりのブラコンで、アル兄さん第一主義らしい。アル兄さんの頼みであれば、一般人が1月かかるような行程を数日で踏破してくるほどだ。
そのうえ、魔術師としても超優秀。ただし、アル兄さんのいう事しか聞かないので扱いづらい奴との意見もあるらしいが。
そういえば、俺の手のかかる友人は、どうしているのだろうか?
「便りがないのは、よい便りっていうじゃん!」
と、にやにや笑いながら姿を消してから、数年が経ってしまった。
ふらりと西地区に来ては、色々と騒動を起こして周りを巻き込む奴で、そのために走り回る羽目になったことは、片手では効かない。とはいえ、困った奴だとは言われながらも、街の連中からも可愛がられていた。
警備隊に入ったのも、ひょっとしたら、奴の情報が入るのでは?っと思ったのも確かだ。事件や事故の情報は、やはり警備隊の方が早いから。
何か困った事になっていないかと、心配…しているんだろうな、俺は。
…で、なんで、そのバカ友が、俺の目の前に居るんだ?
きっちり話を聞かせてもらおうか!? このバカ友っ!!
アーノルド兄さん視点>
紹介が終わった途端に、二人はその場に凍り付いてしまった。
この年齢の割りにどんな場面でも飄々と受け流す二人にしては、珍しいこともあるものだ。
イアンの方は顔には出ていないが、物凄く困ってしまって固まったようだ。どうやら、エドもイアンとは知り合いのようだな。でも、こちらは…怒っている、かな?
さて、どうしてやるべきか。
「エドさん、イアン様とお知り合いだったのですか?」
急に固まってしまった二人を心配したクレマンが恐る恐る声をかける。さすが気働きのできる副官は違うな。
クレマンの声がきっかけになり、ぎこちないながらも、二人が身じろぎをした。
これで、うまく話の糸口になってくれればいいのだが。
「いいえ、友人に似ていたので驚いたのですが、人違いのようですね」
にっこりとエドがとてもいい黒い笑顔で爆弾を落としてくる。その笑顔と対象的に、イアンが真青になっている。これはかなり面白い。
「小さい頃からの友人なんですが、数年前に行先も言わずに行方をくらましまして。もう何年も会っていない奴なんです」
イアンの顔色はどんどん悪くなっていくが、エドの笑顔は絶好調だ。ニコニコと貼り付けた笑顔で説明を続けていく。
どうやら、エドとは昔からの友人だったらしい。小さい頃から屋敷を抜け出しているのは知ってたが、西地区まで遊びに行っていたのか。そういえば、下町に友達ができたと、昔に聞いたことがあったな。
「自分は友人だと思っていたのですが、どうやら違っていたようです。奴の名前も知らないのですから」
おや、偽名を使っていたのか。イアン、それは拙いだろう…。
「ち、ちがっ! エド、それは…」
「初めまして、イアン殿。俺はイアンなんて友達はおりませんからっ!」
おやおや、イアン、一体何をやらかしたんだ、お前。ため息をつきながらも、不器用な弟の為にちょっとした助け舟を出してやろう。
「エド、お友達の名前は?」
「イース…イースっていいます。」
少しすねたようにエドがうつむきながらつぶやく。うーん、なんだか可愛いな、うちの弟どもは。
「ほぉ、イアンのサラ専用呼び名と一緒だね」
「は?」
「あ、兄貴っ!」
「今更照れたりしている場合ではないだろう。大切な友達なら、ちゃんと関係を修復しておかねば。」
うう、と唸りながらもイアンがぶつぶつと説明を始める。
「サラが、今よりずっとチビの時に、イアンって言いずらいのか、イーとか、イースって呼ぶんだよ。それがサラが俺を呼ぶ愛称になって、西区に遊びに行ったとき、エドたちにも、イースって呼んで欲しいと思って、教えたんだ」
うーん、うちの弟は可愛い。
本人は嫌がるかもしれないが、いや確実に嫌がるだろうが、頭を撫でたいくらいだ。
「…馬鹿イース、色々あるんだろうけどさ、戻ってきたときくらい連絡よこせ。
一応、友達の身の心配っくらいしてんだからさ」
はあ、と溜息をつきながらエドが腕ぐみをしながら語り掛ける、どうやら、イアンは友達をなくさないで済んだらしい。
この青春小僧たちを執務室から叩き出して、私はサラたちが待つ家に帰ることにした。
家に帰ってきたイアンに、この事を聞くと真っ赤になって逃げだしてあの後の話は聞けなかった。
うん、うちの子は、やっぱり可愛い!
アル兄さんたちに、黒歴史の現場を見られてしまって、逃げだしたいイアンくんでした。




