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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
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幕間: アーノルド氏の多忙な日々 その5

ちょっと間があいてしまいまして、申し訳ないっ!

お兄様、お疲れ様です。ラストスパートです!

断罪イベントって、難しいですー・・・。

かなり不愉快なお茶会だった。

今まで鍛えた表情筋による張り付けた笑顔でこなし、退席の挨拶をして書斎に戻ることにした。


「まだ仕事がありまして、失礼をさせていただきます。

 今日は貴重なお話を伺えてよかったです、デント夫人」

「まあ・・・、アーノルドさまには残念なお話でしたでしょうが、お気をしっかり持たれて」

「お気遣い、ありがとうございます。」

ゆっくりと、少し苦笑いを含んだ挨拶をしてみせる。


デント夫人がにっこりと微笑んでいる。


人が悲しそうな表情を作るごとに嬉しそうになるデント夫人は、相当に性格が悪いのだろう。


足取りも重くサロンから出る。

今まで可愛がってきた弟妹に対する悪い噂を聞いてショックを受ける兄という演技を彼らの前では続けなくてはならない。


まだだ、彼らが私を探るように見ている。


執事がタイミングよく扉を閉めると同時に息を吐き、タイを緩めて早足で書斎へ戻る。


「部下を集める、人目につかない部屋の用意を。」

「承知致しました。アーノルド様」

執事に短く指示をし、廊下を歩きながらもため息がでる。


ろくでもない連中だとは思っていたが、ここまでとは思わなかった。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


書斎に戻ると、イアンがサラを抱っこして寝かしつけていた。


「兄貴・・・あいつら、どうすんの?」

イアンは、サラからデント夫人たちが我が家でやっていた悪行を聞き出したらしい。


たどたどしいながらも、アレクの部屋に勝手に入っていくところを見て止めてほしいと言ったら、返ってサラを泥棒扱いしたこと。

こんな貧相な子供がいては、お兄様たちの不名誉になるから、さっさと寄宿学校に入れてしまおう、と言われたことなどを聞き出していた。


イアンが悔しそうに話すのを聞きながら、先ほどの不愉快が怒りに変わるのがわかる。

様子見など、生ぬるい事をするのではなかった。

「イアン、すまないな。そんな顔をさせたい訳ではなかったが、後手に回った私の不手際だ」

「兄貴のせいじゃ・・・」

「いや、予想の範疇だったのに、親戚だと言われて気を抜いていた私が悪い。ここからは、容赦しない」

もう一度、すまない、と言いながら、イアンの頭を撫でる。


心配してサラの下へ走っていってくれた優しい弟だ。傷ついたサラを抱きしめて慰めて、ここまで連れてきてくれた。本当なら、私が走らなければならなかったのに。


「・・・潰す。二度とお前たちの目に触れさせないように」


私の怒りを感じたのか、イアンが息を飲む音が聞こえた。


私の弟妹に手を出したら、どんな目の合うか教えてやろう。


☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


下準備は済んでいた。

親類ということで、何かあった時にシェンブルク家が咎められないかと調査をしたが、婚姻による遠縁となっただけで、血縁でもなかった。

これで、遠慮なく動ける。


更に、最近幾つかの裕福な家で、親類を名乗る連中がやってきては無遠慮に過ごして、金品を巻き上げていく『かたり』についても、どうやらデント氏が関わっている事がわかった。

自ら行くのではなく、子飼いの連中を使ってやらせているらしい。


なるほど、事業形態が見えない商人とは、こういうことか。


「資金源が不透明なのは、当たり前だな。立派な詐欺師で犯罪者だ」


執事に用意してもらった部屋は別棟で、臨時の使用人が増えた際に使う簡素な部屋だったが、外からの出入りがしやすく、本邸からは見えない位置にあった。


そこに部下たちを集めて、調査結果を説明し今後の動きを指示する。

アーティファクトの私兵と、諜報を担当する影の連中に、副官のクレマンに来てもらっている。アーティファクト家の私兵は、昔から我が家に仕えてくれている者達で気心のしれた頼りになる連中だ。


今後の動きとして、まずは彼らとシェンブルク、アーティファクト両家がまったくの無関係であることを立証し世間に公表する。我が家との関係を完全に断ち、その後は警備隊に任せる手筈であった。


しかし、彼らが我が家でやった事に対して、これ位で済ますことはできない。

今まで大切に守ってきた幼い弟妹を傷つけるなど、許しがたい所業だ。


「このままでは、手ぬるいな。作戦を変更する」


やるなら徹底的に。

今後、我が家に手を出してこようなどという不届者が出ない位にやり込めておかないと、意味がない。


部下たちも、今回の件では憤りが隠せないらしい。作戦内容を説明したが士気が高く自分から志願して危険な任務を希望してくる者もいた。

だが、今回のような小物を追い出すだけの仕事で、部下を危険にさらすような無能な指揮官ではありたくない。


「荒事は、極力避けやつらを自滅させる、これが今回の方針だ」

弟妹への警備を強化し、追い詰められた奴らが反撃してきても問題ないように指示をだす。


さあ、大掃除をはじめようか。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


「ご足労いただき、ありがとうございます。デントさん」

「いやいや、アーノルド様からのお呼びとあれば、何をおいても参りますとも!」

不愉快なお茶会の翌日、外客用の応接室へデント一家を呼び出した。


自分たちに都合のいいことを期待しているらしく笑顔の大安売りだった。

ここまで悪い情報を山の程吹き込んできて疑心暗鬼になっているであろう年若い当主を助けるフリをしてすべてを奪ってやろうと手ぐすねを引いているのが丸分かりだ。底が浅すぎる。


「それで、お話というのは・・・」

期待に胸をふくらませ、ギラギラと欲望で光る目でこちらを伺っている。


「ええ、今すぐに、ここから出て行っていただこうと思いまして」

「・・・はぁ?」

笑顔でそう言えば、気の抜けたような答えが返ってくる。

だが、そのまま笑顔で続ける。斟酌してやる必要なんてないのだから。


「ああ、部屋に置かれている荷物は全てエントランスへ運ぶように指示してありますので、ご心配なく」

「ま、待ってください、私たちは・・・」


「ええ、叔父上からも『無関係の輩を置く必要なない』との言葉をいただいております。もちろん、縁戚関係についても、王宮の戸籍担当者を通して確認をしてあります。聞きたいですか?」

叔父上からの手紙と紋章入りの証明書をひらつかせてやると、デント氏の顔色が変わった。


流石にそこまで馬鹿ではないか。根拠のない『かたり』は、詐欺師より始末が悪い。


「・・・そ、そんな、こんなに親身になって尽くしている私たちにあんまりですっ!」

デント夫人が叫ぶようにまくし立てる。

ちらりと横目で睨むと、夫人はひっと息を詰めた。この程度で怖がる位なら最初から声をかけなければいいものを。


「そう、デント夫人にも大変にお世話になりましたね。

 ウチの弟や、妹についてあれこれ教えていただいて・・・。」

デント夫人に向かって一歩踏み出す。おびえたように彼らが一歩後ろへ下がる。


「ただ、何があっても北の辺境にある修道院付属の寄宿学校へ入れるような事はしませんよ。

 最近、かの学校では生徒が行方不明になる事件が起きているそうですね。

 貴族の子女の預かっている学校として、あってはならない事です。そうでしょう?」

更に彼らに向かって踏み出す。既に彼らの顔色は蒼白で、ブルブルと震えだしていた。


「そうそう、この国では人身売買は、誘拐以上に罪が思いそうですよ。」

思い出したように笑顔でデント夫人に語りかける。


「なぜなら、生業として犯罪を犯しているのですから。誘拐にある一時的な感情による行動ではなく計画的に、法を犯す確信犯であると考えるからですね。そうでしょう、デントさん?」

「わ、私は、知らんっ!!」

ほぉ、往生際が悪いですね。では、もう少し追い詰めましょうか。


「そうですか、でも、北の辺境にある修道院の院長は、あなたの御縁続きではありませんでしたか?

 大分困っていらっしゃるようだ、是非行って助けてあげるといいでしょう。」

段々と面倒になってきた。そろそろ幕引きと行こじゃないか。


「ああ、申し訳ない。次の来客が控えていて・・・、王宮警備隊の隊長からすぐに会って欲しいと言われているのですよ。なんでも、最近王都で増えてきた『かたり』に一団についてだそうで」

彼らは既にエントランスに向かって我先に走り出していた。


「お見送りもできなくて、申し訳ありませんね。ごきげんよう」


ここを出て王都の何処へ行こうとしても警備隊により、手配書があらゆる処に貼られている。

宿屋、飲食店、雑貨屋まで要注意人物、見つけたらすぐに通報!の手配書だ。もう、何処へも行けない。


北の辺境にも手を伸ばしておいた。

王都の警備隊から数名を送り、現地の兵と連携させて修道院の院長を拘束し、行方不明になった子供を探している。これから売られる予定だった子供たちは無事保護出来たとの連絡が入っている。


彼らに逃げる先はない。

それでも、彼らをわざと逃がしたのは、今回の件で係わった連中と連絡をとる可能性を考えてのことだ。


彼らには、影が付き、子供を売った先や、奪った金品の売り先などを探っていくのだ。


それがなければ、葬ってしまってもよかったのだが・・・。

彼らの犯罪を立証し、被害者を助ける為には、生かしておくのも仕方がない。あと少しは。


情報收集が出来た段階で彼らは警備隊に拘束される。その先は・・・。


「兄貴、大丈夫か?」

「あるにーちゃ?」

いつの間にか、イアンとサラに抱きつかれていた。


ひと段落がついて、執事がお茶を淹れましょうと言われて、いつものソファに身を預けていたのだ。


椅子の後ろからイアンが肩に手をかけてくる。

サラは膝の上で心配そうに私も見上げている。


ああ、いつもの風景が戻ってきた。


「ああ、心配かけたね。大丈夫だよ」

執事が気を効かせて、イアンとサラの分のお茶も用意してくれたようだ。


「では、お茶をいただこうか。イアン付き合ってくれるだろう? サラ、こちらへおいで」

「えー、お茶とかってさあ、俺、なんか食いたいし!」

「あるにーちゃ、サラ、けーき、たべてもいい?」

イアンが何かと文句をいい、サラがお菓子をねだる。


部屋に入る日差しが暖かく気持ちがいい。

ようやく一息つけた。まだ仕事は残っているが、これで穏やかな日常を取り戻す事はできただろうか。


このあと、イアンは伝令や研究にかこつけてあちこち放浪したり、サラは家を抜け出してみんなを心配させることになるが、それはまた別のお話。


今は、お疲れ様でした。とりあえず、お茶をどうぞ。


アル兄さん、弟妹に癒されてください。


第三章、イアンさんが大きくなって登場します。

サラちゃんも少し成長・・・多分。

仔猫なサラでいてほしいので、もう少し、ちっちゃいままでいてねー。

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