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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
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幕間: アーノルド氏の多忙な日々 その4

お兄ちゃん大好きな弟くん登場!

イアンくんは、幾つになっても、お兄ちゃんが大好きらしい。

親戚を名乗る「デント氏」の目論見は、おおよそ解った。


王都進出の足掛かりを作り、名家の後ろ盾と、更に資金源を得る事。


商人としては、真っ当な野望だろう。ただし、人の財産を狙わないのであれば、だ。

特に、シェンブルク家へ手出しをしてきたなど、許せるものではない。


「兄貴ぃ〜、いるぅー?」

「…この家では、ノックと入室許可というものは、廃止されたのか?イアン」

呑気な声をあげて、書斎に入ってきたのは次男のイアンだった。

魔法に長けたイアンは、名目上は王立学院に一応入ったが、魔法省の研究機関にも所属し、既に一流の魔法師となっている。そのため、あまり家にはいないが…。


「えー、兄貴んとこに来るんだから、ノックとかいらないでしょー。兄貴ー、俺腹減ったんだよね〜。一緒に飯食おうぜ。サラも呼んでくるし」

「まだ、仕事が…」

「やだ、俺は腹が減ったの! 一緒に飯食おう!!」

「…わかった」

どういうわけだか、自宅に居るときは私にべったりになってしまうのだ。

甘やかし過ぎたのだろうか?


最近はサラがそれを真似て、二人でべったり張り付いてくる。


「兄貴〜、サラばっかりズルいだろ。なんで俺に構ってくれないワケ?」

「イアン、お前幾つになったんだ? 幼児と一緒にするな」

昼食の席で、サラの面倒を見ていたら、イアンがまた文句を言いだした。


イアンの好物である大ぶりのハムと野菜を挟んだサンドイッチと、レタスと玉ねぎ、卵のスープが並ぶ。

デザートなのか柑橘系の果実が美しく飾り切りされた皿もある。

好物が並んだテーブルに機嫌がよかったかと思えば、ちょっと目を離すとこれだ。


幼児と張り合ってどうするんだ。これでも魔法に関しては、国内屈指の実力者だというのだから、精神の方も早く成長してほしいものだ。


「ちぇー、たまに家に居る時ぐらい構ってくれてもいーじゃんよ。ちっさいのばっかり、ずりぃよな」

ぶつぶつと文句を言うので、ぐりぐりと頭を撫でてやる。


「シェンブルクの叔父上への伝言もいつも助かっているよ。イアンのおかげで連絡がつきやすくなった。」

自分が家から離れられない時、名代で走り回ってくれるのは、イアンだ。フットワーク軽く各地を駆け回ってくれるので、大変に助かっているが、負担をかけているのではないかと不安でもある。


「ただ、無理をさせていないか、心配だ。魔力も使うのだろう。疲れたら、ちゃんと言うのだよ」

最近、身長の伸びてきて少年から青年へ移り変わっているのだろうが、変わらない柔らかな亜麻色の髪を撫でながら、言い聞かせるように語り掛ける。


どうもこの弟には無理をする傾向があって心配なのだ。

辺境にいる叔父上との連絡も、普通なら1月はかかりそうなものを、頼んでから数日でこなしてしまうのだから。どれだけ無理をしていることか、心配で仕方がない。


「…ちぇー、兄貴って、ほんと、ずりぃーよなぁ」

「はぁ?」

耳まで真っ赤になりながらイアンは、口をとがらせて文句をいう。

私が一体何をしたというのだ?


「ずりー♪ ずりー♪」

きゃらきゃらと笑いながらサラがイアンの真似をする。

そんなサラを見て、イアンは私の膝からサラを抱きあげながら、振り回してやる。


「お、マネすんなよー! サラ」

「きゃー♪ いーちゃんのまねっこー!」

くるくると回る弟と妹を見ながら、イアンがサラを引き受けて空けてくれた手でゆっくりとお茶を楽しむことにする。つくづくイアンは私に優しい。


ああ、本当にうちの子はいい子ばかりだっ!


こんな事を考えているから、ウォルに『兄バカ』と言われるのかもしれんが。


☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


不在中にやってきた『自称、親戚』のデント氏についてイアンに説明をすることにした。


「なに、それ、叩きだ…」

「叩き出すのは無しだ、イアン。遠縁ではあるが、一応親戚らしいからな。粗略に扱ってはシェンブルクの名に傷がつく。」

イアンは、どうにも気に食わないらしいが、ただ叩き出すだけでは済まないのだ。


二度とこの家に近寄らないようにしなくてはならない。


「王宮の警備隊にも、デント氏の件では情報を貰った方がいいかもしれないな」

「あー、それなら、俺友達がいるから、話聞いてくるよ」

イアンは、なかなか交友が広い。あらゆるところに顔を出して、知り合いを作っているらしい、


「西地区の酒場に行くには、まだ歳が若いと思うが?」

「え、や、別に酒飲みに行くわけじゃ…やべっ!」

「…イアン、お前の事だから考えがあっての事だろが、気をつけること!いいな」

「うー…兄貴は、俺に甘すぎだろう〜」

信頼していると言っているのに、何が不満なのだ、ソファの上でウチの弟は、頭を抱えてうずくまっている。


どうやら友達もできたらしい。そのうち、会わせてくれるだろうか。


ウォルフとアレクにも改めて、デント氏の扱いについて教えておかないとな。


この時は、奴らがどこまでも手段を選ばずにシェンブルク家に害を及ぼすとは考えておらず、自分の考えの甘さに後悔をすることになるのだ。


☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


「アーノルド様っ!」

「いま、戻った・・・何かあったか、キスリング」

その日は、私は用事で朝から外出しなくてはならず、弟たちも皆家を開けていた時のことだった。

玄関で出迎えたキスリングが、そっと「サラ様をお願いします」と囁いてきた。


その日は、煩い年長者が居なかった事もあって、デント氏が我が物顔で屋敷の使用人達に文句をつけていたらしい。


その中で、「なぜ、子供たちを挨拶に来させないのか!?」というものがあった。


もちろん、カールや、サラをデント氏の目に触れさせる気はなく、執事キスリングの機転で、サラは朝からアーティファクトのお爺さまのところへ遊びに出かけたと取り繕った。


実際には、サラはキスリングに言われて、「かくれんぼ」をしているそうだ。


「なかなかデント氏がお出かけにならないので、お部屋からお出しできなかったのです」

と、執事が申し訳なさそうに謝ってくるが、デント氏に会わせないで済んで、助かったとほっとしている。


「お兄様がお迎えに来るまで、隠れていてくださいね」と、言われた通りに、鍵のかかる私の書斎の机の下で隠れていたらしい。待っている間に眠ってしまったようで、丸くなって仔猫のように寝ている。


「サラ、よく頑張ったね。いい子だ」

そっと抱き上げるとようやく起きたのか、眠そうな目でふにゃりと笑ってみせた。


「あーちゃま、おかえりなさぁい」

「ああ、ただいま、サラ」

奴らも余裕が無くなって来たのか、だんだん手口が雑になってきたようだ。


今日の外出で多少情報を集めてきたが、最近、貴族の家で仲違いをした義理の兄弟や、側室の子供を辺境の寄宿舎つきの学校に入れ、ほとぼりの覚めたところで、見目のいい子はどこかへ売り飛ばすという事が行われているらしい。


変態貴族どもに子供を売りつけるのは、かなりいい儲けになるらしく、人さらいまで出てきているとか。


自分の金儲けの為に、人の子を売り飛ばそうとするなんて、ろくな死に方をしないぞ。


また、ろくな死に方させてやる気もないが。




☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡




「サラちゃんを、寄宿学校にやってはどうかしら?」

「どうしても兄姉に囲まれて、甘やかされてしまうでしょう。

それでは、サラちゃんの成長にもよくないと思うのよ。だからね、貴族の子女を集めた寄宿学校があるから小さいうちからそこで教育を受けるのがいいと思うの。」


こいつ等は一体何を言い出したんだ?


数日後、また、大切な話があるので、お茶をしながら話をしたいとデント氏の奥方が持ちかけてきた。


「アーノルド様も、ぜひ、知っておいた方がいいと思うのですよ」

思わせぶりな言葉に乗ったわけではないが、彼らがこれから何をしようとしているのかが知りたかった。


「なぜ、急にそんな事を思われたのですか? デント夫人」

「そうですね、アーノルド様は、きっと聞かれたら、ショックを受けるとは思うのですが、こういった事は早いうちに知って、対処された方がいいので…」

一見、戸惑うようなこちらを気遣う素振りを見せているが、目が嗤っている。これは誰かを陥れて楽しもうという人間の表情だ。


「先日、私の娘が、サラちゃんがお姉さんのお部屋に入られて、宝石箱を盗んでいるところを見てしまったんですの!」

「ほぉ」

相槌をうってやると、興味があると思ったのか、奥方は、どんどん前のめりになって話続けてくる。


「ええ、もちろん、小さい子供のすることですから、善悪の区別もつかないのでしょうが、やはりちゃんとした教育を受けさせた方がいいと思うのです」

「まさか、そんな」

棒読みで返すが、向こうは同意を得たと思ったのか、話を続けていく。


「やはり、ショックでしょう? 可愛がっていた妹さんが、お母様の形見の品まで、勝手に持ち出すのは、いくら何でも…」

「…母の形見、ですか」

語るに落ちたな。



いよいよ、アーノルドさん、忙しくなります。

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