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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
53/72

幕間: アーノルド氏の多忙な日々 その2

予定が3話から、5話に変わりますー。


そして、投稿が遅くなりましたが、続きです~!

「お義兄様っ! あの『馬鹿親父』が、サラの強奪をしそうになりましたのっ!!」

「・・・アレク、気持ちはわかるが、『馬鹿』と『親父』を重ねて使うのは貴族の子女としていかがなものだろう」


バタバタと盛大に廊下を走る音がしたと思ったら、『バッキリ☆彡』という音と共に勢いよく扉が開いてアレクが飛び込んできた。

そしてノックも入室の許可もなく、この台詞を一気にまくし立てたのだ。


うーん、余程、ストレスが溜まっていたようだ。

『親』という人種に、苦労をかけられている同士としては、同情すべき点が多いのだが、年長者として、保護者としては小言の一つも言っておくべきであろう。


シェンブルク家の現当主であるアレク達の父上は、天才肌の研究者を地で行く人だ。

実際のところ、国内屈指の研究者で、国中を廻って研究を続けている。自宅に居ることは稀で、この件については亡くなった奥方も「溜息しか出ないわ」と苦笑いをしていた。


だがシェンブルクの叔父上は子供たちに愛情が無いわけではなく、それどころか何時でも一緒に居たいと思っているのだ。

しかし、研究場所や調査先へ「一緒に来ておくれ!」と言うたびに、アレクから「寝言は寝てから言ってください!」と返されて、しょんぼりとしている。


これは、アレクが悪いのではない。シェンベルクの叔父上の研究は、主に「古代魔法学」「構造魔法学」が専門で、今では打ち捨てられた遺跡や、古い街、辺境の森の中へも行く。

そんな普段の生活とかけ離れたところへ幼い子供たちを連れて行っても危険に晒すだけだし、幼い子のミルクさえ、ままならない場所で一体どうしようというのか。


同行の申し出をアレクからも、カールからも、きっぱり断られ、とうとうサラを連れ去る気になったらしい。

おかげでアレクが烈火のごとく怒っている。


まだ二歳にもならないサラを連れて、辺境地の遺跡巡りとか…。

真っ当な神経の持ち主であれば思いもつかないのだろうが、シェンブルクの叔父上にその辺の分別を求めることが間違っているのだ、きっと。


「し、失礼しましたわ、お義兄様」

「まあ、ここまで慌てていたのでは仕方がないが、せめてノックと入室の許可はとるようにしなさい」

「の、ノックはしましたわ。ただ、扉が一緒に開いてしまっただけで・・・」

それは、ノックというより、扉を殴ったの間違いだろう。


義妹は、巷では『氷雪の妖精』と称えられる、流れるような銀髪に宝石のように輝く紫の瞳を持った透明感溢れる硬質の美少女だ。

だが、中身は弟妹を可愛がる熱血少女で、身内の前では容赦のない言葉も使う年齢相応に溌剌はつらつというか、多少元気の有り余る少女である。


・・・まあ、身内なので、つい甘くなってしまうのだが、可愛い妹であることに変わりはない。


「次からは、扉は殴らないようにしなさい。それで、叔父上は、もう出発されたのかい?」

今回の研究旅行に出発される前に、諸々の件を相談しておきたかったのだが。


「・・・サラを強奪しようとしたので、家から叩き出してしまいましたわっ!」

拗ねてそっぽを向くアレクは可愛いが、内容がアグレッシブだ。

とりあえず、行き先をシェンブルクの執事に確認して叔父上には報告の手紙を出しておこう。次男のイアンに書状を持たせておけば、上手く説明してくれるだろう。

イアンと叔父上は、お互いに魔法学を専門としているせいか、話が合うらしい。


「アレク、叔父上も悪気はないのだよ」

「あれで悪気があったら、たたき出すだけでは済みませんわ!」

アレクは、母の忘れ形見でもあるサラを溺愛している。その為、サラに危険が及びそうな事柄にはとても敏感だ。


「アレクはいい子だね」

「・・・いい子は、お父様を叩き出したりしませんもの」

ゆっくりと頭を撫でてやると、アレクは気不味そうに俯いてしまった。


「いい子だよ、ただ言い方を間違えただけだろう。”こちらは心配しなくていいから、安心して仕事してきていいんですよ。サラに会いたくなったら、帰ってきて”とね」

多少意地っ張りなアレクは、出立前の叔父上に優しい言葉がかけられなかった事を悔やんでいるらしい。

頭をなでながら、ゆっくりと話かける。


「今度帰ってきたときは、言えるといいね、アレク」

「う・・・はい、お義兄様」

真っ赤になっているアレクは可愛い。普段は一生懸命に気を張っている事もあって、年相応の表情が出た時のアレクはとても可愛らしい。ついつい甘やかしたくなるというものだ。


「アル兄貴~!、アレク来てる? サラがさー・・・」

「お前たち・・・、ノックというものを忘れたのか?」

遅ればせながら、サラを抱っこしたウォルフがやってきた。どうやら、アレクと行き違いになったらしく、サラを一人にする訳にもいかず、抱っこして戻ってきたらしい。


「え、あれ? ノック、しようとしたけど、扉が・・・。ってアレク、居るじゃん!」

「ウォルフ、サラを連れてきてくれたの? ご、ごめん、扉は私が壊したかも・・・」

・・・そうか、どうも変な音がしたと思ったら、あれは扉の蝶番ごと破壊した音だったのか。

イアンには、叔父上が無事であることも確認させよう。


「アレクー、心配したよ」

「ウォル、ごめんね」

アレクの顔を見て、ほっとしたように微笑むウォルフと、ウォルフに駆け寄るアレクには、微笑みが戻っている。

きっかけは親同士が決めた許嫁いいなずけではあるが、幼い頃から一緒にいることもあって、自然と二人はいい関係を築けているようだ。思わず笑みがこぼれる。


「ノックを忘れた二人は、外で少し反省しておいで。ああ、サラは私が見ていよう」

「あーちゃまっ!」

サラが嬉しそうに、抱っこをねだってくる。

最近やっと言葉が増えてきてアレクのことを「ねぇね」と、カールを「にぃに」とよび、私を「あーちゃま」と呼ぶようになった。イアンのことは、「いーちゃ」で、ウォルフのことは「うー」だった。

ウォルフは騎士学校に入ったせいで、会う機会が格段に減った事が悪かったのだと、暇を見てはサラのところへ行って「ウォルフ兄ちゃんだぞー!」と言っているらしい。


これだけ兄姉が多い中、ちゃんと個別認識をしているだけマシだと思うのだが、どうやらウォルフには屈辱だったようだ。


ノックを忘れた二人を追い出して、執事には扉の修理を依頼するように指示を出した。

その間は、サラを抱っこしながら、数日会わなかっただけで少し重くなったようで子供の成長の速さに驚かされる。


「あーちゃ、おちごと?」

「ああ、もう少し仕事があるかな」

知らない間にサラは「仕事」という単語を覚えたらしい。


「あーちゃ、も、おでかけ?」

「・・・いいや、私はここに居るだろう? おでかけはしないよ」

不安そうに見上げるサラを抱っこしながら、ゆっくりと背中を撫でてやる。小さいながらも「仕事」で出掛けていった叔父上を見て置いていかれる寂しさや、心細さを感じたのかもしれない。


こんな小さい子を不安にさせてはいけないな。


抱っこしてもらって安心したのか笑顔になったサラを見て、叔父上に許可を得てシェンブルク家に部屋を貰い、シェンブルク家で生活をするようになるのは、このすぐ後の事だった。


騎士学校の帰りにシェンブルク家に寄ったウォルフには、「兄馬鹿・・・」と言われたので、拳骨を落としておいた。



兄さん、弟妹の甘いんだから・・・。

次回より、アル兄さん、さらに忙しくなります!

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