2-18. 三番目と、仔猫と、ティータイムに、鎧?
ちょっと長めです。お付き合いくださいませ。
愉快な近衛隊が出ます。ナール様直属らしいです。類友です!
「ノルちゃん、どうぞ、いらしてくださいっ!」
ノルベルトの名前の書かれた招待状を真面目な顔をして一生懸命に差し出すサラの姿に、思わず吹き出しそうになりながらも、丁寧に礼をして招待状を受けとる。
「ありがとう、サラちゃん。喜んで伺わせていただくよ」
笑顔で承諾の返事をしてくれたノルベルトを見て、ようやくサラの緊張が緩む。
「よかったぁ〜」
はぁ、と大きく息をつく。これで三番目の招待客にも配達が終わったことになる。
「お疲れ様、お嬢。今、お茶を淹れるからね、少し休んでいくといいよ〜。お菓子もあるよ〜」
マディが笑顔でお茶の準備をしてくれます。これもいつものことですが、今日はお仕事があるのですよ!
お茶の前に、お仕事ですっ!
もう一人の分を渡さなくては、いけません!
布袋をゴソゴソとかき回して、目当ての物を見つけると駆け寄って招待状を差し出した。
「マディ、どおぞ、いらしてくださいっ!」
背の高いマディに差し出すと、サラがどんなに頑張っても、のけぞってしまうのだ。なかなかにこの姿勢はキツイ。
くせ毛の従者はお茶を準備する手を止めて、目を丸くして一生懸命に招待状を差し出すサラをみた。
まさか、自分にも招待状を用意しているとは、思わなかったのだ。
「お嬢、俺の分もあるの?」
「もちろんです! だって『いつもお世話になっています』だもんっ!」
そうなんです、王宮に来たときのご飯にお茶のお世話は、大抵マディがやってくれるんです。迷子になった時も探しに来てくれますし、お茶会の時も探しに来てくれましたしね・・・。本当にお世話になってます!なんですよー。
ちょっぴり叱られる事もありますけど、大抵は、優しい世話好きのマディです。エドに叱られている時に、こっそり助けてくれたりもするんですよ。
でもでも、叱られるのは、『いつも』じゃありませんからね。サラはいい子にしていますもんっ。
「ありがとうね、お嬢。俺も喜んで出席させてもらいます、だよ~」
マディがニコニコと笑顔で、サラの好きなミルクがたっぷりな紅茶と、マディ特製の焼き菓子が所狭しと並べられます。わあ、どれから食べよう~っ!
たっぷりの胡桃に砕いたチョコレートも入ったブラウニーに、ブルーベリーとクランベリーのマフィン、サワークリームとリンゴのパイ、お砂糖をまぶしたジンジャークッキー、ジャムとクリームを添えたスコーンが並びます。
最近、マディのお菓子が食べられなかったので、今度作ってね!ってお願いしてあったのが、全部あります。嬉しすぎです〜っ!!
「はい、サラちゃん。慌てなくていいからね。食べきれない分は、マディがバスケットに詰めてくれるよ。おうちにもって帰りなさい」
ノルちゃんが、ケーキやパイを切って、取り分けてくれました。
わーいっ サワークリームとリンゴのパイが大きく切ってありますっ!
「ありがとうっ、ノルちゃん、これ大好きなのっ!!」
「知っているよ。このパイが出ると、サラちゃんのニコニコが増えるからね」
取り分けのお皿を貰ってお礼をいうと、ノルちゃんがにっこり笑ってくれました。うう、そんなに判りますか? 好き嫌いをした覚えはないのですが。
「ねぇ、サラちゃん、お膝に乗って・・・」
「やっ、ですっ!」
ノルちゃんは、ずーっとお膝に乗ってねって、言うのですが、嫌なのですー。
ノルちゃんは嫌いじゃないですが、お膝に乗るのは、ちっちゃい子のすることですからねっ、サラはもう、大きいのでしません!
おうちでは、いいんですっ!アル兄ちゃまのお膝に抱っこしてもらうのは、別なんだってゆってたもの。
もちろん、ゆっていたのは、お姉ちゃまと、おにいちゃま達ですっ!
「まあねぇ、大人になってからの方が膝に乗ることもあるんだけどねぇ~」
「マ、マディっ! 何を言うかっ!!」
へー、おとなの人もお膝に乗ることがあるんですか。
じゃあ、サラもまだお兄ちゃまのお膝に乗っていても大丈夫でしょうか。
ノルちゃん、どうしたのでしょう、お顔が真っ赤ですよ?
「それじゃ、お兄ちゃまに、おおきくなってもお膝に乗ってもいいか、聞いてきますね」
「・・・いや、アーノルド様には、言わないでください~っ!」
マディがいきなり、ごめんなさいって言うのでびっくりしました。これは、聞かない方がいいっていうことかしら。
よく解らないままに、マディのお菓子を食べました。
わあぁ、美味しい~っ!
少し貰って帰ってアレクお姉ちゃまにもあげないと。カール兄ちゃまは、チョコレート味好きなんだよねー。
お菓子に夢中になって、結局、この話題はそこまでとなりました。
お仕事の後にノルちゃんのお部屋に来たエドが、話を聞いてなんでかお部屋の隅で体を曲げて、震えています。
お腹が痛いのでしょうか?
「あー、笑いすぎで腹がイタイよっ! マディ、命知らずだなー」
「マジで、アルさんには内緒にして下さいよ~っ!」
「そりゃ、無理だわ」
エドと、マディは仲良し過ぎて、色々とわかりあえるようです。サラには、全然わからないのにー。
「ふたりだけで、わかっててズルイっ!」
「・・・サラちゃんは、まだ解らなくていいの」
って、ノルちゃんが言いますが、サラだって知りたいもん~! 二人共、ズルイ~っ!!
大きくなったら、教えてくれるのでしょうか?
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「ノルちゃん、ナールさまは、いないの?」
「ああ、兄上は今日は、午後から鍛練場じゃないかな」
今日の最後の一枚は、ナールさまの分です。これを配達しないと、お仕事が終わりになりません。
「預かっておこうか、サラちゃん?」
「やです。ちゃんとナールさまに渡したいんだもんっ!」
サラは、ちゃんとお仕事をするのですよっ! お兄ちゃまにも、お名前の書いた招待状をちゃんと渡しなさいって言われたのですもんっ!!
「じゃあ、散歩がてら兄上を探しに鍛練場まで行こうか。エドもいる事だし、鍛練場に行くのは問題ないだろう?」
「行くのはいいですが・・・サラちゃん、平気か?」
エドが心配そうに、サラに聞きます。
何でですか? もちろん、サラは大丈夫ですよ。ちゃんと最後まで配達をするのですもん。ナールさまの居るところに行きますとも。
ちゃんと「大丈夫だもんっ」て言ったのに、エドは心配そうです。
「うーん、かなり大きい音がするけど、怖くなったら、すぐに言えよ?」
「へーき、だもんっ!」
大きい音って、何でしょう。鍛錬場は広いのに何か落っこちて来たりするのでしょうか。
サラには、想像がつきません。
エドに手を繋いでもらって、王宮の中庭を通って近衛隊の鍛錬場へ行きます。
もっと広い練兵場は、王宮の近くじゃなくて、少し遠い処にあるんですって。
ウォル兄ちゃまが居る騎士学校もその中にあるのだそうです。学校が一つ入っちゃう位の練兵場って、すごーく広いんですね。沢山の兵士さんや、騎士さんが練習をするからだそうです。
サラは、まだ騎士さんの練習って、見たことがありません。
どんな事をするんでしょう。
「サラちゃん、とりあえず耳を塞いておきな。大きい音がするぞ」
大きくて古い重厚な木の扉のまえで、エドに言われて手でギュッと耳を塞ぎます。中で一体何をしているんでしょうか。
ガガガガッ! ガキンッ!! ガンっ!!!
聞いたことのない音です。
それは、鉄がぶつかり合う音でした。鎧を着た分厚くて大きな剣が振り下ろされてます。相手も剣で防ぐので、鉄同士がぶつかり合って、火花が散っています。
「あー、普通さあ、近衛って、もう少し小奇麗なモンじゃないのー?」
「我が国の近衛隊に限っては、それはナイな・・・」
「ですよねー、こんなマッチョな近衛は、他国にはないわ」
マディとノルちゃん、エドが生暖かい目で騎士さん達を見ています。おっきい体に重そうな鎧をつけて、体当たりしてるのが近衛騎士団の人らしいです。
…なんだか、人に見えません。大きな鉄の人形みたいです。
ガンガンと凄い大きな音がします。男の人の怒鳴り声もします。あれは雄叫びなんだよって、エドが言いますが、どこが違うのかわかりません。
あまりにも大きな音が体にビリビリと響いてきて、怖いです。
近くに居ては危ないので、練習の場所からは遠い見学用の席に居ますが、それでも音も振動もすごいのです。
「サラちゃん、抱っこしておこうか?」
「へーき、だも…」
バキッ!っと、何かが折れる音がして、見学席の前の障壁に木の棒がすごい勢いでぶつかりました。ぐらぐらと壁が揺れます。
衝撃がすごくて、思わずエドに抱き付いてしまいました。もう、やだ、ここ怖いもんっ!!
「よしよし、大丈夫。抱っこしていれば怖くないからな、サラちゃん」
「う…ふえぇぇ〜ん…」
エドに抱っこしてもらって背中を撫でてもらったら、もう涙が出てきました。近衛の人たち怖いよう。
「馬鹿者っ!何をしているかっ!! 自らの武器をはじき飛ばされた上に、他の者を危険に晒すとは何事だっ!!」
「も、申し訳ありませんっっ!!」
誰かが大きな声で怒っている声が聞こえます。何がおこっているのか、怖くて抱っこしてくれているエドにしがみついていて顔を上げる事ができません。
「サラちゃん、もう平気だよ、ほら、大きい音もしないだろ? 顔、あげて見てごらん」
「こあく、ない?」
「ああ、怖くないよ。」
エドに言われて、顔をあげてエドを見ます。振り返ってごらんって言われて後ろを見たら、心配そうなナールさまがいました。
「ナールさまだっ!」
「仔猫ちゃん、泣いてしまったのか、そんなに怖かったかい?」
顔を上げたサラに安心したのか、ナールさまは、優しい笑顔でよしよしって、頭を撫でてくれます。
ナールさまは、他の人みたいに鉄の防具をしていなくて、皮の簡単な防具だけです。けがはしないのでしょうか。
「サラちゃん、ナールさまに、渡すものがあるんだろう?」
エドに言われて思い出しました。そうでした!その為にここまで来たのに、恐いのですっかり忘れていました。
エドに降ろしてもらって、慌てて布袋から招待状を差し出します。
「ナールさま、どうぞ、いらしてくださいっ!」
泣いちゃったのは見ないでくださいね。おっきい音が恐かっただけですから、もう平気ですもん。
「わざわざ持ってきてくれたのかい、嬉しいな」
今日のサラは、郵便配達さんなんですもん。ちゃんとお仕事しているんですよ!
えっとね、お疲れ様のごはん会へのご招待なんです。ぜひ、来てくださいねー。みんなで一緒にごはん食べるんですよー。楽しみですっ!
いつの間にか、近衛の騎士さんが、みんな手を止めてナールさまを見ています。
サラがお仕事のお邪魔をしてしまったのでしょうか。だんだん心配になってきました。
「ナールさま、お仕事中?」
「ああ、今日は近衛の鍛錬の日だからね。一緒にやっているんだよ」
ナールさまも、あんな風に鉄の重い剣を振り回すのでしょうか。むずかしそうです。
あんなのを毎日振り回していたら、傷だらけになりそうだし! あんな大きい人と練習でも剣を受けて、ナールさまが怪我をしないといいのですが。
「多分、サラちゃんが思っているよりも、兄上は強いよ。そして、サラちゃんのアル兄さんは、もっと強いからね?」
ノルちゃんが、苦笑いをしながら教えてくれました。
そうなんだ、ナールさまも、アル兄ちゃまも強いんだ!でも、あまり剣を持っているところを見たことがありません。
そうですね、アル兄ちゃまが剣を使っているのを見るのは、カール兄ちゃまとお稽古をしている時くらいです。
でも、アル兄ちゃまが怒るとすごーくすごーく怖いのは、知っていますよ。
この間、叱られたばかりですからね。エドの言われてアル兄ちゃまのところへ行きなさいって言われていたのに行かなかったのが、バレた時にいっぱい怒られたのです。
「あれはサラちゃんが悪い。ちゃんとアル兄さんのとこに行っていれば叱られなかっただろう」
そ、そうだけどっ! だって、もう少ししたらエドが帰って来るかなって、思っちゃうんだもん。
不満で頬っぺたが膨らみます。
う〜、少し位待っていたかったのに〜。エドってば、怒るんだものっ!
うーうー、唸っていたら、エドに頭をぺしっと叩かれました。
「アル兄さんの言いつけはちゃんと守るの!危ないって言われたらちゃんと避難しなさい、いいね!」
「はぁい…」
結局、エドに叱られました。ちょっぴり不満そうな顔でいたら、エドがこわーい声で叱るんです。
「サラちゃん、アル兄さんに、もう一度、みっちり叱って貰いたいか?」
「やだっ!!ふぇっ…やだものぉ〜っ!」
アル兄ちゃまに叱られるのは嫌です!
アル兄ちゃまは、怒るとすんごく こわいんだものっ! いっぱい叱られるものーっ!!
エドに、やだやだと駄々をこねて、頭をぐりぐりと擦り付けます。
うう、怒らないでよう〜!
ガシャン! ガキィ! ガキッ!!
「何だ、この可愛い生き物はっ!」
「俺もしがみ付かれたいぞ〜っ!」
「ああ、あの柔らかそうな髪を撫でまわしたいっ!!」
ガシャン、ガシャンという鎧がぶつかる音がして、近衛隊の騎士さんたちが地面を叩いて身もだえています。
なんでしょう、何が起こったというのでしょうか?
思わず、涙もひっこんで、エドの方をみます。
「だから、こーゆー人たちに捕まらないように、逃げろって言ったらすぐに逃げるの! いいね!」
エドが溜息をつきながら、説明してくれます。確かに、全身鎧のお兄さんたちに捕まるのは怖いです。
なんだか、潰されそうで抱っこしてもらうのも、やだなぁ。
「あいっ!」
大きくうなづいて返事をしたら、エドが頭を優しく撫でてくれました。もう、怒っていないよね〜。
ガシャンっ!
「なんでだっ! エドだけ!ズルいだろうっ!!」
「俺たちにも、抱っこさせろっっ!!」
「ちっちゃくて、可愛い子を可愛がりたい〜っ!!」
「うぉぉぉ、せめて、撫でさせろ〜っ!!」
あんまりにも声が大きくて、エドにしがみついてしまいました。すごい迫力です。さすがは騎士さんです。でも、鎧姿で暴れるのは止めてほしいです。鎧が鳴って怖いんですもん。
「…お前ら、外周を走って来い。力尽きて、頭冷えるまで戻って来るな!」
「殿下、酷いですっ!」
「俺たち、フル装備なんですよ!?」
「力尽きたら、戻ってこれませんっ!!」
わあわあと騎士さんたちが、騒いでいます。なんだか楽しそうで、ナールさまと騎士さんって仲良しなんですね!
「やかましい。サラちゃんが怖がるから、その姿を見せるなっ!」
「殿下、横暴だーっ!」
「好きでこの恰好をしている訳じゃないのにっ!!」
ガシャン ガシャンと鎧が響きます。だんだん慣れてきて、鎧の人も好きになってきました。
触ってみたいかも…。
「サラちゃん、帰るよ。アル兄さんが待っているからね。もう、おうちに帰る時間だ」
うーん、ちょっぴり残念です。鎧のお兄さんには、今度触らせてもらいましょう。
鎧の手のところだけでも、持たせてほしいです!
エドは、いやーな顔をしましたが、溜息をつきながらも、いいよって言ってくれました。
わーい、今度は鎧のお兄さんに、さわらせてもらおーっと!
「でかい鎧なら、ナサニエル殿下が持っているから頼んでごらん。でも、重いぞ〜」
「ちょこっと持ってみたいんだもん。手のとこ触ってもいいのかなぁ」
だんだん楽しみになってきました!
ナールさまの鎧も、触らせてもらおーっと。
ナールさまに、さようならっ!ってご挨拶をして、アル兄ちゃまの執務室に戻ります。
鎧のお兄さんも、またねって手を振ってくれました。わーい、なんか嬉しい〜。
執務室に戻ったら、クレマンさんが扉を開けて「おかえりなさい」って笑顔で言ってくれました。
「ただいま、アル兄ちゃま、クレマンさんっ!」
「おかえり、サラ。頑張ってきたみたいだね」
うん、頑張りましたよっ! ちゃんと招待状は、配達してきましたもん!
でも、アル兄ちゃまに抱っこしてもらったら、なんだか安心しちゃって、その後を覚えていないんです。
気がついたらおうちのベットでした。もこもこの毛布にくるまれて寝ていたのです。
今日は盛りだくさんで、お姉ちゃまにいっぱい報告したかったんですが、眠くて・・・。
明日になったら、いっぱいお話しようと思います。
今日は、おやすみなさい☆彡
仔猫には、ちとハードでしたか。結局寝てしまいましたよ。
以下、サラちゃんが寝た後の攻防戦です。
仔猫が寝た後でー
抱っこした途端に、ふぁぁ、とあくびをして、とろんとした目になり頭を擦り付けてくるのは、相当に眠い証拠だ。
「寝ていなさい、後はおうちまで抱っこしていくから」
「あーい」
これは、夕飯も起きていられないだろうな。クレマンから毛布を貰って着せかけてやる。最近は寒くなったので、このままでは風邪をひいてしまうからな。
「エド、招待状の配達は、そんなに大変だったのか?」
せっせと帰る準備をしているエドに聞くと、苦笑まじりの回答があった。
「いいえ、そんなに大変ではなかったんですが、最後にナサニエル殿下のとこへ行こうとしたら、練兵場に居らしたので、そこで近衛隊を見て興奮して疲れたんですね」
「なるほど、それで、今も執務室の前に筋肉ダルマどもが張り付いているのか・・・」
先ほどから、いつもはいない護衛や衛兵が部屋の前に張り付いて大変に目障りだ。
どうやら、サラを一目見て気に入ったらしいが、ヤツらにウチの子を触らせる気はない!
あんなナリをしているが、近衛の連中は、大変に可愛いものが大好きだ。
仔猫の姿のサラを見せたら、絶対に追いかけてくるな。・・・厳重に注意しておこう。
「アル兄さん、準備できましたよ。馬車まわしてもらいますね」
「ああ、頼む」
仕事の書類から、サラのバスケットなどの荷物を抱えたエドが馬車へと荷物を運んでくれる。その間にサラを抱っこして馬車留まりへ行かなくては。
「クレマン、後を頼む。お前もあまり遅くならないように」
「承知しました。アーノルド様」
丁寧の頭を下げ、扉を開けてくれたクレマンに声をかけ、サラを抱っこして部屋を出る。よく寝ているようで、まるで気づいていないようだ。
ガシャン☆彡
「アーノルド様っ、サラちゃん、眠っているのですか?」
「わー、寝顔がみたいー」
「重いでしょう、俺が抱っこしてあげますよっ!」
「何その抜けがけ! 俺が抱っこしますっ!!」
・・・なるほど、訓練用にフル装備で鎧を着た近衛の連中は、動くだけでやかましい。この騒音どもにサラは怯えたのか。
「やかましい、お前らは持ち場へ帰れ! ウチの子が起きるだろう」
鎧の音がやかましかったのだが、その音がピタリと止んで急に静かになった。
とはいえ、居なくなったのではなく、ひたすら音がしないように細心の注意をはらって動くようになっただけだ。我が国の精鋭部隊のハズだが、こんな技術に長ける必要はまるでない。大丈夫か、コイツラ。
「アーノルド様、サラちゃんの寝顔見せてくださいよう~」
「ぷにぷにのほっぺがつつきたいですっ!」
「なでなでさせてくださいー!」
どんどん変態ちっくな要望が上がってくるのは、気のせいだろうか?
サラは、どういうわけだか変なヤツラにモテる。最近は、外へあまり出さないようにしていたので沈静化したが、ここへ来て近衛の連中に捕まるとは。
「寄るな、ウチの子には触らせないぞ、寝顔も見せん!」
「「「「ひでぇ」」」」
大体、サラに触らせると思う方が間違っている。家族以外の男に寝顔を見せるなど有り得ないだろうが。
しかし、廊下を歩きながら、鎧姿の数人に囲まれるというのは、やはり異様な風景だろう。
「アル兄さん、馬車が来ました・・・ってお前ら、まだ張り付いていたのか」
「エド、お前ばっかり、ずりーよっ!」
「サラちゃん、寝顔でいいから見せてくれ!」
馬車をまわして来たエドが呆れたように近衛の連中を見る。本当にな、こいつらはしつこい。
「エド、サラを頼む」
「はいはい」
馬車の扉を開け、クッションや毛布を敷いて、少しでも眠りやすい状態にしてやらないと。
「あれ、サラちゃん起きたかい?」
「んー、あー、鎧のおにーさんだぁ~。エドぉ、おてて、さわりたい~」
「ああ、寝ぼけているな、いいけど、ただの鉄だぞー。」
「ただのとか言うなー。神聖なる騎士の鎧だぞっ!」
どうやらサラは完全には、目が覚めていないらしい。どういう訳だか鎧の手の部分が気に入ったらしく、触りたいとずっといい続けていた。
「おにーさん、おてて さわってもいいですか?」
「お、おうっ!」
「・・・ふふふ、つべたーい。ゆび、つめたくないのかな」
サラは気に入ったらしく、鎧を撫で回している。触られている鎧の男は、喜びに震えている。・・・あまり見ていて楽しい光景ではないな。
「サラ、風邪をひくから毛布をちゃんとかけなさい」
「あい」
奴らから見えないように、サラを毛布でくるんでやる。近衛の連中からブーイングが上がるが、知らんっ! ウチの子は、見せんぞっ!!
さっさと馬車に乗り込んで、うちに向かわせる。今度から近衛の連中には極力会わせないようにしようと、心に刻んだのは言うまでもない。
end