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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
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2-16. 執務室にて

アル兄さんSideからのお話です。

・・・兄さん、初恋抹殺は、デフォですかっ!?

怒涛のお茶会から舞踏会攻撃も終わり、やっと日常が戻ってきた。


アレクとカールは、学院の生活に戻った。今までの休みのせいで、忙殺されたのはご愛嬌(?)だ。


サラはエドと、また王宮に通っている。

大抵は、アル兄さんと一緒の馬車で登城し、仔猫用のバスケットに入って後宮へ連れて行ってもらうのだ。王妃さまにごあいさつをして、おしゃべりしたり、ダンスを教わったりして過ごしているらしい。


「なんというか、後宮が託児所にようになっていて申し訳ないな・・・」

「王妃様は、大変楽しんでいらっしゃるようですよ。女の子がいると華やかでいいと」

執務室で副官が入れてくれたお茶を飲みながら今日の仕事内容に目を通しながらのアーノルドの呟きに、副官のクレマンは笑顔で答えた。


王妃様が楽しんでいるとはいえ、特別扱いには違いないので、相変わらず内密にしているのだった。


「そういえば、隣国の第二王子は、もう帰国されたのか?」

「ええ、夜会の翌日に王宮へ帰国の挨拶をされて、戻られたそうです」

書類を整えながら、クレマンが報告していく。


「ふむ、何よりだ」

隣国ホワイエ王国の第二王子を狙っていたのは、ホワイエ王国の貴族の甘言に踊らされた我が国の馬鹿どもの仕業だった。第二王子とはいえ、第一王子の立太子が済んでいない状態では、不安要素でしかない。その不安からまだ幼い王子暗殺という手段をとろうとした、ということだ

はっきり言って、騒ぎを起こすなら、自国でやってくれ。ウチで殺られるのは迷惑だ。


「・・・アーノルド様、サラ様には言われたのですか?」

「必要あるか?」

サラは彼が隣国の王子であるということは知らないし、彼の事もこのままにしておけば忘れてしまうことだろう。面倒な隣国の王子と誼を結ぶ必要などない。


「いえ、例の男爵の件は如何いたしましょう?」

「・・・とりあえず王都からは追い払う。目障りだ」

「はい、どちらへ」

「隣国との国境近くの治水について調査隊がでる。その中に入れろ。役職は適当につけておけ。」

「承知いたしました」

仲間が次々に拘束され、びくびくしているところへ調査隊への参加要請は逃げたくて仕方がない男爵にとっては渡りに船だろう。

だが、用意されているのは、泥船だ。


調子に乗って出かけた調査の隣国近くで甘い言葉で亡命をそそのかされ、乗ったら最後、二度とこの地を踏むことはないだろう。

もし、その誘いに乗らなかったとしても、友人の貴族から笑顔で今回の顛末は全て王子たちや、アーティファクト家が知っているのだと囁かれた瞬間から王都へ戻る事は絶望的だ。


「この先、奴がどう出るか、監視しておくように。こちらに歯向かうようなら、潰せ」

「承知いたしました」

アーノルドは、自分の家族を守る為に働いている。

だから、自分の家族に手を出すものについて許す気はない。直接手を出す気はない。ただ合法的に処理するだけだ。


その後も、淡々と書類を片付けていき、書類の山が見えなくなってきた頃、執務室にノックの音が響く。


「アル兄さん、クレマンさん、お昼にしませんか?」

「しませんかー?」

王宮警備隊の隊服に身を包み、大きなピクニック用のバスケットを持ったエドと、いつもの姿に戻ったサラだ。

深い緑色のワンピースに、同色のボレロをはおり、ニットの付け襟をしている。どうやら今日は王妃さまと着せ替えごっこだったらしい。


「王妃さまに着せていただいたのか? よく似合っているよ」

「うん、いっぱい着せてもらってね、これが一番似合うって、みんなが言ってくれたの」

一体、王妃様は、どれだけの衣装を用意していたのだろうか?

少し心配になったが、褒められて恥ずかしそうにしながら駆け寄ってくるウチのは、可愛いのだから、仕方がないだろう。


「王妃様にね、この間のピクニックのお土産に、蔓や木の実でリースを作って持っていったの。そしたら、お礼ですよって、お洋服をくれたの。貰ってもいいのかな、アル兄ちゃま?」

「ちゃんとお礼は言ってきたかい?」

「うん、ありがとうございますっ!って言ってきたの」

抱っこされてご機嫌なサラは一生懸命に報告をしてくる。これだけ楽しそうにしているのに、ダメだとは言えないだろう。そして、王妃さまも断れないことを知っていてやっている。確信犯だ。


よしよしと頭を撫でると、サラはくすぐったそうに笑って肩をすくめて首を縮めた。仔猫のような仕草が愛らしい。


うむ、まだサラに男友達は、早い。


サラの初めての男友達が、隣国へ帰った事は黙っておこうと心に決めた。知らせる必要は、ない!


エドは、その様子を横目で見ながら、せっせとバスケットから食器を取り出し昼食の準備をしていた。

大分、ウチに慣れてきたらしい。いい事だ。


エドとクレマンが用意してくれた昼食は、胡桃パンに、数種類のチーズが添えられ、肉や野菜がトロトロになるまで煮込まれたシチューと、トマトのサラダに鶏の冷製と燻製肉。マッシュポテトたっぷりと盛られていた。


サラは、相変わらず私の膝の上に座って食事をしている。

大振りなパンや肉は、まだ小さいサラには、なかなか上手く食べられないので小さく切って食べさせているのだ。この子供扱いがいつまで続けられるかな。


食後のお茶が出る頃に、ふと思い出した。

そういえば、サラに頼みごとをしなくては、ならなかった。


「サラ、クレマンに『遠見の腕輪ブレスレット』を作ってくれないか?」

「はーい、クレマンさん、お手々かして?」

サラは、にっこりと笑って了解し、自分のポケットに入っている細いレース糸の束を出し、クレマンの手の乗せた。そのまま持っているように頼み、サラはその端をとり、歌いながら編み始める。


「クレマンさんに、みせてあげてね

 とーおいところ、望むところ

 お城の中に、おうちのなか

 おともだちがいるところを見せてあげてね♪」

スルスルと小さな手が細い銀の腕輪を編み上げていく、最後に渡された魔石を編み込み、糸を切った。


その間、数分の事だった。


怪訝な顔をしてその様子を見ていたクレマンの左腕にその腕輪を巻いてやる。

「その魔石に向かって、自分が見たいと思う、この城内の”影”を思い浮かべてみろ、クレマン」


恐る恐るブレスレットを握って、小さく俯いて念じるようにしていたクレマンは、やがて信じられないものを見たように、顔を上げた。


「魔道具、ですか。でも、これは・・・」

遠見の為の魔導具は幾つかあったが、ただ遠くを見通すだけの道具だった。これは今までとは格段に違う、ありえない程の精度をもっている。

今、クレマンが望んだ”影”の姿は彼の脳裏に、鮮やかに映し出された。居る位置と周囲まではっきりと解った程なのだ。


「そう、これは、クレマン専用の『遠見』だ。サラがそう作った。」

クレマンには、まだサラの能力を見せていなかったので、変に説明するよりも見せた方が早いと、目の前で作らせてみたが、想像していたよりも驚きが大きかったようだ。彼には珍しくうろたえている。


「クレマンさん、これじゃ、だめ? 」

サラは、初めて家族以外の人に作ったことで、不安そうだ。


「使い慣れれば問題ないさ、そうだろう、クレマン?」

サラの頭をゆっくりの撫でながらクレマンを見ると、ようやく衝撃から立ち直ったのか、ぎこちないながらも笑顔が戻ってきた。


「ええ、サラ様、ありがとうございます。早く使いこなせるようにしますね」

笑顔でお礼を言うクレマンに、嬉しそうにサラが微笑む。


その後、サラをエドと一緒に、ノルベルト殿下のところへ遣いに出した。

クレマンには、多少説明が必要だろう。


「すまない、驚かせたようだな」

「はい、アーノルド様や、ウォルフ様で慣れてはおりますが、今回のは想定外です」

ため息をつきながら、お茶の用意をしてくれるクレマンに、労いの言葉をかける。


「我が家の秘蔵っ子だからな。これからも目を配ってやってくれ。」

「もちろんです。今まで以上に注意いたします」

もうすぐ冬がやってくる。樹木祭があって、そして、サラの誕生日がやってくる。


6歳の誕生日は、家族だけでなく親しい人を招いての初めてのお披露目の時でもある。


「まだ、外には出したくないのだがな」

小さな妹を守るべく、執務机の戻りって書類の山の残りと格闘しながら、アーノルドは呟くのだった。

次回は、お疲れ様のお茶会編になります。

恋バナは何処に?(泣

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