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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
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2-15. 大人たちの舞踏会  顛末

大人サイドです。

アーノルドさん、会場には居ませんでしたが一番働いていたんですよ!というお話です。


「ああ、サラとカールのダンスだけでいいのにっ、何で大人も踊るのかしら!?」

「そりゃー、これが殿下主催の舞踏会だからだろう」

早々に終わってしまった子供たちのダンスを惜しみながら、アレクが文句をいい、それをウォルフが宥める。文句を言いながらも、素晴らしく優雅にステップを踏み、二人は広間の中央で踊ってみせる。


家族には見慣れた風景だが、周囲は違ったらしい。


先々代からの由緒正しい家系 シェンブルク家の長女で、王立学院の首席であり、生徒会長を務めるアレクは、順当にいけば殿下たちの花嫁候補に上がってもおかしくない。

しかし、王立騎士学校の首席で、現在は学年長を務める将来騎士として有望と言われる、ウォルフが婚約者として立っている以上、花嫁候補の話は、なかったことになる。


とはいえ、この二人が踊ればそれは衆目を集める事、間違いない。そして彼らに憧れる若い連中が放っておくわけがないのだ。


「ああ、この後の挨拶攻撃が、思いやられるわ・・・。でも、なるべく派手にしなくちゃいけないのよね」

「そーそー、アル兄貴の指示だからなー。『なるべく目立って、人の目を広間に集めろ』って言うんだから、やるしかないだろう」

「そうね、アル義兄さまのお手伝いも、たまにはしないとね!頑張りましょう、ウォルフ」

「おうっ!」

微笑み合いながら、優雅に舞っている彼らが、こんな会話をしていたことは会場の誰にも気づかれることはなく、ダンスの終わった後は、ひらすら挨拶と賞賛に忙殺され続けたのだった。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



控え室では、アーノルドが、副官のクレマンが用意したお茶を優雅に楽しんでいる。


・・・ように見せかけて、先程からひっきりなしに入ってくる各所からの報告を聞き、その場から詳細に指示を出している。ここが今回の指令本部なのだった。


アーノルドは、各所に配置した部下たち、近衛と、警備担当者、衛兵を使って、わざと賊が侵入しやすい経路を作り、その動きをつぶさに観察していた。


「広間の方は、ウォルフ様達が衆目を集めてくださっているようで、まだ中庭の騒ぎに気づいている者はおりません」

「ご苦労。エドが倒した賊は速やかに回収し衛兵に拘留させろ。武装解除の徹底と一応怪我の手当をさせるように」

お茶のお代わりはいかがですか?と聞くような素振りで、優雅に主の傍に跪いたクレマン副官が身をかがめて報告をしていく。


「承知いたしました。部署ウチの者を付けましょう。下手に刺激されては困りますからね」

「頼む。隣国の第二王子の方はどうした?」

アーノルドの方も、鷹揚にお茶を楽しむ素振りで現状の確認をしていく。


「こちらは一度拐われましたが、エドが救出したようです。今は近衛が賊の回収と第二王子の保護をしているそうです。」

「・・・賊は、こちらへ引き取る。近衛には、第二王子の保護に専念するように伝えろ。あと隣国の第二王子の世話係りに連絡をとれ。近衛隊で王子を保護していると伝えるように」

影から囁かれた情報を、クレマンが主に報告していく。二人きりに見える控え室には、複数の隠密が潜んでいて、随時主へ情報を運んできていたのだ。


「はい、至急手配致します。・・・サラ様をお連れしますか?」

「いや、いい。そろそろエドが連れてくるだろう」

どこまでが策の範囲なのかは不明だが、明らかに賊は誘い込まれ、踊らされていたのだ。そして、この事件の首謀者は罠にかけられていたと知って、今頃は青くなっていることだろう。


「・・・サラ様に、首謀者の一人が接触したようです。ナサニエル様が入って下さった為、事なきを得たようですが、如何いたしましょう?」

「ほう、うちの妹と知って手を出してきたのか。」

「はい、『お兄さんを探してあげよう』と言ってきたそうですので、確信犯でしょう」

「では、それなりに対処させて貰おうか」

アーノルドが、うっすらと唇に笑をのせている。主の機嫌は現在、最悪だという事が長年仕えたクレマンには、手にとるようにわかった。


追い詰められてサラ様を人質にしてみようか、とでも思ったのだろうが、これは最悪の手段だ。

サラ様に手出しをする素振りを見せただけでも、命の保証はないものを。

クレマンは内心ため息をつきながら、その馬鹿な男の情報をたんたんと読み上げる。


「サラ様に声をかけたのは、フリッツ・カルディア男爵。最近、代替わりされたようですね。

 かなりの野心家のようで、男爵家の直系ではないのですが、今回、跡を継がれたようです。」

「過ぎた野心は身を滅ぼすものだと、誰か教えなかったのかな。

 いいだろう、首謀者の一人であれば今回の捕縛対象だが、敢えて外して泳がせる。

 始末はアーティファクト家で着けさせていただくと、ナサニエル様へ報告する。」

クレマンが主の決定に優雅に頭を下げ、了解を告げる。

あとは、アーティファクトの領分の領分だ。アーノルド様の命令下でウォルフ様を筆頭に、部下たちが一斉に動き、必要とあれば牙を剥く。


カルディア男爵に逃げ場はない。


☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


舞踏会の会場では、アレクとウォルフを中心にした華やかな集団ができ、この機会に挨拶なり、会話なりをしようと、大きな人の輪が二重三重にできていた。


「す、凄い人ごみですわね」

「ええ、こんなに人が群がっているのを見るのは初めてです!」

お茶会で意気投合し、仲良くなったコルネリアとユージェニーは、舞踏会の最初から一緒に見物側にまわり、お菓子を摘んだり、おしゃべりをして過ごしていた。


年頃の貴族の令嬢たちであれば、基本はせっせと社交をし、結婚相手を探す努力をしなければならないのだが、二人でいるとどうしてもそう云った使命感とか危機感というものが薄くなり、達観したように舞踏会の会場を眺めてしまうのだった。


「「まあ、なるようになりますわよね」」


・・・多分、おそらく、貴族令嬢にあるまじき感想を述べたのだった。


「一番最初に踊っていた小さいお嬢様は、アレクサンドラ様の妹さんなのですって」

「あら、ではシェンブルク家の一番下の妹さんなんですのね。」

コルネリアは、リンゴの発泡酒に口を付けながら、くるくると踊る可愛い姿を思い出していた。

そう、あの日に見た仔猫にそっくりのミルクティ色をした髪の少女。


まさかとは思うが・・・


「失礼、お嬢さん方、楽しんでおられますか?」

「ナサニエル様、こちら、レビンス公爵のご息女でユージェニー様。ブルーム男爵のご息女で、コルネリア様でございます」


「・・・っ! 本日はお招きいただきまして、ありがとうございました。殿下」

油断をしきっていたところへ、本日の主催者が側仕えを伴って現れた。それも背後から!

なんとか無難な挨拶を返すのが精一杯の二人に、ナサニエル王子は、にこやかに話しかけてくる。


ユージェニーの心情としては、挨拶なんていいから早く立ち去って欲しいっ!というか、殿下がここにいるだけで、みんなの視線が痛いんですってば!会話とかしたくないからっ!!

片や、王太子に話しかけられるなど経験のないコルネリアは既に意識が飛んで、頭の中は真っ白で、ひたすらうなづくので精一杯という状態だった。


ナサニエルの方としては、こんな対応を年頃の令嬢にとられたことなどなく、引き止められる事はあっても、早く立ち去れという顔をされたのは、初めてだった。


「うーん、新鮮な反応だ、面白い!」


なんとなくつついて見たくなり、ナサニエル殿下は、会話を楽しむことにした。

彼女たちにとっては、この上もない迷惑ではあるが・・・。


「先日のお茶会で、ウチの仔猫がご迷惑をおかけしたようで、お二方とも大丈夫でしたか?」

「・・・なんのことでしょう? 仔猫が居たのですか、会場に」

「仔猫ですか、居たら大変でしたでしょうね、踏まれたりしたら、可哀想ですわ」

咄嗟に二人は、話をはぐらかす事にした。

恐らく、仔猫はあの会場に居てはならないのだと判断し、知らないフリを押し通すことにした。そして、それを王太子も望んでいる。


「ああ、私の勘違いでしたか。ありがとう、ご令嬢方」

私たちに話しかけてきたのは、つまり『口止め』をしたかったのだと。


「なんの事がわかりませんが、どこかの可愛い仔猫の為ですから」

「ええ、どこかの仔猫に害があっては困りますものね」

ユージェニーは、口元を優雅に扇で隠しながらにこやかに応対をしてみせた。コルネリアは、一歩下がって優雅にお辞儀をして了解の意を示した。


ナサニエル殿下は、笑顔で「この後も楽しんでください」と言いながら、去り際ユージェニーにだけ聞こえるように、囁いた。


「そうそう、ユージェニー殿、登りやすい木について、今度お話したいな」

「・・・っ! そういったお話には、お答えしかねますわっ」


笑いの発作を堪えながら、去っていく殿下を睨みつけるユージェニーに、コルネリアは、殿下はかなり興味をもっており、今後もちょっかい出して来そうだなー、とは言えなかった。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡



「サラちゃん、どうしたのかな?」


ナサニエル殿下が、様子を見にアーティファクト家の控え室に行くと、サラはアーノルドの影の隠れるように、兄の背中とソファーの背もたれの間の狭い場所に涙目でへばりついているのだった。


「アル兄さんに叱られた後は、いつもこうしてくっついているんですよ。甘えん坊なんで」

苦笑いでエドが、そっと教えてくれた。

どうやらエドに言われたのに、控え室へ戻らなかった事などがアーノルドの耳に入り、盛大に叱られたらしい。うーん、確かにアル兄さんに怒られるのは怖そうだ。


「サラちゃん、私と踊ってくれないのかい?」

「ナールさま、踊るの?」

話しかけると、サラちゃんはぴょこりとアーノルドの後ろから顔を出し、首をかしげた。


「楽しみにしていたんだよ、踊ってくれるかい?」

「うんっ! あ、ナールさま、こっち、来て来てっ!」

先ほど叱られたばかりなのに、もう元気になっている。これは保護者さん達は大変だな。

苦笑いをしながらソファの方へ行くと、サラちゃんはアーノルドの背中から飛び出し、ソファの肘掛に立ち上がって、一生懸命に腕を伸ばして来る。


不思議に思って手招きをする方へ身をかがめてみせると、


「ナールさま、ありがとうと、よくがんばりましたっ!」

サラちゃんが小さな手で私の頭を一生懸命に撫でていた。


サラちゃんの行動に驚いてしまい、上手い返しも見つからず茫然となりながら、頭を撫でられるままにしていた。小さい手は、撫でるというより、かき回すようになってしまうが、そんな事は構わない。


今は、この仔猫のお礼に甘えておこう。


お礼ならキスを、と言いたいところだが、サラちゃんには、まだ早いか。

それを、アーノルドの前でいうほど、命知らずでもないしね。


会場からかすかに聞こえる音楽で、サラちゃんと踊った。

優しい仔猫がこのまま大きくなってくれるといい、と思っていた。


サラちゃんの誕生日には、新しいダンスシューズを贈る事にしよう。大きくなっても一緒に踊ってくれるように願いをこめて。



ナールさま、仔猫に癒されてます。

哀れ、エトガルトくんは、記憶の彼方でしょうか。


初恋って、マボロシ~っ!(おい

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