2-14. 仔猫と子犬の舞踏会 その3
出遅れましたが、三が日なのでセーフとしてくださいませっ!
あけまして、おめでとうございます!
本年も仔猫を宜しくお願い致します。
アクション少なめ、暴力少なめでお贈りしております。
ラララ♪ おにーちゃまの作る林檎のパイに、ラズベリーのタルト♪
たっぷりのイチゴジャムに生クリームをはさんだ、さーんどいっち、
みーんな大好きなの〜♪
「ぷっ、なんだ、そのヘンテコな歌は!」
エトガルトくんが、けらけらと笑います。
ふふーん、これはね、お茶の時に食べたいな〜、って思うものを歌うんですよ。そうするとね、マディが用意してくれちゃう、ステキな歌なんですよーだ!
まあ、大抵、歌わなくても、マディは美味しいお茶とお菓子を用意してくれるんですけどね。
エトガルトくんの手をぶんぶん振りながら、上機嫌で広間へ戻ります。
広間へ続くテラスが見えてきたなーって思ったら、急にエトガルトくんの手が離れました。
さっきまで繋いでいた手が離れて、急にサラの手のひらがひんやりします。
慌てて横を向くと、エトガルトくんが黒づくめの大人の人に抱きかかえられて連れ去られるところでした。
「エトガルトくんっ!」
「サラ、来るな、逃げろっ…!!」
布で口をふさがれそうになりながら、エトガルトくんが叫びます。でもでも、このままじゃ、エトガルトくん、さらわれちゃうよっ!
舞踏会に不似合いな黒づくめの二人組の男達は、隠れていた茂みから飛び出し『目的の少年』を抱き上げ袋詰めにしようというところで、傍らに同じ位の少女がいた事に気づいた。
雇い主からの依頼は、『目的の少年』を連れ去って来ること。
邪魔な者がいれば排除してもいいと言われている。それ以外の指示は受けていない。
この明らかに貴族、良家の子女という姿の少女は、拐えばいい金になるかもしれない・・・。
彼らに、更なる欲が芽生えた。
こんな小さな女の子だ。拐うのに大した手間もかからない。
貴族であれば身代金も要求できるだろうし、うまくいかなくても売り飛ばしてしまえばいい。
そのまま少年をさらって逃げる筈が、芽生えた欲で彼らの行動に狂いが生じた瞬間だった。
一人の男が、抵抗する少年に猿轡をして袋をかぶせようとしているとき、もう一人の男は、サラに向かって手を伸ばしてきたのだった。
「やっ!」
自分に向かって手を伸ばしてきた男に思わず体をすくませ、後ずさりしたところで、ふわりとサラの体が浮いた。
「サラ、大丈夫だ、下がっていろ!」
耳元で、エドの声が聞こえる。
ちゃんと影から警護をしていたエドがサラを片手で抱き上げ、素早くもう片手で不審者の伸ばしてきた手を、がっちりと砕かんばかりに掴んでいた。
エドは、自分の体の影へサラを移動させ、掴んだ不審者の片手を捻り上げて容赦なくバキリと鈍い音をたてて肩を外しておく。ここまで流れるような動きで、あっと言う間の出来事だった。
「うちの仔猫に触るんじゃねえよ!」
肩を外された痛みでのたうち回る男を、エドは無情にも蹴飛ばした。
この位で許してやるなんて心が広すぎだろう、俺。と本人は思っているらしい。
「エドっ! エトガルトくんがっ!!」
サラは、頼りになる護衛兼、世話係の上着を引っ張り、もう一人の不審者に友人が拐われた事を一生懸命に訴える。
どうしよう、このままじゃほんとに拐われちゃうよっ!!
サラの心配を他所に、エドとしてはサラの「男友達」などという存在は、兄達と心同じく「消えて欲しいもの」の筆頭なので、拐われてもらっても、なんの問題もない。例え、他国の王子であろうとも。
だが、サラが「初めてのお友達」を認識して、こんなに一生懸命に頼んでくるのであれば「しょうがないから、助けるかー」という位のものである。
「おともだちなの、助けてようっ・・・」
「・・・はぁ、しょうがないっか。サラは、アル兄さんとこへ行ってなさい。いいね」
「エドぉ、危ない?」
「俺はへーき。だから、アル兄さんのとこに居なさい。そこは安全なんだから、わかるだろ?」
「うん」
不安そうなサラの頭を、いつもより少し強めにガシガシと撫でてやると、不安そうな顔が少しだけ笑顔になった。
結局のところ、エドはサラに甘いので、頼まれれば聞いてしまうのだ。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「動いたか・・・」
「はい、ナサニエル様」
舞踏会の最中に、妨害を重ねてきている連中が何を仕掛けてきてもいいように、王宮内にそれと解らないように警備を増やした。
また、王宮の庭には、灯を入れたが一見しては警備を薄くして、誘い込んでいたのだ。
「他国の王族を狙うとは、何を考えているのだか・・・」
自国の王太子の責任を問うだけでは済まない。事は外交問題にまで発展する可能性が高いのだ。
そんな弱みを諸外国へ見せようとするなど、この国の貴族として有り得ない所業としか言えない。簡単に言えば、国家への反逆罪にも等しい行為なのだ。
「アーノルド様のところのエドが対処しています。お嬢様はご無事だそうです。」
「そうか、ご苦労。サラちゃんを結局巻き込んでしまったな。」
これはアーノルドに絶対、文句を言われるな。
あの騒ぎの最中でも、しっかりエドを張り付かせておく辺りは、『アル兄さん』らしい采配だがな。
しかし、エドが賊を追ったとなると、サラちゃんは、どうしたのだろう?
「まずいな、後手のまわったぞ。
警備で手の空いているものは、賊の捕縛へ回せ。近衛は、今回の首謀者を抑えろ!」
抑えた声で側仕えに素早く指示を飛ばし、自身もさりげなく席を立ち、その場を離れた。
舞踏会は、美しい音楽が流れ、華やかな雰囲気のまま、佳境を迎えていた。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
「エドぉ・・・」
エトガルトくんを救って欲しいと言ってはみたけれど、庭に一人で残ると、なんとも心細くなってしまったサラは、ふんわりとしたスカートを握りしめて、中庭にぽつんと立ち尽くしていた。
エドに、アル兄さんの処へ行っていなさいと言われたけれど、気になってここから離れる気にならない。
追いかけていったら、怒られるかなあ。
ドレスにも構わずテラスの端にぺたんと腰かけて、エドが駆けていった方向を見ていた。
もうちょっとだけ、ここにいたら戻ってくるのではないかと、思う心で動けない。
「どうかしましたか?」
「・・・っ!? い、いいえ、何も」
急に背後から声をかけられて、びくっとしてしまった。
近づいて来たことにも全然気がつかなかった。この人、いつからここに居たんだろう。
サラの意識は、走っていったエドに向いていて、周りは一切見えていなかったので、反応が遅れてしまったのだ。
綺麗に撫で付けた金色の髪を後ろに流し、上等な礼服に身を包んだ男の人は笑顔で話しかけてくるけれど、これは嘘だ。だって、サラは知っている。この人、ナール様を嫌いな人だ!
「迷子になってしまったのかな? 一緒にお兄さんを探してあげよう」
「ちがいます、迷子じゃないですっ」
男は貼り付けた笑顔で、サラの手をつかもうとしてくる。
この人に捕まっちゃ、いけない! 逃げなきゃ!
思わず体を引いた、その時
「サラちゃん、どうしたんだい?」
ふわりとサラの体が浮いて、聞き覚えのある声が聞こえた。
背後から抱っこしてくれたのは、ナール様だった。
わーん、ナール様、怖かったようっ! サラ、あの人嫌いなんですーーっ!!
ってこの場で叫んじゃうこともできないので、ぎゅうっとナール様にしがみついてみせた。
そうしたら、ナール様がわかったように、よしよしって背中を撫でてくれた。
「そなたは、カルディア男爵だったか。この子が面倒をかけたようだな」
「これはこれは、王太子殿下。・・・いえ、迷子かと思い声をかけてしまいましただけで。」
嘘だもん、声をかけてきただけじゃないもん! 手をぎゅうってしようとしたもんっ!!
なんとか男爵の顔を見るのも嫌で、ナール様の肩に頭をこすりつけて、イヤイヤとします。
この人、きらーーいっ!
ナール様に抱っこしてもらって、少し安心したので、周りを見る余裕が出てきました。
なんとか男爵は、なんで、ここへ来たんでしょう。
だって、ここは舞踏会の会場からは少し離れていて、お酒や煙草のお部屋は、別にちゃんと用意してあるんです。喫煙具も置かれた大人用のお部屋です。
ここは、お酒や煙草用の大人のお部屋に入れない、まだ未成年の子供たちが休憩する為の控えの間に隣接したスペースなんですから。
頭を下げて、恐縮した素振りで対応している男爵は何かを隠している気がします。
「では、わたくしは、これで」
「ああ、この後も舞踏会を楽しんで行かれるといい」
なんとか男爵がそそくさと逃げていきます。
その後ろ姿を見送りながら、少しほっとして力が抜けてしまいました。
・・・ああ、よかった。
「こら、サラちゃん」
「ふぇっ!」
もう、姿も見えなくなったので、ふんにゃりと力が抜けてしまったところへ、ナール様のこわーい声が降ってきてました。
な、なにか、しましたっけ?
「エドに、アル兄さんのところへ行っていなさいって、言われたんじゃないのかい?」
「う、えっと、・・・はぃ」
ううう、なんでナール様知っているのぉ。あ、怖い顔だ、怒っている?
「い、行こうと思ったんだもの。ちょこっとだけ待ったら、行こうかなって・・・。そしたら、あの人が来て」
一生懸命に言い訳をしてみるけど、ナール様の怖い顔はそのまんまだ。
「・・・ごめんなさぁい」
しょんぼりと小さい声でごめんなさいを言ってみる。
「やれやれ、サラちゃんの優秀な護衛くんは、もう戻ってきたようだよ。しっかりと叱られておいで」
「ふぇっ!?」
ため息まじりに言われた方向を見ると、エドが立っていた。
本当に戻ってきたっ! と喜んだのも束の間で、仁王立ちのエドを見て、まずいっ!と顔が引きつった。
「サーラ、どうして、そこに居るんだ!?」
その後、サラに特大の雷が落ちたのは言うまでもない。
子供の前では、極力暴力を見せないように気をつけるエドさんですが、
追跡した先の賊の方は、タコ殴り状態だったようです。
敵には容赦ない性格なんですねぇ、エドさん・・・。