4. 仔猫は迷子じゃありませんっ! たぶん・・・
サラちゃん、絶賛、迷子ちゅう。
本人は、認めていませんが。確実に迷子です!(笑
「サラちゃん、どうしたの?」
副隊長さん、サラ、行きたいところは、ちゃんと解っているんですが、
・・・通り道がわかんなくなりました。
行きたいのは、お姉さまとお兄さまのいる王立学院なんです。
副隊長さんに抱っこされた高い位置から見渡しても、見覚えのない道です。
不安がそのまま出てしまって、思わず制服に爪を立ててしまいました。
それを見た副隊長さんが、優しく撫でてくれます。
「サラちゃん、大丈夫だよ。ちゃんとおうちに帰れるからね」
違うんです、副隊長さん。サラは、迷子が悲しいんじゃないです。
道がわからなくて、お姉さまのところに行けなくなちゃうかもしれないのが、怖いんです!
だって、だって、一生懸命道を思い出しながら、ここまで来たのに、会えないままなんて。
「副隊長、とりあえず詰所に戻って、サラちゃんはどこの子か、確認してみましょうか?」
「そうだね、詰所に戻れば、このリボンから飼い主がわかるかもしれないし・・・」
え、いやいや、サラはおうちに帰りたいんじゃないですっ! 違うんですよ!!
「ふみゃあ!」
「サラちゃん?・・・うわっ」
ジタバタと暴れて、副隊長さんの手を抜け、栗色の髪の騎士さんの頭を蹴り、
お店の出窓の屋根に駆け上がりました。
もぉ、帰らないったら、帰らないんですっ!
「って! こらー、いたずら娘! 降りてこいって、サラちゃん!」
栗色の髪の騎士さんが言うけど、背中を向けて、聞こえないふりです。
副隊長さんが、そんな姿を見て、クスクス笑っているみたい。
「エド、どうやらサラちゃんのご機嫌を損ねたようだよ、ホラ、知らんぷりしている」
「副隊長~、せっかく家に返してやろうとしているのに、なんでだー? サラちゃん~」
あ、栗色の髪の騎士さんは、エドさんなんですね。
エドさんってば、よけーなお世話ですもんっ! もお、知らないっ!
「しー、エド、見てごらん。サラちゃんのしっぽ・・・」
笑いをこらえながら副隊長が指差したのは、背中を向けて知らんぷりしている仔猫のしっぽ。
でも、話に反応して、ぴこぴこと動いている。
「なるほど、云う事を聞く気はないが、気にはなっているんですね。」
笑いをこらえながら、心配そうに動く仔猫のしっぽを可愛く思った。
わ、我が儘なのは、わかっているもん。でもでも、お姉ちゃまの処に行けないままで帰るのは、ヤなのっ。
知らん顔しちゃって、副隊長さんも、エディさんも、怒っちゃったかなぁ。
どうしよう、嫌われたら、やだな・・・。
二人の反応が、すごく気になるケド、なんだか、もう、振り向けないのっ!
「サーラちゃん、降りておいで。 おうちに帰りたくないなら、行きたいところへ連れて行ってあげるから」
え? 本当に、連れて行ってくれるの?
そおっと後ろを振り返ったら、両手を広げて、副隊長さんが屋根の下で待っていてくれた。
「大丈夫、副隊長と俺がいれば、この街のどんなとこでも連れて行ってやるから、降りてきな?」
エドさんが、ニコニコしながら副隊長さんの後ろから声をかけてくれる。
にじにじと、屋根の端まで寄って、体を伏せ小さくなってみた。
二人共、怒っていませんか?
我が儘をいっぱいしてしまったんですが・・・
うう、考えたら、だんだん叱られそうな気がしてきたっ!
「・・・ぅみぃ~・・・」
「ん? 私も、エドも怒っていないよ。だから、降りてきて抱っこさせておくれ、サラちゃん」
私の心配そうな様子をみて、声をかけてくれた。
副隊長さぁん、すごい優しい~。うにゃぁ、我が儘でごめんなさいぃ。
笑顔で、怒っていないよと言われたからには、覚悟を決めて副隊長さんの処へ飛び降りました。
まあ、叱られても、自業自得ではあるんですが。
「よしよし、お帰り。さて、後はサラちゃんが何処へ行きたいのか、だね。」
腕の中に戻った私を、副隊長は、優しく撫でながら声をかけてくれます。
でも、何処へ行きたいかを、どうやって知らせたらいいでしょう? 今は、猫の言葉しか喋れないんですよぉ。
「んじゃ、ベルに来てもらいましょう。あいつは、面倒見がいいですからね。」
エドさんは、そう言うが早いか、鋭い指笛を鳴らした。すごい音! びっくりして副隊長さんにしがみつきましたよ。一体、誰が来るんでしょうか? ちょっぴり心配です。
再び、キスリング執事 >
荒々しい靴音と共に、アレクお嬢様の婚約者、ウォルフ様がいらっしゃいました。
騎士学校の制服のままで、榛色の髪をかきあげながら、深い緑色の瞳が微笑みながら、いらっしゃると同時に、用件をきりだされます。
「よう、キスリング。サラが、いなくなったって?」
「ウォルフ様、来てくださったのですか! ありがとうございます。飲み物でもご用意しましょうか?」
いくら主人不在とはいえ、お身内を玄関先で応対するのは、如何かと思われます。
しかし、そこは、ウォルフ様ですから。
「いや、状況がわかり次第、すぐに学院の方へ行って、俺からアレクに説明しておくよ。
でないと、アイツが切れる。暴走したら、目もあてられないからなぁ。」
と笑顔で、もてなしを断られました。
となれば、昼過ぎからお姿が見えないこと、気づいてから、邸内および、周辺を探したがお姿がなかった事をお伝えします。小さいとはいえ、サラ様は行動力がおありなので、心配です。
一体、どこまで行かれたのでしょうか。
「とうとう我慢できなくなったかな、サラは。」
と、書斎に開かれていた魔法書をご覧になりながら、微笑まれます。
ウォルフ・アーティファクト様は、アレクサンドラ様のお爺さま同士が決められた許婚者で、生まれた時からの御縁があります。
旦那様が、逃亡、いえ、遠出されることが多い為、何かと仕事で多忙なアレクお嬢様の良き相談相手となってくださる大変に頼りになる方なのです。今は騎士の学校に行かれてアレクお嬢様とは別の学校となりましたが、お休みの時には、マメに当家に顔を出してくださいます。
そのため、サラ様も、大変に懐いていらっしゃいます。
・・・まあ、説明が長くなりましたが、現在、当家のお子様がたが暴走した場合、止められるのはウォルフ様だけでしょう。多分、旦那様にも・・・無理です。
「キスリング、もし、サラが戻ったら連絡をくれ。
どうせ、大好きはお姉ちゃんと、お兄ちゃんに会いに行ったんだろうから、学院へ行く道すがら、サラが迷ってないか探しながら行ってみる」
「ありがとうございます、ウォルフ様」
「いや、連絡を貰えて、助かったよ キスリング。そろそろアレクの様子も見に行かないと、カールが大変だろうとは思っていたしな」
笑って答えるウォルフ様。本当に頼りになる許婚者様です。
「じゃ、後は頼むな! ちゃんとサラは連れて帰るから」
来たとき同様に素早くお帰りになるウォルフ様が、
帰り際「おてんば娘め、見つけたら説教だけじゃすまさないぞ」と呟いていらっしゃたのは、私の心の中に留めておきます。・・・サラ様、お早いお帰りをお待ちしております。
保護者、増殖中。
ぶらり旅の同行者も増えます。よかったね、サラちゃん。




