2-8. 二人の少女及び、裏方による、お茶会の反省会
お、遅くなりましたっ!!
ちょっと多めにしましたっ!!(泣
コルネリアは、お茶会の会場に戻る廊下を歩きながら、その軽やかな薄紅のオーガンジーのドレスに似合わないため息が出た。
「ああ、もう、何をやっているのかしら、私!」
コルネリアがお茶会の最中に見つけた仔猫は、どうやら王族の方々がお気に入りの仔猫だったらしい。
だから、王宮の中庭にいるのも当たり前だし、お茶会の会場にいるのも当たり前。
それを、わざわざ引っ張り出してしまったのは、どうなのか?
「「いいわけ、ナイ・・・わよね」」
あれ、声が重なった?
一体誰が・・・と周りを見回せば、お茶会の会場への廊下の反対側に、若草色のドレスの令嬢が居て、こちらも茫然とこちらを見ていた。
「あ、あの、大変に失礼を」
「いえ、わたくしの方こそ、つい繰り言を・・・」
「わかりますっ!もう、どうしようもないって解っていても、つい・・・」
「「言っちゃうんですよねー」」
あ、またかぶった。二人でクスクスと笑ってしまう。なんだか彼女とは気が合いそうだな。
「失礼を。私、ユージェニー・フォン・レビンスと申しますの」
「あ、私は、王立学院 2年のコルネリア・ブルームと申します。どうぞ、宜しく!」
綺麗な会釈に、うっとり見惚れて、私の方がちょっと挨拶が遅れてしまった。
ああ、ユージェニー様の優雅な挨拶に、がさつな私の返礼・・・くぅっ、女子力の差を見たわ!
何が悪いのかわからないけど、女子力全般が足りないことは、わかったっ!!(涙
どちらともなく笑い合って、少しずづ話す内に止まらなくなり、空いているサロンでおしゃべりをすることにしたのだった。
落ち着いた応接室で座り心地のいいソファに、美味しいお茶にお菓子。そして楽しいお喋り。
うん、本来のお茶会の目的を達成した気がするっ!
いや、出席者のとしての本来の目的は、お茶とお菓子じゃなくて、婚活がメインなハズなんですが、まあ、いいでしょう!…多分。
「先ほどコルネリア様は、どうして溜息をついていらっしゃったのですか?」
優雅な所作でお茶を飲むユージェニー様をうっとりと見ていたら、視線に気づいたのか微笑みながら尋ねられた。
「う…あの、お茶会でちょっとした失敗をしてしまいまして、それに仔猫の事も…」
お茶会の席で、テーブルに後頭部を強打するのが、ちょっとした失敗かどうかは置いて於いて、仔猫ちゃんは、どうしただろう。
「仔猫、ですか?」
ユージェニー様が、目を見開いている。あ、やはりお茶会の会場に仔猫がいるって、不思議ですよね。
「ええ、「ミルクティのような毛色をした、仔猫」」
ここでも被るかいっ!
えー、ユージェニー様も見つけたんだ、あの仔猫ちゃんっ!!
「ちなみに、どちらでご覧になりました? 私は木の上にいたのですが」
「私は、テーブルの下にいたところを…」
おっと危ない、黒歴史を広めるところだった。あくまでも見ただけで、テーブルに頭を突っ込んで強打したことは内緒にしたい!
ええ、見栄っ張りですが、何か!?
「まあ、よく見つけられましたわ、コルネリア様。私など木の上で鳴いていたので、気づいた位ですのに!」
「木の上ですか、いつの間に」
確か、一緒に控室に連れて行ったハズだが、いつの間に抜け出したんだろう。
うーん、マディウス様も振り回されているんだろうなぁ。でも、仔猫に振り回されるのは楽しそうだ。
思わず、顔が綻んでしまうわ。
仔猫の事を考えると、にまにましちゃうんだよねー。
「でも、思わず私が声をあげてしまった為に、殿下とお付きの方が気づいてしまって…」
「あー、私の方も、テーブルの下に居たところを従者の方が見つけられて…」
仔猫ちゃん、いろいろとやらかしているみたいだ。
となれば、
「「仔猫ちゃん、叱られていないといいんですが」」
うん、ここは揃うよねー。
多分、今頃叱られているであろう、仔猫ちゃんを思って二人で溜息をついた。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「ナサニエル殿下、今日のお茶会の件の報告が上がっております」
「ああ、早いな、ではお茶でも飲みながら聞こうか」
今日のお茶会は盛況の内に終了し、参加者も会場を離れた。
出席者に挨拶をすませた時点で、サラを回収して会場から出たナサニエルは、さっさと自分の部屋へ戻り溜まっている仕事を片づけていた。
元々、予定にないお茶会などをしたせいで、余計な仕事が増えたと、自分付きの側仕えからは文句が上がっている。
たまには、息抜き位させてくれてもいいだろうに。
しかし、そう言うと、側仕えのヒューゴに
「殿下は、殆どが息抜きではありませんか!」
と返された。
うむ、否定はしないがな。
ナサニエルの側仕えがテキパキとお茶の準備をして、薫り高いお茶を2客のカップに注いでいく。
普段はメイドがするような仕事だが、執務室には部外者は基本入れないし、ナサニエルの飲食するものについては、側仕えが整えることにしている。
側仕えの彼が用意しているのは、ナサニエルの分と、報告にきたアーノルドの分お茶だ。
今回、アーノルドはお茶会の準備から目を光らせ、不備や不審者がいないか監視していた。
結局、ナサニエル殿下の予想通りの結果が出たと、報告をするのは、なんとなく釈然としないが、これも仕事である。
「今回のお茶会で、直接的に仕掛けてはきませんでしたが、カトラリーの一部にすり替えた形跡がみられました。
すり替えられたものに付着していた毒物も死に至るレベルのものではありませんが、
気分は悪くなりますね。
また、小さい嫌がらせとしては、クロスなどに血のような染みをつけたもの、テーブルに小鳥の死骸…というところでしょうか。」
「ふうーん、毒物とは結構、本格的だね。
そんなに王太子妃の座に色気を出しているのかねぇ、あの連中は。今回のは警告というところか。
あとの方は、随分と子供っぽいな。学生の嫌がらせレベルだ。」
やはり、とは思っても気分のいいものではない。
彼らにしてみれば、自分の望まない王太子妃が立つのであれば邪魔するぞ、という脅しも兼ねているのだろうが、毒物まで使うのはやりすぎだ。
ナサニエルは、挨拶以外に特定の令嬢に声をかけたりはしていないが、今回集まった中に王太子妃、または愛妾となる可能性があるものがいるのなら、今回のお茶会を失敗させて、令嬢たちを尻込みさせようとでも、思ったのだろう。
あいにく、その程度はこちらも想定範囲内だ。
「うーん、やはり、夜会をやるしかないな。
そこで、過激な手段を使う連中を、さっさと片付けてしまおう」
「…承知いたしました。 では、出席者はお茶会と同様でよろしいですか?」
たかだか、噂レベルで王宮内が大騒ぎになったことから、本格的に王太子妃探しをする前に、過激な手段に出そうな反対派の貴族や商人を特定し、牽制することにしたのだ。
国内で、王太子妃候補が次々と倒れたり、辞退するなどしたら、外聞が悪い事この上ない。
「そうだな、夕刻からの開始にして未成年も招待することにしよう。
なんだか面白そうな子も居たしね。」
「からかうのも、ほどほどにしておいてくださいよ、殿下」
今回、サラちゃんと絡んだ令嬢たちは、かなり面白かった。
テーブルの下に頭を突っ込んでみたり、ドレスのまま木に登ろうとしたりとなかなかに個性豊かだ。
折角だから、どんな子か話をしてみたいものだ。
「で、クロスの染みや、テーブルの小鳥の死骸を見つけてくれたのは、サラちゃんだろう?
今は、どこにいるんだい?」
「…隣の部屋でエドから説教中です」
あー、それは悪い事をしたな。
今回の事でいろいろ見聞きした状態で、部屋に戻れと言われても素直に聞けるものじゃないからなぁ。
戻りなさいと言ってはみたものの、すぐには戻らないだろうな、と思ったら案の定だった。
本当は挨拶を適当に切り上げて、サラちゃんをそっと探しに行こうと思ったら、エドに見つかって一緒に探す羽目になり、木の上のサラちゃんを見つけたエドの笑顔で怒っている姿が印象的だった。
「あんまり叱らないでやってくれ、保護者さん」
「…善処しましょう」
報告も終わり、優雅にお茶を飲みながら会話する大人たちは、こちらも、仔猫を思って小さく溜息をついたのだった。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
「サーラー!」
「うみゃあ…」
エドのお膝に抱っこされて、仔猫の姿から、小さな女の子の姿に戻ったサラはひたすら困っていた。
このお茶会が始まる前に、
「今回はこの間、サラをバスケットごと盗もうとした怖い人も来るかもしれないので、一人で動いてはいけないよ」
っと注意をされていたのだが、結果は、好き勝手に歩き回り、出席者に心配をされ、保護され…最後は、ナール殿下に保護された…。状況としては、最悪だったりする。
「危ないから、一人で歩き回ったらダメって言ったよな?」
「…はぁい」
だってだって、お部屋で一人で居たくないんだもん。みんな忙しくて、サラつまんないもんー!
「ちゃんと言いつけは守るの! 心配するだろう!」
「でも、お部屋、戻ろうとしてたんだもん、ちょっぴり寄り道しただけだものー!」
少しばかり言い訳をしてみることにした。怒られてばっかりでは、なんか悔しいし。
不満そうにエドを見上げたら、「めっ!」て叱られたー。
「言いつけをちゃんと守れないなら、今度からお留守番させるぞ。」
「・・・や、やだぁ」
みんなお出かけしているのに、一人だけお留守番とかって、ひどすぎるー!
でもでも、エドは厳しい顔でサラを見るから、怒っているのも、わかるから。お膝の上で小さくなってしまう。
「今はね、怖い人も近くにいるから、サラが一人で歩くのはとっても危ないんだ。
だから、俺たちがいいと言うまでの間だけは、絶対に一人では出歩かないこと、いいね!」
「はぁい、ごめんなさい」
おでこをコツンってされて、念を押されてしまいました。
これで、今度この言いつけを破ったら、特大の雷とお仕置きが待っていることでしょう。
き、気をつけようっ!
「エドぉ、ナールさまも危ないの?」
「ん? どうしてそう思った?」
「だって、見ていたから・・・」
あの会場で、嫌な感じの視線が見ていたのは、サラじゃなくて、ナール様だった。
憧れとかで、うっとり見ているのではなく、ねっとりした粘着質の嫉妬とも違う、何かあったら足元をすくってやろうとする嫌な感じのする視線。
「ナールさま、大丈夫かなぁ」
「もちろん、大丈夫だよ。アル兄さんも、ウォルも付いているだろう。みんなが守ってくれるからね」
エドがにっこりと笑って、軽く宥めるように背中をさすりながら抱っこしてくれた。
抱っこしてもらっていると、少し怖い気持ちがなくなって、あったかくなる。
ナール様は、誰かに抱っこしてもらって、よしよしってしてもらえるのかな。
今度会ったら、サラが、「いい子いい子」ってなでてあげよう。
そんな事を思いながら、お茶会の日は終わったのだった。
ナール様は、サラにとっては気のいい近所のお兄さんレベルですねぇ。
こんな小さい子を愛妾にすると言うことになれば、若紫計画かい!(笑