2-7. 花いっぱいのお茶会 その3 (暗殺風味)
サラちゃん、実は頑張っていたという話。
サラちゃん視線のお茶会です。
いつも使っている控えの間をそっと抜け出しました。
なんとなーく お見合いのような雰囲気の二人を置き去りにして、サラはお茶会の会場へ戻ることにしました。
拗ねているわけではありませんよ、このままだと、マディに叱られますしね!
とりあえず、この辺の話は、後回しにしましょう。
怒られるなら、一回で済ませたいですしねー。
…アル兄ちゃまや、エドが怖いからじゃありませんよ!
仔猫の姿は便利です、小さいところや、狭いところもスイスイ歩けます。
最近、へんたいさんがお部屋に仔猫用の扉を作ってくれたので、もっと出入りがし易くなりました。
うん、いいよねー!
フカフカの絨毯の上を歩きながら、ナールさまにお願いされたことを思い出します。
「サラちゃん、お茶会が始まったら、会場を見て回ってくれるかい? そして、…そうだな、サラちゃんが嫌いな人がいたら、そっと私に教えてくれないか?」
少し、ためらいながらナールさまが言ったお願いごと。
サラが、嫌いな人…。それは、サラの大好きな人をいじめる人です。
お姉ちゃま、お兄ちゃまたち、エド、おうちのみんな、へんたいさんに、マディ、王妃さまに、ナールさま。エルも。
王宮に来るようになって、いっぱい増えました。
お姉ちゃまが、一生懸命に用意したお茶会に、そんな人が来ているとは思いたくありません。
ナールさまを、傷つけようとする人がいるなんて。
お茶会の会場も、お庭も、明るい光に包まれて、嫌な空気の欠片も感じられません。
その中に、静かにナールさまと、へんたいさんをじっとりとした視線で見ている人がいます。
見ているだけです。表は、みんなとなかよくお話しています。
でも、明らかに他の人とは違う何かをまとっています。
何が違うのか、サラにはわかりません。
でもでも、サラは、あの人が嫌いなんです!
いろいろな人に、笑顔であいさつをしているナールさまの足元に、こっそりと後ろから近寄ります。
女の子のドレスを隠れ蓑に、そおっと、そおっと。
ナールさまの足元に、すりすりします。ナールさま、気が付いて?
すりすりしたのに気が付いたのか、ナールさまが、そっと視線を、足元に落としてくれました。
「にゃあ」
と小さく鳴いて、サラの嫌いな人がいたことを知らせます。
ナールさまは、ちょっと困ったようにほほ笑んで。唇だけで「ありがとう」って言ってくれました。
その後は、「控えの間に戻っていなさい」って。
…やー、ですもん。サラは、ここにいるんですー!
意思をこめて、がっちりと爪を立ててナールさまのお靴にしがみ付いて見せました。
ここまで来てお部屋にいなさいとか、やーですよ!
ナールさまは、ちょっと目を見開いて、笑顔。
「サラちゃん、アルを呼ばないと、ダメかい?」
…! そ、それは、反則です!ずるいですっ! アル兄ちゃま恐いの知っているクセにっ!!
上目づかいで抗議すると「だーめ、戻りなさい」と言われました。
ナールさまは、どんなに甘えても「ダメ」の時は、決定を変えてくれません。
ううう、お部屋に戻るの、やなのにー。
しょんぼりしながら、ナールさまのお靴から爪を外します。
来た時同様、こっそりとドレスの陰に紛れてお部屋を抜けて、中庭に出ます。
なんとなく、そのままお部屋に戻るのも悔しいので、中庭の木に登ってお茶会を眺めることにしました。少しくらいは、いいよね? と言い訳をしながら。
ナールさま、大丈夫かなぁ。
木の枝に体を落ち着け、しっぽをクルリと丸めて小さくなる。
ちょっとため息。 ここにいる人は、ナールさまが嫌いかしら。ナールさま、やさしいのに。
泣きたい気持ちで、会場を見つめていた。
陽を浴びてキラキラするケーキスタンドは、エドとマディがせっせと磨いていました。
可愛いお花が飾られた小さいケーキや、マカロンは、お姉ちゃまと王妃さまの侍女さんが選んだものです。可愛いけど食べてもおいしいのよ? サラも、ちょこっと貰食べさせて貰ったんです。
みんなが楽しくお茶会できるように、アル兄ちゃまも、ウォル兄ちゃまも、会場にいて目を配っています。
それを壊して、傷つけようとしている人がいるって、やだなぁ…。
ちいさく「みぃ…」と鳴いてしまいました。
「仔猫ちゃん、降りられないのかしら?」
女の人の可愛い声がします。ふぇっ、心配されましたか!?
「困ったわ、ドレスのままでは木に登れないし。人を呼んでは大事になりそうだし…」
うわぁ、お姉さん、その綺麗な若草色のドレスで木に登るとか言わないで!
大丈夫です、サラはちゃんと降りれますからっ!!
サラが、にぃにぃ鳴いたのを降りられなくて困った声と勘違いしたのか、お姉さんがもっと心配をしてくれます。
こ、これは、まずい展開です。
サラがお部屋に戻っていないのが、バレバレです。
こんな綺麗なお姉さんが、木に向かって喋っている姿は、きっと目立つハズ。そしたら…
「失礼、ウチの仔猫が何かご迷惑を?」
その余所行きの笑顔は、サラもあんまり見た事がありませんよう。
そして、黒い笑顔が怖い、怖いんですー!
「サラ、降りておいで。降りられるよね?」
そこには、キラキラ王子様笑顔のナールさまと、ステキな余所行き笑顔のエドがいました。
…悪くないもん、サラは悪くないもーんっ!!
そうやって、なんとなくサラには嬉しくない状態で、いつの間にかお茶会は終わっていたのだった。
まあ、結局、年長組はサラが気になって、危険人物も、どうでもよくなったという…。サラには、弱いからなぁ。
サラちゃんは、…まあ、叱られてください(笑