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ミルクティ色の仔猫の話  作者: おーもり海岸
2. はじめての舞踏会
33/72

2-6. 花いっぱいのお茶会 その2 (ガール ミーツ仔猫&・・・風味) 

お、お待たせしました! いろいろな意味で頑張りましたっ!!

「ごきげんよう」

「ごきげんよう、今日はいいお天気でよかったですね」


人が集まりだしたお茶会の会場では、和やかな挨拶が交わされていた。


今日の出席者は、ナサニエル殿下と、ノルベルト殿下の選ばれた貴族の子女たちだ。

選ばれた基準は定かではないが、年頃と言われる者が大部分を占めている。

しかし、お茶会なので、16歳に届かない子女も招待客には居て、「初めまして」の挨拶も会場ではかなり多く聞かれた。


「は、初めまして、アレクサンドラ様、

 私、王立学院の2年におります、コルネリア・ブルームと申します」

「まあ、学院の方ね、嬉しいわ。コルネリアさん、今日は楽しんで行ってくださいね」

緊張して固くなりながらも、一生懸命に挨拶をしてくれる後輩に、アレクは笑顔で挨拶をかえした。


白い肌によく映えるオレンジのドレスは、裾にドレープをたっぷりととっているが、上半身は、シンプルにして、肩から胸にかけて同色のレースの花をいくつも付けている。

そして、ゆったりと編んだ銀の髪には、ペールイエローとオレンジのグラデーションのレースの花を編み込んで午後のお茶会らしく、可愛らしく仕上げている。


このレースの花はアレクに構ってもらえなかったサラが、ムキになって作った特製のコサージュで、実は魔法陣が幾つか編み込んである特製の品だ。


なんの魔法陣を編みこんだのか、知らされていないが、使わないで済んだらいいのだけれど。

アレクは、人には知られないように、そっと溜息をついた。



☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡




薄紅色のオーガンジーを重ねたフワフワのドレスを着たコルネリアは、「憧れのアレクサンドラ様」への挨拶が済んで、ほっとしていた。

挨拶の人混みを避けて、中庭に設えられた奥の方のテーブルに、なんとか逃げ込んだのだった。


「や、やっぱり、この格好は子供っぽかったかしら。アレク様、素敵だったしー。他の人も・・・

 ああ、もっと大人っぽいドレスにすればよかったかなぁ。・・・似合わないけどね」

既に挨拶は済んでいるので、取り返しのつかない後悔だけが押し寄せてくる。

解っているけど消化しきれないのが乙女心なの! 

見栄っぱりと言わば言え! 憧れの人には、可愛い後輩ねって思われたいのよぉ!!


表面上は変わらないように心の中で叫んでみた。少しは発散できたかしら。

はあ、と溜息をついて、テーブルの下に目を落とした。


「ちょっとお茶でも飲んで、落ち着こう、私」

テーブルに目を移そうとして、気づいた違和感。


…目線の先にあるのは、小さい…しっぽ?


 えぇっ!?


ピコピコと動く小さなしっぽ。多分これは、仔猫のものかしら。

どこかから会場に紛れ込んでしまったのかな。このまま人が増えてきたら踏まれちゃうかも。


「ど、どうしよう。」

迷っているうちに、小さなしっぽは、真っ白なテーブルクロスの中に消えていった。


茫然としていると、今度は、ひょっこりと頭が出てきた。首に巻いたオレンジ色のリボンが可愛い。

ん? オレンジ色??


アレク様のドレスと共布ともぬのじゃないかしら、あのリボン。


戸惑っていると、仔猫とバッチリ視線があった。

あ、仔猫の方も固まっている。


「えーと、仔猫ちゃん?」

そっと手を出すと、びくりとして、慌ててテーブルクロスの中に逃げ込んでしまった。


ああ、脅かしてしまったかな。

ドレスを着ているのも構わず膝をつき、そっとテーブルクロスを持ち上げて、なるべく穏やかに声をかけてみる。


「仔猫ちゃん、こっちにおいで。そこだと誰かに踏まれてしまうから、ね?」

脅かさないように、ゆっくりと手を出してみる。


テーブルクロスの中で縮こまっていた仔猫が、こちらに興味をもったらしい。

少し戸惑っていたようだけど、やっと近づいて来てくれた。


「大切なしっぽが踏まれたら、大変だもんね。中のソファーに行こうか…」

そうっと、仔猫を抱きよせて、ほっとしていた時だった。



「失礼、どうかされましたか、レディ?」


背後から、というか上からイケメン・ボイスが振ってきた。その声に驚いて慌てて立ち上がり…。


ゴン ☆


美しいお茶会には、ありえない音が響き渡った。目から火が出るって、こんな感じか…。


そうだった、私はテーブルの下に頭を突っ込んでいたんでした。後頭部を強打して声も出ない私、

でも、仔猫はちゃんと抱っこしていました!


王宮のお茶会で、ドレス姿のままでテーブルに頭突っ込んでいる令嬢って、多分前代未聞よね。

そして、私はできれば消えてなくなりたい…。


「ああ、失礼しました! 私がサーブの途中にテーブルをぶつけてしまいまして、大変に失礼を!」

イケメン・ボイスの彼が、声高に説明をする。


え、いや、私がぶつけたんですよ、…頭を。


しょんぼりする私に、長身の彼はそっと身を屈めて、ささやいた。


「大丈夫、誰も気が付いていませんよ。さ、こちらへどうぞ」

にっこりとほほ笑むイケメン・ボイスの姿を、この時 ようやく ちゃんと見た。

…この方、ノルベルト殿下の従者さんだよね。


緩やかな巻き毛は少し長いのかな、後ろへきれいに撫でつけている。きれいな額にやさしい蒼い瞳で、口元にはやさしい微笑を載せている。

うーん、貴公子って言葉がよく似合うわー。


うう、見上げていると、後頭部が地味に痛い。

すると、従者さんは目線を下げた私に手を差出し、そのままエスコートをしてくれるらしい。


「そのままで、無理をなさらないで下さい。なんでしたら、抱き上げて…」

「絶対に、歩きます…っ!!」

力こめて言い切ったら、痛みが…。


身分の話をすれば、私はしがない男爵令嬢だ。

でもでも、殿下方の従者ともなれば、ご自身が子爵以上の爵位を持っている場合も少なくない。

ゆくゆくは、伯爵以上の家を継がれる、いわばエリートだ。


なんで、そんな人がエスコートしてくれてるのかなぁ。

うう、頭が痛くてあんまり考えられない。絶対、これはタンコブができている!


…王宮のお茶会でタンコブ作って帰ってくる令嬢って、ダメよね、やっぱり。


「大丈夫ですか、打ったところ、痛みますか?」

さりげなくお茶会の会場から、奥向きの控室へ誘ってくれた。

こちらから中庭は見えるけれど、向こうからは立木が邪魔して見えないようだ。


若草色のソファセットに座るように言われて、そっと辺りを見回した。頭を動かすと、結構痛いのよ。


わー、なんか可愛い部屋! オフホワイトの壁紙には、小花が散っていて、調度品もいいものなのだろうが主張しすぎない上品さがある。オーク材のカフェテーブルの上には可愛い花籠が飾られていた。


「痛かったら、言ってくださいね。少し触りますよ」

「…っつ!」

冷やしたタオルを先ほど盛大に打ち付けた処にあててくれた。

最初は、少し痛かったけど、今は気持ちいい〜。


「…まだ、痛いですか?」

「い、いえ! 大丈夫です。ありがとうございました!」

心配そうに覗き込んでくる従者さん。

ち、近い、近いよっ これでも私一応、貴族令嬢なんで、男子に慣れていないんですよっ!

真っ赤になりながら、御礼を言って後退りしてみた。うん、ソファーに深く座っただけでした。


抱っこしている仔猫が、心配そうにすり寄ってくる。

「心配してくれるの、ありがとうねー」


嬉しくなって、撫でていると

「…仔猫ちゃんは、こちらでお預かりしましょうか」

笑顔なんだけど、なぜだろう幾分怖い。


それに反応したのか、仔猫も私にしがみ付いてくる。 一体、どうした?

あいたた、爪、爪が食い込んでくるよ、仔猫ちゃん!


「お嬢、お姉さんが困っているでしょう。いい加減になさい」

幾分低い声で、従者さんが仔猫に話かけていた。少し怒った声は迫力がある。


「みぃ〜」

小さく鳴いた声が、可愛い〜! 叱られてしょんぼりしている感じかな。爪も閉まってくれた。

あれ、従者さん、仔猫ちゃんを知っているのか。てか、王宮の仔猫?

片手で仔猫を抱き、片手で濡れタオルを頭に当てたまま、ぼんやりと従者さんを見上げていた。

い、いかん、かなり間抜けな顔をしている私!


従者さんも、気まり悪そうに目線を外した。

ああ、失敗…。


「…大変に失礼をしました。私は、ノルベルト殿下の従者で、マディウスと申します。

 レディ、よろしかったらお名前をうかがっても?」

少し照れながら、自己紹介をしてくれた。そっかー、マディウスさんっていうのか。


「わ、わたくし、王立学院 2年のコルネリア・ブルームと申します。ブルーム男爵の娘です」

声が上ずった。印象最悪かもなー。


学院の中でも滅多に会えないイケメンを相手に、この始末。

人様の婚活を眺めながら、美味しいお菓子を食べて来よう〜♪ なんて気楽に思っていたから罰があたったと思うべきなのか!


これが、私と、仔猫ちゃん、マディウス様の初対面だった。


…もう少し、いい初対面したかったとか、今更遅いよね?



お茶会が…遠い。(涙

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