2-6. 花いっぱいのお茶会 その2 (ガール ミーツ仔猫&・・・風味)
お、お待たせしました! いろいろな意味で頑張りましたっ!!
「ごきげんよう」
「ごきげんよう、今日はいいお天気でよかったですね」
人が集まりだしたお茶会の会場では、和やかな挨拶が交わされていた。
今日の出席者は、ナサニエル殿下と、ノルベルト殿下の選ばれた貴族の子女たちだ。
選ばれた基準は定かではないが、年頃と言われる者が大部分を占めている。
しかし、お茶会なので、16歳に届かない子女も招待客には居て、「初めまして」の挨拶も会場ではかなり多く聞かれた。
「は、初めまして、アレクサンドラ様、
私、王立学院の2年におります、コルネリア・ブルームと申します」
「まあ、学院の方ね、嬉しいわ。コルネリアさん、今日は楽しんで行ってくださいね」
緊張して固くなりながらも、一生懸命に挨拶をしてくれる後輩に、アレクは笑顔で挨拶をかえした。
白い肌によく映えるオレンジのドレスは、裾にドレープをたっぷりととっているが、上半身は、シンプルにして、肩から胸にかけて同色のレースの花をいくつも付けている。
そして、ゆったりと編んだ銀の髪には、ペールイエローとオレンジのグラデーションのレースの花を編み込んで午後のお茶会らしく、可愛らしく仕上げている。
このレースの花はアレクに構ってもらえなかったサラが、ムキになって作った特製のコサージュで、実は魔法陣が幾つか編み込んである特製の品だ。
なんの魔法陣を編みこんだのか、知らされていないが、使わないで済んだらいいのだけれど。
アレクは、人には知られないように、そっと溜息をついた。
☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡
薄紅色のオーガンジーを重ねたフワフワのドレスを着たコルネリアは、「憧れのアレクサンドラ様」への挨拶が済んで、ほっとしていた。
挨拶の人混みを避けて、中庭に設えられた奥の方のテーブルに、なんとか逃げ込んだのだった。
「や、やっぱり、この格好は子供っぽかったかしら。アレク様、素敵だったしー。他の人も・・・
ああ、もっと大人っぽいドレスにすればよかったかなぁ。・・・似合わないけどね」
既に挨拶は済んでいるので、取り返しのつかない後悔だけが押し寄せてくる。
解っているけど消化しきれないのが乙女心なの!
見栄っぱりと言わば言え! 憧れの人には、可愛い後輩ねって思われたいのよぉ!!
表面上は変わらないように心の中で叫んでみた。少しは発散できたかしら。
はあ、と溜息をついて、テーブルの下に目を落とした。
「ちょっとお茶でも飲んで、落ち着こう、私」
テーブルに目を移そうとして、気づいた違和感。
…目線の先にあるのは、小さい…しっぽ?
えぇっ!?
ピコピコと動く小さなしっぽ。多分これは、仔猫のものかしら。
どこかから会場に紛れ込んでしまったのかな。このまま人が増えてきたら踏まれちゃうかも。
「ど、どうしよう。」
迷っているうちに、小さなしっぽは、真っ白なテーブルクロスの中に消えていった。
茫然としていると、今度は、ひょっこりと頭が出てきた。首に巻いたオレンジ色のリボンが可愛い。
ん? オレンジ色??
アレク様のドレスと共布じゃないかしら、あのリボン。
戸惑っていると、仔猫とバッチリ視線があった。
あ、仔猫の方も固まっている。
「えーと、仔猫ちゃん?」
そっと手を出すと、びくりとして、慌ててテーブルクロスの中に逃げ込んでしまった。
ああ、脅かしてしまったかな。
ドレスを着ているのも構わず膝をつき、そっとテーブルクロスを持ち上げて、なるべく穏やかに声をかけてみる。
「仔猫ちゃん、こっちにおいで。そこだと誰かに踏まれてしまうから、ね?」
脅かさないように、ゆっくりと手を出してみる。
テーブルクロスの中で縮こまっていた仔猫が、こちらに興味をもったらしい。
少し戸惑っていたようだけど、やっと近づいて来てくれた。
「大切なしっぽが踏まれたら、大変だもんね。中のソファーに行こうか…」
そうっと、仔猫を抱きよせて、ほっとしていた時だった。
「失礼、どうかされましたか、レディ?」
背後から、というか上からイケメン・ボイスが振ってきた。その声に驚いて慌てて立ち上がり…。
ゴン ☆
美しいお茶会には、ありえない音が響き渡った。目から火が出るって、こんな感じか…。
そうだった、私はテーブルの下に頭を突っ込んでいたんでした。後頭部を強打して声も出ない私、
でも、仔猫はちゃんと抱っこしていました!
王宮のお茶会で、ドレス姿のままでテーブルに頭突っ込んでいる令嬢って、多分前代未聞よね。
そして、私はできれば消えてなくなりたい…。
「ああ、失礼しました! 私がサーブの途中にテーブルをぶつけてしまいまして、大変に失礼を!」
イケメン・ボイスの彼が、声高に説明をする。
え、いや、私がぶつけたんですよ、…頭を。
しょんぼりする私に、長身の彼はそっと身を屈めて、ささやいた。
「大丈夫、誰も気が付いていませんよ。さ、こちらへどうぞ」
にっこりとほほ笑むイケメン・ボイスの姿を、この時 ようやく ちゃんと見た。
…この方、ノルベルト殿下の従者さんだよね。
緩やかな巻き毛は少し長いのかな、後ろへきれいに撫でつけている。きれいな額にやさしい蒼い瞳で、口元にはやさしい微笑を載せている。
うーん、貴公子って言葉がよく似合うわー。
うう、見上げていると、後頭部が地味に痛い。
すると、従者さんは目線を下げた私に手を差出し、そのままエスコートをしてくれるらしい。
「そのままで、無理をなさらないで下さい。なんでしたら、抱き上げて…」
「絶対に、歩きます…っ!!」
力こめて言い切ったら、痛みが…。
身分の話をすれば、私はしがない男爵令嬢だ。
でもでも、殿下方の従者ともなれば、ご自身が子爵以上の爵位を持っている場合も少なくない。
ゆくゆくは、伯爵以上の家を継がれる、いわばエリートだ。
なんで、そんな人がエスコートしてくれてるのかなぁ。
うう、頭が痛くてあんまり考えられない。絶対、これはタンコブができている!
…王宮のお茶会でタンコブ作って帰ってくる令嬢って、ダメよね、やっぱり。
「大丈夫ですか、打ったところ、痛みますか?」
さりげなくお茶会の会場から、奥向きの控室へ誘ってくれた。
こちらから中庭は見えるけれど、向こうからは立木が邪魔して見えないようだ。
若草色のソファセットに座るように言われて、そっと辺りを見回した。頭を動かすと、結構痛いのよ。
わー、なんか可愛い部屋! オフホワイトの壁紙には、小花が散っていて、調度品もいいものなのだろうが主張しすぎない上品さがある。オーク材のカフェテーブルの上には可愛い花籠が飾られていた。
「痛かったら、言ってくださいね。少し触りますよ」
「…っつ!」
冷やしたタオルを先ほど盛大に打ち付けた処にあててくれた。
最初は、少し痛かったけど、今は気持ちいい〜。
「…まだ、痛いですか?」
「い、いえ! 大丈夫です。ありがとうございました!」
心配そうに覗き込んでくる従者さん。
ち、近い、近いよっ これでも私一応、貴族令嬢なんで、男子に慣れていないんですよっ!
真っ赤になりながら、御礼を言って後退りしてみた。うん、ソファーに深く座っただけでした。
抱っこしている仔猫が、心配そうにすり寄ってくる。
「心配してくれるの、ありがとうねー」
嬉しくなって、撫でていると
「…仔猫ちゃんは、こちらでお預かりしましょうか」
笑顔なんだけど、なぜだろう幾分怖い。
それに反応したのか、仔猫も私にしがみ付いてくる。 一体、どうした?
あいたた、爪、爪が食い込んでくるよ、仔猫ちゃん!
「お嬢、お姉さんが困っているでしょう。いい加減になさい」
幾分低い声で、従者さんが仔猫に話かけていた。少し怒った声は迫力がある。
「みぃ〜」
小さく鳴いた声が、可愛い〜! 叱られてしょんぼりしている感じかな。爪も閉まってくれた。
あれ、従者さん、仔猫ちゃんを知っているのか。てか、王宮の仔猫?
片手で仔猫を抱き、片手で濡れタオルを頭に当てたまま、ぼんやりと従者さんを見上げていた。
い、いかん、かなり間抜けな顔をしている私!
従者さんも、気まり悪そうに目線を外した。
ああ、失敗…。
「…大変に失礼をしました。私は、ノルベルト殿下の従者で、マディウスと申します。
レディ、よろしかったらお名前をうかがっても?」
少し照れながら、自己紹介をしてくれた。そっかー、マディウスさんっていうのか。
「わ、わたくし、王立学院 2年のコルネリア・ブルームと申します。ブルーム男爵の娘です」
声が上ずった。印象最悪かもなー。
学院の中でも滅多に会えないイケメンを相手に、この始末。
人様の婚活を眺めながら、美味しいお菓子を食べて来よう〜♪ なんて気楽に思っていたから罰があたったと思うべきなのか!
これが、私と、仔猫ちゃん、マディウス様の初対面だった。
…もう少し、いい初対面したかったとか、今更遅いよね?
お茶会が…遠い。(涙




