2-3. 仔猫とバスケット
エドさん、受難中。
アレクさん、暴走中。
ぶんぶんと前後の揺れています。怖いくらいです!
なんで、なんでっ!
仔猫は今、お姉ちゃま特製のバスケットの中にいます。
お外が見えないので、不安でいっぱいです。どうしてこんな事になっているのでしょう。
今日は、王宮に行く前にアレクお姉ちゃまと、エドと、御用達のお洋服のお店に来ていて、サラは、バスケットの中で寝ていただけなのに。
急にお洋服屋さんに行くことになったのは、学院から帰ってきたお姉ちゃまがそう決めたからです。
「エドっ!聞いたわよ、王子主催のお茶会に出るそうねっ!!」
バーンと、大きく扉を開いてお姉ちゃまが勢いよく帰ってきました。
「ただいま、サラっ!」
と、サラを撫でてくれながらも、お姉ちゃまは追求の手を緩めません。さすがです!
「いや、その、俺がお茶会に出るっていうか、アル兄さんや、サラのおまけで・・・」
「エドは、礼服は持っていないわよね。昼のお茶会に王宮警備隊の制服てわけにもいかないし、丁度いいから、一式仕立てましょうっ! あ、小物も全部あつらえるわよっ!!」
「あの、アレク様、出席すると決まったワケでは・・・」
「決まってからじゃ、遅いのよっ!」
お姉ちゃま相手に必死の抵抗をみせていたエドでしたが、どう見ても勝ち目がありません。
後ろでカール兄ちゃまが、エドに向かって、ため息をつきながら首を横に振っていました。
それを見たエドは、あきらめたように
「よ、よろしく、お願いします・・・」
「費用は全額アル兄さまが出してくれる事になっているから、安心してね!これは経費だから!」
「・・・お任せします~」
うん、お姉ちゃまに、勝てる人ってウチにはいないから。
早速、その日のうちにお洋服屋さんへ予約を入れて、今日は仮縫いまでやっちゃいましょう!の日でした。
いっぱいのお針子さんに囲まれて、直立不動のエドです。
「あのー、・・・アレク様ぁ」
「もう少しよ、我慢しなさいっ!!」
「はい・・・」
お姉ちゃまは、洋服屋さんのご主人や、お針子さんとエドのお洋服について会議中です。
アル兄ちゃまの分も一緒に作るので、それも併せて熱のこもった会議が続きます。
「アル兄さん、ずりぃよー・・・」
アル兄ちゃまは、採寸を済ませているので、あとはお姉ちゃまが手配するんだそうです。
サラは、仔猫の姿なのでエドの周りを見て回ったり、お姉ちゃまのおひざに抱っこしてもらったりしていましたが、その内に眠くなったので、バスケットの中で寝ることにしました。
バスケットの中には、お姉ちゃまが作ってくれたふかふかのクッションと、マディがくれた手触りがいいタオルが敷いてあります。ここはおうちのベッドくらい寝心地がいいんです。
だから、バスケットに入って、気持ちよく寝ていたのに・・・。
ぐるんぐるんバスケットの中が揺れます。
一生懸命に足を踏ん張っているけれど、揺れ収まる様子がありません。
泣きたい気持ちがして、エドを呼んでみたけど返答がありません。
そうだよね、こんなに揺らして歩くなんてエドじゃないもの。
じゃあ、一体誰が…?
その答えは、すぐに解った。
ピタリと揺れが収まり、そっと地上に降ろされる気配がした。と、同時にバスケットの蓋が開いたので、思わず顔を出してみたら、
「わあ、猫だっ!仔猫だよっ!!」
「わわっ、ピンク? 金色?? へんな色ー!」
バスケットから出て見えたのは、たくさんの子供。
ここはどうやら、西地区に近い路地のようです。知らない子供たちばかりです。
次々に子供たちが、サラを撫でようと手を伸ばしてきます。
いやなのー、サラは知らない人に触られたくないんですっ!やーん、触らないでー!!
「ちぇー、なんだよ、ちびっちゃい仔猫しか入ってねーじゃんっ!」
「もっとスゲーもんが入っているとおもったのになっ、アイツ嘘つきじゃん!!」
二人の男の子たちが、腕組みをしてバスケットを見下ろしています。多分、この子達がサラをバスケットごと持ってきたんでしょう。
なんでしょう、勝手に連れてきておいて、そんな事言うなんて許せませんっ!
「はいはい、そういう事なら、ウチのサラちゃんは返してもらうからね」
無礼なことを言われて、ちょっと怒っていたら、大きな手が降りて来ました。
わーん、エドの手だ! エドーーっ!
サラをいつものように、内ポケットに入れてくれて、空いた両手では、実行犯の男の子たちをがっちりと掴んでいます。
「さて、君たちには、キッチリと話を聞かせてもらおうか?」
…その笑顔が怖いです、エド。
さっきまで男の子たちの態度に怒っていましたが、今は、物凄く同情します。こういう顔の時のエドのお説教はとっても怖いんです。
…叱られた事のあるものだけが、あの怖さを知っています、ハイ。
エドは、裏口の方で物音がした時、サラのバスケットがない事に気がついて、すぐに追いかけてきてくれたそうです。
「子供たちがよく使う路地の細い道ばっかり走ったんで、大変だったよ」
と苦笑いしていました。
それでも、ちゃんと追いついてくれて、サラを助けてくれました。
「サラちゃんも偉かったね、子供たちに爪をたてなかったんだ」
エドがよしよしと大きな手で撫でてくれました。
えへへ、褒められたー。
仔猫の爪って結構鋭いんです。ちっちゃい子に掠っても傷になっちゃうでしょう? だからね、我慢したんですよ。
連絡を受けたマディも駆けつけてくれました。
マディは、逃げようとする子供たちをがっちりと押さえ込んで、話を聞いています。
長身のマディに黒い笑顔で見下ろされ、質問されると、少年たちは隠すことなく、すべてを話してくれました。そりゃあ、エドもマディも怖いもんね。
少年たちの話によると、身なりのいい男に、「店の中にあるバスケットを持ってきてくれたら、銀貨をあげよう」と言われたらしい。
でも、銀貨をもらえる程のバスケットの中身に好奇心が勝ってしまった少年たちは、約束の場所にバスケットを持って行かず、自分たちの秘密基地へバスケットを持ち込んだというワケだった。
結果としては、その指示を出した人間に、サラのバスケットが渡らなかったのは幸いだった。
でも、サラのバスケットがほしいって言ったのは、誰なんでしょう?
なんだか、今度のお茶会はいやな予感がします。
少し犯罪風味…でした。
無事に帰れたサラちゃんをアレクさんは、抱っこしまくったそうです。
「お、おねえちゃま、くるしーーーっ!」