3. 仔猫は、飛んだ?
まだまだ、サラちゃん、ぶらり旅中。
生まれて初めて、宙ぶらりん状態になっています、サラです。
これは、決して遊んでいるわけではないんですっ!
猫の本能に従ったら、こんな風に~!!
馬車の多い大通りを駆け抜けて、なんとか馬車より人が多い道にでました。
ちょっとお休みしたくて、お店の木箱の上がりました。少しでも高いところでお休みする方が安心ですからね。
ふう、っと一息ついたら、目の前にふわりと白いものが…。
気がついた時には手がでていました。猫の本能って、すごい。
次の瞬間、グンっと体が持ち上がりました。
「ふにあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
目の前に来た白いものは騎士さんのマントで、どうやら私はそのマントを引っかいてしまったようです。爪が、ひっかかってとれません! そのせいで体ごと、マントと一緒に翻っているのです~!
ど、どおしよおっ!! 爪、とれないよおおっ!!!
大きなマントに包まれて、ぶわりぶわりと宙に放り出されそうです。
こ、怖いよう~! お、おねぇちゃまあぁぁぁぁぁ!!
「んん? 副隊長、なんか、マントに引っ付いてますよ? あれ、仔猫!?」
「に、にあぁぁっぁにあぁぁぁぁ~!」
後ろを歩く栗色の髪の騎士さんが気づいて駆け寄ってくれました。
とれないのですよ、どおしよおぉぉぉぉ!と鳴きつきます。
「ああ、爪がひっかかっているのか。よしよし、今とってやるからな。
落ち着け、落ち着け、大丈夫だから」
栗色の髪の騎士さんは、ジタバタする仔猫をよしよしと撫でながら抱っこをして、そっとマントから爪をはずしてくれた。
だというのに、サラときたら慌てて手を抜いたので、ご恩のある騎士さんの手をひっかいてしまったっ!
「っつ…、おお、怖かったな、もう平気だぞ~」
うわあぁぁ、ごめんなさい、ごめんなさい、爪たてちゃって、痛かったよね、騎士さん。
どうしていいかわからないので、傷が早く治るように祈りながら、さりさりと手を舐めてみた。
「うぉ!、なんだ、傷の心配をしているのか? いい子だな~、大丈夫、かすり傷だよ」
と、にこにこと撫でてくれる茶色の髪の騎士さん。うう、優しいですぅ。
「おや、可愛い仔猫だね。 まだ小さいな、どこから来たのかな?」
私が爪をひっかけてしまったマントの持ち主の副隊長さんも、よしよしと撫でてくれる優しい人でした。
銀の髪を後ろで一つに結わえてなんだか恐そうに見えましたが、青い瞳で微笑んでくれます。
マント、引っかいちゃってごめんなさいね、副隊長さん。
「あれ、マントを気にしていたのかい? ふふふ、平気だよ。 軍服は丈夫に出来ているからね」
マントの汚れを、気にしてウロウロしていたら、副隊長さんが、抱っこしてくれた。
「可愛いリボンだね、刺繍がしてある…“SARA”
そうか、きみはサラちゃんなんだね。贈り主は、随分と君を可愛がっているようだな、丁寧な刺繍だ」
うふふ、副隊長さん、刺繍はね、お姉さまがしてくれたんですよっ!きれいでしょう、自慢なんですっ!
「えー、残念、飼い主がいるのかぁ。迷子なら、部隊で飼いたかったのになぁ。」
騎士さん、私は迷子じゃありませんよっ! ちゃんとお姉さまと、お兄さまのところへ…。
あれ、騎士さん、ここは、ドコでしょう?
ま、迷子じゃありませんよっ! …この道を知らないだけで。
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キスリング執事 視点>
バタバタバタバタバタ・・・!
「た、大変です、執事さんっ!!」
メイドのジェシカが駆け込んで来ました。幾ら主人不在とはいえ、これはいけません。
「騒々しいですよ、ジェシカ。お屋敷内をそのように走るものではありません。」
ため息まじりに、小言をいうと、ジェシカは、しまったっ!というように頭を下げた。
「も、申し訳ありませんっ!慌てていたもので、つい・・・」
いい子なんですが、落ち着きがなくて困ります。まあ、もう少したてば、成長してくれるでしょうが。
「今度から気をつけてください。それで、どうしたんです?」
「あ、あのっ、お嬢様が、サラお嬢様がお部屋にいらっしゃらないのですっ!」
はて、今日はお庭にも出ておられない筈ですが、
「よく探しましたか? 図書室の方に行かれているのでは?」
先日も、図書室で本を読みながら、眠ってしまわれた事がありますしね。
当家のお子様方は、皆様 読書好きで、物心つかれるとすぐに本を読み、図書室に入り浸る事もしばしばで、そのままお昼寝してしまう事もあるのです。なので、私ども使用人は、お子様方がいらっしゃらない時は、一番に図書室を探すのが、お約束となっています。
「もちろん、探しました! でも、いらっしゃらなくて・・・魔法書が読みかけで置いてあるだけでした」
サラ様はまだお小さいので、一人で出かける事はありません。
しかし、このところ、なかなかお戻りになられないアレク様や、カール様をお待ちになっていて、
とうとう、待ちきれず、お迎えに出られたのかもしれません。
「外に出られたとしたら、大変です。
屋敷のみんなに声をかけて、室内、庭園、その周りなどを探すように言ってください!
私は、アレク様の許婚者のウォルフ様に連絡をとります。」
「執事さん、アレク様への連絡は・・・」
執事見習いのシルヴァが、心配そうに私を見上げてきます。
「このところ、お屋敷へお戻りになれず、かなり苛立っておられる様子ですからね。
そんな時に、直接報告を出すのは、火に油を注ぐようなものです。
まずは、ウォルフ様より、話していただきましょう。
でないと、最悪の場合・・・」
「最悪、ですか?」ジェシカが目を見開く。
「ええ、最悪、学院が、アレクお嬢様のお力で氷の城となることでしょう。」
淡々と話す、執事には、もうそれは決定事項であったらしい。
サラちゃん、どう見ても、迷子だね。 次回、ウォル義兄さま、登場です。