2-2. 仔猫専用
お待たせしました第二話です。
エドさん、頑張れっ!!
ナサニエル殿下Side>
後宮で赤い絨毯の上で、途方にくれたように小さく鳴く仔猫を見つけた。
「おや、迷子の仔猫だね、保護者はどうした?」
サラちゃんだ。
母上のところに来ているのだろうが、なぜ、こんな後宮の端へ。母上の宮からは、ずいぶん離れている。
どうやら、迷子になったらしい。
きっと今頃、保護者たちは青くなって探していることだろう。
早く連れて行って安心させてやらないとな、この仔猫のことも。
そっと抱き上げたら、すりすりと胸元に寄ってきた。どうやら、私のことも覚えておいてくれたらしい。
金とピンクを溶かしたような不思議な毛並みは、アレクサンドラが「この子は、ミルクティ色なのよ」と愛しそうに撫でていた髪の色と一緒だ。
ふわふわとした手触りで仔猫になっても、変わらないんだな、サラちゃんは。
「よしよし、覚えてくれていたんだね、サラちゃん。いい子だ」
抱っこしながら、撫でていると嬉しそうに喉を鳴らした。
…ノルベルトの事を笑えない。可愛くて手元に置いておきたいと思ってしまったではないか!
うーむ、これが仔猫の魔性というものか。
私の侍従も、仔猫が気になるようで、何かと構いたがる。
「殿下、ミルクでもお持ちした方がいいでしょうか? あ、寒いようなら、毛布でも」
「・・・ハミルよ、少し落ち着いてはどうだ?」
仔猫の動き一つにも反応して、オロオロする姿がなんとも面白い。
長いこと私に付いてくれているが、このように落ち着かない様を見たのは、初めてだ。
ふぅむ、仔猫がいると人の違う面がみえて面白いな。
そうこうしている内に、遣いを出しておいたサラちゃんの保護者がやってきた。
「ナサニエル殿下、ご連絡ありがとうございました。 サラちゃんっ!」
「みぃっ!」
挨拶もそこそこに仔猫に駆け寄ったエドに、すぐにサラちゃんは反応し、嬉しそうに駆け寄った。
・・・なんとなく面白くない。
さっきまでは、私だけの仔猫でいたものを。
「サラちゃん、怪我はないか、よしよし、心細かったねー」
「みぃ~~っ!」
エドに抱っこされている姿は、迷子になった子供が家族に会えた様によく似て、微笑ましい反面、迷子のところを見つけて縋って来た自分の時の方が、仔猫としては嬉しかったに違いない!と、変な対抗意識を燃やしていた。
うーん、このまま手放すのは、なんとなく惜しいな。
となれば、何か・・・。
ああ、丁度いい、アレの手伝いを頼もう。
この思いつきに思わず口角が上がる。人の悪い笑顔になっている自覚はあるが、隠すつもりもない。
折角だから、この企みに仔猫ちゃんと保護者たちも参加してもらうことにしよう。
☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡
エドさんSide>
「で、何を引き受けて来たと?」
細いフレームの眼鏡越しに、あからさまに不機嫌の眼差しでこちらを見ながらご機嫌麗しくない声で問いかけてくるのは、我が上司さま「アル兄さん」だ。
幾ら切れ者と評判の文官 アーノルド・アーティファクト様でも、第一王子 ナサニエル殿下のお願いを無碍に断ることは出来ませんよ、そうでしょう?
ましてや、一介の警備担当者である俺に断れっていうのは、無理すぎる・・・。
「えーと、ナサニエル殿下主催のお茶会の時に、サラちゃんも来て欲しいと・・・」
「・・・仔猫のままで?」
「・・・はぁ、そうおっしゃっていました。 アルさんや、俺にも招待状が出るそうです」
「どうも胡散臭いな」
同感ですが、はっきり言わないでくださいよ、上司さま!
「招待状が来る前に、そのお茶会については情報を集めておく。危ないようであれば、仮病でも使って欠席すればいい」
「はっ、承知しました」
てか、アルさん、仮病使う気マンマンですよね? まあ、危ないところへ行くよりはいいんですが。
ん? サラちゃんが、もぞもぞと動いている。アル兄さんの声に反応したのかな。
「アルさん、少しの間、サラちゃん抱っこしていてくれませんか?」
基本、お仕事中はバスケットの中で大人しくしていてもらうのだが、先ほどまでの迷子になって心細くなっているサラちゃんを一人にするのは、可哀想だしね。
「ああ、サラ、こっちへおいで」
仕事の手を止めてサラちゃんを抱っこしてくれる。アル兄さん、優しいよなぁ。
サラちゃんも撫でられて、嬉しそうに喉を鳴らしている。
サラちゃんは、アル兄さんのひざの上にいるのが好きらしい。
なんといっても安心感は抜群。何があっても大丈夫!って思うんだろう。
ちなみに、俺の場合は、内ポケットに入っているのが安心らしい。緊急避難用なんだけどね。
サラちゃんをアル兄さんに託して俺は、サラちゃんを「わざと」迷子にさせたヤツを探ることにした。
これからも後宮へ通うことになった場合、何をしかけてくるか解らないし、行為がエスカレートしていく危険性もあるからな。
敵を排除できないまでも、相手を知っておく必要はあるだろう。
情報を得る為に、後宮にあるノルベルト殿下の部屋に行ってみると、なにやら職人が来て作業をしていた。
「マディ、これは一体・・・」
「あー、エド、いいところに。扉の付け替え作業していたんだよねー」
「扉を? ・・・なんでまた」
「サラちゃん、この大きさでいいかなー」
と笑顔で聞いてきたのは、仔猫専用の出入り口がついた新しい扉のことだった。
もしかして、サラちゃんの出入りの為だけに、この豪華な扉を換えたのか!?
「他に、王妃さまの応接室、遊戯室と、ナサニエル殿下の応接室とかには、つけたよー、出入り口♪」
にこにこと笑顔で語るマディを見ながら、なんとも複雑だった。
「この事は、警備担当には?」
「いいやー、今、作業しただけー」
たぶん、王族の警備担当者はこれを聞いて、慌てふためくに違いない。
お前ら、なぜ、サラちゃんを逃がす方向へばかり動くんだっ!!
ああ、頭がイタイ・・・。
この状況で、サラちゃんに部屋の中でおとなしくしていてくれと言うのは、多分ナイな。
となれば、早々に今回の犯人を特定して、次に同じような事が起こらないようにしなくては。
いままでの後宮とは少し違った、何かが変わる気配に、後宮にいる人々も心がざわめいているのかもしれない。
まもなく王太子のお茶会が催される。
それは、後宮に新しい女性が入る可能性を示している。
そして、ゆくゆくは後宮の主となる人が決まる可能性も。
「面倒なお茶会になりそうだな・・・」
サラちゃんが後宮にいる。この時期に色々と起きそうな事態に頭を悩ませるのだった。
猫用の扉から出入りする姿がかわいくて・・・っ!
犬用の扉ってないのかしらねー。でかすぎか(笑