23. 仔猫は、女神さまと
第一章のラストになります。
よろしくお願いしますっ!
引き続き、エドさんSide>
マディが何か考えがあっての事だとは思っていても、コイツの顔を見るのは、大変に気分がよろしくない!
普段、俺たちは『貴女の街の警備隊♪』のキャッチフレーズに偽りがないようにと、「挨拶は基本、あとは愛想と愛嬌!」と、副隊長から若手は全員きつく言われている。
ちなみに、隊の年長者に言わないのは、自分たちが強面であることを気にしている連中が多いから。
年寄りがすねると、大変…げふんげふん! ・・・思いやりは大切!ということです。
「どうした!わたくしの姿に恐れをなしたかっ!!」
「…馬鹿?」
おっと、本音が出てしまった。
マントを翻して高笑いをするイヤミ貴族をみながら、こんなのが学院を卒業して、王宮に勤め上役にでもなったら、確実にみんなの迷惑だよなぁ。
ウォルフに相談して確実に排除してもらおう。うん、それがいい。
「恐ろしさの余り わたくしに逆らうとは、やはり魔物に魅入られる下賤のものに理解を求めるのは無理なのかっ!」
「エディさん、コレ見るの、もう限界なんだけどー」
「だから、お前がやれ、お前がっ!」
やたらと芝居がかったイヤミ貴族は、どんどん暴走していく。
確かに、もう限界かー。うん、役者も揃った様だし、さっさと幕引きといきましょう。
イヤミ貴族が連れてきた護衛兵は、8名ほど。これは私兵らしく、このバカ芝居にも飽きずに付合っている。
うーん、いい召使だなぁ。
早く勤め先変えたほうがいいぞ?
こうやって殴られて、のされちゃう事もあるんだからさ。
「サラちゃん寝ているんだからさ、あんまり運動させるなよ」
前に出ていた兵の腹を剣の柄で強打し沈め、その横にいて速さに驚いていた兵を鞘に入れたままの剣で強かに肩を殴った。その勢いのままに体を捻り、一人後頭部を殴って倒し、更に襲いかかってきた奴は、顎を強打してやった。
予定通り四人はその場にうずくまり呻いていた。かなり痛いはずだから、動けるようになるまでには少しかかるだろう。
さて、お付きは半分まで減らした。そろそろマディにも動いてもらおう。
「マディ、女王さまのご登場は?」
「ごめん、行く前に捕まったんだー。・・・でもね」
なんだと?と文句を言おうとした瞬間、マディは笑顔のままで自分を捕えていた兵士二人を片手づつで鼻を目掛けて裏拳を飛ばし、昏倒させた。
こいつ、かなり出来る。
「でも、ちゃんと伝言は飛ばしたから、許してねー」
「マディ、お前なぁ・・・」
あんまり焦らせないでくれ。 女王さまのところへ、もう一度伝言を頼まなければいけないかと思ったじゃないか。
「な、何をするっ! わたくしに、このわたくしに逆らうと言うのかっ!」
真っ赤な顔で捲し立てるけど、膝が笑っているぞ。
無理しないで、さっさと逃げてくれればいいのに。そしたら、こちらも見逃すから。
「元々、従ってないし」
「ペラペラ・イヤミになんて、従いたいとも思わないしねー」
このイヤミ貴族には、早々に退場して欲しいのだ。でないと、サラちゃんを外に出せない。
ここで、魔猫がー!とかいう茶番は、ゴメンだからな。
いざとなれば、強制退場もアリだけどね。
「みぃ・・・」
あれ、この騒ぎで起きてしまったか、サラちゃん。
よしよし、撫でてあげるから、もう少しここに居なさいね。
「あー、サラちゃん、起きたねー。危ないからね、エドさんとこに居るんだよー」
マディも気づいたらしく、上着の中を覗き込み、優しくサラちゃんの頭を撫でた。
サラちゃんが起きたのなら、もう時間の猶予はないな。さっさと退場願おう。
「みぃ!みぃ!みぃ!」
「サラちゃーん、おとなしくしていなさいって、こら」
何かに気づいたようで、ゴソゴソと上着の中から這い出してきたサラちゃんは俺の肩に乗る。
よく見えるこの位置が気に入ったらしい。
首筋にふわふわの毛が当たってくすぐったいが、可愛い方が先にたつ。
「・・・っシャーっ!」
「こら、シャーとか言って威嚇しないの。可愛くないぞ」
肩に乗った途端にイヤミ貴族が見えたらしく、すぐに威嚇を始めた。
・・・そうか、サラちゃんも嫌いか。
じゃあ、イヤミ貴族には、さっさと退いてもらおうか。
「で、出たな魔猫っ! しかし、わたくしには、その穢れた技は効かぬぞっ!!」
「まだ続けるのか、その芝居・・・」
俺たちはそのセリフに脱力したが、サラちゃんは怒ったらしい。威嚇は止めたが、ぐるるる・・・と不機嫌に喉を鳴らしている。どうやら、俺たちが苛められたと思ったらしい。
こんなに可愛らしい姿なのに、中身はなかなか気が強い。
「にゃあっ!」
「サラちゃんっ?」
サラちゃんは、俺の肩から飛び降り、前に出てイヤミ貴族を威嚇している。
一生懸命に怒っている姿が可愛くて、一瞬、止める手が遅れてしまった。
「こ、この魔猫がっ!!」
「にゃぅっ!」
マントを振り回しているイヤミ貴族の姿はなんとなく笑えるが、サラちゃんに当たっては大変だ。
いい歳して、仔猫相手に本気で何をしているんだか。
「・・・っ!サラ、危ないっ!」
まさかと思っていたが、イヤミ貴族がサラちゃんに向かって鞘に入ったままとはいえ、剣を振り回した。剣が風を切る音がする。
本気で魔猫と戦っているとでも思っているのか!?
ガッ!
「にゃっ!?」
慌てて手を伸ばしてサラちゃんを抱え込み、間一髪でさらちゃんへの殴打は避けられた。
血が目の方に流れて来ている・・・あー、少し額が割れたか?
でも、これなら傷は大きくなさそうだ。
俺は素早く自分以外に傷は無い事を確認した上で、イヤミ貴族を睨むと同時に蹴りつけていた。
見事に決まった上段蹴りに、白目を向いて倒れている奴に向かって吐き捨てた。
「仔猫相手に剣を振るうとは、下賤とは貴様の為にある言葉だ!」
いつの間にか、足元にはサラちゃんがいた。
ブーツによじ登り、心配そうに鳴いている。大丈夫だと伝えないと。・・・ヤバイ、頭を殴られたのに急に動いたから、目眩がする。鳴かなくていいから、サラちゃん。
そう言おうと思う前に、ふらついて片手を着いてしまった。
サラちゃんが、怯えたように後ろへ下がる。
「サラ・・・ちゃん?」
『お、お姉ちゃまぁーーーーっ! お姉ちゃま、エドさんを助けてっ!!
お願い、お願いだからっ!!』
仔猫の鳴き声が響いている筈なのに、幼い少女の声が聞こえた気がした。
「サラちゃん、・・・俺は平気、だから。」
『お姉ちゃまぁ、エドさんがけがしちゃったのぉ、どうしよう、どうしようっ』
わんわんと泣き叫ぶ声が聞こえる。
何とかして落ち着かせて泣き止ませようと思うが、めまいがまだ続いている。
と、その時、一瞬でその場の温度が一気に下がった気がした。
事実、目の前に、氷の階段が現れてその上を、銀髪をなびかせた少女が駆け下りてきた。
ああ、これが、サラちゃんのお姉さんかぁ。
パシャリと、雪の塊を傷口に押し付けられたように感じたが、痛みは感じない。
それどころか、触ってみると傷自体が無くなっていた。・・・さすがは、女王さま、一瞬で治したのか。
ふわりと柔らかな白のマントが翻り、視界を覆った。
「サラ」
甘く優しい声が聞こえた。
「視界が開けた」と思ったら、目の前には先ほどの銀髪の美少女。
自らの白いマントに大切そうに包んだそれは、見慣れたミルクティ色。
「お姉ちゃまっ! あのねっ、サラねっ!」
お姉さんは、サラちゃんの話を煌くような笑顔で聞いている。うん、やはり妹バカだよ、女王様。
「エドさん、平気ー?」
「おう、どうやら女王様が一瞬で治してくれたらしい。」
マディが手を差し出してくれた。ありがたく手を借りて立ち上がる。もう、めまいも感じない。
これでようやく終わりかな、と思ったが、ビシリという音がして数本の氷柱が立ち上がった。
「それで、うちの妹を泣かせたのは、一体、誰かしら?」
女王さま、また気温が下がった気がするのは気のせいでしょうか? 体感温度は真冬並ですよ。
この白目を剥いているイヤミ貴族を差出すのは簡単だが、コレを怒り頂点な女王様に引渡すのは得策ではない。
断罪した為に、あとで女王様が責められては、何もならないのだから。
「あー、俺ですね。原因は俺が怪我したからです」
右手を挙げて、あっさりと申告してみた。 間違っていない。 確かにそうなんだから。
美しい柳眉を跳ね上げて俺を睨む銀髪の美少女は、流石の迫力だ。だが、こちらも引く訳にはいかない。
マディに目配せをし、姿を見せたウォルフには、何とかしろと目で訴えた。
「えー、と、そうだね、エドさんの怪我でサラちゃんが泣いたんだね」
「そうだな、エドを心配したサラが泣いたんだな!」
口裏合わせを有難う、二人共。
女王様は、俺、マディ、ウォルフへ、ゆっくりと強い視線を流した後に、ふぅっ、とため息をついた。
「・・・私は、皆様にお礼を申し上げるべきですわね」
「こちらこそ、傷を治していただき、ありがとうございました。」
この辺の感情コントロールは、少女のものとは思えないな。女王様と呼ばれるだけの事はある。
イヤミ貴族の件は、ウォルフに任せよう。女王様の望む結果を出してくれる筈だ。
「さて、エド、改めてウチの末妹を紹介させてくれ」
ニヤニヤしながらウォルフがやってきた。
彼の後ろに、ミルクティ色の髪の毛がふわふわと踊っているのが見える。
ぴょこりと、琥珀色の瞳の可愛らしい女の子が顔を出した。
ああ、サラちゃんだ。
俺は膝をついて、女の子の目線に合わせる。
「えっと、サラです、こんにちわ、エドさんっ!」
「やあ、サラちゃん、ようやく挨拶ができたね!」
最初は少しもじもじしていたが、にっこりと笑ってみせると。嬉しそうに抱きついてきた。
仔猫から、女の子になっても、その行動は変わらないんだね、サラちゃん。
「サラちゃん、俺は君をちゃんと望む場所に連れて来れたかな?」
「はいっ! サラは、お姉ちゃまに、お兄ちゃまに会えましたっ!
ありがとう、エドさん、大好きっ!」
サラちゃんに抱きつかれた俺に、お姉さんの目が多少厳しかったが、まあ、これ位の役得はあってもいい気がしますよ、おねーさん。
サラちゃんは、この日沢山の大切な人々に会い、そのみんなを巻き込んで数々の騒動を起こすのだが、それはまた別のお話。
途中で切りたくなかったので詰め込みました。
さて、第一章は、これで終わり。
後日談、閑話を明日以降にアップする予定ですー。
よろしくお願いします。