22. 仔猫は、覚醒します!(希望)
お疲れ様です、保護者さん。
まだまだ、頑張ってください。今回は、追いかけっこです!
平和だった中庭の東屋をでて、ウォルフと相談した場所を目指すことにした。
本当は、出たくなかったんだけどね。
とはいえ、いつまでも、ここにいるわけにはいかないので、動きますヨ。
サラちゃんは、まだ眠っているな。目的地までは目を覚まさない方がいいかも。
さて、コソコソと中央通路を抜けて、中央の中庭の方へ。
ここは、生徒会室の真下になるので、
「ここからサラに呼ばせればいいよ!」と、ウォルフは言う。
出来れば生徒会役員室まで連れて行き、サラちゃんにおねーさんと会わせて、まとめて撤収させたいのが本音。
「そう簡単には行かないと、知っているけどさぁ」
なんだ、この警備の人数の多さは。
さっきからどんどん増え続けているじゃないか! その上、なんか緊迫しているし。
避けて進むにしても限界があるぞ。
「こっちにはいないっ!」
「西棟はどうした? 」
「まだ報告がきていません!」
張り詰めた雰囲気の中、隊員の声が響く。
「かなり凶暴な魔猫らしいぞ・・・、この人数で平気かなぁ」
「なんでも人も操るらしい。近寄らない方がいいって!」
バタバタと足音を響かせて、警備の連中が慌しく校内を走り回っている。
その中で聴き捨てならない事を聞いた気がするぞ。
…はい? 魔猫って何ですか?
ウチのサラちゃんは、多少いたずらはしますが、そりゃあ可愛い、とってもいい子ですよ?
なんで、そんな話に…
懐で、すやすやと眠っている仔猫を見ながら、溜息をついてみる。
「これが、魔猫・・・ですかねぇ?」
上着の上から、よしよしと撫でてやると、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らしている。
「魔猫設定は、無理がありすぎるだろうよ…」
それにしても、次々と騒ぎが起きるなぁ。
サラちゃんは、ウチに返したら当分、外出禁止にして貰うことにしよう。こんな騒ぎを毎回起こされては、この担当地区の警備隊の身が保たない。
こっそりと、「外出禁止令」を出す算段をしながら、様子をうかがった。まだまだ人が多い。
「あの噂はねー、イヤミ貴族が流したらしいですよー」
「うわぁっ、急に後ろから話しかけるなよっ! びっくりするだろっ、マディ!」
いつの間にか背後に忍び寄ってきたマディが、解説をしてくれたところによると、あのイヤミ貴族はかなり壮大なファンタジー作り話をしたらしい。
曰く、ふつうの仔猫のふりをして、ノルベルト殿下に近寄った憎っくき魔猫の正体を見破り、敬愛する殿下をお救いすべく、自らの危機も省みずに、茶器を投げて自分が魔猫を退けたのだと。
「あー、うん、すごいねー…、魔猫ってティーポットで倒せるんだー…」
「エディさん、思いっきし棒読みですよー。 俺も奇想天外だとは思いますがねー」
「それで、殿下はよ?」
「えーと、『魔猫に毒されているかもしれないっ!』って言われて、今は医務室に軟禁されていますー」
「それなのに、なんで、マディは、ここに?」
「いちおー、連絡係と、道案内要員で行って来いと、殿下がー」
こっそりと医務室から出してくれたそうだ。
ノルベルト殿下、こういうことは気が効くんだよな。
素直に言えば、助かります。
マジでありがとうございます!
「来てくれて助かった。
サラちゃんのおねーさんがいる生徒会役員の近くまでは来ているんだけど、
この騒ぎだからさ。できれば、ここまで連れてこれないかな、おねーさん」
「…我が校の『冬の女王』を呼びつけるとは、大胆不敵ですねぇー。
いいですよ、パシリしますよー!」
にやにや笑いながら、マディが応じる。
そうかなー、多分、サラちゃんが来てますよって言ったら、ダッシュで来てくれると思うよ?
普段の溺愛っぷりを聞く限り、それは間違っていないはずだ。
「サラちゃんのおねーさん、怒っているんだろうなぁ」
「ですよねー、自分の最愛の妹が『魔猫』呼ばわりなんかされて、冬の女王様の気性から考えても、コレを言い出した奴、氷詰めにして出荷されても文句言えないですよー」
「…そんなに怖いのか、おねーさん」
氷詰めかい! 溶けるまで大分かかりそうだなぁ。…じゃなくて!
危うく現実逃避を図るとこだったぜ!
「マディが、中庭におねーさんを呼び出してくれるまで、俺はとりあえず逃げ回っておく。
20分後に、もう一度ここに集合な!」
「りょーかいですー。 楽しみにしてくださいねー、我が校 屈指の美女ですからー」
「美女だって、旦那付きだろー。いらんいらん。」
「あれ、知っているんですか? アレク様の婚約者。」
「ああ、最近知り合った。今はヤツがサポートしてくれている」
「なーるほどーぉ! 仔猫ちゃんを預けるなんて、凄い信頼されてますねー!」
信頼、されている…のかなぁ。うまく騙されている気もするが。
「んじゃ、行きますねー。うまく隠れていて下さいよー!」
「おう、よろしくな!」
マディが軽やかに駆け去っていったので、俺も少し場所を動くことにした。
校内を警備担当が巡回している時に、長時間同じ場所にいるのは、危険だ。
空き教室や、空き部屋を探しながら、歩いていく。
警備の連中も混乱している。意味もなく走っているヤツもいるしな…って、ヤベっ!
「おいっ!そこの男、止まれっ!!」
さっと踵を返して、走り出す。
やだなぁ、止まれと言われて止まったら捕まっちゃうじゃないですか。
走るスピードを上げて距離を保つ。その上で、窓などを使って、ショートカット移動する。
これで、振り切れるはず・・・。
あいつらは、なんとか、撒けたらしい。
そろそろ、待ち合わせの場所に行かないと。マディを心配させてしまう。
とはいえ、結構走ってしまったので、中庭のある中央棟からは少し離れてしまった。
…また、戻るのか~、そうか~。
この納得のいかない追いかけっこの責任は、あのイヤミ貴族にとってもらおう。
サラちゃんのおねーさんに、がっつり氷付けにしてもらって、王宮の噴水で晒し者にしてやるっ!
不機嫌オーラを撒き散らし、警備を避けながら、それでもなんとか中央棟にたどり着いた。
やれやれ、だなと、壁にもたれかかって休憩をしていた。
ふと、下げた目線の先、廊下に影が差す。
「マディ?」
「エディさん、ごめーんー」
わあ、マディ、なんでソイツを連れて来た…。
「さあっ!観念するがいい、悪の使途よっ!! 魔猫を私に差し出すのだっっ!!!」
あー、イヤミ貴族のペラペラなんとかさんだよなー、活き活きとポーズとってる場合じゃないし、
うーん、どう考えても、悪役のセリフだって、それは。
それじゃ、ウチの仔猫を魔猫呼ばわりした責任、とってもらいましょうか!
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
全年齢対象(サラ向け)にしたので、乱闘シーンは避けました。エディさんがね(笑
次回、反撃なのか、ワンサイドになりそうな気配。




