2. 仔猫はでかけます!
まだ、うろうろ。先は長いねぇ サラちゃん。
お姉さまに貰った大切なアプリコット色のリボンを握りしめて、書斎に走る。
お父様の書斎には、大きな本棚があって魔法の本もたくさん置いてあります。
私のような初めて魔法を使うような子から、お兄さまのように高位魔法を使う人用まで、幅広く集めていあって、それなら、お姉さまが読むような本は、あるの?とお兄さまに聞いたら「姉上は、レベル カンストだから比べちゃだめ。」と遠い目をして言われた。
カンストってなんだろう。すごいって事かな?
そんな本を少しずつ読んで、出来るようになったのが「変身術」なんです。
最近、猫に変身できるようになりました!
お姉さまや、お兄さまに、変身した姿を見て貰いたいのですが、まだ披露できていません。
だから、ほら、お姉さまのリボンをした、ミルクティ色の仔猫。
これが、私です!
ううう、でも、なんでしょう、こんなヨロヨロで、大丈夫なのかしら。
仔猫の体をうまく動かせません。
とりあえず、お部屋の中をくるくる回って見ます。
うん、だんだん慣れてきましたよ。椅子の上にジャンプ! 続いて、机の上にジャンプ!!
すごいです、猫の体って!! こんな高いところも、ぽんぽん上がれるようになりました。
うふふふ! さぁ、今度は、お外に行きましょう!!
窓を開けて、窓辺に出てみました。
ここで、木に飛び移りたいんですが、…こわいです。 自分の体の何倍もの距離、あんなに飛べるんでしょうか。なんだか、窓辺にいるもの、怖くなってきました。ううう。
窓辺をウロウロしていたら、向かいの木を軽快に飛び移る黒猫さんの姿がみえました。
「わあ、すごい…」
あんな風に、飛べればいいんですよね、たぶん。
メイドさんが、お買い物に出るための馬車が出る時間が近づいています。自分の足で行くのは時間がかかりすぎるので、この馬車の荷台にこっそり乗って、王立学院のある王宮近くまで行こうと思うのです。
馬車に乗れなかったら、もう、今日は辿り着けません。
えいっ!と目をつぶって飛び出して、バサバサと木を伝ったのか、落ちたのかわからないような状況でなんとか地上につきました。…こ、怖かったです! もう二度とできません。
お買い物の馬車になんとか潜り込み、やっと一息です。
今のところ、誰にも見つかっていません。気がつかれない内に帰ってくるのが目標です!
がんばりますよっ!!
ガタゴトガタゴト・・・カタカタカタ・・・
馬車の音が変わりました。細かい石畳の道です。
どうやら、王宮近くのメインストリートに入ったようです。
王立学院は、王宮の一角にあります。王宮と言っても、王族の方が住まう奥とは別で、役所などと一緒で入り口に近い出入りしやすい場所にあります。この区画だけは、人の出入りも多いので、結構自由なんです。というのは、お兄さまに教えてもらったんですけどね。
お買い物の馬車が止まったので、私もこっそり馬車から降ります。
ここからは、大きい通りをまっすぐに行けば…
ガガガガガガガ・・・・ガタガタ・・・・
ううう、馬車がいっぱいで怖いです。踏み潰されそうですぅ。
馬車が怖いので、道の端を慎重に歩きます。それでも、大きい馬さんに、迫力の馬車。こんなに怖いんだ。音だけですくみそうになります。
と、とにかく行かなきゃ!! 一生懸命走ることにしました。 こわいよう~、おねぇさまぁ!
「何故だ、なぜ、帰れないっ!」
思わずイライラと声を荒げてしまう。大体、授業にも殆ど出ないで、この生徒会室に閉じこもり、ずっと仕事をしているのに、なぜ、終わらない!!
そして、なぜ、帰れないんだ!!
「それは、姉上以外は、普通の人だからですよ」
カールが、ため息をつきながら、説明をしてくれた。
つまり、私たちの10分の1の量しか渡していない仕事を終わらせられない役員と、その仕事の内容をチェックするべき教師や、職員がその理解力やスピードについて行けなくて、すべてが滞ってしまっているという事実にだ。
「くっ、馬鹿なのか、愚鈍なのか、どっちだ!!」と聞いたら、
「姉上、両方だから、始末に終えないんですよ…」とカールにため息をつかれた。
その上、腹の立つことに、教師から
「生徒会の仕事が終わったなら、少しは授業に顔を出してくれ」と言われた。
…学院の仕事をして、その上、授業に付き合えと? ふざけろ!
「姉上! お気持ちは、わかります!! でも、今少しだけ抑えてください。
今のうちにテンプレートを作っておけば、ある程度はこの範囲で事が済みます。そうしたら、生徒会へは、週二の顔出しで終わりますよ。
授業の方は、姉上のレベルでは遊びにしかならないと、ちゃんと言っておきますから!」
うむ、持つべきものは、出来る弟だ。よし、これを仕上げてとっとと帰るぞ!
「カール、これ以上、サラを一人にしておけない…」
カールも、深く頷いて猛スピードで手持ちの書類を片付けて出した。
サラは、寂しがり屋で、私かカールがいないと、なかなか眠れないのに、もう一週間も家の者に任せてしまった。罪悪感でめまいがしそうだ。
こんな悪い姉と兄をサラは、待ってくれているだろうか。
「サラ…」
窓の外は、穏やかな午後の日差しが降り注いでいた。
そのころのサラは、なぜか、宙ぶらりんになっていた。
「に、にゃあぁぁぁぁぁ~っ!!」
宙吊り、宙ぶらりん、どっちがよかったかしらねぇ。