14. 仔猫は、仲良しになります
どれだけ抱っこしたいんだ、殿下…。
へんたいさんが案内してくれたおかげで、随分と早く学院に着けそうです。
途中、なんで生垣が可動できちゃうのか?とか、その鉄の柵ってダミーだったの!?
などなど、知っていてはいけない世界を見せていただきました。
この辺については、お口にチャック!だそうです。
エドさんにそう言われて、お口に手をあててみたら、横でへんたいさんがぷるぷる震えて蹲っていました。
お腹でも痛いのかと思って、エドさんを見たら、嫌そうな顔をしています。
「あれは、発作みたいなモンだから、放っておいていいよ・・・」
と言われました。 やっぱり、体の具合でも悪いのかな?
離宮の裏手から学院へ入っていく隠し扉までは、あと少しです。
最初は、怖いへんたいさんだと思っていましたが、慣れてきました。
「サラちゃん、その油断が命取りになるから!」
と、エドさんは、危険物扱いをなかなか解除してくれません。うーん、過保護~っ!
なので、まだまだ抱っこしてもらったまんまです。
さっき逃げちゃって叱られたから、歩きたいって我が儘はもう言えないし、うーん。
鬱蒼とした森の中を抜けて、小さな庭園や、管理塔を横目に見ながら、幾つかの扉を潜ったら、植え込みの影に隠れるように小さな扉がありました。
ちっちゃくて、エドさん達なら、腰を屈めてもやっとくらいの大きさです。
サラは、ラクラクいけますけどね!
「ここからは、王立学院の裏庭になる。 エド、お前は正門に回って入ってこい」
えー、エドさん、離れちゃうの!? 心細いよう・・・。エドさんが顔をしかめています。
「ノルベルト殿下、もしかして最初からそのつもりでしたか?」
「ん? なんの事だ、エドはここの学生でない以上、正門から許可を貰って入ってこなくてはなるまい!」
凄い笑顔で、へんたいさんは、エドさんに手を差し出します。何で、そんなに笑顔なんですか!
エドさんが、ため息をついています。なんですか、エドさんを困られているんですか、へんたいさんはっ!
サラが、へんたいさんを怒ってあげますよ!
『エドさんを、困らせちゃ、ダメっ!』って。
だから、そんな悲しい顔をしないでください!
「サラちゃん・・・」
「にぁ?」
「少しの間、サラちゃんを殿下に抱っこしていてもらうけれど、いい子にしていてね」
「みゅあ!?」
「ああ、大丈夫。正面ゲートから、すぐに戻ってくるから。
変な事をされそうになったら、さっきみたいに大きい声で鳴くんだよ?
そしたら、助けに行くから、ね!」
「なぁぁん・・・」
「殿下は、変な人だけど、酷いことはしないから。ね」
「みぃぅ」
「・・・私がかなりな悪者になっているようだが、気のせいか?」
「気のせいじゃなくて、心底、変人扱いですよ!」
へんたいさんが文句を言っているが、そんな場合じゃない。エドさんいないと、怖いよう・・・。
へんたいさんも嫌いじゃないけど、抱っこしてもらって安心できるのは、エドさんなんだもん。
「サラちゃん、俺が戻るまで、殿下から逃げたらダメだからね!
一人で、走り回らないコト! いいねっ!!」
・・・あ、エドさんがいないなら、一人で学校の中を探し回ろうと思っていたのに、バレていましたか!
見透かされて、思わず目をそらしてみる。
「・・・サラちゃん、また、逃げ出したら怒るからね。」
エドさんに静かに言われたんですが、迫力があります。判っていますよぅ、ちゃんと待っているもの!
お、怒られるの、怖いもんっ!
「仔猫ちゃん、ここからはもう王立学院の中になるが、外よりも安全ということではないのだよ。
これだけの生徒がいるとね、不埒な者も出てきてしまう。
弱いものイジメをして楽しむ者がいないとも言えないのだよ。
だからね、済まないが大人と一緒に行動しておくれ、それが君を守ることになるから」
へんたいさんが、悲しそうにサラに説明してくれます。心配してくれているんですよね、わかっていますよ。
金貨目当てで追いかけてきた人より、もっと怖いには、動く的位の感覚で石を投げてくる少年達だ。
悪意とも思わず、集団で暴力を振るわれたら、小さい仔猫などひとたまりもない。
「そんな酷い事をする者は、ここにはいないって言えたら、どんなにいいか。
でも、私はそこまで楽観的ではないのでね。ごめんね、仔猫ちゃん」
サラは平気です。へんたいさんが一緒にいてくれるのでしょう?
へんたいさん、泣きそうですよ。泣かないでくださいねー、とほっぺを前足でスリスリします。ちゃんと爪をしまっていますからね。
「・・・! 仔猫ちゃん、やっぱりウチの子にならないかっ!?」
肉球の感触サイコーー!っと叫びながら、サラを抱き締めようとした へんたいさんをエドさんが拳固で、殴っていました。やっぱり、へんたいさん、なんですね!
「ああ、本当に不本意ですよ! 殿下に抱っこさせておくなんて、狼に子羊の世話を頼むのと一緒ですよ!!」
エドさん、お願いですから、なるべく早く帰ってきてください。
サラは、頑張って待っていますから!
そのあと、へんたいさんに、サラを抱っこする時の注意事項を拳固込みで教え込み、ようやくエドさんは、正面ゲートへ走っていったのでした。
行っていいよ、って言いましたが、やっぱり寂しいですぅ。
「仔猫ちゃん、いい子だね。 一緒に待っていようね。」
熱血指導の結果、だいぶ抱っこが上手になった殿下に撫で撫でしてもらって、ちょっぴり泣きそうになったのは、内緒です!
もう、見ないでくださいよ、へんたいさんっ!!
心配性な子守のエドさん、引き離されました。
殿下とサラちゃん。おとなしく待っていられるかなぁ。