灯
防波堤の先端のいつもの場所に行き、持ってきた段ボールをひいて座った。
沖の船の灯、向こうに見えるビルの灯、キラキラ光る星の灯、すべてが自分の為にあるように見えた。
冬の夜景は、空気の澄んでいるせいか、より一層綺麗に見える。
いつも隣りには華が座ってくれて、色々と話をしてくれた。
もう三日も鳴らない携帯。
メールが着ていないかと開いては見るけど、いつもの待受のままだ。
鳴って欲しい。。。
もう一度。。もう一度だけで良いから声が聞きたい。
「まだ、決心がつかないんだ。ゴメン。。」
三日前、俺は彼女と座るソファーで両手を握り締め、足元を見つめながら言った。
もう、キスをしたり、腕を組んだり、手をつないだりする時期を過ぎて、お互いに空気のような存在になっていた。
彼女は、この日やけにデート中から機嫌がよかった。別に不自然なこととは、殊に思わなかったが少し気にはかけていた。
二人で俺の部屋に入り、彼女のいれてくれた紅茶を飲んでいる時だった。
「そろそろ、ケジメつけない??」
彼女は、それまでの機嫌の良い顔を固くして、俺に言った。
「なんのことだよ?」
俺は意味がわからなかったので問い直した。
「一緒にならないってこと。鈍感ね」
彼女は、唇をとがらせながら、俺をジッと見て、また紅茶を飲み始めた。
俺は、彼女との結婚を踏み切れない理由があった。
彼女と結婚しても、今のように彼女を想えるかということだ。
昔から飽きっぽい俺は何か大きなことがある度に興味というか、気持ちがはずれ、夢中だったことをないがしろにすることが多かった。
現に華の前に交際していた彼女も、俺が飽きてしまい、最期のほうはご破算になっていた。
彼女と付き合って5年たって、彼女に対する想いは消えていない。
結婚はしたいが、なぜか不安が大きくなる。
まだ踏み切れないという旨を告白したら、彼女は何も言わず、部屋を出て行った。
理由も聞かずに・・・
明くる日から俺は仕事中でも、返ってくることのないメールを華に送っていた。
〔一度、連絡ください。〕
何度、送っただろうか。
夜になると華との思い出が頭をよぎり、考えたくないことまで浮かんできた。
ちょっとしたノイローゼみたいだった。
今の俺には華が必要なんだ。
華も俺を必要なんだ。
そう考えたのは、今日の朝方だった。
一日中、何もすることなく、ソファーに横たわり華と俺が抱き合って撮った写真を眺めていた。
夕方になり、二人の思い出の場所へ行こうと思い港へ向った。
長い間、夜景を眺め続けた。華がいたらと何度も考えながら。。
pm10:00・・・
帰ろうと車に乗った瞬間、ケータイが鳴った。
華からだ。しかも、着信だった。
俺はすぐに、通話ボタンを押し、耳へと近付けた。
心なしか、手がふるえていた。
「・・・もしもし。聞こえてる?」
華の声が聞こえる。
「ああ・・・」
気持ちとは裏腹に無愛想な返事をしてしまった。
「あのさ、今、私、あなたの車の横にいるんだけど。」
フッと右のサイドミラーを見るとコートのベルト部分が至近距離で見える。
すぐに車を降りると華が目の前にいた。
彼女も思い出の場所を見に来ていたみたいだった。
なんと言っても初デートの場所で大体、デートの最後あたりは、この場所に二人で来ていたゆかりの場所なのだ。
俺は、驚きのあまり声を発せられなかった。
「久しぶり。」
なぜか明るい声で華は俺に話した。
「連絡なんでくれなかったんだよ?」
俺は我にかえって華に問い掛けた。
「ごめんなさい。。とても、あなたの声を聞いたりメールできる状態じゃなかったの。」
華は、そう呟くと下を向いた。
もう想いの全てを告白するしかなかった。
「こっちこそ、ハッキリしなくてごめんな。でも、踏ん切りついた。華と連絡がとれなかった三日間、寂しくて、空しくて、辛くて、華にどうやったら、連絡とれるかって、それだけ考えてた。。」
目から涙がポロポロ溢れてきた。声も出しにくかった。
それでも伝えなきゃいけない。
「でも、連絡をとることを考えるより大事なことを考えるようになったんだ。。。華と一緒にいないと俺はダメな人間になる。華を守りたい。。ダメだ・・男なのに泣いてしまって・・」
俺は必死だった。
華は、顔を下にしたままで、こちらからは長い髪に隠れ表情がわからなかった。
「・・・あいかわらず鈍感だね。今頃、わかるなんて。」
俺は、抑えることが出来ずに華を抱き締めた。
「鈍感で悪かったな。」
華の優しい髪の匂いを感じながら、華の耳元で言った。
「悪いよ。悪過ぎる。女泣かせてさ。一緒になったら泣かせないでよ?」
華は俺の顔を見ながら言った。
「当たり前だろ。。幸せにするんだから。。。」
久しぶりに、華の唇にキスをした。
新たな誓いとして。。