ぷれぜんと
「は? 勝負下着?」
ストレートの長い髪を夏らしく顔の周りに編み込みをほどこし、前髪には可愛らしいピンを止め、ちょっとデコルテされたシャツ風のブラウスにチェックのミニスカート姿をした美奈穂は、案の定目を丸め、リボンのかかった包みに疑いの視線を投げかけた。
本来は愛らしい顔立ちにくりっとした明るい表情の瞳と、形の良い小さな唇をした美少女の美奈穂だが、今は祖父の唐突な贈り物に戸惑って、眉根にしわを寄せている。
「そうじゃ。正也に美奈穂がアイドルのオーディションを受けると聞いてな。世の中では事の大事には勝負下着と言う物を身につけてゲンを担ぐそうじゃから、美奈穂が無事に合格するように新しい下着を買って、勝負事に御利益があると言う神社でお祓いをしてもらったんじゃ」
「おじーちゃん。反対しないの? おじーちゃんじゃ、絶対に私がそういう派手な事するの嫌がるかと思ったのに」
「もちろん、わしも心配じゃ。だから、美奈穂の無事も祈ってのお祓いをしてもらったんじゃ。それに孫が有名になってくれるのは、わしも嬉しいし鼻の高い事じゃしのう」
「おじーちゃんが、そういう神頼みするとは思わなかったな。絶対、そういうの信じないと思ってた」
「俺が勧めたんだよ。美奈穂なら必ずアイドルになれるからって」
「正也。あんた、私がアイドルになれると思ってくれてたんだ」
「美奈穂があんまり真剣だから。源じいにも良く話したんだよ。そしたら源じいも応援してくれるって。ほら、俺からは同じ神社のお守り。これ持って、頑張れ」
美奈穂はおもむろに祖父と幼馴染からの贈り物を受け取った。そして感激した様子で、
「うわあ。ありがとう! 二人がこんなに応援してくれるなんて、思ってなかった。おとーさんは鼻で笑ってたし、おかーさんは自分の根性試してみなさいって言いながらも、やれやれって顔してたし。友達には恥ずかしくてあんまり言えないし……。でも、こんなに身近に応援してくれる人がいたなんて!」
「ま、幼馴染だし」
「わしの可愛い孫娘だしな」
二人は内心の心苦しさ感じるが、変態的心情の方がそれを上回るので反省はしない。
「でも……ちょっと包みを開いてみてもいい? さすがにおじーちゃんのセンスだと、心配で。包み開いたぐらいじゃ、御利益なくなったりしないでしょ?」
「下着は身につけるものじゃ。もちろんそんなことで御利益が薄れる筈がない。開いて見て御覧」
「うん。正也はちょっとあっち向いてて」
美奈穂は正也が後ろを向いたのを確認して、包みを少しだけ開いて中を確認する。
「わっ。かわいい。サイズもあってそう。……つうか、何でこんなにドンピシャなの? ちょっと引くんだけど」
「幼いころから見ている孫の成長や好みくらい、わしには分かる!」
「あんまり分かり過ぎて欲しくないけど。でも、嬉しいな。ありがとう。実は一次の書類選考、通ってるんだ。この下着と御守りで、絶対二次審査も合格するね」
この祖父の血を引き、こんな二人に囲まれて育ったわりには、まっとうな神経を持つ娘に育った美奈穂。その分先々の苦労が思いやられて、気の毒な事である。