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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

葉月さんとわんこシリーズ

葉月さん、わんこにつかまる

作者: うみ

三作目です。お楽しみくださいませ。

『覚悟しとけ?』




「んなこと言われたってー!!!」

 今日言われたかなり衝撃的な台詞を反芻しながらベッドの上でもだえてた私は、端から見たらかなり変な人だろう。

 確かに確かに、京谷氏は兄とも男友達とも違う安心感があった。

 たぶん京谷氏はゲイだからってことで、そういう対象として見ていなかったんだろう。だからって、だからってー

「いきなりすぎるよー!!!」

「おい。何むきーむきーバタバタしてんだよ、恥ずかしいヤツだぞ」

「んな!おにいっ」

 ノックしろっていつも言ってるのに!てかなぜ居る!

 おにいこと鈴原陽介は、7つ上の兄貴だ。まぁ私が特に偏見のない原因ていうかなんていうか…。今はもう独り立ちして一緒には暮らしていない。ちなみに彼氏とラブラブ同棲中だ。

「なんだなんだぁ?お悩みごとか〜?」

「なんでいるのっ」

「なんだよ、実家に帰っちゃまずいかよ」

「…喧嘩でもしたんでしょ。神崎さんと」

「…」

 図星か。たぶん絶対神崎さんがメール返してくれなかったとかそういうのだ。

「しかもおにぃが嫉妬して拗ねてるだけ」

「……」

「とっとと帰って謝ったらどうなのっ」

 けっ人の気もしらないで。痴話喧嘩なら外やれっての。

 て、あれどこかでバイブの音?

「お前の携帯じゃね?鳴ってるぞ」

「わっと」

 なに人の携帯投げてくれちゃってんのさ。

 てか誰よ、こんな時にっ。

「もしもしっ」

『もしもし』

「!」

 名前見ずにとっちゃったよ…。

 声の主は私を悩ませてる本人だった。

『はーちゃん?聞こえてる』

「はははははいっナナんでしょうカ」

『ぷ、どうしたの?どもりすぎ』

「いえ別に」

『今大丈夫?』

「大丈夫です」

 なんだ普通だ。私だけ焦っちゃってバカみたいだ。覚悟しとけなんて言われたけど別に好きとかつき合ってとか言われたわけじゃない。それがなぜか私を落胆させた。

「どうしたんですか?」

『いや今日送っていけなかったし、ちゃんとさよならできなかったからね』

「う…」

 スミマセン、動揺して逃げるように帰りました。

『ま、ていうのは口実で声が聞きたかったんだけど』

「〜〜〜っ」

 そして続いた言葉に絶句した。

 耳元で聞こえる京谷氏の声に顔が熱くなっていくのが分かる。

 こんっの男は〜〜!タラシかっタラシなのかっ!

『今、もう家かな?』

「はい、もう自、」

「男かぁ葉月〜?」

 げ、おにい。まだいたのか。人が電話してる時に何話しかけてくるのさ。 

『え、誰か今いるの』

 怪訝そうな京谷氏の声が聞こえ慌てて弁解をしよう

 と思ったら一瞬の隙で携帯をおにいに取られていた。

「て、え、ちょっと!!!!」

 慌てて取り返そうとするけど、あろうことか片手で押さえ込まれてしまった。

「ちょっおにムガ」

 おにいの胸に押しつけられてしゃべれない。ふぎゃっ鼻がつぶれた。これ以上低くなったらどうしてくれるっ。

「もしも〜し葉月に何の用で?」

「ん〜〜〜!!!」

 動かせる左手でバシバシ叩くけどまるで効果がない。くーそーー。

「は、俺?俺は葉月と一緒に寝る仲だけど」

 い つ の 話をしとるんだ!!!

 しかも子供の体温あったかいとか言って私の布団にもぐりこんできたの兄貴だしっ。(兄貴は極度の冷え性。冬は靴下はいて寝てます)

「だーかーら、俺が葉月に伝言しといてやるって言ってるじゃん?」

 なんのためだーーーー!!このくそ兄貴!シめるっ。神崎さんにあることないこと告げ口してやるんだからっ。

「あーはいはい。代わりますよっと、ほれ」

「ぷはっ、て、え?」

 って兄貴の手でもってる携帯を耳に当てられてるだけだ。返してよっ携帯!

『葉月!!』

「〜〜〜〜」

 耳がキーンてしたよ。まったくもう。

「っもしもし、京谷さん?」

『ああ、良かった。というか、さっきの男誰だ』

 もんのすんごい不機嫌な声だ。

「えとあ、」

「はい終了〜」

「んなっ!」

 ちょっとなぜまた取り上げる!!私単語しかしゃべってないっ。取り返そうとするも、またもや押さえ込み体勢。く、る、し〜。

「声聞かせてやったろ?」

 どこぞの誘拐犯のようなせりふだな、おい。

「い〜だろ。俺久々に葉月と会ったんだし」

 ばかいえ!つい先週も会ったわっ。

「ど〜せお前明日ガッコでこいつと会うんだろ?ま、譲れや」

 何を譲るんだナニヲっ!てか相手分かって話してんのかな。

 なにやら電話口から低い詰問してるような声が聞こえてくる。ひー京谷氏怒ってない〜!?

「じゃーな」

 こいつ切りやがった!!!じたばたと暴れるとようやく解放される。

「何してくれちゃってんのさー!!!!!!」

「日本語がおかしいぞ。てかお前にも彼氏いたんだな。おにいちゃんは嬉しいよ」

「まだ彼氏じゃないっ」

「ふーん『まだ』ね」

「〜〜〜〜〜〜!!!!」

「いててて。痛いってーの」

 恥ずかしさかいたたまれなさかなんかもうぐちゃぐちゃして分からんっ!とりあえず兄貴を気の済むまで殴ってやる。

「ま、いいんじゃないの?応援してやるよ」

「何がっ!」

「気がついてねーの?好きなんだろ。顔真っ赤で電話してるときの顔、まんま恋してる女だったぜ」

「なななな!」

 こい、濃い、来い、故意、鯉、恋、どれっ!?

 〜〜〜〜〜〜もうだめだっ………。

「お、おいっ!」

 はいキャパオーバー。ブラックアウト。本日の業務は終了致しました。チャンチャン。





****************






「…朝だ、てあれ」

 なにやら目の前が白いと思ったらおでこに紙が貼り付けられていた。




―愛する妹よ

 あのあとぶっ倒れたからちゃんとベッドのなかに入れてやったぞ。

ま、服は着替えさせてねーけどな

 あ、夜中ずっと着信きてうるせーから電源切っといたわ

 お前ら見てたら俺も透に会いたくなったんで帰るわ

 P.S 

 電話のヤツ今度紹介しろよ、彼氏としてな

 んじゃまたな




「…」

 ふざけた兄貴からのメモを読みながら昨夜の出来事を思い出した。

 なにが愛するだとか、ベッド入れてくれて感謝とか、勝手に電源切るなとか、電源入れるの恐怖とか、結局何しに来たんだよとか、あんな兄貴の彼氏やってる神崎さんマジ尊敬とか、なに紹介て意味不明とか、色々いろいろイロイロ突っ込み所がありまくるけど…とりあえず。

「…学校行きたくないかな」

 これに尽きる。



 まぁそんなことが許されるはずもなく、私は今学校です。月曜の授業はほとんど必修なんだよね。

 ただ今ちょうど二限が終わったところです。朝からとりあえず授業ギリギリまでトイレにこもり、授業終わったらすぐ教室を去りトイレっていう…。何かに怯えるように行動してる私はさぞかし奇怪であろう。え、携帯?そりゃあ電源OFFのままに決まってるでしょ。怖いもん…。

 うっし出なくちゃいけない授業はあと5限のみ、だ。それを耐えればっ。

「はーづきちゃん」

「ひっ」

 見つかったー!

 ってあり?京谷氏とは明らかに違う可愛らしい声。

「なによう、そんなお化けでも見たみたいな反応っ」

 失礼しちゃう、と憤慨してるのは友人の同じ学年学科の本宮あかりだった。

「なんだあかりか」

「どうしたの?疲れてんね」

 気遣わしそうな顔つきをしているのは、同じく友人の今井巴だ。




「葉月と話すの久々だよね」

 お腹も減ったってことで場所を変えまして、大学内のカフェテリアでございます。人気の日替わりパスタを食べながらの女子トークです。

 確かに久々ですね…。

「最近葉月ってば『あの』先輩とばっかいるんだもん。つまんなかった〜」

「ぐ」

 あの先輩ってやはり京谷氏ですよね…。

「確かに珍しいよね。あんまり男子としゃべんないのに」

「まーね」

 色々ありまして。

「ていうかあの噂本当なのっ?」

「噂って?」

「京谷先輩が男が好きって」

 なんだろうモヤモヤする。あかりに悪気がないのもわかるし、京谷氏がゲイなのも本当なんだけど。

 だけど悪意を感じてしまう。京谷氏はそれだけが全てじゃないのに。なんで好きな人が同性ってだけで変な目で見られなきゃならないんだろう。

「あー聞いたことあるかも」

「私の知り合いが男連れてラブホ行くの見たって」

「へー」

「で、どうなのよ?」

「…知らない」

 …そうだった。京谷氏は男の人が好きなんだ。私のことはきっと面白がってるだけなのかも。兄貴の妹だから物珍しかったのかもしれない。

「どうしたのっ葉月!」

「う゛ー」

 だんだんと目の前がぼやけていくのが分かる。

 そうか…私好きになってたのかも。てか不毛すぎないかなぁ。

 突然ぼろぼろ泣きはじめた私にゆかりも巴も慌ててるのがわかる。もうなんで泣いてんのかな私、意味分からん。

 しばらく二人に宥めるように肩や頭を撫でられていたが、その手は周りが急にざわめいたと同時に止まった。

 そして背後から会いたくて会いたくない人の声が、聞こえた。

「見つけた」

「!!!!」

「葉月のお友達、かな?葉月ちょっと借りるね」

「はぁ?」

「ちょっ」

 怪訝そうな巴、驚いてるあかりを尻目にほぼ強制的に抱き寄せられるようにして退場。

「来るよね、はーちゃん?」

 はい、ドナドナと相成りました。





****************





「落ち着いた?」

「はい…ありがとございます」

 連れていかれたのは京谷氏と初めて会ったあの中庭ベンチ。そして手には京谷氏が買ってくれたミルクティーの缶。

 私はベンチに座ってるんだけど、京谷氏は目の前にしゃがみこんでこっちを見上げてます。うぅ目がそらせないよぅ。

「まぁ聞きたいこと言いたいことは山ほどあるんだけど」

 京谷氏の顔をよくみると、あまり寝ていないのか目に隈が見えた。

「昨日の電話に出たヤツ誰」

「あ、兄です」

「……お兄さん」

 間髪入れずの返答に、言葉が分からなかったみたいにポカンとした顔の京谷氏はかわいかった。ってかわいいってなんだそれはー!!!

「えーと、昨日彼氏さんと喧嘩したみたいで急に家に来てましてっ。で、よく分かんないんですけど京谷さんからの電話に勝手に出られてしまってっ」

 必死の説明にだんだんと京谷氏の首が下がっている。えーと?

「あーなるほど、ね」

 あーはめられたとつぶやいて脱力してる。…膝ついて手までついちゃって、ガーンて感じ。

「だ、大丈夫ですか」

「うん、大丈夫。でさ、なんでさっき泣いてたの」

 ぐ、なんでそんなに切り替えが早いのか。

 なんて言っていいか分からず、まごまごしてしまう。

「俺のせい?」

「ちがっ」

「迷惑、だったかな」

 悲しそうな切ないささやきに、張りつめてた糸が切れた。濁流のように流れる。

「そんなことないっ!ていうか、ずっと一緒にいて楽しかったし。さっき友達から京谷さんがラブホ行ってるの見た人がいるって聞いたときムカついたし。正直、ちょっとていうかかなり京谷さんとおにい会わせたくなかったし」

 ええぃ止まらないっ。

「でもでも京谷さん男の人が好きだし、私のことからかってるだけかもとか、色々考えたら会いにくくて」

「えーと、俺のこと好きって聞こえるんだけど」

「だからそう言ってるんです、よ」

 いつの間に立ち上がっていたのか、上から聞こえた京谷氏の言葉に反射的に返してしまう。

 目線は下の私の頭に突き刺さる視線。顔が上げられない、上げたくない。

 それでも沈黙に耐えられずそぉーっとうかがうと、ニヤニヤとしている京谷氏と目が合った。

「ありがと。俺も好きだよ」

「〜〜っ!」

「あーやっと言ってくれた」

 満面の笑みを浮かべてる京谷氏を見ると、ナンだろうはめられた感じがするのは私の考え過ぎかなっ。

「言ったでしょ?覚悟しとけって」

 ま、ちょっと予想外な展開だったけどね、と呟くや否や京谷氏に抱きしめられる。爽やかな京谷氏の香りだ。うん、きっとまた悩んだりするんだろうけど…。こういうのも、ありかな。

「もう離さないから、てか離すつもりないから」

「っこっちのせりふですっ。タイプの男の人がいてもダメですよ!」

「望むところ」


 

 こうしてわたしはわんこ(時々狼)につかまった。





~その後の二人~

「っていうか、お兄さんと一緒に寝てたんだね」

「げ、あれですか。向こうが冷え症だからってもぐりこんでくるんですよね」

「ちなみにいつぐらいまで…?」

「私が中学生ぐらいまでかな」

「へ、へー(鈴原さんてシスコンだったのか)」

「???」



~葉月が連れ去られた後の友人二人の会話~


「あれって京谷先輩、だよね」

「う、うん」

「二人って付き合ってるのかな」

「どうだろうね」

「…明日はかせようね」

「ほ、ほどほどにしといてやんな?」


次の日、葉月は根掘り葉掘り質問攻めであった。

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