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あたしのお隣さん

最初、その他でアップしたのですが、こちらに引っ越してまいりました。


そんな感じの短編です。

ガリッ……、ガリガリガリガリッ……、ギギギギィ……。


時間は午前二時。

いつもいつも聞こえてくる一心不乱に壁を掻きむしる音。


生理的に嫌悪感を覚えるこの音と時間。


それは香澄の睡眠を妨げると同時に、えもしれぬうすら寒さと不快感、そして、憤りを与える事となる。


《くっ、まさか……。まさか》


不動産屋で物件を見付けたときは考えもしなかった穴。

余りにも家賃が安かったため、陰陽師の娘である友人に、一緒に下見にきてもらったし、入居後に念のため、お祓いもしてもらった。

霊もいないし、陰陽的には最高の間取りと立地条件だとのお墨付きまでもらっていたのに……。


《隣の婆さんが痴呆症だなんて!

きいてないわよそんなことぉ!》


いつもいつもこれである。

家賃が安いのも、人が居付かないのも納得だ。


ドンドンドンドンッ……。


香澄は怒りを抑えて壁を叩く。

いつもなら、それで終わっていた。


だが……、


今日は終わらなかった。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


《何よ!

今日はヤタラと反抗的じゃない!》


もはや、キレてしまった。


ドンドンドン


なおも壁は叩かれ続けている。

そのわりにはあまり揺れてはいない。

少し違和感を覚えながらも香澄は、力一杯拳を壁に叩きつけた。


ドカァ!!!


壁は激しくうちふるえた。

そうなのだ。

普通はそうなのだ。

そして《壁からの音》は途絶えた……。







次の瞬間、とんでもない音を聞く事になる。

なんと、隣のお婆さんが起き上がって玄関から飛び出して来たのだ。


《!?》


混乱した。

今までに無い展開だ。

香澄は足音が玄関前まで達したのを認識した。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!


《あぁもう!

うっさいなぁ!》


香澄はズカズカと大きな足音を発てて玄関へ向かう。


だが……、


玄関前へと達したとき、神経伝達を遮断されたかのように、体の自由が利かなくなってしまった。


《やだ、なに!?》


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!!!!


目の前には、激しく叩かれる玄関。

そして、その向こうには、狂おしく玄関を乱れ打つお婆さん。

このとき、初めて香澄の心にとてつもない恐怖が襲い掛って来た。


《やだ!

助けて!》


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ……。


音がしなくなる。


暫しの静寂。


だが、これが嵐の前の静けさのように思えてならない。

なぜなら、まだ帰る気配を見せていないからだった。

隣の玄関の音どころか、引き返す足音すら聞こえてこないのだ。


《帰って!

お願い帰って!

もう怒りません!

好きなだけ壁ひっ掻いていいです!

だから!

だから帰ってくださいいいぃぃ!!》


その目からは、恐怖と嫌悪の入り混じった感情から、涙が溢れ始める。


なおも体の自由が利かない。

足元がそこに根付いてしまったかのようにその場に張り付いている。


《ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……》


なにがお婆さんのしゃくに障ったのかは不明だが、香澄にはもう、謝ることしかできなかった。







ガタンッ……!


突然の物音に震え上がる。


ガタガタガタガタッ!

物音の発信元は郵便受けだということはわかっていた。

だが、それに目を向ける勇気が出ない。

なんだか、見てはならないものを見てしまう気がするからだ。


ガタガタガタガタッ!

「うわっ、うわあぁぁぁ!!!」


香澄の右腕をなにか冷たい物が捕える。

自分の腕を捕える物に目をやってしまった。

それがなにか認識しなければ、今後の対策を立てることができないのだ。

その行動はごくごく自然な流れといえる。


だが、それでも見てはいけなかった。

それを見たことによって


「てっ、てっ……、

手ぇぇぇ!!!!」


と泣き叫ぶことになってしまったのだから。






お婆さんの手は、香澄の腕を物凄い力で引っ張る。

肉がブシブシと、骨がミシミシと悲鳴をあげ始める。


「痛い痛い、痛いいいぃ!」


必死の抵抗が実のってか、お婆さんの手は香澄の腕から離れた。

だが、油断は許されない。

まだ、時計を掴まれていた。


《ぐっ。

早くなんとかしないと手首から千切れちゃうよ……》


痛みに顔を歪めながら、必死に対策を考える。


時計の掴まれ方をよく見ると、ベルトの留め金が剥き出しだった。

本体が握られているのだ。


それは、博打だった。

負ければ利腕ではないにしろ、片腕の手首から先が無くなってしまうことは、火を見るより明らかだ。


だが、打たなければ、完璧に無くなってしまう。


《神様。

あたしを助けてください!!!》


香澄は救われた。

お婆さんは、意図的に外された時計だけ郵便受けから外に引き抜いていった。


そして……、足音。

隣の部屋の玄関の音が、恐怖の夜の終りを告げるかのように静かに響いた。


香澄は余りの出来事に、その場に座り込み、意識を飛ばしてしまった。







目覚ましの音。その音は、いつも通りの平和な朝の訪れを示すものだった。


無駄だと頭では解ってはいるものの、つい反射的にいつもの位置に手を伸ばしてしまう。

《……、!!》


驚いた。

心の底から驚いた。


手を伸ばすことによって、目覚ましを止めることができてしまったのだ。

玄関で倒れていた筈の自分に。


《ゆ……め?》


そうとしか考えられない。


《ならなんのために……?


……!》


香澄はパジャマから着替もせず、家を飛び出した。







香澄は今、お婆さんの部屋の前に居る。


考えが正しければ、この中は修羅場となっている筈だ。


《開けなきゃ。

あたしに託してくれたんだもん、あたしが開けなきゃ……》


何度も自分に言い聞かせる。


そう、


《あたしが》


お婆さんは


《助けて》


隣人に


《あげなきゃ》


託したのだ。


《この》


自分の


《ドアを開けて》







予想通りに、玄関はあっさり開いた。


その向こうには、お婆さんが眠っていた。

……、永遠に。


その手には、香澄の腕時計が握られていた。

香澄は電話を入れる。

110と、119に……。







香澄は喫茶店で友人を待っていた。

その友人は、芸能人で、大学にも真面目に顔を出している、陰陽師の血を引く者。

引っ越した日に、お祓いをしてくれた友人だ。


その友人の名は、門倉麻里愛といつた。


「あっ!

まーちゃん、まーちゃーん!

ここ、ここ!」

「はいはいはい。

で、話ってなに?」

「うん、隣のお婆ちゃんがね……、」


麻里愛に事の経緯を話し始める。


「あたしが襲われたのが、二時なのよ」

「で?」

「なのに、死亡時刻がニ一時なんだってさ……」


そこまで一気に話すと、これまた一気にアメリカンドッグを口の中に押し込む。


「前の日の……、だね?」


突っ込まれてしまった。

言われてみれば明言していない。


「そう。

で、お婆ちゃんはなんしに出てきたのかなぁって気になっちゃって」


……、……、……、……、……、……、沈黙。


ズゾゾゾ……。


麻里愛は、残り少ないブルーマウンテンを盛大な音を発てて飲み干す。


「うん、取り憑かれちゃいないよ。

多分、見付けて欲しかっただけなんじゃないかなぁ」

「そう……」


不思議な気持ちだ。


「なんであたしだったんだろ?」


「何時間もほっぽられたのが堪らなく寂しかったのかもね。

わたしだっていい加減化けて出たくなるもん」


確かにそうかもしれない。


《やっぱり託してくれたんだ。

あたしに自分のことを》


「どうせだからわたし、神上げしといてあげるよ」


麻里愛はそう約束してくれた。







午前二時。

今日も壁を掻きむしる音で目が覚めた。

目の前にはお婆さんがいた。


《起こしてごめんね。

ありがとう、お嬢ちゃん》


お婆さんは満面の笑みを湛え、旅立って逝った。

久々の短編でしたが、いかがだったでしょう?


アドバイス等いただけると、とても励みになります\(^ー^)/


鍛えてやってくださいm(_ _)m

宜しくお願いします(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは、途中物凄く怖かったです! この作品だったら、バッドエンドの方が余韻が残って良かったんじゃないかな?と思いました。何箇所か『?』な所もありましたが、腕を捕まれるところなんかが、と…
[一言]  滅茶苦茶恐かったです。ですが最後にはほっとしました。そんな作品でした。  何気にちらりと出た友人の女の子のキャラが立っていていい感じでした。
[一言] 普段は穏和で非力に思えるはずの老婆が突然襲って来る…これは怖いと思いました。 その理由も明かされていたので良いですね。
感想一覧
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