やきにく食べたい
夏は来たりて日は灼熱。日中の気温は30℃を超える真夏日なり。
こんな日にはやはり冷麺……と言いたいところだが、それは今後更なる暑さとなったときへと回すとして、辛うじて余力のある今はそれに備えて体力を養うべきであろう。というわけて今日は奮発して焼き肉だ。
量販スーパーで特売の牛肉と焼き肉のタレ、そしてビールを購入。序でに買った棒アイスを咥えながら炎天下の中自宅へ。
あ、あまりもの暑さに空から蝉が落ちてきた。どんだけだよ、ホント。
自宅に到着。
早速カセットコンロとボンベを押し入れから引っ張り出す。鉄板はフライパンでいいだろう。
……って、ヤバ、野菜を忘れた。
ひとまずビールを冷蔵庫へ。
そしてその流れで野菜室を探る。取り敢えずはこの前のカレーで余った玉ねぎとニンジン、あとは茄子ってところでよしとするか。
野菜を適度な大きさに切り分ける。玉ねぎのばらけるのが困りもの。つま楊枝でも刺すかね。
さあてそれではいよいよ。
コンロにボンベをセット。
フライパンに油をひき、点火。
なんか肉野菜炒めっぽい感じがするけど気にしたら負け、こういうのは気分だ気分。
皿にタレを用意しておけばその辺も気にならなくなる?
おっと、ビールも出さなくちゃな。
油がフライパンに馴染んできたところで肉の投入。そして野菜も。
ジュー! ジュー! ジュー!
肉の焼ける音が響く。
うあっちっち!
油が跳ねた。
ちょっとばかりひき過ぎたかも……。
けほっ、けほっ。
すげえ煙。
とはいえこれも焼き肉の醍醐味。食欲が唆るというもの。
ピーッ! ピーッ! ピーッ!
電子音が鳴り響く。
火災報知器が煙に反応したらしい。
取り敢えず窓を開けて換気だ。
ふ~、やれやれ。
それにしてもこんなことで反応するとは。火災報知器も良し悪しだな。
……って、そろそろ肉も焼けてきたかな?
安物の特売の肉だし、そんなに厚さがあるわけじゃないし火の通るのも早いもんなぁ……。
はは、揚がってるよ、ホント。
まあ、それも最初のうちだ。そのうち気化して油加減もいい具合になってくれるだろうしな。
ややカリカリ状態の肉をタレに浸けて口へと運ぶ。
う~ん、絶品!
ほどほどに冷えた缶ビールを追っかけで一口。
う~ん、旨い!
どちらも安物のそれだが、口の肥えることのない庶民からすれば最高の贅沢といえるもの。至福を感じる瞬間だ。
『やきにく~』
『やきにくおいしそう~』
いや、本当な。これがなんとも旨いんだ。
……って
「うあっ⁈」
な、なにぃ⁈
跳ねた油のせいなのか、傍に放置していたビニール袋が突如引火。慌てて叩いて消火する。
ふぅ~、なんなんだよ全く。
って、なにぃっ⁈
な、な、な、なんだよこりゃ。
なんか油が次々に跳ねて辺り一面が……。
くっ、ヤバい。
早く流しの消火器で──。
……って、無理、無理、無理!
こんだけ火が早くっちゃ間に合わねぇ!
「か、火事だーーっ!」
叫び飛び出す一階の窓。
背後には紅蓮に包まれた我が家。
『やきにく~』
『やきにく、うまぁ~』
気のせいか、炎の中に焼き肉を貪る黒い影が。そして幻聴。
焼き肉への未練のせいだろうか。
崩れゆく我が家。
はは……。惨事だというのに俺っていったいなんなんだろうな……。
これ、ジャンルはホラーでいいんでしょうか……?




