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9/22

不香の国と春告げの君 -3-

ここでちょっと同性夫婦のいちゃつきが入ります。

キレていい?



「ぴー………極楽極楽ー………」

「…………ふぅ…。」

 温泉のお湯の上で、浮き輪を使ってぷかぷかしながらのんびりしているおーなーを見ながら、イーハイも一つ息を吐く。

 しかし、この温泉についてはイーハイはかなり驚いたものだった。

 温泉に入ろうと思って一階まで行って、彼らの近くを通った仲居に場所を聞いてみれば、「『初日の間』の客が入る温泉はこっちだ」と、明らかに一般の浴場と違う場所に連れて行かれた。

 困惑するイーハイに対して少々年配に足を突っ込んでいるだろうその女性の仲居は首を傾げ、「ご存じなかったんですか?」と言っていたのを苦笑しながら思い出す。

 お陰で、仲間内だけで貸し切りの温泉を楽しめているので、戸惑いこそあれど、不満自体はなかったが。

 イーハイは温泉の縁に身体を預けながら、仲間たちを見る。

 アマノは段差のところに腰を掛け、半身浴をしながら『和酒』を嗜んでいた。お猪口に少しずつ注いでは、間隔を開けて呑んでいる。

 長く楽しむつもりなんだろう。

 ニックスは、マキシマと何かをしていた。

 よくよく見てみれば、マキシマがニックスの腕にマッサージをしているようだ。

 マキシマの手のひらは平たいので、果たしてどんな効果があるのかとイーハイは少し興味があったので、後で聞いてみようと思った。

 おーなーは先程イーハイの視界に入った時と変わらず、浮き輪に身を預けて温かいお湯を堪能しているようだった。

 珍しく穏やかそうな顔を浮かべる彼に、イーハイは意外に思いながらも、これはこれで彼らしいのかも、と考えた。

 と、そこまで見て、イーハイは一人この場にいないことに気がつく。

(あれ、そういえば……ルッツは?)

 少し腰を浮かせて、きょろきょろと見回してみれば。

(………あ、)

 見慣れた褐色の肌を見つけて、イーハイはルッツの名を呼びかけて────そのまま固まった。

 立ち上る湯気の向こうに現れた、しなやかで濡れた身体は、………イーハイの目には、逆上せ上がって倒れそうなほど美しく見えた。

(…………反則………)

 イーハイは単純すぎる己の頭に内心がっかりしつつも、心の中でお粗末で雑な抵抗を試みた名残だけで反発をしてみたが、反発にならずにやっぱり目の前の事象に釘付けになる。

 湯に入ろうとする足の動作も、手をついてゆっくりと体を下ろす動作も、イーハイという単純極まりない男の目には酷く甘い毒のように映った。

 このような時のこの男の煩悩とは、かくもままならない物である。

 同じ男にこのようになるか? と言われれば、イーハイの答えは「はい」か「当然」になるだろう。冷静であれば、だが。

 だが、一番に彼の口をついて出るかもしれない言葉としては、「そんな相手だからこそ、同性同士であれ婚姻関係を結んだのだ」といったものを言うしかない。

 あくまでも、それは理由の一つに過ぎないものではあるが、それでも彼にとっては、心を構成するパズルピースの一つなのだ。

 ………と、いったような高速の言い訳を並べるイーハイの頭は虚しく、ルッツから目を離せないでいるのである。

 不意に、イーハイに理屈と煩悩の嵐を巻き起こした褐色の魅惑がその視線をイーハイに向けた。

 ごく、と音がしたのが喉か心臓か、イーハイは自覚ができなかった。

 当然の如く、それどころではなかったからだ。

「イーハイ? どうしました?」

「いっ!?」

 イーハイは目の前までそれが来ていたのを何故かずっと見ていたのに認識をしていなかったので、思わず飛び上がりそうになるほど驚いた。

 一瞬身体を後ろに引こうとした影響で、ばしゃっという音と共に水面が揺れる。

「イーハイ?」

「あ、いやそのあの、」

 ルッツが小首を傾げるその動作すら、今のイーハイには城壁を破壊する大砲を思わせるような力を持っていた。

 もはやここまで来ると煩悩に明け暮れた頭を誤魔化しようもないとイーハイは観念するしか無く、縮こまるようにあぐらを取っていた膝を丁寧に立てて抱える。

「…………その…………君に、見惚れちゃって………」

「………………おや。」

 イーハイの言葉に、ルッツは穏やかに微笑む。

 そのままゆっくりと、彼はイーハイの頬に向かって手を伸ばす。

 洗ったばかりの艷やかでさらさらとした指先がイーハイの肌を滑る。

「顔を真っ赤にされていたので、具合でも悪いのかと思ったじゃないですか。」

「………君のせいで、のぼせはしたかもね」

「おや。イーハイが、私にのぼせないことがありますか?」

「なんというぐうの音も殺す文句を」

「………参りましたか?」

「………参ってしかいないよ」

 二人はほぼ同時に、「ふふ」と声を上げて笑い合う。

 ルッツは静かにイーハイの隣へと移動すると、そのままイーハイの身体に自分の身体を預けた。

 心地よく遠慮がちに、しかし大胆にのしかかる半身の重さを、イーハイは全身を包み込むお湯とは違う温かさを掴みながら実感する。

 そんな彼らが前を向けば、仲間の姿が再び彼らの視界の中に入る。

「ぷぐぇー。甘いのは風呂上がりのコーヒー牛乳だけにしてよねー。」

「………マキシマ、俺を盾にされても、困るから」

「ほっほっほ、初心じゃのぅ、マキシマ!」

 心底迷惑そうな半目で見てくるおーなー、手で顔を覆いながらイーハイたちをニックスの肩越しに見るマキシマ、そのマキシマにどう言うべきかで困るニックス、マキシマを見て朗らかに笑うアマノ。

 世間の目や文化、宗教によっては、同性同士の婚姻関係……どころか、その恋愛関係、あるいはその片思いのようなものであれども歓迎されないことは多い。

 しかしながら、有難いことに多少なりとも人目を憚らないところがある自分たちに大なり小なり冷ややかな目線を向けることがあっても、自分たちを根本から否定することはない仲間たちに、イーハイは改めて感謝を覚えた。

 元より、人は人、自分は自分。

 そのような思想で集まった者たちだと、イーハイは心から断定はせずとも、そう考えている。

 だからこそ、彼らは腹の底で何を思えど、否定までに至ることはない。

 相手の生き方であり、望むことを否定したものに待つものなど、己の不自由でしかないのだから。

 そんなイーハイの考えについてくるような彼ら、という象徴が、今のこの状況なのだろう。

 イーハイの心には、そんな感慨があった。

「…………ねぇ、イーハイ」

「ん?」

 少々騒がしい仲間たちの声が響く中、ルッツの呼びかける小さな声がイーハイの耳に届く。

「………本当は、気になっているのでしょう? ………この国の状態について」

「…………………。まぁ、ね。」

「…………道中でお話しました、この国の異常気象が齎している問題について。………これについては、私たちにはどうすることもできません。援助ができたとして、異常気象がどれほど続くのかの目算がなければ意味がありません。」

「その異常気象自体も、精霊の異常なのか……元素関連の異常なのか………特定が必要になるし、………そもそも、国がそれを調べてないわけもない、か」

「はい。そして、もしもそうだった場合は、私たちにできることはありません。不自然なことだったとしても、自然なことだったとしても、どの道、それに手を加えるようなことは災害を自ら引き起こすようなものです」

「………………うん。」

「………イーハイ。それが分かっていても気になってしまう性分は、私も否定はする気はないです。貴方のことですから」

「…………ありがとう。……でも、オレが何かあっても、って言ったのに、こんなんじゃダメだよな。」

「ええ、駄目ですね」

「………容赦ないなぁ」

「ええ、貴方の妻ですから」

 イーハイは一瞬面食らったが、直ぐに顔を綻ばせた。

「それに……何にでも足を突っ込むイーハイのことですから、最終的に何かには巻き込まれるでしょうし」

「…………………なんていうか……色々台無しだよルッツ……………」

 なんでこういう時は天然なんだろう、とイーハイは如何にも「?」という記号が浮かんでいそうな表情を浮かべるルッツを横目で見て、片方の手で顔を覆うしかなかった。

 ………もう片方の手は、湯の中で彼と繋がったままであったから。

 その感触を楽しむ己も否定できないままに、イーハイは何とも言えない温泉の時間を過ごすことになったのである。






 ◇◇◇◇◇






「ぷぃー! 堪能したー! 超堪能したー!!」

「随分テンション高いな、おーなー」

「アルデファードって人様々だねー。たまには人類に感謝とかしてやらんでもない」

「………いやそこは普通に感謝しようね」

 彼らはしばらくの間、貸し切りの温泉を楽しんだ後、談笑しながら一度部屋に戻る為に廊下を歩いていた。

 場所を確保するためか、結構な離れにあったので、たかだか一本道でも戻ってくるのには掛かる距離ではあったが、そんなことを気にしないくらいには彼らは楽しんでいたようである。

 それぞれが談笑しながら歩いていると、不意に、イーハイの視界の先の端に、誰かの着物の裾が映った。

 進路方向に誰かいるなら避けないと、と考えた彼は意識をしっかりと前に向ける。

 すると、そこにいたのは亭主の設楽と、仲居の春那だった。

 仕事の話でもしているのだろうか、それなら静かに通り抜けた方が良いか、と思ったイーハイだったが────。

「アカン!! 春那ちゃんッ!!」

 ぐらり────と。

 イーハイたちの目の前で、春那の身体が後ろへ傾ぐ。

「危ないッ!!」

 咄嗟に、イーハイは飛び出して、春那の身体を支えた。

 もう少し遅れていたら、勢いよく床に叩きつけられていただろう。

 突然飛び出してきたイーハイに面食らっていた設楽であったが、少なくとも、その事態を避けられたという事実の方を認識したようで、安堵の息を漏らしていた。

「あ……れ、お客様……?」

「イーハイさん。ありがとうございます。私、反応鈍うて恥ずかしいですわ。お陰で従業員を怪我させずに済みました。………春那ちゃん、今日はもう、上がってほしいんよ。………お願いやから」

「で、でも……」

「でもも何もないですよ。その体調でお客様にご迷惑をお掛けするのは春那ちゃんの本意でもないでっしゃろ。………それに、今日は『お務め』も止めておきなさい」

「設楽さん、それは……!」

「あんなもん、行かんでよろし!」

 設楽の、怒鳴りはしないものの、両断するような鋭い声が廊下に重く響いた。

 しん、と周りが水を打ったかのように静まり返る。

「……………。今日は、もう休んで。お願いやから。………皆、貴方には無理させたないねん。…………」

「……………。帰り支度を、させてもらいます。………あの……ご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした、お客様。この後も、ごゆるりとお過ごしください」

 春那はイーハイから弱々しい動きで離れると、頭を深く下げてからその場から離れていった。

 思わずイーハイが目で追えば、どうやら設楽とのやりとりを見かけて成り行きを見守っていたらしい仲居たちが彼女に声をかけているのが見えた。

 通りがかった他の客も、どことなく不安そうな表情を浮かべて、去っていく仲居たちの背を見守っている。

「具合の悪い従業員への叱咤にしては、穏やかじゃないのぅ? 亭主よ」

「………アマノ、ちょっと……」

 イーハイはこれは自分たちが口を出すことではない、とアマノを制止しようとしたが、設楽はそれを手で制しながら「いえ」と首を力なく振り、

「お客様の言う通りですわ。………ちょっと熱くなってしもうたみたいです。情けないですねぇ、私。」

 と、肩を落とした。

 設楽はそれきり、何かを考え込むようにして黙り込んでしまう。

 イーハイにはそれが何となく、彼が何かを言おうとして躊躇っているように見えた。

 ………それが果たして、このまま待っていれば口から出してもらえるものなのか。

 それとも、特に聞かずに去ったほうがいいものであるのか、判断がつかなかった。

「………なぁ……ちょっといいかな……」

 そこに────一人の男性が、イーハイに向かって話しかけてきた。

 確か、通りがかった客の一人だったか。

 イーハイが部屋で見かけた浴衣と羽織に身を包んでいる、恐らく一般の男性である。

「その、あんた、……有名な冒険者なんじゃないか。あの、リューンの……」

「…………………有名かどうかは分からないけど、冒険者ではありますね」

 イーハイは、静かに男性の言葉に返答する。

「だったらさ、……設楽さん。……彼らに、『依頼』しないかい。……あの子のこと……」

「…………それは、したらあかんことですよ。私からしたら、この方々はあくまでも貴方と同じ、お持て成しをする相手でお客様ですからな。……………」

「それなら! ……それなら、町の皆で、この人たちに頼むよ。それなら、いいだろう。なぁ、設楽さん……」

「……………………。そこまで行くとなぁ、私にはもう判断できることじゃありません。………それは、貴方がたの好きにしたら良いんやないですか。」

 設楽はそこまで言うと、頭を下げる。

「すみません。お見苦しい所をお見せしてしまいました。………従業員の采配をし直さないといけませんので、これで失礼致します。………引き続き、ゆるりとお過ごしくださいまし。」

 と、設楽は言い切り、頭を上げるとすぐに踵を返して、その場から去っていく。

 程なくしてその設楽の姿を見届けた何人かの客と、数名の仲居の女性たちがイーハイたちのところに駆け寄って来た。

「なぁ、あんたらが有名な冒険者って、本当かい?」

「あたし、外から来た新聞ってので見たことあるよ。『仮初探偵事務所』っていう、世界で起こったいろんな事件に関わった人だって聞いた!」

「お願いや、ワイらの話聞いてほしいねん!」

 彼らは口々に、イーハイたちに言葉を浴びせた。

「ちょ、ちょっと待ってください。………あの、あなた達がオレたちに頼みたいことっていうのは、………春那さんのこと、ですよね?」

「………………………。」

 イーハイが彼らの勢いに押されながらもそう聞けば、彼らは一気に静かになる。

 お互いの顔を見合わせて、誰が切り出すかを決めあぐねているような顔だった。

「………あっしから言うよ、言い出しっぺだしな……」

 先ほど、真っ先にイーハイに話しかけてきた男性が、再び一歩前に出る。

 イーハイがじっと男性の顔を見つめれば、男性は少し怖気づいたようだったが、居住まいを直すと、口を開く。

「あっしは、春那ちゃんの……いや、望月さんの家の近所に住んでるものです。……冒険者の方々に頼みたいことというのは、あの子のことではあるんですがね……。………正確には、『この国がなぜ冬に閉ざされているのか』……それを調べてほしいんです。」

「…………この国の冬が終わらないのと、春那さんに何か関係が?」

 男性の言葉に、ルッツが聞き返すと、男性は口籠った。

 ………少しの間をとって、男性は俯いていた顔を上げる。

「…………頼んでおいて、無責任な話になるんですがね………。あっしら、……このままだと、春那ちゃんが、冬の終わりと共にいなくなってしまう気がしてならんのです。本当に、……根拠もねぇ話なんですが……」

「ちょっとおっさん、答えになってないよ。………何、どゆこと? それじゃまるで、あの春那って子が原因で春が来ないみたいじゃん」

 おーなーが怪訝そうに言う。

 しかし、「それは違うよ!」と、仲居の一人が声を上げた。

「春が来ない原因は、本当はわかってるのよ、あたしら。『春の巫女』様がいないからだよ。」

「………じゃあ原因わかってるじゃん。分かってるもの探れって言われてもさぁ……」

「無茶苦茶言ってるのは分かってる。………でも、巫女様がいなくなったくらいで、冬が終わらないってのも変な話だと、みんな思ってるって話だよ。」

「…………どうでしょう。この国で精霊研究の類がどれほど浸透しているのかにもよりますが、……迷信で切り捨てるには足りないかと」

「………………それは…………」

「…………えーと………ちょっと意味分かんないんだけどさー。あの春那って子が新しい『春の巫女』だと思ってて、もし冬が来たら彼女がその役割を果たして消えるかも知んないから、それを事前に分かるならどうにかしたいって話?」

 おーなーの問いかけに、また町人たちは顔を見合わせる。

 ………恐らく、うまく今の状況を、理論立てて説明できる人間がいないのだろう。

 気持ちが逸ってしまっているのか、何なのか。

 彼らが思うよりも、冒険者たちが冷静に言葉を返してきたのに戸惑ったようだった。

「え。うそ。違うの? 今の」

「ふむ……。なるほどのぅ。…………………では、一つ一つ聞くとしよう。まず………春那というあの子は、今は、『何』じゃ?」

 アマノがゆっくりとした口調で、町人たちに問いかける。

 彼が投げかけた視線に、町人の一人がごくりと喉を鳴らしながら、慎重に口を開いた。

「………春那さんは、……『春告桜』の祝福を受けた人……です。」

「『春告桜』ぁ……?」

 おーなーが小さな身体ごと首を傾げてみれば、その名前を出した青年は一つ頷いた。

「『春告桜』は、この国の象徴の一つでやす。町の北の方の高台……と言えばいいでしょうかねぇ……。長い階段を登った先の、鳥居を潜ると見える、とても大きな桜の木なんです。」

「『春告桜』は不思議な桜でね。春が近くなると普通の桜よりもずっと早く咲いて、梅雨の終わりまで咲き続けるんだ。……咲いてから必ず、春の気候になっていくから、あたしらが生まれるずっと前から、『春を告げる桜』……って名前そのままに、『春告桜』と呼んでるわけ。」

「……………その桜の……祝福、というのは?」

 イーハイが聞くと、それまで顔を上げていた町人達がまた俯いてしまった。

「……………少し前に、望月さんがね。帰りに桜にお参りするって言って、仕事が終わってすぐに帰った日があったんだ。………あたしはその時、結構遅れてから出てきたんだけど……宿の外に出たら、望月さんが、桜の前で倒れてたって騒ぎになってて……」

「当然、すぐに医者のもとには運ばれたんですがね。………そこで分かったのが、春那ちゃんの体を構成する『まな』ってのが変わっちまった、って話と…………見たわけじゃないんですが、……胸に覚えのない桜の紋があるらしいんですわ。………それで、医者はその『まな』ってやつが桜の波長と似てるってんで……」

「………なるほど、それで『桜の祝福』ですか」

「あたしら、最初はそりゃあ驚いたけど……でも、『春告桜』が望月さんに何かを伝えようとしてるなら、ってのと……彼女が望んだのもあって、直ぐに僧侶の方とかに話を持っていったんだ。……でも……」

「返答は、春那ちゃんに『お務め』をさせろと……。………『お務め』と言っても、難しい話じゃあありやせん。……ただ単に、毎日の桜へのお祈りを欠かすなとか、欠かすならお神酒を用意して……とか、そういうものです。」

「望月さん、……お客さんも見ただろうけど、あんな感じの子じゃない? だから、あの子……張り切っちゃってね。」

「『春告桜』から力を受けたのだから、恐らくこの国に春を齎せるかもしれない……って、『お務め』をしてたんですが、…………日が経つにつれて、段々と体調を崩してるみたいで………それで、…………………」

「……………大体、分かりました。纏めさせて頂きますが……貴方がたは、『春告桜』が春那さんの命を吸っているのではないか、と考えているのですね。………『春の巫女』が不在で、それを補おうと、『春告桜』が行動を起こした……と、貴方がたの報告した相手は判断したと。」

「………………そういうこと、です」

「なるほどのぅ。子細、理解したぞい」

「まーったく、人間ってばこういう時、感情が走って回りくどいんだから。………で? それで事情は分かったけど。結局、依頼は『何で春が来ないのか』で良いわけ?」

「……………依頼は、………『もし彼女が死んでしまう可能性があるなら、それを阻止してほしい』……です! だから、この冬が終わる方法が、別にないか探してほしいんです!」

「………さて、受けるとしたらじゃが、まずはそんな因果関係が本当に存在するかどうかから調べないとならんのぅ。」

「ぷぴー…。めっちゃ骨折れそうなんだけど。第一土地勘ないから、調べれる場所も分かんないし、この人たち知ってんのかなぁ?」

「それも、やるならこっちで聞き込みするしかねぇだろ。それが俺たちの仕事だしな」

「ぷー。」

「………………イーハイ。」

 ルッツがそこで、イーハイの隣に立つ。

 今まで黙っていた彼の顔を少しだけ見るようにして。

「彼らの話を受けるかは……貴方に任せます。どうしますか?」

 その言葉に、イーハイは目を瞑る。

 決定権は彼にあるのだ、と理解した町人と仲居たちは、彼のことを固唾を飲んで見る。

 ややあって、イーハイが目を開く。

「…………分かりました。……この話、請けさせて貰います。」 

 ………イーハイの言葉に、一瞬、町人たちに静寂が走ったが、その意味を少しずつ理解したのだろう。

 彼らは段々と笑顔になると、歓声を上げて隣の人間と手を取り合って喜び合った。

「あーあ、結局お仕事かぁー。」

「ま、ある程度そうなる覚悟はしてたけどな」

「全く、イーハイあるところにと思えるところじゃの」

 そう話す仲間たちに交じって頷くマキシマも含めて、ルッツは彼らの姿を見て微笑むと。

「イーハイ、まずは情報を集めましょう。」

「ん。………とりあえず、それならオレは春那さんの所に行ってみるよ。彼女から話を直接聞いておきたい」

「分かりました。それなら、私はニックスと一緒に『春告桜』について分かる人物か、文献がないかを探してみます。」

「ああ、頼む。」

「……あの! あたしらにも、できることがあったら言っとくれ! 力になれるんなら、なんでもするよ!」

 

 ………かくして、彼らの冒険が、再び始まることとなったのである。



(続く) 



あの夫婦シーン楽しんだ猛者がいるらしい

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