不香の国と春告げの君 -7-
言わんでもここまで読んでくださった方みんな知ってたまである設楽回
「ったく、なんで俺様はスカし野郎に乗せられちまったんだか……」
「それ、もう五回くらい聞いたよ赤都……」
「五回言ったから五回聞こえるに決まってんだろ!」
「聞いたことない怒られ方した……」
イーハイと赤都は、『福楽亭』に向かって歩いている最中だった。
結局、赤都はものすごく悩んだ末───と、言っても、その悩みの大半にイーハイに対する謎の対抗心があっただけなのだが───に、イーハイと共に『冬の巫女』を探す決意をしたのだった。
イーハイは、未だ赤都が春那のことを気にする理由については想像はできるものの断定まではしていなかった。
それは本人からちゃんと聞いてからだ、と考えていたのと、彼が自分に持つよく分からない対抗心……恐らく春那に強く関わっている自分に対する何かがある限りは突っ込んで聞かないほうがいいだろう、という判断で、あくまでも利害の一致のみで一緒に行動することにしたのだ。
別々で動いて、いざ春那本人に何かあってからでは遅い、というところに関しては赤都自身も考えてはいるようで、見た目の猪突猛進さのままの人物ではない、ということにイーハイは安心と信頼を小さく寄せていた。
イーハイには春那や町の人、そして赤都がどんなことを重ねてきたかは分からないし、見透かす事もできないのだから、それ以上の認識でなくてもいいだろう、という気もしていたので、あくまでも小さく。
彼なりの、彼らへの配慮のようなものだった。
イーハイは赤都の拗ねた顔をたまに見つめたりしながら、彼と共にゆっくりと歩いていく。
やがて『福楽亭』の入り口へ向かおうと道を曲がった時、宿の前に一つ、人影があるのに気がついた。
誰か、別の客だろうか? と思いながら歩みを進めれば、宿の入り口から漏れる光にその顔が照らされて顕になる。
「─────設楽さん?」
その人物は、宿の亭主の設楽だった。
「イーハイさん。おかえりなさいまし。」
「只今戻らせて頂きました。」
「………なんや、珍しい人連れてはりますなぁ?」
「………あっ!? てめえ、タヌキ野郎!?」
「………………………え、………二人とも、知り合い…………なの?」
「知り合いと言いますか、腐れ縁と言いますかねぇ………。というか赤都はん? まだ春那ちゃんの追っかけやってるんです?」
「追っかけって言うな!? 何か心に刺さるだろ!!」
「何かってなんですのん。やってること後ろめたいなら堂々としたら良いやないですか」
「出来るか、そんなこと! ………向こうは俺の事なんか、覚えてねーよ! あんな昔のこと!」
「なんで決めつけてるんだか理解に苦しみますなぁ………」
イーハイは目の前で漫才じみたやりとりを始めた二人をどう解釈するべきかで悩みながら見た。
どうやらそれなりに古い知り合いらしいことは何となく文脈で理解したものの、どういう繋がりなんだろうか……? と、イーハイはぼんやり考えながら、わーきゃー言いながら半分設楽に揶揄われている赤都を見ていた。
しかし、今しがた赤都の言った『あんな昔のことなんて覚えてない』という発言は、イーハイのある考えに一つの情報として落とし込まれた。
春那と赤都は、確実に昔、出会っているということだ。
(春那さんが言っていた、『赤い鬼』って、やっぱり………)
イーハイは第三者として、そう考えざるを得ないところに落とし込まれていた。
「……あのー…、ところでなんですけど……設楽さん、何でこちらに? 誰かをお待ちしていたんですか?」
「…………ああ、そうですわ。アホの鬼のせいで忘れておりました。イーハイさん、貴方を待ってたんですわ」
「オレを……?」
「おい、しれっと俺のことアホっつったかてめえ! 赤だ、赤!」
「何のこだわりですのん」
「あー……えーと、話を戻してもいいかな………?」
「すんませんねぇ。………イーハイさん、」
設楽はそこで言葉を区切ると、イーハイに向かって深く、頭を下げた。
「………春那ちゃんのこと、町の方々より聞きました。この国のことですのに、……そもそも、貴方はこの宿に慰安にいらっしゃったはずですのに、『結局』巻き込んでしまいました」
イーハイは、その設楽の姿をじっと見てから
「…………。顔を上げてください、設楽さん。ある程度は考えていたことです。というか、あのアルデファードさんの紹介なので。この国に何もないと考えてくることは正直オレには難しいです。前に関わったことから考えたら、という浅い物ではありますが」
設楽は頭を上げなかった。
それも、設楽の思いから来るものだと受け取ったイーハイは言葉を続ける。
「…………はっきり聞きますけど、何処からが『グル』ですか?」
「宿の提供のみです。それ以外は好きにしろ、イーハイさん次第や……と」
「アルデファードさんらしい返答ですね」
「私は……アルデファードさんにかなりしつこく喰らいつきました。………春那ちゃんはどうなるのか、国がどうなっているのか。知っているなら教えろ、と。………返答は、『お国の意向で、説明は出来ない』。それのみです」
「この国では宗教の観点から『魔法』に関する一切が『神秘』以上の意味をあまり持っていないようですからね」
「イーハイさんのご推察のとおりです。…………私とて、悩みました。………この国が別に冬に閉ざされようと、雪に閉ざされようと、………正直、将来的には誰も困りません。………逆も然りです。春那ちゃん一人消えて、本気で困る人間なんて、居ないんです。」
「………設楽ッッ!! てめえ!!」
「赤都はん、私に怒られても、事実は変わりやしまへん。………物語を作る人間が、平気で人を犠牲者に仕立て上げることができるのと同じですわ。現実も、そのときは美談でもいつか忘れる。………だったら、雪でこの国埋めて、困ったことなんてなかったことにしたろうか、なんて考えてすらいました。………私には、そんな事を考えて飲み込めるほどの器量のよさは無いんです。………こう見えて、短気ですから」
「だからあの時、『春告桜』のところになんか行かなくていいと、春那さんに……」
「自分でも感情の居所がなかったんだと思うんですわ。………このまま何もなければ、実は何も変わらないんじゃないかって。………でも、違いましたわ、………違ったんですわ。………恐らく。」
設楽は、力なく首を振った。
そして、細い目を真っ直ぐにイーハイに向ける。
「春那ちゃん、覚悟……固まったんでしょう?」
「………彼女なりの答えは、あると思いますよ。」
設楽はイーハイの返答に、小さく微笑んだ。
少しの寂しさを携えて。
そんな彼の表情を見たことがないのか、赤都は複雑そうにして、身体ごと彼から視線を逸らしていた。
そんな彼の姿を目敏く見た設楽は、赤都に視線を投げつける。
「……赤都はんは、何でここにいはるの?」
「な、なンだよ、藪から棒に」
「『商売をする時、売れるも八卦、売れぬも八卦。だが最初から売る覚悟のないものに想定以上の結果は降りてこない』。ウチの曾祖父ちゃんの言葉ですわ」
「それがなんだってんだよ、回りくでぇんだよ、お前は! 結論だけ言え、結論だけ!」
「赤都はんはイーハイさんに付いていって何がしたいん?」
「……………………………………」
「取らぬ狸は皮算用。………売れないものに縋るほど、私も商売はやっとらんのよ、赤都はん。あんさん、何をこの人と成そうとしとん? 成したいん? ただ付いてくるだけは、何もしないのと同じやと思うたほうが良いんちゃいます?」
「そういうお前は良いのかよ、春那が、……死んでもよ!!」
「…………良いわけ無いやろッ!! 良いわけないから、悩んだんや!! でも私には何もないねん、慰めて、きっと大丈夫だなんてテキトーなこと言って、それであの子の為になるんやったらしとるわ!! それで現実変わるんならなんぼでも偽善でもなんでもしたるわ!!」
「設楽さん……」
「出来るわけ無いやろ………私かてな、一緒に過ごして楽しかった子をな、あんな一生懸命生きる子をな、よう分からんことで亡くしたくもないわ……。事故で帰らぬ人になった言われたほうがこんなマシなことない、単純に不治の病に侵されて長くない言われたほうがまだ納得する、でも、どっちでもないねん、何を納得しろ言うねん、こんなことを! 誰が国のために何を納得しろいうねん!」
設楽は、拳を握った。
何かを掴むように、縋るように、………祈るように。
「………でもな……、忘れんな、赤都!! …………ここはな、あの子の『愛しとる国』やねん!!」
「……………そんなもん、いなくなっちまったら、死んじまったら何にもなんねぇじゃねぇか!! それで納得できるんなら、こんな所に俺は来てねぇんだよ!!」
「──────────二人とも、そこまでッ!!」
二人は、突然響いた鋭い声にびくり、と身体を震わせた。
声の主を見れば、それはイーハイであった。
設楽からすれば温厚で、赤都から見れば軟弱そうに見える彼が、張り詰めるような空気を纏ってそこに立っていた。
「………………君は喧嘩しに来たんじゃないだろ、赤都。……設楽さんも、彼と言い合いをしたいわけでもないでしょう? ………言いたいことは分かる、気持ちも分かる。でも、まずは動くことからしないとどこにもいけなくなるよ」
二人はイーハイの言葉に黙り込んでから、お互いを見た。
少しの沈黙のあと、設楽は少しだけ頭を下げて、赤都はそっぽを向きながら。
「…………わーったよ」
「すんません、つい熱く………」
と、それぞれ口にした。
イーハイはそれを見て、二人がそれ以上何もしないのを確認してから肩の力を抜く。
「……………あの、イーハイさん」
「ん?」
「……………私は、あの子が前を向いてるなら、……一つ、貴方に助言をと。」
「助言……?」
「『冬の巫女』がどこにいるのか、ですわ」
「……………え!?」
「はぁ!? お前、なンでそんなもん知ってやがる!?」
「………むしろ、何で赤都はんが知らんの?」
「何言ってんだ、会ったこともねェやつの事なんざ知るわけねーだろ!」
「まぁ、確かにあんさんは会ってないな、………でも、見たことはあるやろ、春那ちゃんの追っかけしてたんやし」
「追っかけって言うな!? ………は? 見たことあるって……?」
「………もしかして、『冬の巫女』は春那さんに近しい人……とか?」
「………アルデファードさんから聞かされたもう一つの事実やったんですが、まぁ、正直……私もピンとは来てないんですが、言われてみれば……とね。」
「…………何て人なんです? その人は」
「名前は、『雪華』……」
「!? おい、そいつって……」
「ええ、その人は──────春那ちゃんの、義理の姉ですわ。」
◇◇◇◇◇
「おや。何というか、何とも言えない方を捕まえてきましたね? イーハイ」
「何とも言えないコメントで返すのやめて……」
設楽と話をしたあと、イーハイは赤都を連れて宿の一室に戻っていた。
大部屋に続く戸を開けたイーハイと、その後ろに立つ赤都をみたルッツの開口一番の台詞を聞いて、イーハイは脱力しかける。
「あれー? あん時のストーカー鬼じゃん」
「てめえはあの時のクソヒヨコ!! ストーカーじゃねぇって言ってるだろが!」
おーなーが羽根をはためかせて近くまで飛んできて赤都を煽り、不毛な喧嘩(?)を始めたのをイーハイは苦笑いで見てから、ルッツに無言で促されて部屋の中に足を踏み入れる。
「よ。遅かったな」
「ニックス……。ただいま。」
「話はできたのか?」
「うん。………返答によっては、依頼を降りるのも考えたけどね」
「それならそれで、別のことか手をお前は考えるだろ。」
「…………かもね」
「ちょっとは否定しろよ……」
苦笑いで見てくるニックスに、イーハイは笑いながら頭を掻いて誤魔化す。
「ところで、みんな何してたの? てっきり、誰かは寝てるかなって思ってたけど」
イーハイは部屋の中を見渡しながら言った。
ルッツ、ニックス、おーなー、アマノ、マキシマ。
仲間たちは全員、それなりに夜も進んでいるというのに起きていた。
それも、何か道具を出したり、記録を出したりして何かしている途中のようだったので、イーハイは首を傾げた。
「何って言われると……そうだな、あえて言うなら、………実験?」
「実験? ……何の?」
「『元素開通』の実験じゃよ」
そこで、マキシマと何かをしていたアマノが口を挟んだ。
「…………『元素開通』……?」
「あー……。うーん、………なんつーか、『春告桜』になんとか元素を流し込んで、春那の体を構成する元素を弾き出すみたいな感じで取り戻せねーかなって……」
「まぁ、かなりリスキーな方法じゃがのぅ」
からからと笑うアマノを見ていると、その隣に座っているマキシマが何かをイーハイに向かって差し出してきた。
………植木鉢だった。
土が盛られたそれの中央には、双葉がぽつん、と出ている。
「………これは?」
「実験の結果だな。マキシマに頼んでやってもらった。マキシマの精霊としての特性は事象の『最大化』だからな。『春』に関わる元素の最大化ができねーかと、ちょっとだけな」
「…………ただ、どういうわけか上手く行かんかったがの」
アマノが語った結果に、マキシマは下を向く。
表情がないので分からないが、少なくともイーハイには彼がしょんぼりしているように見えた。
「ま、シンプルに考えりゃ、アマノとおーなーが最初に感じ取ったとおり、『冬の概念』ってやつが影響してるって事だろうな。『春の概念』が植物を育てる事象よりも、それを押さえつける『冬の概念』のほうが強い。そういう証左だ」
「……マキシマの力も上回るのか?」
「上回ってるわけじゃねぇな。……いや、言葉は合ってるか。……合ってはいるが、単なる力の強さの話じゃねぇんだ。もうこの国には『冬』にまつわる元素が余りにも多く存在しすぎてる。『春の概念』が表出できない程な。………だから、そーだな……百人の氷の力に対して、一人だけ松明を振りかざして氷を溶かそうとするみたいな構図になんだよ。………流石に酷だろ、それ。」
「…………それは確かに………」
イーハイが肯定すると、マキシマはより落ち込んでしまったようで、さらに頭を下げてしまった。
「あああああ、マキシマ! こればっかりはその、………うーん、どう声をかけたらいいやら………」
「かなり無理して実験に付き合ってくれたんだよ、こいつ。礼は伝えたんだが、気にしてんのかずっとこの調子でな………。」
「そうだったんだ………。………マキシマ、少なくともこの結果が全てじゃない。何かのきっかけに繋がるようにこっちも目を光らせるから。ありがとうね。」
イーハイの言葉かけに、マキシマは顔を上げると、こくり、と首を縦に振った。
マキシマはそのまま、アマノに向き直ると、小さく植木鉢を叩いてみせる。
「うん? もしやもう少し試したいとかかの?」
アマノが聞くと、マキシマはしきりに首を縦に振って肯定しているようだった。
「うむ。そういうことならもう少し付き合おうかのぅ。若人のやる気は削ぐものではないからの。……リーダー、そういうわけじゃ。明日に支障がないようにはしておくぞい」
「ん。二人に任せるよ。ニックスは?」
「俺は盗賊的な出番はなさそうだしな。錬金術関係からなんか切り口がねーかもう少し纏めておくよ。アマノたちがどうなるかも見ておきたいしな」
「分かった。君も体を壊さないように」
「わーってるよ。誰かさんの無茶を見届けるよりは健全だから安心しろ」
「うっ……」
「自覚あんならちっとは反省してくれ」
「はい……」
「ぷーーーーっぴっぴっぴっ!! イーハイー、このストーカー鬼さーー? めーーっちゃからかい甲斐あるんだけどーーっ? ぷぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃぴゃーっ!」
「てめーーーーっ!! またストーカー言いやがったなーーーっ!? おい、スカし野郎!! このヒヨコなんとかなんねーのかよ!! 湧いた水みてーに人のことを散々こら言いやがってぇーー!!」
「えー……あー………そこは……諦めて?」
「あっぴゃっぴゃっぴゃっぴゃっぴゃーっ!! あーーーーーくるしーーー! 腹いてーーー!! ぱぴーーーーー!!」
「これは酷い」
「なんかの病気なんじゃねぇのか、このヒヨコ!?」
「性分という名の病気ではあるかも……?」
「ちったぁ否定しろっつーの!? 怖いだろーが!! なんか!! 色々と!!」
「おーなーがこんな感じなのは今に始まったことじゃないから……そのー……諦めて?」
「諦めの提案を畳み掛けてくるんじゃねェよ!?」
「ぷーっきゃきゃきゃきゃー! 鬼さんこーちらー!!」
「くっそぉぉぉぉぉ!! 待ちやがれーーーッ!!」
「………………こう言っちゃなんだけど……赤都って、単純すぎる……?」
「本当のこと言っちゃ駄目ですよ、イーハイ。」
「ルッツ………。………君のほうがコメント酷くない……?」
「気の所為です♪」
「………もしかして、見てたけど止めなかったとか……?」
「面白かったので♪」
「わ、わぁ……」
にこにこと楽しそうに話すルッツに、イーハイは変な汗をかいた。
「……お陰で、彼がどんな人物かは分かりましたけどね」
「!」
「春那さんと関わりのある……いえ、恐らくあると言っても希薄なのでしょうが、彼女を見ていた人の一人でしょう。そして推測ですが、彼女が『桜の巫女』になった瞬間を目撃している可能性が高い人物ではないかと。貴方達が初めてあの赤鬼さんに会ったのは『春告桜』の前、らしいですからね。ありえない話ではないかと」
「…………。………仮にそうだとしても、そこに新しいヒントは無さそうではあるけどね」
「はい。知ったところで目撃した、以上の情報は引き出せないでしょう。………イーハイ、背負うものを複雑にすると、何かあった時に辛いのは貴方ですよ」
「放っておけなかったんだ、………結果を受け止めるのは、……本当に辛い思いをするのは、ここで生きる誰かだから」
「損な性格をしていますね、貴方は」
「見損なった?」
「いいえ。張り合いがあります」
「………………ずるい……。」
「おや。私はいつだって、貴方に対していつでもずるくなれますよ。何のために貴方の隣を選んだと思っているんです?」
「…………何のため?」
「私のためです」
「…………………………ルッツ……。」
ルッツは、イーハイの自分を呼ぶ声を聞きながら、その肩に頭を預けた。
はしゃぎ回る赤都とおーなー、実験に精を出すニックス、アマノ、マキシマの姿を、彼らは視界に入れながら、静かな時間を感じていた。
「…………イーハイ、………設楽さんから何か、お聞きしたんでしょう?」
「…………ああ。『冬の巫女』の居場所をね」
「そうですか」
「やっぱり、驚かないね」
「貴方も、推測ができないことではなかったでしょう? アルデファード氏がこの宿を指定した意図を考えれば」
「まぁ、ね。………ただ、思ったよりも世間って狭いな、とはすごく感じた。」
「なるほど、それではっきり分かりました。『冬の巫女』は春那さん、赤鬼さん、設楽さん……彼らに近しい誰か、ですね」
「………春那さんの義理のお姉さん、だそうだ。赤鬼……赤都と、設楽さんも知っている人で間違いはない」
「その方は今、どちらにいると?」
「………北の大きな山のどこかに居を構えてるらしいんだ。設楽さんも正確な場所を知っているわけじゃなくて、あくまでも昔、その人が『用事がある』と出かけていった先がそこだったらしい、って話で。………秋になると頻繁に出かけるようになるから気になって数回、周囲の人に聞き込みをしたことがあるんだって。」
「………ふむ。大方、口ぶりや態度からしてその方は暫く誰とも接触していないように思いますね」
「いつしか帰ってこなくなったって聞いたよ。今思えば、『春の巫女』が亡くなった、みたいな話が国に流れてきた時には殆ど顔を見なくなっていて、どこにいるかもわからなかったらしいんだ」
「自分と同じ四季を司る巫女が亡くなったのですから、十中八九国の呼び出しがあったのでしょう。葬式のためか、健康診断でもするのかは不明ですが」
「うん。まぁ、そうだろうね……。」
「しかし、春那さんの義姉、ですか……。あの望月家のご夫婦に、春那さん以外の娘さんはいなさそうでしたが……ということは?」
「ああ。………春那さんにはお兄さんがいたらしいんだ。………国の兵士だったらしくて、魔物の対処をしていた時に亡くなったらしい。………そのお兄さんの奥さんだったんだって。」
「…………、それで分かりました。あの父母が、春那さんのことについて、あれだけ必死だった理由が。………もう一人の子を亡くしたくはなかったのですね……。」
「国のためにと働こうとする子を送り出しているご夫婦だ。そう思えば………春那さんの気持ちに、誰かのためにっていう気持ちに……否定がしきれなかった理由も、ちょっと分かるよ。」
「私達には縁のない話です。」
「想像でしかないのが申し訳ないね」
「仕方ないです。境遇までは覆せませんから。」
「そうだね。………それで、北の山に居を構えてるって情報をくれたのはアルデファードさんらしい。………あの山には社があるらしいから、そこで何かしてるんじゃないかって話らしいんだ」
「現状を考えればありえない話ではないですね。いるとして、どのような理由でかは推測しかねますが」
「うん。………とりあえず、明日は北の山に行ってみよう。アルデファードさんが設楽さんにそういう情報を渡したってことは、殆ど一連のことに『冬の巫女』の存在が関わるか、或いは何かしらの事故が起こってるかの二択で確定だろうし」
「ええ。………思ったよりも単純な話で助かります。………それをこちらに押し付けられる意味は全く理解できませんが」
「良いように使われてる気はしてるよ。………まぁ、この国に来ることを決めたのはオレで、依頼も受けたのはオレだから、出来ることはしなきゃね」
「……………無茶だけはやめてくださいね。ただでさえ、この街から見えている山だけでも雪に閉ざされていますし、ほとんど登る人もいないと考えていい場所です」
「無茶はしないよ。さすがに命取りだもん」
「私の気持ちが足りなくなります」
「………………それはごめん……」
「謝るなら、必ず頼ってください。……私達を。」
「うん。………頼りにしてる。…………」
イーハイはそっとルッツの手を取りながら、改めて己の仲間たちを見る。
未だ騒がしい彼らの姿にやはり苦笑を抑えられないながらも、イーハイの心には細くも強い繋がりがあった。
決して、彼らは全てを共有できる人たちではない。
イーハイにも、彼らの性格や振る舞いに疑問を持つ心さえある。
それは、隣に立つルッツに対しても変わらない。
細くて脆い繋がりの先で、同じものを見ているからこそ成立している徒党とも言える彼ら。
ありとあらゆる経緯と、心が、同じものを見ている不思議と、安心感と、不安と、好奇心が、自分たちを繋いでいるのじゃないかとイーハイは感じている。
いつも、大きなものへ立ち向かうときには、である。
それがくだらないものでも、どっちでもいいようにも思う。
この瞬間が、思うよりも大げさで誰かにはどうでも良くても、イーハイの中ではそれが大事なのだ。
そうでなければ、『冒険者』等にはなっていないだろう。
「…………イーハイ?」
「ん………?」
「…………今日はもう、休みましょう。夜もそろそろ更け始めます」
「…………そうだね。………なんていうか、一日で色々ありすぎた。流石に、脳がパンパン……」
「貴方が物事に旺盛すぎるのです。悪いことでは無いですが」
「物事に旺盛なのは、君もだろ……?」
「さぁ? どうでしょう?」
「あ、そこでごまかすのはずるいぞ」
「おや、誤魔化してなんていませんよ♪ ……さあ、布団を敷きますよ、皆さん。先ほどは実験のために仲居さんの好意をお断りしたんで、ご自身で。」
「ぴーーーーー?? ちょっとルッツ、このぷりちー愛らしヒヨコぼでーのワイに布団ひかせようってのーー??」
「てめえのどこが『ぷりちーあいらしひよこぼでー』だ!? このクソヒヨ……。………モフモフしてら……」
「びーーーーーーッ!? ギュッと持つなーーー!!」
「まだやってたんですか貴方達は……」
「飽きないなー、おーなーも赤都も……」
「アホか、お前らは……」
「ほっほっほ、これくらいのほうが儂ららしいではないか? ニックス?」
「それはそれでどうなんだよって話だよ……」
マキシマの様子を見つつ、ニックスはアマノの言い分に頭を掻く。
マキシマはというと、植木鉢の先程の双葉を成長させて花を咲かせられたのが嬉しかったのか、植木鉢を動かして色んな角度から花を見つめていた。
飽きずに言い合いを続けるおーなーと赤都、布団を敷くために動き始めたルッツとニックス、アマノを横目に、イーハイもマキシマの持つ植木鉢に咲いた、小さな花を見る。
その視線に気がついたマキシマは、立ち上がるとイーハイの下まで来て、植木鉢を傾けながらそっと、イーハイの方に見せた。
「…………マキシマ。……可能性は、まだあるよね」
イーハイの小さな呟きに、マキシマは力強く頷いてみせた。
(続く)
なんか設楽が割と好きってのがいるらしい。
糸目は怪しいってことで疑われてたけど




