惚れさせて……モグモグ……みせますわ……ムシャムシャ
いくら家族付き合いが長いとはいえ、クライヴ兄様への「好き」とは違うのです。
もっとこう、胸の奥がざわついて、きゅんと締めつけられて、お腹の底からせり上がってくるような──そんな「好き」。
「わたくしは、彼の意識を改めさせなければなりません。これは神様がくれたチャンス。この偽婚約期間を利用し、わたくしをひとりの女として好きになってもらいます!」
ミラベルは感心したように眉を上げたものの、納得はまったくいっていないという顔で首を横に振り、問いかけてきました。
「ところで、あの外面だけいいナルシスト偽善者の、どの辺りが好きなの? クソ野郎じゃない」
「ミラベル、言葉遣い!」
思わずたしなめてしまいました。まったく、黙っていれば変なあだ名で呼ばれることもないのに。
わたくしは、そのミラベルが持ってきてくれた人気店の桃のタルトを口に運びます。
まあっ……完熟桃のジュレが挟んでありますのね! ああ、なんて美味しいのでしょう。頬が蕩けてしまいそう。
ミラベルの差し入れに、ハズレはありません。
「くしょやろうなんかでは、ごはひません、ひゅーはーひょしゃまふぁ、ほっへもすへきですわ」
……あらやだ。わたくしも食べながら話してしまいました。お行儀が悪いわ。
タルトを飲み込んでから言い直します。
「ナルシストなのは、高貴であるがゆえですわ。外面がいいのも、跡取りとして当然備えていてほしい資質です」
再び、お土産の箱に手を伸ばしました。
「……ムシャ………ムシャ…」
しばし無言のモグモグタイム。マナー的に、食べている間はおしゃべりすべきではありません。
「……モグ……モグ……ゴキュ」
ミラベルは、わたくしをじぃっと眺めながら、満足げに笑みを深めました。
「三十個は買いすぎかと思ったけど」
悪役令嬢だなんてとんでもない。こんな優しい目で見てくれるのに……。
ええ、まるでペットを愛でるみたいにデレデレした顔ですけれど。
「クライヴがあなたを溺愛するのも分かるわ。本当に美味しそうに食べるのね」
わたくしはその言葉を聞きながら、四つ目のタルトをぺろりと平らげて、お茶で流し込みました。
五つ目のタルトをフォークで突き刺し、広い中庭へ目を向けます。
よく四人で遊んだステイプルトン家の庭──女神の彫像、水を吹き上げる噴水、白亜の東屋、そしてガラス張りの温室。この贅沢で上品な庭は、ヒューバート様のお祖母様のご趣味だそうです。
この屋敷は元々、ヒューバート様のお祖父様とお祖母様が暮らしていました。
ですが、お祖父様の逝去と、お祖母様の療養施設への移動で空いてしまい、高額すぎて買い手がつかずにいたものを、わたくしのお父様が買い取ったのです。
そのおかげで、こうしてミラベルとも気軽にお茶ができるというわけです。
「そっかぁ……お兄様と婚約ねぇ。シンシアはお金持ちだもの、私と同じく持参金目当ての男性が寄ってくるかもしれないわね。クライヴが心配するのも分かるわ。その点、お兄様ならボンボンだから安心かもしれないし……」
ぶつぶつ独り言を続けてから、ミラベルは真剣な目をして、わたくしに言いました。
「分かったわ。応援はするけど──」
「嬉しいわっ、ミラベル!」
わたくしは彼女の手を勢いよく握りました。
「わたくし、ヒューバート様と結婚するために頑張りますわ!」
「待ちなさい、その前に──」
ミラベルはわたくしの手をするりと引きはがし、立ち上がりました。
「あなたのこと、妹みたいに思ってるからこそ、心を鬼にして言うわよ」
腰に手を当て、わたくしを指差し、猫のようにぱっちりした目をカッと見開きます。
え? なんですの、そのポーズ……まるで本当に悪役令嬢みたいじゃありませんか?
「まずお痩せなさい、話はそれからよ! このブタ!」
そう言い放つと、ミラベルはわたくしのタルトのお皿を、ひょいっと取り上げたのです。




