ばっかじゃないの!?
「それであの時、急に婚約することになったの!? びっくりしちゃったわよ、なんでOKしたの!? 偽装婚約なんて、ばっかじゃないの?」
目を丸くして畳みかけてきたのは、気の強いヘビントン侯爵令嬢ミラベル──ヒューバート様の妹でございます。
ミラベルとは王立学院高等科の同級生でもあります。
ですが、学院は階級がすべて。クラスも校舎も分けられているため、学院ではほとんど話す機会がございませんでした。
この日は、ステイプルトン邸のテラスで二人きりのお茶会を楽しんでおりました。
ミラベルは、王都で人気のタルト屋さんでお土産を買って、そのまま我が家に乗り込んできたのです。
「ミラベル、テーブルに肘を突いてはいけませんわ。お茶が零れてしまいます」
わたくしは思わず注意してしまいました。
平民上がりの新興貴族ゆえ、言葉遣いからお作法まで、徹底的に躾けられているからです。
そのせいで、傍目には貴族のミラベルより格式張って見えるのかもしれません。
態度や口の悪さこそありますが、ミラベルは先代のヘビントン侯爵に似た艶やかな黒髪の、大変な美少女でした。
ただその美貌には、ご両親を失った影がいまだ落ちており、勝気な笑顔が戻らないまま……。
生来の気の強さも災いして、中等科の頃から周囲に敬遠され続け「悪役令嬢」などと呼ばれる羽目になっておりました。
ヒューバート様のように外面がよければ、彼女も違ったでしょうに……。
友達がいないせいか、ミラベルは学院が終わるとよくステイプルトン家にやってきます。
「まさかクライヴまで許可するなんて」
「お兄様、わたくしに虫が付かない方がいいんですって」
わたくしが説明すると、ミラベルは鼻で笑いました。もし近くにクライヴ兄様がいたら、また喧嘩になっていたでしょう。
「それにしてもヒューバート兄様ったら……。もう当主なんだから、いつかは跡継ぎを儲けなきゃいけないのよ。結婚したくないだなんて、何を甘ったれているのかしら」
実の兄にも辛辣でございますわね。
「だって、ヒューバート様は女性がお嫌いなのよ?」
「まあ、気持ちは分かるわよ。私に寄ってくる男も、侯爵家の持参金目当てばっかりだもの」
ミラベルの冷めた目に、わたくしは胸が少し痛みました。
ミラベルは歯に衣着せぬ物言いはしますが、決して悪役令嬢などでありません。彼女の優しさに、早く皆気づけばいいのに。
わたくしは親友として、彼女にはちゃんと話しておくべきだと思いました。
「実はわたくし……この婚約を、本物にしようと思っているの」
「え?」
ミラベルが瞬きをしました。
「ヒューバート様と、本当に結婚できればいいなって……。ですから、彼を振り向かせてみせますわ」
ぽかんと口を開けたミラベルは、数秒遅れて言葉を取り戻しました。
「……シンシア。ヒューバート兄様のこと、好きなの?」
頬が一気に熱くなり、わたくしは視線をそらしました。
「うわぁっ、顔真っ赤よ、シンシア!」
「わ、わたくし……うぬぼれていたのです」
フォークをもじもじと指の間で弄びながら、彼女に告げました。
「すっかりヒューバート様に好かれていると思っておりました。将来、け、結婚できるものだと……」
ミラベルは少し上を向き、ふむふむと考えるように頷きました。
「もちろん、好きは好きだと思うわよ。ていうか、あれは溺愛でしょ」
そう言って、ミラベルはわたくしのまとまりの悪い髪を、くしゃくしゃと撫でました。
「クライヴもヒューバート兄様も、あなたにメロメロじゃない」
その目元が、ふわりと和みます。
「私も大好きよ、ぬいぐるみちゃん」
「ありがとう、ミラベル。わたくしも、家族のように大好きですわ。でも──ヒューバート様のことは、そうではなくて……」
胸がぎゅっと締めつけられ、わたくしは顔を両手で覆いました。
「だ、だ、男性として……すす好きなのっ!」




