「偽」プロポーズ大作戦
目が点になっているわたくしに、ヒューバート様は懇願するようにおっしゃいました。
「シンシアは年齢的に、あと一年……いや、あのシスコンの兄のことを考えると、まあ二年は結婚しないだろ?」
「え……ええ」
「なんだったら、二年後に君の方から婚約破棄してくれてもいいし。うん! いくらおままごとみたいな婚約でも、君の評判に傷がつくのは嫌だから。君から手酷く僕を振ってくれればいいんだ」
わたくしの困惑した表情に気づいたのか、ヒューバート様は安心させるように微笑んでくださいました。
「離婚はそう軽々しくできないけど、婚約だからね。最近は婚約破棄ものの小説が流行ってるせいで、何かと真似したがる若者が増えている。舞踏会でも、次々と婚約破棄したりされたりしているよ。だから、名誉は傷つかない。大丈夫さ」
ある意味、ゆゆしき事態ですわ!
ヒューバート様は再びわたくしの太腿に頭を預け、澄んだ瞳でまっすぐ見つめてきました。
「僕が嫌悪感を抱かない女性は、亡き母とミラベル、それに君くらいだから。さすがにミラベルと婚約はできないだろ?」
そう言って、ヒューバート様はわたくしの太腿をペチペチと叩き、よっこらしょと腹筋で起き上がって伸びをしました。
「相変わらずいいクッションだった。婚約の話、受けてくれてありがとうシンシア。これでようやく眠れそうだ。おやすみ、いい夢を」
おでこにチュウをして、彼は客室から出ていきました。
「…………」
わたくし、お返事……しましたっけ?
彼を見送ったあと、しばらく呆然としていたわたくしでございます。
「ミラベルと同レベル……」
ようやく気づきました。わたくし、大きな勘違いをしていたのです。
完全に妹としか見られていないことを、思い知らされた夜でございました。
翌日、ヒューバート様はご自分の親族と、わたくしの家族に、わたくしたちが婚約することをお伝えしました。
ヒューバート様の親族は──いえ、わたくしの両親も、そしてクライヴ兄様も、突然のことにポカンとしております。
「そういうわけで、僕とシンシアは熱烈に愛し合っていることが分かりました。ぜひとも、僕たちが将来結婚する許可をいただきたい」
「あ、いや、それは願ってもないことだが──」
お父様が目を白黒させながらどうにか答えると、ヒューバート様はすかさず畳みかけます。
「さっそくですが、新当主の挨拶を兼ねた舞踏会を開き、その場で婚約も発表しようと思います。そうですね、ひと月後、両親の忌が明けしだい、王都の屋敷で開催いたします。ですから叔父上、叔母上、見合いはすべて断ってください」
爽やかにそうおっしゃったヒューバート様に、前ヘビントン侯の弟らが異を唱えました。
「待ちなさい、ヒューバート。分かっているのかね? ステイプルトン家は──新興貴族だぞ。格式高いヘビントン侯爵家を継ぐとなると、それなりの家柄の娘を──」
その言葉に、両親が気まずそうな表情をしたことに気づき、わたくしは申し訳なくなりました。
確かに、身分の違いはございますわ。
わたくしたち資本家階級は、今でこそ貴族の仲間入りをしておりますが、昔から領地を守ってきた貴族との間には、まだ隔たりが残っているのです。
ましてや、ヒューバート様は高位貴族ですものね。
すると彼は──キッと、親族を睨みました。




