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第3章 名もなきヒーローたちの新しい居場所

古い工場の朝

前夜の雨が、古びた紡績工場の壊れた廊下にいくつもの水たまりを残していた。

錆びた屋根からは、ところどころ水が滴り落ち、バケツや缶に溜まっている。

誰かが配って、浸水を防ごうとしたのだろう。

あおいは深く息を吸い込み、扉をくぐった。

即席のスーツに縫いつけられた小さな赤いお守り――スカーフが、一歩ごとに揺れる。

この場所にはまだ慣れていなかった。

ひび割れた壁、割れたガラスを覆うビニール、天井から垂れ下がるコード。

それでも、なぜかもう「自分の場所」のように感じられていた。

ブロックウェーブは、設計図とファストフードの包装紙に囲まれた仮設のテーブルに座っていた。

彼は顔を上げ、葵を見るとにっこり笑った。

「シフティ! ちょうどいいところだ。こっち来い、来い。」

木のベンチを指で叩きながら呼ぶ。葵は隣に腰を下ろし、膝の上で手を組んだ。

「ブルワークとリコシェットは?」自然に聞こうと努める。

「ブルワークはあそこだ。」

ブロックウェーブが奥の壁を指さす。

高嶺吾郎たかみね ごろうは街の地図を広げ、太いペンで印をつけている。

その近くでは、晴人――いや、“リコシェット”が、広げたシートの上に膝をつき、

金属の部品やバネ、そして絶えず火花を散らす溶接機に囲まれていた。

「おお、シフティ!」

晴人が顔を上げずに叫ぶ。

「見てくれ!」

彼が掲げたのは、三本の曲線状の刃を持つ手裏剣のようなものだった。

「新しいプロトタイプだ。三方向に跳ね返る。敵を stunスタンさせて、注意をそらすのに完璧だ。どう? 美しいだろ?」

葵は小さく笑った。

晴人が自分の発明を語るときの輝きが好きだった。

暗いこの場所でさえ、彼の純粋で子どものような情熱が空気を明るくする。

「今日、それを誰かに投げるつもり?」冗談めかして聞く。

「もちろん!」晴人は胸を張り、自慢げに言う。

「ただ、無事に戻ってくるかはまだ分からないけど……試すしかないだろ?」

ブロックウェーブは立ち上がり、まるで新入りに施設を案内するように歩きながら説明を始めた。

「ここはもともと紡績工場だった。何年も放置されてるが、構造はまだしっかりしてる。

ブルワークと俺で新しい鍵をつけて、簡易カメラも設置した。

それからリコシェット――」

彼は晴人に顎を向ける。

「スクラップから動体センサーを作ってくれた。」

「技術的には……半分くらいの確率で動くかな。」

晴人が油まみれの指を掲げて言う。

「でも、誰かが忍び込んできたら絶対に気づくさ。それだけは保証する。」

葵は周囲を見渡した。

空き缶、工具、巻かれたワイヤー。

段ボールの上に置かれた古い電子レンジ。

雑然としているのに、どこか生きているような場所だった。

――久しぶりに、「居場所」という言葉が心に浮かんだ。

そのとき、奥のほうからブルワークの低い声が響いた。

「情を移すな。見つかれば、すぐに移動だ。」

彼は地図に新たな太い線を引く。

廃病院――北区の外れにある場所だ。

ブロックウェーブが近づき、肩を並べて覗き込んだ。

「何か見つけたのか?」

ブルワークは目を上げずに頷いた。

「噂だ。“覚醒教団カルト・オブ・アウェイクニング”が古い病院の近くで『儀式』を行うと触れ回っている。

目撃者によると、ナンバープレートのないトラックに木箱やドラム缶を積み込んでいたらしい。」

葵は身震いした。

「その病院って……私の学校の近くです。」

その緊張を和らげるように、晴人が笑いながら口を挟んだ。

「心配すんなよ、シフティ。誰かが変な真似したら、俺のオモチャ全部ぶつけてやる。」

だがブロックウェーブは、いつになく真剣な口調で言った。

「これは路地裏のチンピラ退治とは違う。

もし教団が人の多い場所でまた儀式を始めたら、あの日みたいな“化け物”が何十体も出るかもしれない。」

ブルワークは最後にもう一度地図を見てから、ゆっくりと顔を上げた。

その声は、鉄が擦れ合うように重かった。

「準備しろ。今日は捜索に出る。

わかっていない敵に、即席ヒーローが遊びで挑むのは御免だ。

何かを見つけても、必ず計画を立ててから動く。」

葵は唾を飲み込みながらも、力強く頷いた。

晴人は立ち上がり、円形のブーメランを剣のように掲げた。

「さあ、ボスたち! 新しいプロトタイプにドローンもあるし……」

声をひそめ、葵のそばに近づく。

「道中のおやつもある。ブルワークにはナイショな。」

葵は思わず小さく笑った。

その瞬間だけ、恐怖がどこかへ消えていった。

古びた箱、くしゃくしゃの地図、光るスクラップに囲まれながら、

彼らは初めての“チームとしての任務”に備えた。

観察し、学び、そして必要なら――

誰にも守られない街を、自分たちの手で守るために。

夜の病院

その夜、廃病院の上に湿った不気味な闇が降りていた。

割れた窓は、風を飲み込む口のように開き、剥がれた壁の間を笛のような音が吹き抜ける。

4人は無言で進んだ。

ブルワークが先頭で懐中電灯を照らし、足元の濁った水たまりを踏みしめながら進む。

ブロックウェーブはその後ろで、小型の自作探知機を確認していた。

その隣ではリコシェットが円形ブーメランを手の中でくるくると回している。

最後尾のシフティ――葵は、息を整えるようにゆっくり呼吸を繰り返した。

「気を抜くな。」

ゴロ――ブルワークの低い声が廊下に響く。

「何か異常を見つけても、一人でヒーローぶるな。

俺とブロックウェーブは一階と地下を。

シフティ、リコシェット、お前たちは上の階を頼む。」

「別行動?」

晴人が口笛を吹いた。

「ホラー映画みたいだな。記念にツーショットでも撮っとく?」

ブルワークは何も言わず、鋭い眼光で睨みつける。

晴人はすぐに両手を上げ、降参のジェスチャーをして黙った。

葵は唾を飲み込み、スカーフをきゅっと握り締めた。

足音が胸の鼓動のように響く。

二手に分かれる前、ブロックウェーブが葵の腕を軽く叩いた。

「大丈夫だ、シフティ。リコシェットを信じろ。あいつは頑固だけど、誰も落としたりしない。」

葵は小さく頷いた。

________________________________________

発見

2人は錆びた鉄のはしごを登っていく。

一段ごとにギシギシと音が鳴る。

屋上近くの開いた穴から、遠くの街の灯りがちらちらと見えた。

まるで別世界――何も知らずに眠る人々の世界。

「シフティ、こっち。」

晴人が崩れた屋根の隙間から下を覗き込み、手招きした。

その先に、懐中電灯の明かりが3つ。

黒いジャケットの男たち――“リクルーター”が3人。

その中心にいたのは……見覚えのある少女だった。

葵は息を呑んだ。

――カナ。

彼女は制服の上着を肩から落とし、バックパックを地面に放り出されていた。

膝をつき、泣き腫らした目で男たちを見上げている。

「さあ、カナ。」

リーダー格の男が言った。

「少し痛いだけだ。そのあとで“特別”になれる。もう隠れる必要はない。」

葵の体中の血が凍った。

「そんな……カナ……?」

彼女の唇が震えた。

晴人が肩に手を置き、小声で言った。

「落ち着け、シフティ。止めるチャンスはある。でも今飛び出したら全部台無しだ。考えさせて――」

だが、リーダーが懐から例の緑がかった注射器を取り出した瞬間、葵の中で何かが切れた。

彼女は歯を食いしばり、カモフラージュの光が震える。

「やめてっ!」

その叫びが病院にこだました。

3人のリクルーターが一斉に顔を上げる。

リーダーはゆっくりと笑った。

「なるほど……見物人がいたか。」

「おいおい、ステルスとは思えねえ登場だな。」

晴人がため息混じりに言う。

だが次の瞬間、リーダーは躊躇なく注射をカナの首に突き立てた。

少女の悲鳴が闇を裂く。

体が弓なりに反り、炎のような苦痛の波が全身を走った。

「カナぁっ!」

葵の絶叫。だがもう遅かった。

カナの皮膚が縮み、足が不自然に伸び、手の骨が融合していく。

鋭い刃のような腕。黒く染まった瞳。

背中には骨の板が連なり、生きて動く脊椎のように蠢いた。

リーダーは満足げに葵たちを見た。

「せいぜい、友達を止められるもんなら止めてみな。」

3人は背を向けて逃げようとした。

「逃がすかよ!」

晴人が叫び、ブーメランを構える。

だが投げるより早く、カナ――いや、“それ”が嗅覚を研ぎ澄ませた。

空気を切り裂くようなヒス音。

その黒い瞳が葵の熱を捉える。

そして咆哮。

甲高く、耳を裂く叫び。

怪物と化したカナが壁を蹴って飛びかかってきた。

その腕の刃が錆びたパイプや壁を紙のように裂く。

晴人は咄嗟に葵を押しのけ、ブレスレットのボタンを押した。

円形ブーメランが唸りを上げて飛ぶ。

刃がカナの腕をかすめ、電流が走る。

火花が散り、獣のような悲鳴。

「シフティ、しっかりしろ!」

晴人が怒鳴る。

「戦わなきゃ、止まらねぇ!」

葵は震えたまま、涙で視界が滲む。

カナが地面を叩くたび、ほこりと恐怖が身体の奥まで響いた。

「カナなの! 私、できない……!」

「もうカナじゃねぇ!」

晴人は再びブーメランを放ち、葵の脚を狙った斬撃を受け止める。

「止めなきゃ、この病院ごとぶっ壊れるぞ!」

地上階の戦い

その頃、地上階――。

ブロックウェーブとブルワークは、暗い廊下を抜けた先で異様な音を聞いた。

鉄を叩きつけるような金属音。

そして、低く濁った呻き声。

「聞こえたか?」ブロックウェーブが囁く。

「……ああ。奴らだ。」

ブルワークが構えた腕を前に出す。

スーツの表面に光が走り、装甲がわずかに膨らむ。

廊下の奥から、3人のリクルーターが現れた。

だが、もう“人間”ではなかった。

皮膚の下を何かが蠢き、腕の形は膨れ上がって金属のように硬化している。

顔は笑っていたが、その目には焦点がなかった。

「こいつら……もう始まってやがるのか。」

ブロックウェーブが歯を食いしばる。

リーダー格が笑う。

「人間をやめるのは怖かった……だが、今は違う。

俺たちは目覚めたんだ。お前らみたいな“偽ヒーロー”とは違う。」

「寝言は寝て言え。」

ブルワークが一歩踏み込み、床を割るほどの力で拳を叩きつけた。

爆音。

空気が揺れ、リクルーターの一人が壁ごと吹き飛ぶ。

ブロックウェーブはその隙に、腕につけた装置を展開。

圧縮された音波が放たれ、

残りの2人の耳と鼓膜を打ち抜く。

「耳鳴りのプレゼントだ!」

だがリーダーは踏みとどまり、笑いながら手のひらを開いた。

そこに残っていたのは、同じ“覚醒の注射器”。

「やめろ!」

叫ぶより早く、リーダーはそれを自らの首に突き刺した。

全身が光り、骨が砕け、筋肉が膨張する。

皮膚が裂け、内側から黒い金属のようなものが突き出す。

「くそっ、また化け物かよ!」

ブロックウェーブが後退しながら叫ぶ。

リーダーの体が完全に変わり果てたとき、

それはもはや人の形をしていなかった。

四肢は歪み、背中には鉄骨のような突起。

眼は三つに分かれ、口からは蒸気のような息を吐いている。

ブルワークは前に出た。

「逃げ場はねぇぞ。」

怪物が吠え、床を破壊しながら突進してくる。

その瞬間、ブロックウェーブが叫ぶ。

「ブルワーク、右側!」

ブルワークは身をひねり、

金属の拳で怪物の肩を叩き潰した。

骨が砕け、血と油の混じった液体が飛び散る。

「倒せるのか?」ブロックウェーブが息を荒げて問う。

「倒すまでやる。それが仕事だ。」

ブルワークの声は低く、鋼のように重かった。

怪物が再び立ち上がる。

その背中の突起が発光し、放電が走る。

ブロックウェーブが目を見開いた。

「電撃だ、避けろ!」

次の瞬間、青白い稲妻が廊下を貫いた。

壁が弾け、床のタイルが粉々に砕ける。

だがブルワークは怯まなかった。

煙の中から現れたその姿は、

巨大な盾のような左腕で稲妻を受け止め、ゆっくりと歩み出ていた。

「……そんなオモチャじゃ、俺は止まらねぇ。」

その声に、ブロックウェーブが笑った。

「頼もしいね、相棒。」

ブルワークが拳を振りかぶり、

ブロックウェーブが背後で音波の増幅装置を起動する。

「同時だ――!」

二人の攻撃が交錯した瞬間、

病院全体が揺れるほどの衝撃音が轟いた。

壁が崩れ、光が爆ぜる。

怪物の咆哮が、やがて悲鳴へと変わっていった。

そして、静寂。

ブロックウェーブは肩で息をしながら、

瓦礫の中に埋もれた怪物の腕を見つめた。

「終わったか……?」

「いや。」ブルワークが空を見上げた。

「まだ上が騒がしい。」

上階では、

葵が震える手を握りしめていた。

壁から壁へと跳ね回る“彼女”――

もう友人の加奈ではない。

その動きは昆虫のようで、

刃のような腕が風を裂き、

打ちつけるたびに埃と瓦礫が舞い上がった。

晴人は汗を滲ませ、息を荒げながら避け続けている。

「シフティ!」

晴人が叫ぶ。

「いいか、姿を消して――背後から行け!」

葵は目を閉じた。

胸の奥で、何かが叫んでいた。

――ごめんね、加奈。許して。

次の瞬間、

彼女の姿は空気に溶け、天井の影と同化した。

加奈だったものは首を傾げ、鼻を鳴らす。

生き物の匂いを探るように。

しかし、その背後にいる“彼女”には気づかない。

葵は錆びた鉄の棒を握りしめ、

全身の力を込めて、

怪物の背中に突き立てた。

「――ッ!」

金属の悲鳴のような咆哮が響く。

加奈の体が暴れ、

その瞬間、晴人のブーメランが閃光を放った。

「フルチャージだッ!」

放たれた電撃が怪物の背骨を駆け抜ける。

光、煙、そして叫び。

やがて――その体は崩れ落ちた。

刃は消え、

黒く硬化していた皮膚は人間の肌に戻っていく。

そこにいたのは、ただの少女。

埃と傷に覆われ、意識を失った加奈だった。

葵は膝をつき、手を握る。

「……ごめんね、加奈……。」

涙が頬を伝い、埃に混じった。

隣で晴人も膝をつき、息を荒げていた。

「やったな……もう、大丈夫だ。」

病院の空気が、ようやく静けさを取り戻す。

下の階では、ブルワークの鉄拳が最後の一撃を叩き込んでいた。

石のような肌を持つリクルーターが崩れ落ち、

床に大きな穴が開く。

ブロックウェーブは防御シールドを下げ、

深く息を吐いた。

壁際には、火を操る男と反射のように動く男。

どちらも倒れ、呻き声を上げている。

ブルワークが近づき、

石化したリクルーターを掴み上げた。

「仲間は何人いる。」

その声は鉄の擦れる音のようだった。

「……言うもんか。」

ブロックウェーブが片膝をつき、顔の前にしゃがむ。

軽く頬を叩きながら笑った。

「そんな強がりいらないだろ。

お前のボスだって、部下が口を割って死ぬのは望んでないさ。

次の“覚醒”はどこだ?

誰が薬を渡してる?」

火を使う男が嗤う。

「知ったところで無駄だ……俺たちはただの駒だ。

“教団”は決して姿を見せない。

お前らは何もわかってない。」

ブルワークは沈黙し、相手の瞳を覗き込んだ。

その黒い瞳の奥で、赤い筋が消えかけている。

「……改造されたな。前の奴らと同じだ。」

彼は低く唸り、拳を握る。

「駒でも、糸はある。その糸を、俺たちが断ち切る。」

火の男が血を吐きながら笑った。

「“宿主ホスト”を探してるんだよ……。

俺たちみたいなグループが街中にいる。

みんな、あの人を探してる。」

ブロックウェーブが眉をひそめる。

「ホスト?」

「そうさ……“完全な人間”。

全ての力を壊れずに受け入れられる存在。

俺たちの失敗は全部――その実験の一部だ。」

ブルワークの顔が影に沈む。

「それで、どこにいる。」

「誰も知らねぇ……でも近い。

もうすぐ……皆が目覚める。

お前らには、止められねぇよ。」

ブルワークは無言のまま、

床のケーブルを掴んで三人の手足を縛った。

「……警察が見つける前に、教団が片づけに来るだろう。

口を割った報いにな。」

ブロックウェーブが立ち上がり、額の汗を拭った。

「詳細な計画には程遠いけど……これで手がかりはできたな。」

ブルワークは階段を見上げる。

「シフティとリコシェットが降りてくる。」

上階。

葵と晴人は、毛布で包んだ加奈を見守っていた。

彼女の呼吸は荒いが、もはや変異はない。

ただ、傷と疲労の残る少女。

「こんなこと……起こるはずなかった。」

葵の声は震えていた。

「私が一人にしなければ……。」

晴人は首を振り、額の汗を拭う。

「違う。悪いのはあいつらだ。

“何もない人間”を、利用して怪物にする。

次は、必ず止めよう。」

葵は加奈の手を握りしめた。

その手の冷たさが、胸の奥を締め付けた。

「……家に帰す。」

「一人じゃ無理だ。」

晴人が彼女の背に腕を回し、支えながら言う。

「俺が運ぶ。」

葵は一瞬迷ったが、やがて頷いた。

二人で瓦礫を越えながら階段を下りる。

廊下の先で、ブルワークとブロックウェーブが待っていた。

「その子をどうする。」

ブロックウェーブが問う。

「ここには置けません。……私の友達です。

目を覚ましたら、もっと怖がります。

家まで届けます。

母親には――喧嘩でも事故でも、何か理由を作ります。」

ブルワークは無言で彼女を見つめ、

やがて小さく頷いた。

「……いいだろう。だが、俺たちのことは絶対に話すな。」

葵は唇を噛み、うなずいた。

「約束します。」

外の夜気は冷たく、

街は雨の匂いに包まれていた。

晴人は加奈を背負い、葵は隣で歩く。

スカーフが小雨に揺れた。

言葉はなかった。

約束も、希望も、まだそこにはない。

ただ――

葵がようやく理解した真実だけがあった。

ヒーローであるということは、

すべてを救うことではない。

救えなかった者を、背負って歩くことだ。

工場に戻ったブルワークとブロックウェーブは、

縛られた三人のリクルーターを見下ろしていた。

ブルワークが低く呟く。

「……これは始まりにすぎない。」

ブロックウェーブは疲れた笑みを浮かべ、

「でも、もうチームはできた。」と言った。

ブルワークは何も答えず、

壊れた窓の向こうで降り続く雨を見つめていた。

終章 ― 第3章 名もなきヒーローたちの新しい居場所

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