3 義母と義妹
正式に再婚の手続きが終わり、公爵家へやって来た新しい母と連れ子。
連れ子はティアと同じ年齢ではあるが、数ヶ月だけティアが先に産まれたので連れ子は妹になる。
新しい義母のレジーは、平民なので身なりは質素であったが、明るく朗らかな雰囲気をしていた。
少し緊張しつつも、ティアを前にして精一杯の笑顔を浮かべている。
「ティア、この人がレジーだよ。レジー、私の娘のティアだ。とても可愛い子だろう?」
最近では見ないほど上機嫌の父親が、レジーを紹介をする。
ティアはレジーの前に行き、スカートの裾を軽く掴んで綺麗にお辞儀をした。
「サルディア公爵家の娘、ティアと申します。新しいお母様にお会いするのを心待ちにしておりました」
「ま、まあ。ご丁寧に。こちらこそよろしくお願いします。あの、私は貴族の方のご挨拶はよく分からなくて、失礼があったら申し訳ありません」
貴族の礼はできなかったが、必死に頭を下げて挨拶をするレジーに、ティアは好印象を抱いた。
マナーもなにもないが、素朴で真摯な気持ちが伝わってくる。
相手に対する心からの気持ちがあれば、マナーなどこれからいくらでも学べるのだから問題ない。
「あの、こっちは私の娘のアニスです。お嬢様と同じ年齢ですので仲良くしてくださると嬉しいです。……アニス、ご挨拶を」
アニスと紹介された新しい義妹は、ぽかんとティアを見つめていたかと思ったら、レジーに肘で突かれてハッと我に返ったようだ。
「はじめまして、アニスです」
「はじめまして、アニスさん」
ティアはアニスに優しく微笑みかけた。
けれど、どうしてかアニスはぎゅっとスカートを握り締めると、悔しそうに唇を噛み締めている。
なにか自分に粗相があっただろうかと心配したティアはアニスに声を掛ける。
「アニスさん、どうかなさいましたか?」
もしや体調でも悪くなったのかと手を差し伸べると、その手をパシンと叩き落とされる。
思いのほか強く叩かれじんじんと痛む手に、最初は理解が追いつかなかった。
「アニス! 何をしているの!?」
レジーがすかさずアニスを叱る。
周囲にいた公爵家の使用人の目が厳しく光り、一気に緊迫した空気になる中、父であるダンテルもティアの手を取り心配した。
「ティア、大丈夫かい?」
「ええ。私は大丈夫です。それよりアニスさんになにか気に障ることをしてしまったのかもしれません」
その場にいた者の視線がアニスに集まる。
「アニス!」
レジーが叱るが、アニスは無言を通す。
さらにレジーが口を開こうとしたのをティアが止めた。
「お待ちください。急に環境が変わり、アニスさんも動揺してらっしゃるのかもしれませんわ。いったんお部屋でお休みになってはいかがでしょう。私、お二人のためにお父様と協力して部屋を用意しましたのよ。気に入っていただけると嬉しいのですが」
ティアはレジーがこの屋敷で肩身が狭くなっては父も悲しむと思い、とっさに話題を変え笑顔を見せる。
「まあ、そんなことまで。ありがとうございます、お嬢様」
「レジーさん、どうぞティアとお呼びください。お父様の奥様になられたのです。私にとったらお母様も同然ですから」
国の法律では貴族の血筋でない者は貴族の一員とみなされないので、レジーとアニスは公爵家の名を名乗れない。
なので、父親の妻であっても、平民のレジーはティアの母親にはなれないのだ。
それでもティアは義母として受け入れようと決めていた。
「で、では、ティア様とお呼びさせてください」
恐らく父親からきちんと聞かされていたのだろう。
父親と再婚してもレジーは公爵夫人ではなく平民のまま。
公爵令嬢であるティアに敬称を付けるのは当然で、レジーはきちんとそれを分かっていた。
「お二人を部屋にご案内して」
執事長に命じ、レジーとアニスは部屋を出て行く。
アニスは最後まで不貞腐れたような顔をしていて、謝罪の言葉一つなかった彼女に、ティアは少々不安を残す初対面となった。




