2 父の老後計画
基本的にティアの国では、血によって爵位が引き継がれる。
それ故、公爵の入り婿であるダンテルは、公爵の仕事をしているが正式な公爵ではない。
あくまで、公爵の血を引くティアが公爵を継ぐまでの間の、仮の公爵と言っていい。
何故そこまで血にこだわるかというと、世界には魔獣が存在し、貴族には魔獣から護る結界の力を持っているからだ。
結界を作る魔力は王家が最も強く、貴族では爵位が上になるほど強い傾向にある。
その魔力は血によって引き継がれるため、家を継げるのはその家の血を引く者と決まっていた。
万が一直系の血が途絶えてしまった場合に限り、近親者から跡取りを養子にして引き取れる。
その際も、国が慎重に調査し、元老院での承認を得なければならない。
ティアもまた、公爵の娘に相応しい強い魔力を持っていた。
なので、ティアが公爵を継ぐと父親はティアの父親でしかなく、何の爵位も持たない平民となってしまう。
けれど、すぐにどうこうなるというわけではなく、ティアがちゃんと公爵としてやっていけるように何年もかけてしっかりと引き継ぎをして、ティアの成長を見届けた後、公爵の領地のどこかに家を用意してもらい余生を平民として穏やかに過ごせればいいとダンテルは思っていた。
再婚したい人ができた今では、その日を今か今かと待ち望んでいる。
それというのも、ダンテルが再婚したいという相手のレジーという女性は、貴族ではなく平民の女性だからだ。
それを聞いた時にはティアはもちろん、ティアの祖父母も驚いたが、ティアの母が亡くなってから暗い表情が多くなったダンテルが、それはもう緩んだ顔で再婚相手の女性のことを語るので文句など出ようはずがなかった。
父が母以外の人を妻とするのは不思議な気分だったが、最愛の父が幸せそうにしてティアもなんだか嬉しくなる。
「お父様、ところでその方は、お父様が中継ぎの公爵であるとご存じなのですか?」
本当の公爵ではない父とレジーが結婚しても、レジーは公爵家とはまったく関係ない。
公爵夫人になれるわけではないのだ。
「ああ、それは彼女も知っているよ。私が平民になっても構わないと言ってくれている。いずれどこか田舎に小さな家を建てて暮らそうと思っていたんだ」
もしや地位目当てかと疑ったが、どうやら相手も承知の上のようで、ティアも祖父母も安心したのはダンテルには内緒だ。
「本当はティアが立派に公爵になったのを見届けてから再婚しようと思っていたんだが……」
ダンテルは困ったように眉尻を下げる。
「彼女より先に私の我慢が限界に達してしまった……」
ダンテルは恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
その様子を祖父母は生暖かい眼差しで見ているが、ティア呆れていた。
恋を初めて知った少年のような反応である。
娘としては親のそんな姿は複雑ではあるが、幸せなら仕方ない。
ひっそりと愛をはぐくんでいたダンテルと相手は話し合いの結果、ティアが公爵となってから家を出て再婚しようと考えていたという。
しかし、早く一緒に暮らしたいと思うようになった。そのことを考えては気がおろそかになり、仕事が手に着かなくなるほどだった。
それで困ったダンテルは、反対を覚悟の上で前公爵夫妻に許可を得ようとしたようだ。
人を愛するあまり気持ちが先走ってしまう思いはティアもよく分かるので責められない。
「まあ、そういうことなら仕方ないな。うん」
「そうですね」
と、予想外に前公爵夫妻から賛成されたダンテルは、すぐに再婚相手であるレジーに報告へ向かい、再婚が許可されたと聞いて大いに喜んだとか。
そしてその足で公爵家へ帰って来るとティアとも話し、ティアが公爵としてやっていけるようになるまでは相手も公爵家で暮らしてもらってはどうかと、ティアの方から提案してみた。
なにせ自分が公爵として立派にやっていけるようになるまでまだ何年もかかる。
その間待たせるのはあまりにかわいそう。
そう思って言い出したものの、ダンテルはそんなことが許されるのかと躊躇いがちではあったが、前公爵夫妻からの後押しもあり、相手を呼ぶことにした。
そして、その後は公爵領のどこか田舎に家を移して平民としてやっていくと決まったのである。
元々ダンテルは伯爵の三男で爵位を継げる立場になかった。
平民としてやっていくことに忌避感はなく、どこででもやっていけるだろうが、ティアとしては公爵を切り盛りしてきたほどの能力があるダンテルを遊ばせる気はサラサラなかったので、一部の領地の管理を任せようと考えていた。
それならば貴族ではなくなっても暮らしていくにはじゅうぶんな給金を支払うことができる。
そうして今後の方針が決まり、公爵家に再婚相手のレジーと、レジーの連れ子であるアニスがやって来た。




