溺愛彼氏
その夜、同じ布団に入った。
百合は泊まると張り切って言っていたが、だいぶ緊張しているようで仰向けで身体をピンと伸ばし、視線は天井を向いている。言葉数も急に減った。
緊張をほぐすように腕枕をしおでこにキスをした。それだけでピクンと反応し少しこわばっていたが微笑んで頭を撫でると、微笑み返して密着してきた。無邪気さと無防備さが愛しかった。
「百合?怖かったら無理しなくていいんだよ?」
「ううん…。怖くないよ。緊張しているだけ」
「じゃ、今日はこのままこうしているだけにしようか」
「えっ?でも…」
「百合の初めてが怖かったり嫌な思い出になる方が、俺は嫌だ。だから無理矢理するようなことはしないよ。」俺は百合を気遣っているつもりだった。
「……。や、やだ…。やめないで。緊張はしているけど嫌なわけじゃないから…」
俺の服の袖をギュッと握り、振り絞るように言う百合を見て軽くキスをした。
舌を入れると驚いたように目を開けて「んっ、ん…」と言うので刺激が強かったか…と思い勢いを弱めてから、少しずつ、少しずつ、いつも以上にゆっくりと時間をかけて服を脱がしていった。そこから先の百合は思考停止状態で口をパクパクさせていたが痛さや怖さで嫌な想い出にならないよう細心の注意を払い、ことを進めた。
「大丈夫だった?」
「うん…、なんか衝撃が多すぎてよく分からなかった」
「嫌じゃない?痛くなかった?」
「なんか…なんて言えばいいんだろう。…へんな感じだった。でも初めてがまさ君で良かった…」
俺はもう一度抱きたくなる気持ちを必死で抑え百合を胸の中に引き込んだ。
年があけたらすぐに百合の成人式があった。振袖姿の百合を一目見ようと車で迎えに行った。頭は花魁のようにキラキラとした髪飾りとボリュームを出すためにカッチカチにスプレーで固めた髪、そして首回りはこの時しか出番がなさそうなファーを巻き、黒にラベンダーの薔薇がデザインされた振袖を身にまとっていた。
普段は薄いメイクの百合だが、この日はファンデーションにつけまつげと口紅でしっかりメイクになっていた。少し白くなりすぎて顔は舞妓さんのようになっていたがそれも記念だろう。普段とは違う姿に見惚れていた。
百合の友達たちの彼氏は同い年が多いらしく車で迎えに来た俺を見て開口一番に
「今ね、みんかからまさ君の事『色気漂う大人の男ですっごくかっこいいね』と言われたんだよ!!」と嬉しそうに報告してくれた。
周りからもおっさん呼ばわりされなくて良かった…。と胸を撫で下ろし、そのまま部屋に行き写真を撮った後、着付けが乱れない程度に袖をまくり一つになった。無邪気な百合が愛おしく何度も「好きだよ」と伝えた。
友人たちにも百合を紹介した。家庭を持っているやつらばかりだったので百合を見て、年齢を知り、とても羨ましがられた。俺は優越感に浸っていた。百合も緊張はしていたが、友人の子どもたちの遊び相手をしており楽しそうに過ごしていた。
子どもと楽しんで遊んでいる百合を見ながら、百合との将来を想像した。
3月に短大を卒業し、百合は地元の中小企業に入社した。
百合は、嬉しいことは嬉しいと無邪気に喜んでくれる。そして感動するとすぐ泣く涙もろいところがあった。可愛くもあり、他の男が寄ってこないか気が気じゃなかった。
いつも同じ電車に乗るので改札を抜けたタイミングを見計らって毎朝、電話を掛けた。
電話をしているのが社内でも有名になったそうで、話をしたことがない人からも”通勤時に彼氏と電話をしている子”と覚えられたそうだ。
俺には都合が良かった。彼氏がいることが周知されていればそこで多少の好意だったら諦めるフィルターになると思った。
百合は「通勤中に彼氏と電話しているって浮かれているように思われないかな?」と気にしていたが、たまに電車を乗り過ごし電話が出来ないと「寝坊しちゃって電話出来なかったの寂しい」と連絡してきたので本気で嫌がっているわけではなさそうだ。
俺の仕事は、担当顧客の予定次第な面が多い。また家を建てる人たちは結婚して数年の若い年齢が多く平日の昼間に仕事だとしても男が入ってくることを嫌がる男性もいる。
そのため、打ち合わせは夫婦が揃う平日の夜8時以降や休日などに仕事が入ることがほとんどだった。
日中や夕方は空いていることが多かったため、百合とのやり取りを楽しんだり、雨が降っていたら駅まで迎えに行き家まで送り届けた。残業で遅くなると連絡があった時は打ち合わせ後、サンドイッチを用意して会社まで迎えに行った。
百合が喜んでくれる顔が見たくて、週末は遠出をしたり記念日にはプレゼントを用意した。
初めてのクリスマスではティファニーのピアスにしたので、誕生日には同じシリーズのネックレス、2回目のクリスマスには指輪、誕生日にはブレスレットを贈った。
その後もお揃いのスマホやネックレス、キーケースに財布。俺が提案すると百合も喜んでいいねと言っていた。身の回りのものが少しずつ百合とのお揃いの物で揃えられていった。
そんな俺のことを百合が友人たちに話すと「すっごく尽くしてくれて幸せ者だね」と羨ましがられるそうだ。一方で「溺愛している」「超絶尽くし系」とも揶揄されてもいる。
溺れているかは分からないが、百合を他の男に渡したくなかった。百合には俺だけを見ていて欲しかった。その一心で、出来る限りのことをした。
百合も何かするたびに「私、こんなに幸せでいいのかな…というくらい幸せ。まさ君と付き合えて本当に幸せ。大好き、ありがとう」とはしゃぎながら抱きついてキスをしてくる。
いつの間にか緊張やぎこちなさもなくなり、自分から舌を絡めたり俺の服の中に手を入れて積極的になり、喜ばせようとしてくるようになった百合が愛おしかった。
偽りのないまっすぐな言葉と俺だけを見てくれていることに安心感と幸せを感じていた。




