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第2話『結愛の音楽の力』

 

 放課後、音楽室は静まり返っていた。

 結愛ゆあはいつも、誰もいない音楽室でひとり静かにピアノを弾く時間が好きだった。ちなみに沙月さつきは漫画・イラスト部である。

 私はというと、帰宅部きたくぶだ。

 この日は特に、心がざわついていて、何かに触れたくてたまらなかった。

 新しい環境に馴染なじんでいく中で、彼女の中に湧き上がる音楽の力――その力が、ふとした瞬間に暴走してしまうことがあった。


「……よし、弾いてみよう」


 結愛は自分を落ち着けるために、ピアノの前に座った。指を鍵盤けんばんに置き、深呼吸をひとつ。

 その音色は静かに、しかし次第に情熱をびていった。心に浮かんだメロディーを手に任せると、弾くごとに音楽がどんどん広がり、空気の中に揺れ動く力があることに気づき始めた。


「これ、もしかして……?」

 

 結愛は小さな不安を感じたが、もう止められなかった。音楽が流れ始めると同時に、空気の震えを感じ、少しずつ教室の空間が変わっていく。まるで、何かが目覚めるような感覚だった。

 その時、急に教室の中がピリピリとした空気に包まれ、何かの存在が現れる気配がした。結愛は思わず手を止め、顔を上げる。


「あれ……?」


 教室の一角いっかくに、光のつぶが集まり始める。その粒が集まり、ゆっくりと形を成し始めた。それは、一度見たら忘れられない、美しい姿の女性――まさに女神そのものだった。


 彼女は長い桜色の髪を持ち、白い光のころもをまとっていた。空気の中に花が舞うように、周りの空間が彼女の存在に反応している。そして、女性は微笑みながら、優雅ゆうがに地面に降り立った。


「……あれ?」


 結愛はおそるおそる問う。


「あ、あなたは……?」


 その女神は、静かに結愛を見つめた後、にっこりと微笑ほほえみながら答えた。


「わしは、恋愛の女神アリア、そなたがかなでた音楽にみちびかれて、ここに来た」


 結愛は驚き、心の中で「うっかり、呼び出してしまったのか」と焦った。目の前に現れたのは、間違いなく本物の女神。彼女の存在が教室の空気を圧倒している。


「う、うう……!」


 女神アリアは穏やかな声で答える。


「音楽は、心と魂を呼び覚ます力を持っている。お主が奏でた音楽に、わしが反応したのじゃ」

 

 結愛は心の中で、またかと、叫ぶ。


「でも、どうして私の演奏に……?」


 女神アリアは少し笑って、指をひとつ鳴らした。その瞬間、教室の中にまた光が満ち、温かい風が結愛の周りを吹き抜けた。


「お主にはまだその力を完全に理解していないが、確かに音楽の力はお前の中に眠っている。私が現れたのは、単にその力が強すぎて、私を引き寄せてしまったからじゃ」

 結愛は驚き、少し戸惑いながらも女神アリアを見上げた。


「そ、それって、どうすればいいの?」

「そうじゃのう。まずは恋愛するのじゃ」

「え?」

「お主、長谷川奏斗はせがわ かなとに恋をしておるな?」

「そ、そんな、事ないです!!」

「まあよい。まずは友人として奏斗と仲良くなるのじゃ。それから、恋愛に発展するのも、よいじゃろう」

「な、何を言ってるの!」

「まあよい。わしのために音楽を奏でてくれまいか?」

「は、はあ……」

 

 結愛は女神アリアの言葉にうなずきながらも、まだ現実感げんじつかんうすく、混乱こんらんしていた。しかし、同時に胸の中で何かが高鳴たかなっているのを感じていた。


「それにしても、こんな形で女神を呼び出すなんて、うっかりすぎるよね……」結愛は心の中で苦笑にがわらいをしながら、女神アリアに向かって言った。

 女神アリアはにっこりと微笑み、空気の中で花が一瞬舞い、教室が穏やかな香りに包まれる。

 結愛は改めて、自分が呼び寄せた力の大きさに実感を持ちながら、今後の自分の成長に不安はありつつも、期待、希望が広がるのを感じた。


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