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プロローグ

 現代の日本――どこにでもありふれた街並み、いつも通りの学校、そしてその中にいる私たちの日常。しかし、この世界には、誰にも知られていない不思議な力が存在している。それは、音楽に宿る魔法の力。

 

 普通の人々は気づいていないけれど、ほんの一握ひとにぎりの者たちはその力を知っている。音楽がただの音符おんぷやリズム、メロディではなく、心の奥深おくぶかくにれる力を持っていることを。それを使いこなす者は、『音楽術師』と呼ばれ、彼らの奏でる音楽は、物理的な世界に影響を与え、時には目に見えない存在を呼び寄せる。

 

 ピアノの旋律せんりつが心に響けば、それは精霊を呼び覚まし、弦楽器の奏でる音色ねいろが空をければ、風の精が舞い降りる。そして、最も強力な音楽が奏でられた時、誰もが想像できないような存在――神々や女神がその音に反応し、時空を超えた力を与えることもある。

 

 この力を持つ者たちの中でも、最も知られていない存在が『召喚者』と呼ばれる人々だ。彼らは音楽によって、ただの精霊や妖精を超えた存在――神々、あるいは古代の伝説の力を呼び出すことができる。ただし、その力を使いこなすには、深い理解と感情、その音楽への思いなどが必要であった。

 

 神識結愛かみしき ゆあもまた、その力を秘めた一人であった。

 当時、彼女は小学2年生。毎日学校に通い、友達と笑い合い、音楽が好きなだけで過ごしていた。しかし、ピアノを弾くとき、彼女の中に眠っていた不思議な力が目を覚ます。無意識のうちに奏でる音楽が、時には奇跡的な力を引き起こすことになる。

 

 いつものように自室でピアノを弾いていたその日――


「え……?」


 結愛は驚いて手を止め、ピアノの鍵盤けんばんを見つめた。そこからただよう光のつぶが、空間をゆっくりと舞い上がり、彼女の目の前に集まり始める。


「な、何これ……?」


 その光が集まり、やがて形を成し、空気中に淡い青い光を放つ小さな精霊が現れた。彼女は目を大きく見開き、信じられない思いでその姿を見つめる。


「だ、誰ッ!?」


 精霊はやさしい声で答えた。


「わたしは、水と音楽の精霊。あなたの演奏に引き寄せられました」

「精霊……?」


 結愛は、今まで自分が絵本の中でしか見たことがないような存在が目の前に現れたことに、ただただ驚くばかりだった。


「あなたの音楽が、わたしを呼び寄せる力を持っているからです」


 その言葉を聞いた瞬間、結愛の心は高鳴たかなった。今、この瞬間が自分の夢のように感じられた。ピアノを弾くことで精霊を呼び出すなんて、これは彼女がずっと抱いてきた大きな夢だったからだ。


「精霊さん……」

「はい」


 結愛はしばらくその小さな精霊をじっと見つめ、どうしても言いたかったことを口にした。


「精霊さんを……下僕にできるの?」


「げ、下僕ですかッ!?」


「冗談だよ! 結愛のブラックジョーク!」


 結愛は手を振りながら笑った。精霊は幼い彼女の突然のブラックジョークに戸惑っている様子だ。結愛はその反応に面白がる。


「じゃあさ、友達になろうよ! ね?」


 精霊はしばらく考えた後、うれしそうに答える。


「はい、喜んで!」


 結愛は手を広げてその精霊を迎え入れると、部屋の中に広がった空気がどこか軽やかに感じられた。ふわりと浮かんだその精霊の姿が、まるで結愛の部屋に自然に溶け込んでいるように見える。


 この瞬間、結愛は確信した。この不思議な力を使うことで、まだ見ぬ世界が開けることを――そして、これが彼女の魔法のような、お話の始まりである。



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