何も無い少女
私は何も無い。そんな時公爵様が全てをくださった。でも、愛してはくれなかった。こんな私が愛を望むなんておこがましいのかもしれない。でも、知りたいの。私に求婚した理由、あと、あなたを殺した人のことを。
辺りは一面綺麗なお花。
たくさんの蝶、目の前には優しく微笑むお母様、幸せがいっぱい詰まった場所だと感じた。
「お母様、綺麗だね」
「綺麗ね、イリス。イリスは何か夢とか願いとかあるの?」
「どうして聞くの?」
「蝶はね、願いを運んでくれる生き物なのよ。」
「そうなの?!イリスはね、お母様とずっと一緒にいたいし、ずっと幸せでいたいし、お母様みたいに美人になりたいしね、あとね、えっと、えーっと、」
「ふふふ、全部叶うわよ、きっと」
鶏の鳴き声で目が覚めた。今私がいる場所は使用人部屋の隅。他の使用人よりも早く起きて水を汲みに行く。
まだ、辺りは少し暗く、不気味だか、水を汲み終わった後見る日の出はとても美しい。
他の使用人が起きると仕事が始まり、厨房での下働きに、屋敷の掃除、庭の掃除、使用人の服の洗濯、これらすべてが終わるとようやく朝食になる。
食事といっても一口で食べ終わるぐらいの少しのパンに具材がほぼ無いスープで、とてもお腹は満たされない。
食事を取り終わると掃除の続きをする。
ベルナール伯爵家邸は広大な敷地のため、掃除は終わらない。
ずっと掃除をする。それが私の毎日。
いつものように掃除をして使用人部屋に戻る時、ベルナール家の使用人を管理する執事長に呼ばれた。
「新しい使用人を雇うことになって、使用人部屋に人が収まりきらなくなってしまったんだ。だから君が出ていってもらうことになったんだ。」
(私が?他の人もいるのに?)
「なんで、私なんですか?」
「伯爵様と奥様から指示があったんだ」
その言葉に恐怖を感じた。
「そう、ですか。私はどこに行けば良いのですか?」
「君は馬小屋かな」
執事長はニヤニヤと笑っている。
「かしこまりました。明日、移動します」
「ああ、そうしてくれ」
苦しい思いで使用人部屋に行く。
(馬小屋で寝るなんて……)
ベットの上で寝れる今を噛みしめる。
(夢でみた願いや夢、全部叶わなかったな…
今の願いはベットで毎日寝たい、温かいご飯を食べたい、幸せになりたい、あの頃と変わらず私は欲張りだな…)
いつもより早く起きて無いにも等しい荷物を持って馬小屋に向かう。
小屋の奥に荷物を置き、辺りを見回す。
なぜか馬小屋に鏡が置いてあった。
そこに映る自分はとても貧相な体であった。
何よりも思うのはお母様譲りの髪と瞳。
本当は薄い紫色の髪、伯爵様の命令で黒く染めている。サファイヤのような瞳だけは今もしっかりと見えている。
いつか染めることなく綺麗な髪を下ろしてあのお花畑に行くことができるだろうか。
そんなことを思いながらゆっくりと、目を閉じた。
翌朝。
今までどおり頑張っていこうと思ったが噂が流れ始めた。
それは私が馬小屋で寝ているということだった。
事実だから、何も言えなかった。
そして、
「馬小屋で寝ている奴が触るんじゃないよ!」
「近づかないで」
「汚ねぇ女だな」
と悪口を言われるようになってきた。
汚いのも馬小屋で寝ているのも事実。何も言わないで過ごしていた。
そして馬小屋に移動してから3カ月。
「伯爵様がお呼びだよ」
「え?」