小竜が生まれる少し前
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金糸の髪に翡翠の瞳。人形のように美しい、公爵令嬢マリー•クラヴィエは市街を彷徨っていた。箱入り娘である彼女の趣味がお忍びというわけではない。では何故なのか。それは、彼女が家を出たからである。前妻の子であったマリーにきつく当たる後妻と異母弟妹、関心を示さない父と使用人。そんな状況下で育てば、いずれは逃げたいと思うのは必然の事であった。
好機は16歳の春に訪れる。父は王城、義母と弟妹は友人達と茶会。使用人に自身の金品を握らせ平民の服を剥ぎ取ったマリーはこっそりと屋敷を抜け出した。当然のことながらマリーがいなくなった事は噂にはならなかった。屋敷の者は誰1人として彼女を気にも留めなかったのだから。
こうして家から逃げ出す事に成功したマリーであったが令嬢が市街地で生活する事は難しかった。しばらくしても市街地に慣れることができなかったマリーは次第に死を望み始めた。
何もしたくない、苦しい事はもう嫌。
幸か不幸か、マリーが行き着いた街は海の近くであった。さっさと入水して楽になろうとマリーが片足を海に入れたその時。
「見つけた!」
後ろから声が聞こえて思わず振り返る。そこにいたのは美しい男。銀色の髪に星を集めたかのような金色の目。こんな人、見たことがないと固まるマリーに男はズカズカと近づき、綺麗に微笑み言い放つ。
「マドモアゼル、僕と一緒に来てくれない?」
マリーは訳がわからなかった。だが、何故かマリーは行かなくてはならない様な気がした。これから死のうとしていたのに、行かなくては後悔するような、そんな気がした。気がつけば、差し伸べられた手に自信の手を重ねていた。それがマリーの最後に覚えている記憶だった。
次に目を開けた時、マリーは草原にいた。隣には例の男。彼は
モーリスと名乗った。そこから始まったモーリスの話はマリーにとって信じ難い話であった。自身が今いる場所は幻の存在と言われている、竜の郷であること、モーリスがその郷の長であること。何より驚いたのはマリーの母が竜の長の一族の者であり、マリーはモーリスのはとこに当たるということ。初めこそ疑ったが、幼い頃に亡くなった母の写真をモーリスが所持しているとなると納得せざるを得なかった。
それからマリーは郷で暮らすようになった。以前の様に死を考えることはなくなった。マリーは半竜であるためか、人間から竜に姿を変えることができなかったが郷の竜達はマリーを歓迎し、良好な関係を築いていた。
郷で過ごす内にマリーとモーリスは惹かれ合うようになった。愛し合う2人を竜達は時に揶揄い時に背を押し、やがて2人は番となった。
しばらくして2人の間に子供が生まれた。皆に祝福され生まれたその子の名はシェリル。
これは、竜の郷で生まれた少女が世界を旅する物語。
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