第5話 最強コマンド
俺とユフィーアが王都に戻ってきたのは村を出た翌日の早朝だ。
「マール様、私は陛下に先日の村での事を報告しなければなりません」
「うん、俺は今日は冒険者ギルドでぶらぶらしてるから、終わったら迎えに来てね」
「分かりました。それではまた後程」
さすがに王国の騎士だけあってユフィーアはどんな時でも礼儀正しく振舞う。
ただの冒険者である俺とはまるで釣り合わない人種だ。
俺はユフィーアと一旦別れると冒険者ギルドへ向かった。
ユフィーアの力を借りたとはいえ、今回俺達のパーティ【トライアド】が受けたオークの襲撃から村を守るというクエストは成功だ。
ホリンとミーリャはクエストを放棄して逃亡したのだから、冒険者ギルドの規則では報酬を貰えるのは最後まで戦った俺だけのはず。
いや、それよりもあの二人がどの面下げて冒険者ギルドに戻ってくるのか見ものだな。
間違えなくペナルティものだ。
そんな事を考えながら冒険者ギルドの入口の扉に手をかけると、背後で俺を呼ぶ声が聞こえた。
「おいマール、お前生きていたのか」
聞き覚えのある声に振りかえると、そこにはホリンとミーリャがいた。
なんで普通に帰ってきてるんだよ。
「聞いたぜ、あのオークチーフは勇者様が倒したんだってな」
「私達逃げる必要なかったじゃん。さ、報酬を受け取り行こうよ」
「ちゃんと俺達も最後まで勇敢に戦ったと口裏を合わせてくれよ」
あろう事かこの二人は俺を捨石にした事を悪びれもせず、自分達が放棄したクエストの報酬をさも当然の様に受け取ろうとしている。
俺が不満を露わにするのも当然だろう。
「お、なんだその目は。まさか俺達の事をチクって報酬を一人占めしようとか考えてるんじゃないよな」
「なにそれ? マジウザいんですけど。むしろあんたこそ報酬を受け取る権利がないんじゃない?」
「そうだな、オークは殆ど俺とミーリャの二人で倒したようなものだしな。マールはいつも役に立ってないから当然だよな?」
ホリン、ミーリャと俺の間にはかなりのレベル差があるので、二人は力ずくで自分達の主張を通そうとする。
本当に性根が腐った奴らだ。
まずは俺を捨石にした事を謝罪するのが先だろうが。
まあ謝っても許さないけどな。
「なあマール、こんな大通りで立ち話をするのもなんだ。訓練場へ行かないか?」
「そうね、偶には思いっきり身体を動かそうよ。すっきりするよ?」
訓練場は、俺達冒険者が昼夜問わず無料で利用する事ができる施設だ。
原作では主にゲーム開始直後のチュートリアルで利用する他、仲間同士の模擬戦を行う事もできる。
ホリンの考えている事は分かる。
生意気な俺を合法的に痛めつけて言う事を聞かせようと企んでいるんだろう。
しかし俺にも考えがある。
「いいぞ。訓練場へ行こうぜ」
俺はホリンの提案を受け、訓練場へ足を運ぶ。
「お、やけに素直じゃねえか」
「自分の立場を理解してるのよ」
今の内に余裕こいてろ。
訓練場に到着すると、係の人間から訓練用の木刀を受け取り模擬戦用にのスペースに移動する。
「ここなら怪我をさせてもちょっとやりすぎちゃったで済むからな」
「痛かったらごめんね? アハッ」
ホリンとミーリャは嫌な笑みを浮かべながら舌を出しておどけて見せる。
しかしお前らは知らないだろうが、訓練場にはバグ……というか裏技があるんだ。
開発スタッフがデバッグ用に組み込んで消し忘れたと思われる隠しコマンドがな。
俺は剣を鞘に納めると原作のコマンドと同じ動きをして見せる。
ジャンプ。
ジャンプ。
しゃがみ。
しゃがみ。
左ウィービング。
右ウィービング。
左ウィービング。
右ウィービング。
ガード。
パンチ。
それを見たホリンとミーリャが嘲笑いながら言う。
「あん、何やってんだお前? 準備運動のつもりか?」
「だっさ。超ウケるんですけど」
今の内に笑っていろ。
俺が今行った動作は、一瞬でパラメータを限界値まで跳ね上げるコマンドだ。
動作が終わった直後、俺は身体中にかつて経験した事がない程の力が漲っているのを感じた。
効果があるのは訓練場内だけだがそれで充分だ。
二人はまだその事に気がついておらず、余裕の態度を見せているのが逆に滑稽に映る。
俺は鞘から木刀を抜く。
「いいから始めようぜ。10秒は持ってくれよ」
左手の掌を上にして四本の指をくいっと曲げ、かかってこいと挑発する。
「あ? 生意気なんだよ、この三流冒険者が!」
「丸焼きにしてあげるわ、グレンファイア!」
日頃から俺の事を見下していたホリンとミーリャは、俺の挑発をまともに受けて顔を真っ赤にしながら向かってくる。
ホリンの振り下ろす木刀と、ミーリャの放った炎の球が同時に俺に襲いかかる。
しかし素早さがMAXになっている俺には二人の動きが止まって見える。
命中したとしてもどうせダメージは通らないが、こんな奴らの攻撃を受けるのは癪なので俺は回避行動を取る。
「えっ!?」
「あれを避けた……だと!?」
俺は余裕を持ってゆっくりと回避をしたつもりだが、二人にはまるで俺が高速移動をしているように見えている事だろう。
俺はそのまま二人の背後に回ると、木刀で思いっきり尻をぶっ叩いた。
「うぎゃぁ!」
「びゃんっ!」
二人は聞いた事もない悲鳴を上げて床を転げまわる。
「悪い、ちょっと力を入れすぎちゃった。骨は折れてないと思うけど立てる?」
ホリンとミーリャは床に這いつくばりながらも俺を睨みつけて言う。
「マールてめえ何をやりやがった」
「私達にこんな真似をしてただで済むと思わないでね」
こいつら、まだ実力差が分からないのか。
いや、今まで散々見下してきた相手だ。
理性がそれを認めるのを拒んでいるのだろう。
こうなったら身体が理解するまでとことんやってやろう。
俺は木刀を振り上げて再度二人の尻に照準を合わせる。
そして腕を振り下ろそうとした時だ。
「マール様、ここにいらしたのですか。探しましたよ」
ユフィーアが俺を迎えに現れた。
「ユ……ユフィーア様!?」
「竜殺しの勇者がどうしてこんな所に……」
勇者ユフィーアの姿を見て、ホリンとミーリャは口をパクパクさせている。
俺は木刀を下ろし、ユフィーアに話しかける。
「ああ、この二人に稽古をつけてやっていたんだ」
「そうでしたか。中断させてしまい申し訳ありません。実は陛下よりマール様を王宮へお連れするよう命を受けました」
「王宮だね、分かった」
勇者ユフィーアの報告を聞いた国王が俺に興味を持つのは充分予想の範疇だ。
俺は呆然とするホリンとミーリャを訓練場に残して、ユフィーアと王宮へ向かった。




