第16話 三人目は必要か?
RPGにおいて、最も重要なポジションは何かと聞かれたら回復役と答えるプレイヤーは多いだろう。
回復役を入れない構成で遊ぶのは、縛りプレイをしているか、そのゲームをある程度知り尽くした一部のやり込みプレイヤーぐらいだろう。
回復役であるレイミルがパーティに加われば、俺達の戦力は間違いなくアップする。
悪い申し出ではない。
だが【ツヴァイ】は俺とユフィーア、二人のパーティだ。
俺はユフィーアに意思確認をする。
「ユフィーア、レイミルがこう言ってるけどどう思う──!?」
その時俺は背筋に冷たいものを感じた。
じとー。
ユフィーアが何かを言いたげな目でこちらを見る。
どう見てもレイミルを歓迎しているようには見えない。
そりゃあ確かにレイミルとは今日初めて会ったばかりだ。
どんな人間なのかもよく知らない。
何か裏があるのではないかと疑う気持ちはよく分かる。
でもそれを言うならユフィーアも似たようなものだ。
出会った次の日に俺に同行したいとか言い出したからな。
しかし、ユフィーアの目には完全に拒絶の意思を感じられる。
レイミルに何か不審な点でも感じたのだろうか。
考えたら、レイミルさんは【トライアド】に入るまでは何をしていたのだろうか。
レベル40という事は、かなりの冒険者歴があるはずだ。
ユフィーアのように冒険者になるまでに騎士として実戦を重ねてきたというのならいざ知らず、回復役がソロでレベル40まで上げるなんて土台無理な話だ。
どこかのパーティに所属していたと考えるのが普通だろう。
だとするとそのパーティはどうしたのだろう。
全滅したのか、それとも何かの理由でパーティから追放されたのか。
考えれば考える程彼女の事が怪しく思えてくる。
彼女が原作にも登場するキャラならば判断材料になっただろうが、残念ながら俺はこのキャラを知らない。
原作でも名前が設定されていないモブキャラなんて沢山いる。
恐らくその中の一人なんだろうな。
よし、ユフィーアの判断を信じてきっぱりと断ろう。
「レイミルさん、折角だけど、【ツヴァイ】は俺とユフィーアの二人だけのパーティなんだ」
「そう……ですか。無理を言って申し訳ありませんでした。それでは私はこれで失礼します。今日は有難うございました」
彼女は寂しそうに顔を俯けながら冒険者ギルドを後にした。
「……それじゃあ俺達も宿へ行こうか」
「はい、マール様」
「それにしてもユフィーアは本当によく気が付くね。俺ひとりだったら何も疑わずに彼女の加入を認めていたところだよ。確かに彼女には怪しいところがあったものね」
「え? レイミルさんどこか怪しかったですか?」
「は? ユフィーアは彼女の加入を歓迎していないように見えたから……怪しんでたんじゃなかったの?」
考えてみればユフィーアは冒険者になったばかり。
戦闘力はあるとはいえ、冒険者としては素人だ。
俺が推理したような矛盾点に気がつくはずもない。
じゃあどうしてレイミルの加入を反対するような仕草をしていたんだろう。
俺の問いかけに、ユフィーアはもじもじしながら答える。
「特に怪しいとかは感じなかったんですけど……マール様と私の二人きりのパーティに女性が加わるというのはちょっと……ごめんなさい! さっきのは完全に私の嫉妬の眼差しです!」
「えー……」
ユフィーアのカミングアウトに、俺はがっくりと肩を落とす。
好感度MAXバグの弊害が予想外のところで現れたようだ。
「回復役って貴重な戦力なんだよ……」
今更レイミルを呼び戻す訳にもいかない。
俺は思わずぼやいてしまった。
「だ、大丈夫です! 私、回復魔法も得意ですから! 二人分の働きをしますから!」
確かにユフィーアなら二人分どころか王国の一個師団に匹敵する働きはしてくれるだろう。
俺はレイミルの事は諦めて、ユフィーアと二人で宿へ向かった。
俺とユフィーアは部屋は同じだがベッドは別々だ。
本来ならばパーティを組んでいるとはいえ異性の仲間とは別々の部屋に泊まるのが普通だが、ユフィーアが一緒の部屋がいいと言って聞かないので、已む無くこういう状態に落ちついた。
ユフィーアは傍目にも間違いなく美少女のカテゴリーに入る。
かつてのバランドル将軍のように、彼女を狙っている男も多い。
しかし俺は決してユフィーアに手を出すつもりはない。
別に俺は同性愛者でも無性愛者でもないが、現時点でユフィーアが俺に好意的なのは恐らくバグによるものだ。
もしそのバグが直ってしまったらどうなるだろうか。
恐らくユフィーアは元通りの冒険者嫌いの性格に戻ってしまうだろう。
いつかそんな日が来るかもしれないが、本来の状態に戻るだけだ。
俺は甘んじて受けよう。
だからそれはいい。
しかし、もしその時既に俺との関係が一線を越えていたとしたらどうだろう。
そしてそれがバグによるものだと気付いてしまったら───
ユフィーアは騙されていたと怒り狂い、俺は間違いなく斬り殺されるだろう。
その光景を想像しただけでも寒気がする。
あの魔獣グリフォンですら一方的に切り刻む女だ。
その時俺が生き延びる可能性はない。
だからこれはあくまで自衛の為である。




