M9[戦いの狭間に]
兵士:
「はっ!
現在、我が軍が優勢。
ガードレイ隊の戦果が
大きいかと」
?総督:
「それは良かった。
じゃあクロイセンに
この件は委任すると
しようか」
兵士:
「わかりました!
クロイセン総督に
委任状を出します。
それでは私はここで、
アラクス総督」
アラクス総督:
「うん、ありがとう」
Ι
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M9[戦いの狭間に]
Ι
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クロケニア本土にある
宮廷第一会議室で、
一兵士であることにも
かかわらず話していた
この男。
名をアラクス。
《アラクス
=D=クロケニア》
皇帝に次ぐ
国の決定権を有し、
唯一皇帝に物言いを
言うことができる存在。
物腰
柔らかそうな青い瞳、
純粋な金髪。
そしてなにより、
部下からの信頼が厚い。
そのアラクスに
回ってきた仕事が、
岡山県周辺にいる
反抗勢力の一掃。
東の京都と
西の北九州による
挟み撃ち作戦。
アールゼロたちは
岡山と広島の境にいた。
そこに東西どちらかの
軍が来たのだ。
もう片方も直に来る。
アールゼロは
それを踏まえた上で
逃げる選択を選んだ。
いや、
そうするしかなかった‥
Ι
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[皐月:
「アール!
灰燼を降ろさないと
追いつかれるぞっ!!」]
[アールゼロ:
「そんなことは
わかっている!!
……くそっ、皐月、
トラックを降りて
灰燼に乗れ。
そうすれば
まだ手はある」]
[皐月:
「俺が灰燼に?」]
[アールゼロ:
「ああ、急げ」]
[皐月:
「あ、ああ‥」]
回線をすぐさま切る。
敵はすぐ
そこまで来ていた。
アールの仮面の下の
レイソルの額はもう
汗まみれだった。
まさに危機的状況。
絶体絶命一直線だった。
…どうすればいい。
今皐月を灰燼に乗せて
逃げ切れたとしても、
左右は囲まれた…
北に逃げても
海しかない。
北は不可能、
南は……南?
…そうか!!
この手があった!
その時、皐月から
通信が入る。
[皐月:
「アール……駄目だ」]
皐月の声からは
気が抜けていた。
[アールゼロ:
「どうした?」]
[皐月:
「この機体…
ハイドラなんかとは
まったくの別物だ」]
[アールゼロ:
「別物だと?
改良されたのか?」]
[皐月:
「わからない…
とにかく、俺には
こいつを動かせない」]
少なくとも皐月は
無能ではない。
それでも起動させる
ことのできない代物か‥
[アールゼロ:
「…灰燼のパイロットを
呼んで動かせろ」]
[皐月:
「!
それは灰燼をみすみす
返すことと同じだぞ、
アールっ!」]
[アールゼロ:
「時間がないっ!
使える手はこれだけだ。
パイロットには
拘束の手を緩めずに
操縦させろ」]
[皐月:
「彼がそんなことを
してくれるとは
俺には思えない」]
[アールゼロ:
「なら
パイロットに伝えろ。
このままではお前も
軍に反逆者のまま
殺されるとな!」]
頭の中には既に
冷静さがないことは
本人が一番
わかっていた。
敵はもうすぐそこまで
来ている故の焦り。
抑えることは到底
出来なかった。
‖
皐月:
「!!」
皐月は
ショックを受けていた。
狭山に連れてこられた
パイロットは、
まだ青春真っ只中の
高校生くらいで、
日本人だったからだ。
煌炎:
「…それで、
僕に命令するのか?」
皐月:
「(こんな子供に
戦争を強いるなんて‥)
…ああ、やってほしい」
煌炎:
「…わかりました。
なら僕の懐から
起動のためのキーを
取ってくれませんか?」
皐月:
「ああ、じゃあちょっと
待っ……ぐあっ!!」
煌炎は脚力だけで
皐月の肩の位置まで
跳ぶと、その態勢から
強烈な蹴りを鳩尾にきめ
皐月をコクピットから
地面に蹴り落とした。
煌炎:
「ごめん…
でも今はこうするしか」
すぐさまコクピットに
煌炎は戻り、
ルフェストを起動。
そのままどこかに
行ってしまった。
Ι
Ι
皐月からの
連絡がつかない…
どうしたんだ?
そこに狭山からの通信。
[アールゼロ:
「…どうした狭山」]
[狭山:
「おお、アール!
大変だ、皐月が
地面に叩きつけられて
ボロボロにぃ!!」]
[アールゼロ:
「何ぃっ!!」]
向こうが
一枚上手だったか、
甘く見すぎてたな。
[アールゼロ:
「とにかく狭山は
皐月を暁のハイドラに
乗せて南に逃げろ!」]
[狭山:
「南?
何で南なんか…
…っておい暁っ!」]
[暁:
「いつまでアールと
話してるつもりよ!
貸してっ!」]
…向こうで
回線の取り合いか‥
[暁:
「…あ、アール?
南ってことは海、
水島コンビナートに
行くんですよね」]
[アールゼロ:
「ああその通りだ。
そこから四国に渡る」]
[暁:
「でもあそこももう
占領されて‥」]
[アールゼロ:
「問題ない。
あとは俺に任せて、
今は逃げることに
専念しろ。
………死ねなよ」]