M10[吹き惑う嵐]
アールゼロ:
「荒海か‥」
先日まで平和だった波は
今や、荒々しい音を
たててアールたちの
本州脱出を阻んでいた。
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M10[吹き惑う嵐]
Ι
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船の手配は
皐月に一任している。
だが当の皐月は今
意識を失っている。
ポイントは
合っているから、
問題は、いつまで
持ちこたえれるかか。
暁:
「アール!
この海じゃ脱出は‥」
アールゼロ:
「ああ、厳しいな」
暁は現実を
さらっと言ったアールに
驚きを隠せなかった。
暁:
「じゃあどうすれば!?」
アールゼロ:
「ん……ん?
ちょっと待て」
アールは
何かに気付くと、
暁との通信を
シャットアウトして、
自分の携帯を確認する。
留守電…
ヴィラジからか。
[伝言、一。
ピー……
おいおい最近何で
学校に来ないんだよ?
テスラも心配してるぜ。
もしどこかに旅行でも
してんのならさ、
今台風が
近づいてきてるから
気をつけろよ。
じゃあまた
連絡するからさ!
ピー……]
台風、それでか。
……ハイドラに
潜水機能はないが
浸水はしない構造か。
アールゼロ:
「暁、頑丈なロープか
何かを探してほしい。
出来れば何本もだ」
暁:
「わっ、驚きましたよ、
急に通信をもどすから!
…ロープ?
……まさか!!」
アールゼロ:
「察しがいいな、
見込める人材だ。
わかったなら頼む」
暁:
「(人材‥)
でも機体が‥」
アールゼロ:
「理論上はもつ」
その言葉を封切りに、
暁は港の倉庫を
くまなく探した。
そして‥
‖
暁:
「アールッ!
ありました、
ロープ2本です!」
アールゼロ:
「よし、
この機体と簡易接続!」
ロープは
それぞれの機体の
腰あたりにまわされた。
アールゼロ:
「これであとは
ぎりぎりまで‥‥っ!!」
モニターには
海上から進行してくる
戦艦が3隻。
そしてその真ん中に‥
アールゼロ:
「っ!!
灰燼……それに‥」
黒いボディに
黄色いライン、
ハイドが使う、
ライトニクスだった。
暁:
「確かあの機体の
パイロットって‥‥?」
[皐月:
「ああ…
灰燼のパイロットを
殺そうとした男だ‥」]
暁:
「皐月さん!
動いちゃ駄目って‥」
皐月が無理をしながら
通信に割り込む。
[皐月:
「アール…
早く逃げてくれ」]
アールゼロ:
「まだだ。
この距離ではまだ
戦艦に狙撃される。
射程圏を抜けたらだ」
[皐月:
「でも向こうには
灰燼と新型が‥」]
そうだ。
それが問題だった。
もし奴らが陸から
攻めてきたなら
作戦通り逃げれる。
しかし海から
来たらどうするかは
考えにいたらなかった。
この方法だと
時間がかかるから、
早く目標を
捕まえようと思って
陸から来るのが普通。
しかし相手は一枚上手、
この環境ではすぐに
逃げれないと
わかっていての作戦。
誰だ、奴らの頭は‥
‖
兵士:
「わざわざ総督まで
出向くことがなくても」
クロイセン総督:
「いやいや、
兄様の命令でもあるし、
なにより久しぶりに
戦場を観たい」
兵士:
「はあ‥」
クロイセン総督は
前をいく戦艦3隻の
さらに奥に位置する
戦艦に乗っていた。
クロイセン総督:
「さて、
観させてもらおうかな」
‖
未だに豪雨は止まない。
波も荒い。
視界が悪い……
チャンスは
今しかないか。
アールゼロ:
「暁、
タイミングを合わせろ!!
いくぞ、3、2、1‥」
暁:
「え、ちょ、
ちょっとっ!?」
‖
煌炎:
「…ん?
ま、まさか!?」
ハイド:
「ほぅ、大胆だな」
目の前にいた
2機のハイドラは
黒く歪んだ海へ
身を投じていた。
Ι
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アールゼロ:
「……あ、あかつき。
応答しろ」
暁:
「ん…あ、はい。
聞こえてます‥‥」
機体は微かに揺れている感じはあったが、さほど強くはなかった。
モニターには黒く何か。
モニター下部では
白いものが
高速で回転していた。
回転…白い…海…
……スクリュー?‥
戦艦!!
そうか、なら!
アールゼロ:
「暁っ!
手持ちの何でもいい、
スクリューに
向かって投げろ!!」
暁:
「え、あ、はい!」
背中に取り付けてあった
近接格闘用の武器を
塩の流れにうまく
流されるように投げる。
予想通り、スクリューは
その動きを阻まれ、
ゆっくりと止まる。
アールゼロ:
「船底に向かって
一点集中砲火!!」
暁:
「はい!!」
‖
クロイセン総督:
「…ん?
何か底の方が
騒がしくないか?」
兵士:
「今調べます……
これはっ!!」
クロイセン総督:
「どうした!」
兵士の驚きように
思わず声を張り上げる。
兵士:
「せ、戦艦船底にて、
イレギュラー発生!
スクリュー停止、
船内に浸水あり!」
それを聞いた途端、
クロイセンの額には
汗が一線流れていた。
‖
煌炎:
「戦艦より入電…
…なにっ!?」
ハイド:
「すでに船内に
侵入されただと、
どうやって!?」
Ι
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アールゼロ:
「暁、俺は降りて
いくつか
やりたいことがある」
暁:
「なら私も同行‥」
アールゼロ:
「いや、いい。
それより今は
皐月を看護してくれ」
暁:
「でもいつ敵が襲っ‥」
アールゼロ:
「来れないように
俺がしておく。
…あとは任せたぞ」